相変わらず、星刻の動きはすごい。
 しかし、だ。
「……あれって、グロースター?」
 まさか、とスザクは呟く。
「カラーリングが異なっているから、姉上の親衛隊のものではない、と思うが……」
 いやそうにルルーシュも付け加える。どちらにしろ、あれを入手できる人間が大宦官のバックに付いていることは間違いないようだ。
「どうする?」
 すぐにでも介入をするか。それとも、とスザクは問いかける。
「今しばらく様子を見よう」
 星刻からも救援要請は来ていない、とルルーシュは言い返してきた。
「……わかった」
 少しでも被害を抑えるためには早々に介入した方がいいような気はする。だが、ルルーシュには他にも目的があるようだ。そして、この場合、彼の目的を優先した方がいい結果が出ると言うこともわかっていた。
「安心しろ。お前の出番はちゃんとある」
 そう言ってルルーシュは笑う。
「それに、真打ちは最後に出るものだろう?」
 違うのか? と彼は問いかけてくる。
「真打ちって、ルルーシュのこと?」
 それならば納得だけど、と言い返す。
「自分のことだとは考えないんだな、お前は」
「当たり前でしょ。僕は君のフォローをするためにここにいるんだから」
 微笑みと共に言葉を口にする。ルルーシュの恋人は無理でも騎士ぐらいにはなりたいから、と思っているのは事実だから、と心の中で付け加えた。
 もちろん、一番の希望は恋人だし、それについては諦めていない。
 でも、これに関しては自分の希望だけでどうする事も出来ないのは事実だから、と自分に言い聞かせる。
「バカだろう、お前」
 あきれたようにルルーシュがそう言ってくる。その彼の頬が少し赤いのはライトのせいだろうか。
 どちらにしろ、少しだけ気まずい。自分のせいだとわかっているから、余計に、だ。
 そんなことを考えながら、視線をモニターに移す。そのまま何気なく大宦官達の動きを見ていたときだ。
「……ルルーシュ」
 なんか、見てはいけないものを見てしまったような気がする。そう考えたときにはもう、彼の名を呼んでいた。
「どうした?」
「あれ」
 こう言い返しながら、スザクはルルーシュにもよく見えるようにそこだけ拡大する。
 その瞬間、彼は深いため息をついた。
「見覚えがあるような気がするのは、僕の錯覚じゃないよね?」
「……あぁ……」
 ルルーシュはそう言って頷いて見せた。
「うちの何番目かの異母兄の親族だ。確か、母方から皇族の血をひいているのがご自慢だったはず」
 もっとも、と彼は憫笑を浮かべる。
「それはオデュッセウス異母兄上やギネヴィア異母姉上もそうだけどな」
 遡ればシュナイゼルやコーネリア達だってそうだろう。
「あのジノの実家いえでさえ、確か数代前に皇女が降嫁しているはずだぞ」
 それと同じ事だ。だから、別に珍しくも何ともない。
 しかし、と彼は続ける。
「それ以外にすがるものがないんだろうな」
 クロヴィスのように政治以外に突出した才能があればまだしも、どれも平均並では、とルルーシュは苦笑を浮かべた。
「かといって、反逆をする度胸もない。そう言ったところか?」
 しかし、見つけてしまった以上、放っておくわけにもいかないだろう。彼はそう言う。
 そのまま手を伸ばすと通信機のスイッチを入れた。
「ロロ」
 当然のごとく彼の口から出たのは、彼の名前だった。
『はい? 何ですか』
 即座に彼が言葉を返してくる。その様子が飼い主に構ってもらえると知ったときの子犬のようだ、と言ってはいけないのだろうか――もちろん、自分たちも彼と五十歩百歩だとはわかっていた――とスザクは心の中で呟く。
「大宦官の傍に何番目かの異母兄がいる。あちらに掴まるとまずいから、確保してきてくれ」
 手段は問わない、彼は続けた。
『わかりました』
 任せておいてください、とロロは言い返してくる。その言葉に、ルルーシュは満足そうに微笑んだ。
「頼んだぞ」
 そう言うと、彼はロロとの会話を終わらせた。代わりにジノを呼び出す。
『ロロのフォローですか?』
 ルルーシュが口を開くよりも早くジノはこう問いかけてくる。
「それもあるが、ブリタニア製のナイトメアフレームを全て破壊しろ。流石にまずいからな」
 パイロットがブリタニア人だと、と彼は顔をしかめた。
『わかりました』
 言葉とともに彼は即座に行動を開始したらしい。
「……僕は?」
 何もしなくていいのか、とスザクは彼に問いかける。
「もう少し待て」
 多分、一番厄介なのが出てくるから……とルルーシュは言う。
「君がそう言うなら……」
 でも、なんか物足りないよな……とスザクは口の中だけで付け加えた。
「すぐに暴れられると思うぞ」
 何故、そう言いきれるのだろうか。というよりも、彼は何を知っているのだろう……と思う。
「なら、いいよ」
 ルルーシュが知っているなら、自分が考えることではない。すぐにそう思い直す。
 自分は彼の剣なのだ。
 だから、彼が必要と思ったときに動けばいい。
 そう考えてスザクは自分を納得させる。
「……ともかく、だ。本国とエリア11にこの騒動を飛び火させないことが最優先だな」
 言葉とともにルルーシュがスザクに手を伸ばして来た。そのまま髪を撫でられる。
「本当に君は……わかっていてやってる?」
 そう言うことをされると自分がどう感じるかを、とため息混じりに問いかけた。
「こんなこと、昔からだろう?」
 それに対する答えがこれである。
「やっぱり、わかっていない訳ね」
 ここが戦場で、そこにいる自分がどのような状態なのかを、とスザクは苦笑と共に呟く。
「まぁ、君らしいけど」
「何が言いたい?」
 ルルーシュが即座に噛みついてくる。
 それとほぼ同時だった。それが彼らの前に姿を見せたのは。
「……あれ、何?」
 思わずこう言ってしまう。
「……ナイトメアフレーム?」
「どう、だろうな」
 流石にとんでもないものの登場にルルーシュも怒りを忘れたらしい。
「君、知っていたんじゃないの?」
 だから、あんなセリフを言っていたのだと思ったのに……とスザクは問いかける。
「設計図の存在は知っていたが、実物を見るのと図面では違うからな」
 ロイドあたりならば脳内で全てを割り出せるのかもしれない。だが、自分では無理だ。ルルーシュは言い返してくる。
「……まぁ、ロイドさんは特別だから」
 ほんの僅かなデーターからその機体の性能を割り出す。そこまで出来るような変態だし……とスザクはため息をつく。
「それで、星刻達の手伝いをしてもいいの?」
 あれに関して、と確認の言葉を続けた。ダメといわれても動きたい気持ちで一杯だが。
「任せる」
「了解。しっかりと掴まっててね」
 この言葉とともにスザクはランスロットに出撃体勢を取らせる。その瞬間、ルルーシュが抱きついてきたのはよかったのか。その答えを見いだす前に、彼は機体を発進させていた。

