クロヴィス達が調べているという遺跡がある。その話を耳にしたのは本当に偶然だった。
「……遺跡?」
「そうだ。スザクは何か知っているか?」
 年齢的なもので自分に知らされていないことがあることをルルーシュは知っている。だが、そのような内容でも自分に関わるというと言うことであれば、スザクに連絡が入っていることはあるのだ。
 今回もそうだろうか。
 そう思って、彼に問いかける。
「僕も、何も聞いてないよ、ルル」
 しかし、スザクはあっさりと首を横に振ってみせた。
「……そうなんだ……」
 ルルーシュは本気で悔しそうな口調でこう呟く。
 スザクが少しでも情報を持っているのであれば、きっと納得できただろう。自分が知らなくていいことがたくさんある、と言うことも知っている。そして、スザクだってきちんと説明されれば、自分に話していいことなのかどうかをきちんと判断できるはずだ。
 それなのに、彼等は自分たちには何も教えずにこそこそと行動をしている。
「何か、ずるい」
 ぼそっとこう呟いてしまう。
「ルル、それは違うから」
 即座にスザクがつっこんでくる。
「だって、兄上達だけ楽しんでいる」
 自分だって、秘密基地が欲しい! とルルーシュは口にした。
「……秘密基地じゃないよ、きっと」
「なら、ダンジョン」
「それは……否定できないかな?」
 遺跡というならば、とスザクも呟く。
「でも、勝手に行っちゃだめだよ?」
 それでも、即座にこう言ってくるあたり、やはりスザクはスザクだ……とルルーシュは思う。でも、何か面白くない。
「……いいだろう」
 クロヴィス達が内緒にしているなら、自分も内緒で行動をするだけだ! と言い返す。
「そうなんだけどね……でも、やっぱり、誰かを巻き込んだ方がいいんじゃないかな」
 外出禁止を言い渡される前に、と彼は首をかしげる。
「……誰かって、誰をだ?」
「一番巻き込みやすそうで、事情を知っていそうなのは……やっぱり、ロイドさんじゃない?」
 確かに、彼ならばシュナイゼルと親しい。そして、この地で彼の代理人のような存在だ。ならば、何かを知っているに決まっている。
「でも、教えてくれるか?」
 不安があるとすれば、それだ。
「大丈夫じゃないかな。ダメならば、ロイドさんに教えてもらったといって、その場に行けばいいんだし」
 カレンや藤堂達に付き合ってもらえれば、いくらでも安全は確保できる。そして、彼の地に誰書いても、皇族であるルルーシュに危害は加えられないだろう……とスザクはにこやかに口にした。
 ある意味、それは彼らしくない言動でもある。
「……スザク、何かあったのか?」
 だから、静かに怒っているのか……とルルーシュは問いかけた。
「……まぁ、個人的な事情だから……」
 いずれ、ルルーシュにも相談するかもしれないけど、と彼は告げる。
「個人的な事情でも、俺は話してくれると嬉しい。俺自身にはできることはないかもしれないけど」
 スザクがいつも自分にしてくれるように、自分もスザクを支えたいから……とルルーシュはさらに言葉を重ねてた。
「ルル」
 ありがとう、とスザクは微笑んでくれる。
「でもね。ルルは側にいてくれるだけでいいんだよ」
 それだけで、自分は勇気をもらえるから……と彼は口にした。
「そうなのか?」
「そうだよ」
 何やら、笑顔で丸め込まれたような気がしないわけでもない。それでも、スザクがそういうのであればそうなのだろう。ルルーシュはそう判断をする。
 同時に、自分がいまできることを思いついた。スザクにとって、それは一番必要だから……と考えるよりも早く体が動いていた。
「ルル?」
 しっかりと彼を抱きしめているつもりなのに、自分の腕が短くて、背中までも届かない。その事実が少しだけ悔しいと思う。
「母上がおっしゃっていた。悲しいときとか寂しいときには人の体温が一番だと」
 だから、せめて……とルルーシュは口にする。
