いったい、どこから手に入れてきたのか。周囲にはグラスゴーだけではなくサザーランドまで確認できた。 「……軍の上の方にバカがいると言うことか」 後で、バトレーに確認しておこう。ランスロットのコクピットからその様子を見つめながら、ルルーシュはこう呟く。 「バトレー将軍は信用ができる?」 スザクが即座にこう問いかけてくる。 「大丈夫だ。母上がそうおっしゃっていたし……ダールトンも彼の情報収集能力はほめていた」 だから、よほど巧妙に行われているのか……あるいは、軍に納入される前に横流しをされているのかもしれない。ルルーシュはそう判断をする。 「やっぱり、こちらにもランスロット以外のナイトメアフレームが欲しいなぁ」 それも、できればブリタニア製じゃないものを……とルルーシュは付け加える。 「ルル」 そんな彼の耳に、スザクの声が届く。 「そんなことを言っているとばれたら、ロイドさんが気を悪くするよ」 でなければ、自分が八つ当たりをされる……と彼は苦笑とともに付け加える。それでも、その視線は全体の状況を確かめようとするかのようにモニターを見つめていた。 「わかっている。そろそろ、出た方がいいな」 どうやら、目的は達してくれたらしい。それならば、彼等を安全に避難させる必要があるだろう。それが指揮官の義務だ、と教えてくれたのはコーネリアだ。 「そうだね。あのくらいなら、僕だけでも何とかなるけど……ルル、その前に降りない?」 ルルーシュを危険にさらすことは不本意なんだけど、とスザクは付け加える。 「俺はスザクを信じているからな」 だから、絶対に大丈夫だろう……とルルーシュは言い返す。 「それに、ロイドが楽しんで作ったナイトメアだ。絶対にあれに負けるはずがないだろう?」 コーネリアや彼女の騎士達、それでなければシュナイゼル配下のグランストンナイツであれば、わからないが……と言葉を重ねた。 「買いかぶりすぎだよ、ルル」 あの方々と自分は比べものにならないって……とスザクは苦笑とともに言い返してくる。 「違う。スザクは、絶対にそうなるの!」 どうして、そんなに自分を卑下するのか! とルルーシュは思う。スザクは誰よりも凄いのに、と自分が思っているのに、だ。そして、自分がそう思っている以上、絶対そうなるに決まっている、とも。 「ルル」 「母上だって、そうおっしゃっておられたぞ!」 だから、自分は降りない。きっぱりとそういいきる。 「俺の騎士なら、きちんと俺を守って見せろ!」 「わかったよ、ルル」 君がそういうなら、と口にしながらスザクはランスロットを起動した。 「ロイドさん! 出ます!!」 そして、トレーラーで待機をしているはずの彼に叫ぶようにこう告げる。 『ルルーシュ様はぁ?』 まだコクピットの中? とロイドが問いかけてきた。 「前線で指揮を執るのが、指揮官の役目だろう?」 かまわない、出ろ! とルルーシュはスザクに命じる。 「イエス・マイ・マジェスティ」 スザクは真剣な表情でこう言い返してきた。 「でも、お願いだからきっちりと掴まっていてね?」 どんな振動がかかるかわからないから……とスザクは注意をしてくる。 「わかった」 それに、ルルーシュは即座に頷いてみせた。自分がワガママを通すのだから、それ以外のことでは彼の邪魔をするわけにはいかない。そう判断をして、さりげなくセシルが付けてくれたシートベルトを体に巻き付ける。 「……カレン達は無事に避難したようですよ」 では、遠慮なく……と口にするスザクがものすごく楽しそうに見えたのはルルーシュの錯覚だろうか。どちらにしても、あんな連中は蹴散らした方がいいに決まっているからかまわない。そう判断をするルルーシュだった。 しかし、予想以上に手応えがない事実に、ルルーシュは別の意味で不満を感じてしまう。 「何なんだ、こいつらは!」 こんなに弱いのに、どうしてナイトメアフレームに乗っていたのか。