誕生日に押しかけてきたそれは、自分の名前を《C.C.》だと言った。
「……ともかく、本国に連絡を」
 何かを知っているのだろうか。クロヴィスが妙に引きつった表情でこう口にする。
「兄上?」
 どうかしたのか、とルルーシュは彼を見つめた。彼がこまった表情をするのはいつものことだが、こんな風に焦りまくった表情を見るのは久々かもしれない。
「ひょっとして、C.C.のことで何かご存じなんですか?」
 まさかと思いつつこう問いかける。
「……ルルーシュ、すまない。それに関してはすぐには教えて上げられないのだよ」
 ルルーシュが成人していれば話は別だったのだが、と彼は続けた。
「シュナイゼル兄上と話をしてから、だね」
「……そうなのですか?」
「そうだよ、ルルーシュ……私も、成人してから教えられたのだから、我慢しておくれ」
 こう言われては引き下がらないわけにはいかない。
「……わかりました……」
 でも、面白くないというのは事実だ。
 それが表情に出てしまっていたのだろう。
「だからね、ルルーシュ。取りあえず、あれを君にプレゼントしてきたのか、調べてくれないかな?」
 それに関しての控えを持っているのだろう? と問いかけられてルルーシュは素直に頷いてみせる。
「……スザクに手伝って貰っていいですか?」
 しかし、あれだけの寮を自分一人でやるのはむずかしい。だから、とルルーシュは聞き返した。
「もちろんだよ。そのための筆頭騎士でもあるのだからね、彼は」
 だから、いくらでもこき使いなさい。そうした方がスザクも嬉しいだろうから……とクロヴィスは口にする。
「わかりました」
 ルルーシュが頷いたのを確認してクロヴィスはそのまま小走りで彼から離れていく。
 近づいてくるときであればよく見られるそんな彼の行動も、離れるときは初めてだと言っていい。
「……何か、面白くないぞ……」
 クロヴィスにそうされたと言うことがものすごく、とルルーシュは呟く。
「ともかく、スザク〜!」
 スザクに相談をすれば、絶対に片が付くはずだ。
 だから、と思ってきびすを返す。
 真っ直ぐにドアへと駆け寄る。この外にはいつものようにスザクが待っているはずだ。そして、彼は勝手に自分を置いてどこにも行かない。
 こんなことを考えながら視線をクロヴィスの親衛隊の一人へと向けた。
 それだけで十分に伝わったのだろう。彼はドアを開けてくれる。
「もうよろしいのですか、ルル?」
 即座にスザクが声をかけてきた。
「兄上もお忙しいようだからな」
 珍しく、と続けようとしてやめておく。
「それよりも、C.C.が誰からのプレゼントのなのかを確認しておいてくれ、と言われたのだが……」
 スザクは知っているか? と話題をそらす。
「……それなのですが……」
 次の瞬間、彼は困ったようにため息を吐いた。

