父であるブリタニア皇帝の誕生日の式典も終え、ようやくルルーシュは数日中にクロヴィスとともにエリア11に戻る予定になっていた。 しかし、と彼は唇を噛む。 「これは絶対に、それがわかっていての行動なんだろうな」 次の瞬間、まだ声変わりもしていないはずの彼の声がオクターブ下がる。 「送りつけられたのが俺だから、まだいいが……」 もし、妹だったら……とルルーシュは眉を寄せた。 母であれば、別の意味で心配だろうが……とも付け加える彼にスザクがそっと歩み寄ってきた。 「ルル。取りあえず、クロヴィス殿下には連絡を入れさせて頂きましたから」 そしてこう囁いてくる。 「クロヴィス兄上?」 何故、と思う。彼にこれを見せるのは、別の意味で気が進まないのだが、とも心の中で付け加えた。 「シュナイゼル殿下は、現在会議中だと言うことですので」 不本意だが、とスザクは苦笑を浮かべながら口にする。 「かといって、ユーフェミア殿下にこれを見て頂くわけにも行かないでしょうし」 カレンですら、これを見た瞬間顔をしかめたのだ。戦場どころか世界の汚い部分を見たことがない異母姉にはショックが大きすぎるだろう。 もちろん、それに関しては文句を言うつもりはない。自分がナナリーには見せたくないと思う気持ちとコーネリアのそれが同じなだけだ。 「しかたがないな」 確かに、それ以外に選択肢はないのか……とルルーシュはため息を吐く。 「それにしても、どこの誰がこんなことを……」 取りあえずこれに関してはルルーシュの了承を得られた、と判断したのだろう。スザクは小さなため息とともに視線を向ける。 「さぁ、な。俺を気に入らないと思っている人間もここには多い」 父だけではなく有力な兄姉からも可愛がられている存在だから、とルルーシュは唇だけで笑みを刻む。 「僕たちのことも関係しているのかな?」 ふっと何かに気が付いたというようにスザクが問いかけてくる。 「それこそ関係ないな」 スザクとカレンを選んだのは、確かに自分だ。しかし、その二人をデヴァイサーに選んだのはロイドであり、同時に彼等が作ったナイトメアフレームだ。 文句があるのであれば、乗りこなせなかった自分の騎士に言え! とルルーシュは思う。 「ともかく……クロヴィス殿下に見て頂いた後で、許可をいただけるのでしたら、埋めて上げていいかな?」 確認を求めるようにスザクが問いかけてくる。 「離宮内なら構わないだろう。その時は……俺も行く」 それが義務だろう、と思う。 「ルルは優しいね」 それなのに、スザクは微笑みとともにこう言ってくる。 「そんなことはないぞ」 「いいや。優しいよ」 本当にどうでもいいと思っているのであれば、一緒に来るなんて言うはずがないから。スザクがさらに笑みを深めてこういった。 「……スザクが、そう思っているだけじゃないのか?」 もっとも、そういってもらえるのは嬉しいが……とルルーシュは心の中だけで付け加える。 「なら、後でマリアンヌ様達に聞いてみる?」 柔らかな口調でスザクが聞き返してきたその瞬間だ。 「ルルーシュぅ!」 一体どこから全力疾走をしてきたのか。そういいたくなってしまう姿のクロヴィスがその場に飛び込んできた。 「ともかく、だ」 クロヴィスでは結局どうしようもなく、シュナイゼルを呼び出す羽目になってしまった。 「これに関しては、写真も撮ったからね。どこかに片づけてきてくれるかな?」 彼の性格であれば『誰かに処分をさせなさい』と言うのではないか、とスザクは思っていた。しかし、ルルーシュの性格を考えてこんなセリフを口にする。それとも、やはり、ものがものだからだろうか。 「はい」 その言葉にルルーシュが頷いたのを確認して 「なら、僕が……」 スザクが口を挟む。 「いや。君には話したいこともある。だから、他の誰かに任せてはくれないかな?」 この言葉に、スザクは微かに眉を寄せる。しかし、彼がわざわざこう言ってくると言うことは無視してはいけない内容なのではないか。そう思う。 「でしたら、私が……場所さえ指示して頂ければの話ですけど」 スザクの斜め後ろに控えていたカレンがこう言ってくる。 「カレン」 「そうだね。彼女にお願いをしよう」 ルルーシュの呼びかけを制止してシュナイゼルは彼女に許可を与えた。本来であれば、騎士に命令できるのは主だけだ。しかし、カレンでは彼の言葉を無視することはできない。 「兄上」 それがルルーシュには悔しかったのかもしれない。