警察官でも、ここまで下手ではないぞ……とルルーシュは思う。 辛うじて乗りこなせていたのはサザーランドに乗っていたものだけではないだろうか。それとも、そいつがこれから他の者達を訓練しようとしていたのか、と悩む。 『ルルーシュ様。取りあえず、みんなは保護しましたよぉ』 証拠も無事です、とロイドが報告をしてきた。 『でも、軍が出てきましたよぉ。どうも、あちらさん側のようですねぇ』 大丈夫ですかぁ? と彼はそうも続ける。 「軍か……わかった。俺の名前を出していいから、決して彼等を連中に渡すな。証拠もな」 こちらに関しては、心配はいらない……とルルーシュは笑う。 「スザクがいるし、そもそも、俺の顔を知らない奴がいるはずがないしな」 それでも攻撃を仕掛けてくるなら、それこそこちらの正当防衛が成立をする。同時に、軍との癒着がはっきりするだろうからな、と付け加えた。 「……ルル」 「俺に何かあったら、間違いなく兄上達が切れるぞ」 クロヴィスの甘さのおかげで利権を得ているようだが、それすらも不可能になる。いや、それだけではなくひょっとしたらあの父が手を出すのではないか。そんな所まで考えが行き着いてしまった。そんな自分に、ルルーシュはため息をつく。 「よくて、連中と家族は本国から追い出されるだろうな」 最悪、命の保証ができなくなるか、とそうも付け加えた。 「シュナイゼル殿下やコーネリア殿下が本気になったら、そのくらいはするだろうね」 その前に自分の命が危ないけど……とスザクは笑う。 「スザクは俺のだから、誰にも手出しはさせない」 「わかっているよ、ルル。でも、それに甘えてもいられないから……」 だから、もう少し本気を出さないとね。スザクは表情を引き締めるとこう告げる。 「ルル、どうするの? 君の名前を出して、連中を止める?」 それとも実力行使? と問いかけてきた。 「まずは忠告。それでも聞かないようなら、実力行使!」 「わかった」 任せる! とルルーシュが口にした瞬間、スザクは行動を起こした。それは、自分の騎士として文句の付けようのない態度だった、とルルーシュは思う。 しかし、バカはどこまでもバカだった。 「……ナイトメアフレームの横流しに、イレヴン達を人身売買……ね」 それを取り締まらなければならない軍の幹部との癒着、とここまでされては、流石に見逃せないね……とクロヴィスがため息をつく。そんな彼の様子を、カレンや扇達が複雑な表情で見つめていた。 本来であれば、真っ先に排除しなければならない対象だ、とそう思っていたことを彼女たちは否定しないだろう。それなのに、ルルーシュが見つけてきた者達だ、というだけでこんなに近い場所で彼と対面している。 「普通は、面食らうよね」 ブリタニア人でもこんなに近い場所で皇族を見ることなどないのだ。 まして、彼等は――例外はいるが――名誉ブリタニア人でもないただのイレヴンと呼ばれる存在である。むしろ、ブリタニアから派遣されている総督なんて『敵だ』と言いたい方の人間だろう。 「まぁ、クロヴィス殿下は身近にブリタニア人しかおかれていないから、わかるんだけど」 だからといって、自分がないがしろにされているわけではない。むしろ気を遣われている方だろう。 それだからか。 比較的、イレヴン達は余裕を残した状況で生活していると言っていい。いや、それだけではなくテロリストもだろうか。 「ルルーシュ様は、まったく偏見を持っておられませんから。ですから、皆さんがあの方を裏切らない限りは、あの方の協力を得られると思いますよ」 にっこりと微笑みながら、スザクはこう告げる。 「そのようだな……」 こう言ったのは、彼等の中でもリーダー格らしい扇だ。 「しかし……複雑なんだよ、やっぱり」 自分たちがブリタニアに協力をしているなんて……と彼は呟く。 