 ルルーシュの部屋はクロヴィスのものよりも狭い――と言っても、それは執務室がないからかもしれない――が、それでも寝室と書斎、そして応接室や食堂代わりにもなるリビングがある。
 その中の書斎で、スザクはルルーシュと頭を付き合わせていた。
「……これとこれは、完全に除外だよな」
 ルルーシュが指さしたものを確認して、スザクは頷く。
「そうですね。中身はもちろん、箱の大きさ自体が違います」
 第一、彼らからのプレゼントはあくまでも儀礼的なものだ。だから、取りあえず見栄えがいいものを送っておけ、と考えたのだろうとわかるものがそこには書かれてある。
 そして、実際にルルーシュが確認した後は倉庫に運び込まれたはずだ。ルルーシュ曰く、後で扇の元に持っていって彼の学校で有意義に使って貰おう、だそうだ。
 確かに、死蔵されるよりはましだろう。
 しかし、今はそれは関係ない。
「と言うことは、ここからここまでは関係ないと言うことになるよ、ルル」
 言葉とともにスザクはリストを指さした。
「そうだな」
 しかし、とルルーシュは顔をしかめる。
「だが、そうなると比較的親しいものしか残らないぞ?」
 その中には皇帝とマリアンヌ、それにナナリー達も含まれているだろう、と彼は告げた。
「そうなんだよね……」
 他にも数名の皇族や貴族達の名前もある。
「……クロヴィス殿下は何かご存じらしい、なら、皇族のどなたかが送られたとしてもおかしくはないのか」
 スザクは小さなな声でこう呟く。  しかし、彼らがあんなものをルルーシュに送り付けるだろうか。
 というよりも、彼女はいったい何者なのか、とそんなことも考えてしまう。
「そういえば、C.C.は?」
「隣の僕の部屋で、何か食べているはずだよ」
 最初はルルーシュの部屋がいいと言ったのだが、流石にそれはまずい。というので、自分の部屋に強引に押し込んだのだ。ついでに食べ物をあれこれ置いてきたから、当面は大人しくしているだろう。
「メイドさんに頼んで、今、部屋を用意して貰っている」
 そうしたら、そちらに移動して貰おうと思っているが、彼女が素直に応じてくれるかどうか。
「……その時は、俺が逃げ出せばいいだけか」
 当然、付いてきてくれるよな? とルルーシュが問いかけてくる。
「当たり前でしょう」
 その前に、やれることはやってしまおう……とスザクが微笑んだときだ。
「おい!」
 言葉とともにドアが開かれる。
「……ノックぐらいできないのか……」
 ため息とともにルルーシュがこう呟く。
「それもちょっと違うから、ルル」
 スザクは思わずつっこんでしまう。
「だが、ノックをして許可をもらうのは最低限の礼儀だろう?」
 スザクのように自分が許可を与えているならばともかく……とルルーシュは真顔で言い返してきた。
 その事実は嬉しい。
 でも、今この場で言うセリフではないと思う自分がおかしいのか。
「まぁ、それについては脇に置いておけ」
 さらにC.C.がこんなセリフを口にしてくれるし。
「それで? 何のご用ですか?」
 ともかく、自分たちがしていることを知られてはいけない。その前に彼女をここから追い出さなければ。そう判断をしてスザクは問いかける。
「……それよりも、お前達は何をしているんだ?」
 それなのに、どうしてこちらの思惑を打ち壊してくれるのか。
 何かを堪えようとするルルーシュを、スザクはとっさに視線で制止する。
「先日、ルルーシュにプレゼントをくださった方々にお礼状を出す相談です」
 印刷でいいのか、手書きのものを送らなければいけないのか。
 手書きでも、ルルーシュの直筆でなければいけないのか、それでもスザクが代筆していいのか。
 その判断は自分だけでするわけにはいかないから……とスザクは微笑む。ルルーシュに負担をかけるわけにはいかないし、だからといって礼儀を欠くわけにもいかないから、とも付け加える。
「……なるほど。皇族といえ、遊んではいられないというわけだ」
 聞いてはいたがルルーシュのようなお子様までそうだとは思わなかった。そういって、C.C.は笑う。
「なら、シャルルとマリアンヌへのそれには私のことも書いておけ。お前の存在は気に入った」
 それ以上に、ピザは気に入った……と彼女は目を細める。
「と言うことで、ピザのお代わりを手配しておけ」
 それが届けば大人しくしておいてやる、とそのまま唇の端を持ち上げた。
「……味とトッピングは同じものでいいんですか?」
 何を言っていいのかわからずに、スザクはこう問いかける。
「他にも、味があるのか?」
「トマト味と、バーベキュー味があったような……」
「照り焼きもあるぞ」
 どうやら、こういうことには子供の方が順応性が高いのか。平然とルルーシュが言葉を口にする。
「そうか……なら、一通り頼む」
 取りあえず、全部食べてから好みの味を見つけるさ……と言うと同時に彼女はきびすを返す。
「……でも、太るぞ……」
 ぼそっとルルーシュが付け加える。
 真実を口にする残酷さを持っているのも子供だよな、とスザクは思う。
「私を、そこいらの女と一緒にするな」
 まぁ、そのあたりはシャルルにでも聞いておけ! と彼女は口にした。
「でも、二度目はないぞ」
 さらに言葉を重ねると、今度こそ彼女は出て行く。
「……スザク……」
 ドアが閉まると同時にルルーシュが呼びかけてくる。
「……わかっているよ、ルル……」
 それにスザクも頷く。同時に、内部連絡用の端末に手を伸ばす。相手はもちろん、クロヴィスだ。

 その後、どのような騒動が持ち上がったかは言うまでもないだろう。
「取りあえず、返品させてください!」
 これならば、まだあのドレスの方がマシだった。ルルーシュはそう思う。
『あきらめろ、ルルーシュ……まだ、彼女一人だけなのだから……』
「……まだ、ですか?」
 父のその一言にものすごく恐いものを感じるのは錯覚だろうか。
『後お二方、似たような存在がいる……もっとも、お一人は別の人間に興味を抱いているようだから、お前の所には行かぬだろう』
 では、後の一人は……とルルーシュは問いかけようとする。
『心配するな。当面は大人しくしてくださるだろう』
 この一言を残して、さっさと父は通信を終わらせてくれた。その事実に唖然となったのはルルーシュだけではない。
「……ひょっとして、厄介ごとを押しつけられただけ……と言うわけではありませんよね?」
 スザクがこう呟くのがルルーシュの耳に届く。
「ないとは思いたいが、父上のあの様子では、どうなのだろうね」
 取りあえずシュナイゼルが本国で目を光らせてくれているが……とクロヴィスもため息を吐いている。
「……あんの……」
 それに、ルルーシュの怒りがとうとう爆発をした。
「あのくそ親父!」
 玉城達から教わった罵詈雑言があふれ出す。
 そんなルルーシュを諫める者は誰もいなかった。

 こうして、エリア11の総督府に居候が居座ることになった。






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