「そうだね」
 言葉とともにそっとスザクの腕がルルーシュの背中に触れてきた。
「だから、もう少し、こうしていてくれる?」
 そして、小さな声でこう囁いてくる。それに、ルルーシュは小さく頷いてみせた。

「それで、僕の所に来たのぉ?」
 ロイドが苦笑とともにこう問いかけてくる。
「一応、守秘義務ってものがあるんだけど、僕にだってぇ」
「わかっています」
 そのくらいは、とスザクは言い返した。
「ただ……そうですね、今までクロヴィス殿下がお調べになった遺跡などで、ルルーシュの好奇心を満たせる安全な場所を知っていたら教えていただけたらなぁ、と思っただけです」
 それだけで、彼は満足するはずだから……とスザクは微笑む。
「……それなら、スザク君の方が詳しいんじゃない?」
 元々この国にいたんだし、クルルギ首相はそういうことに積極的だったと聞いているよ……と言う彼のセリフに、スザクは唇を噛む。
「ロイドさん!」
 いい加減にしてください! という怒鳴り声とともに彼の後頭部に思い切りファイルがたたきつけられる。しかも、たしかあれはランスロット用の改造データーだったはず。はっきり言って、そのファイルの厚さは十センチほどもあった。
「……セシル君……」
 しかし、それでもすぐに立ち直りあたり、彼もやられなれているようだ。
「貴方が世情に疎いとのは知っていましたが……せめて、ルルーシュ殿下とスザク君に関することぐらいはチェックしておいてください!」
 でなければ、マリアンヌに怒られるぞ……と言うセリフは一番彼に堪えるものだったらしい。
「それはやめて……本当に知らなかったんだからぁ!」
 マリアンヌに言う前に教えてください、とロイドは彼女に頼んでいる。その言葉に、どうしたものか……と彼女は視線をスザクに向けてきた。
「昔、うちが持っていた神社の近くにもあったのですが……その土地が先日、僕の知らない間に開発されることになっていたようで……」
 流石に、今の自分にはそれを差し止めることができない。だから、ルルーシュを連れて行くわけにもいかないのだ……と彼には教えられなかった事実をスザクは告げる。
「しかも、はっきりとはわからないのですが、皇族の方が裏にいるらしくて……」
 どうすることもできない。
 それでも、先祖が眠っている墓地だけは開発地から外れている。だから、我慢しなければいけないのではないか……とそう思う。
「魔法陣みたいな模様が描かれている岩があったり、鍾乳洞があるので……ルルの希望にはぴったりだったんですけどね」
 この言葉に、いきなりロイドが復活をする。
「取りあえず、その場所を教えてくれるかなぁ? その結果で、開発を止めさせるから」
 内密だけど、自分たちはその魔法陣みたいなものを調べているのだ……とロイドは囁いてくる。
「ロイドさん?」
 それは他人に知られない方がいいことなのではないか。彼の口調からそう判断をする。しかし、それは逆に言えば知られるとまずいことなのかもしれない。
「他人の手柄にさせるわけにはいかないことだからねぇ」
 シュナイゼルとクロヴィス、それにコーネリアあたりであればいい。しかし、他の皇族に手柄をかすめられるのは困るのだ、と彼は笑う。
「だから、ルルーシュ殿下には内緒にね」
「……ロイドさん」
「大丈夫だと判断したら、ちゃんと説明するからぁ」
 その代わり、今回のことは何とかする。そういう彼をそれ以上追及することはできない。
「……取りあえず、お願いします」
 ここで引き下がった方がいいだろう。そう判断をしてスザクはこういった。

 ロイドが結果的にどのような手を打ってくれたのかはわからない。だが、かつて自分の実家が持っていた土地はルルーシュの管理する場所になっている。実質的には、スザクの、だ。
「……すごい……」
 目の前でルルーシュが目を丸くしてる。その隣ではクロヴィスも、だ。