「それでも、この国の人々のくらしがよくなるためだと割り切って頂けますか?」 「それもそうなんだけど、な。お前さんのような実例もあることだし」 名誉ブリタニア人で、なおかつ皇族の騎士かよ……と口にしたのは玉城だ。 「ルルに拾って頂きましたから」 あの時、自分たちが出会っていなければ、状況は変わっていたのかもしれない。そんなことを考える時もある。しかし、もうそれはどうでもいいことだろう。離れることができないとわかっているのだ。 「では、ルルーシュ。私は先に帰っているよ。ルルーシュはスザクやアスプルンド伯と一緒に帰っておいで」 邪魔をしたね、ミレイ……と言いながらクロヴィスは立ち上がる。それにつられたようにルルーシュとミレイ、それにスザクが立ち上がった。さらに、カレンが周囲の者達を促している。それは、彼女の現在の立場が関係しているのだろう。 「君達も、いろいろと協力をしてくれたまえ。その代わりに、ゲットー内での規制を緩和させよう」 取りあえずは、日本の医師免許を持っている者達に対する医療行為の許可と、彼等から申請があれば医療品の提供だろうか……とクロヴィスは微笑む。 「総督閣下……」 「……ありがとうございます」 彼等は口々にこう告げる。 「礼なら、ルルーシュに言えばいい。あの子に言われなければ、気がつかなかったことも多いからね」 ただし、と彼は雰囲気を一変させるとさらに言葉を重ねた。 「あの子を悲しませるようなことをしたら、ただではすまないよ?」 そして、彼にしては低い声でこう告げる。 「……わかっています……」 おそらく、冷や汗をかいているのだろう。あるいは、予想もしていなかった彼の様子にとまどっているのか。何度か口をぱくぱくと開いた後で、扇はこういった。 「あの子の、よい友人でいてくれたまえ」 いつもの笑顔に戻ると、クロヴィスはそのまま部屋を出て行く。それをルルーシュ以外のものは頭を下げて送った。 「扇〜!」 ドアが閉まると同時に、ルルーシュが呼びかけてくる。 「えっと……何でしょうか」 困ったように彼は視線を向けてきた。どうやら、まだどのようなスタンスで接したらいいのか、悩んでいる最中らしい。 「ゲンジボタルとヘイケホタルって、一緒に見られないのか?」 カレンから、学校の先生だったと聞いたけど……とルルーシュは付け加える。 「えぇ。見られません。元々、生息域が違うんです」 目を輝かせながら見上げられては扇としても無視できないのだろう。いきなり理科の授業が始まってしまった。 「考えたら、まだ、7歳ですものね、ルルーシュ様」 いつの間にか歩み寄ってきていたミレイがこう囁いてくる。 「しっかりしているようで、実は甘えん坊ですからね、ルル」 そこが可愛いのだけれど、と言葉を返せば彼女は頷いてくれた。 「だからこそ、可愛いのよ。それに、まだ潔癖なお年頃だし、余計な偏見はないしね」 だから、取りあえず近所のお兄さん、お姉さんから初めてね……とミレイはカレン達へと声をかける。 「まぁ、それはいいけど……」 お子様相手なら、扇がいるし……と玉城は頷いてみせた。それに、自分も……とさらに言葉を重ねようとしたときだ。 「だからといって、余計な知識は与えないように」 「大丈夫です、会長! 私がしっかりと見守っていますから」 自分もルルーシュを守ってみせる! とカレンが何故か力をこめて口にした。 「カレン?」 「だって、可愛いじゃない!」 ああいう子は守らないと……ね! とカレンはスザクに向かって同意を求めてくる。 「僕にとっては、どんなルルでも可愛いと思えるし、守らなければいけない対象だけどね」 にっこりと微笑み返しながら、頷いてみせた。 何だかんだと言って、ルルーシュは二人目の騎士候補を手に入れたのかもしれない。それでも、ルルーシュの隣は渡さないけれど、とスザクは心の中で呟いていた。 終 BACK 07.05.07up |