 勝敗は、ランスロットのランスロットの参戦で付いたと言ってしまうのは大げさだろうか。
 だが、ランスロットがあのでか物を惹きつけていた間に星刻達が大宦官側の兵士達を制圧したのは事実だった。

 目の前の光景に頭を抱えたのは間違いなく後始末のことを考えたから、だろう。
「……すみません、ルルーシュ様」
 斑に染まった店内で、ロロがこう言って頭を下げている。その彼の足元にはルルーシュの異母兄である皇子が白目を剥いて倒れていた。それだけならば、何かのとばっちりを受けたのかとも言えるだろう。さらに彼は例の人形を下敷きにしていたのだ。
「……まったく……少し冷静になれば、あのロールケーキが一人でこんな場所にいるはずがないとわかるだろうに」
 彼の服が焦げている、ということから判断して、パニックに陥った彼があれに抱きついた瞬間、爆竹が破裂してケチャップの攻撃を受けた、というところだろうか。
「やっぱり、金ダライを用意しておくべきだったね」
 その光景に、スザクは思わずこう呟いてしまう。
「そうだな」
 ルルーシュもこう言って頷く。
「……金ダライ?」
 訳がわからないと言うようにジノが問いかけてくる。
「日本のコメディの定番なんだよ。頭の上から金ダライが落ちてきて終わりというのが」
 この光景に丁度いいかな、って思っただけ、とスザクは言い返す。
「そうなのか。奥が深いな」
 ジノはこう呟く。
「だろう?」
 それにしても、店内はどうすればいいのか。それ以前に、あれはどうするのだろう。そう思わずにいられない。
 もちろん、その後でしっかりと掃除をする羽目になったのは事実だった。





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