どこか憮然とした表情で彼に呼びかけている。 「いいこだからね、ルルーシュ。今日だけは私の言うことを聞きなさい」 でなければ、火種が大きくなってしまうかもしれない。この言葉からルルーシュは何かを感じ取ったのだろう。 「……はい……」 渋々と言った様子で頷いてみせる。 「筆頭騎士とそうでないものでは役目が違う。まして、彼の場合は特別だろう?」 ルルーシュにとってスザクは、と意味ありげな視線を向けられて思わず肩をすくめたくなる。しかし、それを無理矢理押さえ込む。そんなスザクの気持ちがわかっているのか。シュナイゼルは微かに笑みを浮かべた。 「ともかく、どこのバカがこれを送りつけたかは知らないが……それなりの覚悟があってのことだろうからね」 ルルーシュだけではなく、これは他の者達に対する嫌がらせでもあるのだから……と彼は付け加える。 「もちろん、私にしても許すつもりは全くないよ」 ルルーシュは可愛い弟だからね、と告げる言葉は嘘ではないだろう。 「スザクにしても、幼いころから見てきている。グランストンナイツと同じように、身内だからね、君も」 しかし、こちらの言葉に関してはどこまで真に受けていいのだろうか。額面通りに受け止めてはいけない、と心の中で呟く。 「取りあえず、君達は普通にしていなさい」 これの犯人は、自分が割り出しておくから……とシュナイゼルはさらに言葉を重ねた。 「兄上!」 そんなの認められない、とルルーシュが言外に告げる。 「気持ちはわかっているよ、ルルーシュ。でも、君が動くよりも私の方が早い」 君達はエリア11に戻らなければいけないのだろう? という問いかけに、ルルーシュよりも先にクロヴィスが同意の言葉を返した。 「それに、あぁ言う連中には平然としている姿を見せつける方が報復になるのだよ」 だから、いいこで報復の方法を考えていなさい……とある意味とんでもないセリフをシュナイゼルは口にする。 「そうだよ、ルルーシュ。殺しさえしなければ、何をしても兄上がもみ消してくださるからね」 さらにクロヴィスがこういった。 「クロヴィス……君、ね」 「父上やマリアンヌ様にばれたときのことを考えれば、まだ楽なのではありませんか?」 後始末が、と平然と言い返すクロヴィスもやはり彼等と同じ血をひく存在なのではないだろうか。芸術以外には凡庸な才能しかないと思っていた彼に対する認識を改めるべきかもしれない、とスザクは心の中で呟く。 「……確かに、そちらの方が恐いね」 だが、この意見に関しては同意だ。 「ルル。犯人の割り出しはシュナイゼル殿下にお願いをして、一番精神的にダメージが大きそうな報復方法を考えておきましょう」 日本式のでよければ、きっとカレンも付き合ってくれるから……とスザクはルルーシュをなだめにかかる。でなければ、彼は何をしでかすかわったものではないのだ。 「……スザクが、そういうなら……」 ルルーシュはその言葉で取りあえず我慢することにしたらしい。しかし、後でご機嫌をといけないだろうな、とは思う。エリア11に戻ったときに、クロヴィスに許可を貰って京都にでも行けばいいだろうか、とそう心の中で呟いた。 「では、大人しくしておいで。明日の朝までには犯人を特定しておくからね」 平然と言われた内容が恐い。しかし、彼ならば可能かもしれない、と思うスザクだった。 「そういえば、あれはどうしたんだ?」 ふっと思い出したというようにルルーシュはカレンに問いかけた。 「捨てようかと思ったのですが……ものがものでしたのでちょっとためらわれましたから、修理ができないかどうか確認して貰っています」 ダメだったならば供養して貰いましょう、と彼女は続ける。 「供養?」 「ものには魂が宿る、と日本では考えられていたんだよ、ルル」 だから、それがたたらないようにきちんと供養をするというのが日本人の考え方なのだ、ととスザクが教えてくれた。 「そうなのか」 ブリタニアはない考え方だ、とそう思う。 「まぁ……生きているものを使わないだけ、あちらにも少しは良心があったのかな」 あれでもかなりいやだったけど、とスザクはため息を吐いた。 「生き物の死体なら、ここに来るまでにばれるからでしょう」 「まぁ、ね。ここの離宮の人々はそういうことには聡いから」 しかも、それだったならば絶対にシュナイゼルやクロヴィスがこの程度ですませるわけがない。ルルーシュが何と言おうと、今頃犯人は社会的に抹殺されているのではないか。