「というわけで、近いうちにオデュッセウス兄上の即位式を行うからね。君も参加するんだよ。もちろん、クルルギ君も連れてくるように」
 にこやかな――ルルーシュに言わせると胡散臭い――微笑みと共にシュナイゼルはそう告げる。
「マリアンヌ様には申し訳ないが、父上を見張っていていただけると嬉しいのだが」
 さらに彼は言葉を重ねた。
「君達の今後に関しては、実際に顔を合わせたときに話をしよう」
 悪いようにはしないよ、という言葉とともにそれは終わる。
「……ルルーシュ」
 いったいどうするのか、とスザクは問いかけた。第一、即位式に自分が参加してもいいものかどうか。それ以前に、参加できる身分ではないと思うのだが、と続ける。
「気にするな」
 それにルルーシュは笑いながら言い返してきた。
「兄上達には兄上達なりの考えがあるんだろう。少なくとも、思いつきだけで生きてきたあのロールケーキよりはましだと思うぞ」
 そして、ああ宣言をしたのだから、ちゃんと何かを考えているはずだ。そうも彼は付け加える。
「君がそう言うなら信じるけど」  しかし、なんかいやな予感がするんだよね……とスザクは苦笑と共に続けた。
「お前のその手のカンは外れないからな」
 その瞬間、ルルーシュがいやそうに顔をしかめる。
「仕方がない。あのロールケーキの話しついでに母さんに相談しておくか」
 彼女であれば、自分たちとは別ルートで情報を持っているような気がする……と彼はその表情のまま告げた。
「なら、V.V.様にも聞いてみる?」
 彼もあれこれと知っているような気がするが、とスザクは言う。
「そうだな。ついでに根回しも手伝って貰おう」
 唇の端だけを持ち上げてルルーシュは笑った。
「それがいいと思うよ」
 ついでに何を画策しているのか。それも調べて貰えればいいのだが、そこまで頼むのは望みすぎだろう。
「なんにせよ、君と離れることにならなければいいんだけどね」
 そう言ってスザクは笑った。
「それは大丈夫だろう」
 即座にルルーシュは断言をする。
「ルルーシュ?」
「お前も母さんのお気に入りだし、何よりも、俺たちもお前と一緒にいたいと思っている」
 シュナイゼル達もそれを知っているはずだ。だから、自分たちからスザクを引き離すようなことはしないだろう。そう付け加えた。
「……君が、じゃないんだね」
 わかってはいたが、とスザクは苦笑と共に呟く。
「何を言っているんだ?」
 そんな彼に、向かって、ルルーシュがあきれたような視線を投げつけてくる。
「ナナリーには他の誰かが見つかるかもしれないが、俺はお前を放すつもりはないからな?」
 そのまま、さらり、と彼はとんでもないセリフを口にしてくれた。もちろん、そこに深い意味はないだろう。
「本当に君は……」
 それが別の意味として受け止められると考えてはいないのだろう、彼は。
 今だって、かなりヤバイ状況だったのに……とスザクはため息をつく。
「まぁ、いやだと言われても、傍にいるつもりだけどね」
 離れてなんかやらない、とスザクは口の中だけで付け加える。
「追い出されそうなときは強引に既成事実を作っちゃえばいいよね」
 腕力だけなら絶対に負けないし、きっと、せっぱ詰まった後の行動であればマリアンヌさんに殺されることだけはないはず。
 それに、いくらルルーシュだって、そこまでされれば上々を理解するだろう。
 でも、本当に最後の手段だよな……とスザクはため息をついていた。