「鍾乳洞だ、と聞いていたが……ここまで見事なものだとは思わなかったよ」
 確かに、これを破壊されては大きな損失だ! と叫ぶクロヴィスの言葉の意味が、微妙にずれているような気がするのは錯覚だろうか。
「スザク! ここ、探検してもいいのか?」
 周囲にいるのが昔から側にいてくれる者達だけだから、だろうか。ルルーシュは子供の表情でこう問いかけてくる。
「後で、きちんと機材を整えたらね。今日は……僕が知っている部分だけの案内、だけで我慢をして」
 それでも、ルルーシュにとって見れば十分なような気がしない訳ではない。はっきり言って、ルルーシュと同じ年齢のころの自分でも一日では回りきれなかったのだ。あのころの自分よりも体力がないルルーシュではどうだろうか、とスザクは思う。
「そうだよ、ルルーシュ。ここは、ルルーシュの許可なしには誰も入れないことにしておくから、ね」
 だから、無理はしないように、とクロヴィスが口にする。
「そぉですよぉ! 今日は下見だけです」
 それとも、セシル君のお弁当を持っていきますか? と言われてルルーシュは激しく首を横に振っていた。
「……どこで、ルルにセシルさんの手料理を食べさせたんですか!」
 自分があれだけ気を付けてきたのに! とスザクはロイドをにらみつける。一番可能性があるとすれば、自分がコーネリアの指揮下に入っていた時期だろうが。それも含めて任せたはずなのだ。
「……あ、あれは事故だよぉ!」
「そうだ。俺が知らずに食べただけだ」
 だから、ロイドだけを責めるな……とルルーシュが言ってきたから、仕方がなく掴んでいた襟首を話した。
「……次はありませんからね!」
 あることないこと、セシルさんに話しますから! とさらに付け加えれば、彼は見事に凍り付いた。
「と言うことで、ルル。僕が一番すごいと思うところにいこうか」
 そこだけでも今日は満足できると思うよ、とスザクは微笑みかける。
「わかった!」
 それでいい、とルルーシュは頷く。それを確認して、スザクは彼に手を差し出した。
「こっちだよ。神社の奥拝殿の近くに地底湖があるんだ」
「地底湖?」
「そう。すごく綺麗だよ」
 言葉と共に二人は歩き出す。
 当然のように、その後をクロヴィス達も着いてきた。
 しかし、ルルーシュより先にクロヴィスがダウンしたという事実はどう判断すればいいのだろうか。誰も何も言うことができなかった。

「あっはぁ〜」
 これだよ、これ! とロイドが妙に感心したように声を上げている。普段から大げさな仕草をする彼だが、今回はさらに酷いように思う。
「ロイド?」
 どうかしたのか? とルルーシュは問いかけた。
「以前、これとよく似た紋章の写真を見たことがあるんですよぉ!」
 同じものかどうかはわからないが、それらしきものを見つけられたことが嬉しいのだ……と彼は付け加える。
「これで、シュナイゼル殿下に対しての切り札が手に入りましたぁ!」
 ランスロットと紅蓮弐式その他の改修費用が! と叫んでいる彼の側に、今は近寄らない方がいいだろう。ルルーシュはそう判断をする。でなければ、費用アップと引き替えに何をさせられるかわかったものではないのだ。
「スザク!」
 それよりも、スザクが教えてくれた地底湖の方が気にかかる。そう思って、彼に呼びかけた。
「こっちだよ、ルル」
 スザクが手招いてくれる。そちらの方に駆け寄れば、彼の腕がしっかりとルルーシュを抱き留めてくれた。
「深いからね。危ないよ」
 こう言いながら、さりげなく抱き上げてくれる。視線の先にはエメラルドグリーンに光る湖があった。
「すごく、綺麗だな」
 その湖面からルルーシュは視線をそらせない。
「そうだね」
 それでも、複越しでもしっかりと伝わってくるスザクの温もりが嬉しかった。





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07.11.05up