スザクはきっぱりとそういう。 それどころかマリアンヌと皇帝が即座に乗り込み行くのではないか。スザクもこうも付け加える。 「……否定できないところが悲しいな……」 その状況が簡単に想像が付いてしまってルルーシュもため息を吐いてしまう。 「まぁ、今回はシュナイゼル兄上が中心になって動いてくださっているからな。そこまでは行かないだろうが」 コーネリアがいなくて本当によかった。そうも思う。 「……あれが直るのであれば、送り返してやろうか……」 いやだろうな、とルルーシュは呟く。 「……いっそ、おまけでわら人形と五寸釘でも付ける?」 「あ、それいいかも」 もちろん、最初の報復とは別によね、とカレンは即座に頷いてみせた。父親はブリタニアでも有力な家柄の存在でも、母親は日本人である彼女はしっかりと日本の慣習を身につけているらしい。 「わら人形?」 しかし、ルルーシュはそうではない。意味がわからないというように首をかしげてみせれば、スザクが柔らかく微笑む。 「呪術の道具だよ。あまりよくない、ね」 脅しとしてはちょうどいいかなって思うんだけど、と言うところから判断をして彼も本気で怒っていたのだろうか。 「手にはいるのか?」 「任せておいて」 ルルーシュの疑問にカレンが即座に言葉を返してくる。 「材料さえあれば作れるから」 それは一体何なのか。だが、それをつっこんではいけないと言うこともルルーシュはわかっていた。 「そちらは任せる」 だから、自分は明日の報復の方法を考えよう。そう心の中で呟く。 「……ロイドも帰ってきていれば、簡単だったのに」 彼であれば、ルルーシュが多少無理を言っても必要なものを作ってくれただろう。しかし、彼は今、エリア11でランスロットの改良にいそしんでいるはず。ならば、自力で用意をしなければいけない。 「ルル」 「殺さなければいいんだろう?」 不安そうなスザクに向かってルルーシュはこう言って笑って見せた。 さすがはシュナイゼルと言うべきなのだろうか。夜明けまでには犯人が誰であるか、スザクに連絡があった。 朝食の席でルルーシュにその事実を伝えれば、彼は意味ありげな笑みを浮かべてみせる。 「……流石、と言うべきなんだろうな」 自分たちがエリア11に帰るまでの相手のスケジュールが全て調べ上げられていた。クロヴィスであればこうはいかないよな、と彼はさりげなく付け加えている。 「ルル」 それは事実だが、ここであえて口にしなくても……とそう思ってしまう。クロヴィスの長所はそちらの方面にはないのだし、とも心の中で付け加えた。 「と言うわけで、手伝え」 楽しげに微笑むルルーシュはやっぱり可愛いんだよな、とそう認識してしまうのは惚れた弱みなのだろうか。それとも、無理矢理背伸びをしているように思えるからか。 どちらにしても、自分にとってそう感じられるならばいいのか。 こんなことを考えてしまうスザクだった。 それからしばらくの間、ある主従が太陽宮殿内を歩けば行く先々でトラブルに巻き込まれてしまったらしい。 しかもだ。 ある噂を耳にした瞬間、彼等は顔を青ざめたとか。 「……そういえば、ブリテンも昔から幽霊の話が多かったんだっけ」 日本もそうだったけど、とカレンが呟く。 「あの国はね。別の意味で血なまぐさかったから」 ついでにブリタニアも、とスザクは心の中だけで付け加える。しかし、今回だけはそんな土壌が役立ったよな、とも思う。 「まぁ、ルルの気持ちも晴れたようだし、殿下方も溜飲を下げたようだし……いいんじゃなかな」 明日にはエリア11に帰るのだ。また別の意味で騒がしい日々が始まるよな、とスザクは苦笑を浮かべる。 「そうね。まずは玉城だわ」 ルルーシュにまたよからぬことを教えようとしているようだから、きっちりと見張っておかないと。カレンが拳を握りしめながらこう呟く。 「そちらに関してはお願いするよ」 苦笑を深めると、スザクはこういった。 おまけ 「エリア11には髪の毛がのびる人形の話があるんですって?」 「他にも、イタズラをされて報復をする人形の話があるそうですわ、ユーフェミアお姉様」 「それは面白そうですわ。今度、スザクに頼んでそのような話が書かれている本を送ってもらいましょう」 「楽しそうですわね、お姉様」 にこやかにこんな会話を漏らすユーフェミアとナナリーの会話を聞いて表情を強ばらせているオーレリアの姿が見られたとか見られなかったとか。 終 BACK 07.10.15up |