 スザクがそんなことを考えていると思っているのかいないのか。ルルーシュは淡々と準備を進めている。
 といっても、主な内容は根回しと必要箇所への連絡だ。それに関しては自分はどうする事も出来ない。だから、彼の警護という名目で側に着いていた。
「……スザクさん」
 そうすれば、今日の仕事が終わったのか――あるいは、シャルルに押しつけてきたのか――ナナリーがそっと声をかけてきた。
「何?」
 条件反射のように微笑むと聞き返す。
「アーニャはどうなるのでしょう」
 彼女は不安そうにこう問いかけてくる。
「ナナリーはどうしたいの?」
 彼女に傍にいて欲しいから、そう聞いてくるのだろうか。それとも、と思いつつ聞き返す。
「全部、それ次第だと思うよ」
 ナナリーの希望なら、自分もルルーシュも叶えて上げたいと思う。もちろん、マリアンヌも協力を祖手くれるだろう。状況によっては、シャルルも巻き込めるのではないか。
「だから、教えてくれる?」
 そう付け加えれば、彼女は小さく首をかしげた。
「私は……」
 言ってもいいものかどうか。それを悩んでいるかのように、言葉を飲み込む。
「教えてくれない方が悲しいよ」
 ね、と付け加えれば、彼女も納得したのだろうか。
「アーニャに傍にいて欲しいと思います。できれば、一緒に学校に通いたいのですが、今の立場では難しいでしょうし……でも、アーニャなら通えますよね?」
「多分ね」
 アーニャが希望すれば、だが……とスザクは言う。
「でも、陛下がおいでなら、ナナリーが学校に復学しても、大丈夫……かな?」
 後でルルーシュに聞いてみよう。そう付け加える。
「そうですね。お兄さまならぞごんじですよね」
 ナナリーもそれには同意のようだ。
「でも、ここにいられるのでしょうか」
「それは大丈夫じゃないかな。マリアンヌさんがいるし」
 彼女に意見を言えるのはルルーシュぐらいだ。そして、重し役になれるとすればナナリーだけだろう。
「陛下もここでお過ごしになるんだろうし」
 そうなれば、なおさら見張り役が必要なのではないか。
「とりあえず、ルルーシュに言ってみなよ」
 きっと、一番いい方法を考えてくれるよ。そう続ければ、ナナリーは小さく頷いてみせる。
「でも、お兄さまはお忙しいのではないでしょうか」
「聞いてみるよ」
 だから、心配しないで……とスザクは言った。
「お願いします、スザクさん」
 ほっとしたような表情で彼女は言葉を返す。
「任せておいて」
 そんな彼女に向かってスザクはきっぱりと頷いて見せた。

「ナナリーの騎士か」
 考えてみれば、もっても構わない立場になっていたのだな……とルルーシュは呟く。
「アーニャなら、確かに俺も信用できるが……」
 問題はそれを許可してもらえるかどうか、か。彼はそう呟くと考え込むような表情を作る。
「ルルーシュ」
 今なら問いかけても大丈夫だろうか。そう考えながらスザクはそっと彼の名を呼んだ。
「なんだ?」
「皇帝が変わった場合、ラウンズはどうなるの?」
 新しいラウンズが編成されるのだろうが、と続ける。
「……過去には殉死とい事もあったらしいが、あのロールケーキは生きているからな」
 それはない。
「だから、ラウンズを解任されるだけだろう。もっとも、騎士候の地位は保全されるだろうが」
 その後はどうなるのか、自分にもわからない。ルルーシュはそう言う。
「ジノとビスマルク、それにお前は大丈夫だと思うぞ。アーニャも何とかなるか」
 ノネットにはコーネリアが着いているから、そちらも問題はいらないだろう……と彼は続けた。
「まぁ、あれだけの実力の持ち主だ。軍でもそれなりの地位を与えられるか。でなければ、どこかの総督に任命されるかもしれないな」
 オデュッセウスにしてもシュナイゼルにしても有能な人材を無駄に遊ばせるはずがない。
 使えるものは親でも使え。
 シュナイゼルが良くいっていたことだったはず。それどころか、彼は実践もしていた。
「ならいいけど……僕もアーニャも、君達の傍にいられれば、それでいいんだよね」
 スザクはそう言う。
「苦労するのは軍でなれているし、離れているよりよっぽどいいから」
 二人――ルルーシュが今どうしているのか心配するよりは、と続ける。
「本当にお前は……」
 あきれたような声音でルルーシュは何かを言いかけた。
「何?」
「まぁ、いい。それよりも、準備は?」
 しかし、その後の言葉を聞くことが出来ない。代わりに、彼はこう問いかけてくる。
「出来ているよ。後は、行くだけ」
 必要なものは、アリエス宮に揃っているから。そう言えば、彼はすぐに「そうだな」と頷いて見せた。
「後は、あのロールケーキに釘を刺しておけばいいか」
 ナナリーの分も仕事をしろと、と彼は笑う。それがあまりに彼らしい言葉で、スザクは小さな笑いを漏らす。
「そうだね。そうすれば、ナナリーも学校に戻れるね」
 その表情のままこう言えば、彼は綺麗な笑みを向けてくれた。





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