「……スザクくぅん……」 困ったような表情でロイドが声をかけてくる。 「ルルーシュ様、どうしたのぉ?」 何か、ものすごくご機嫌斜めなんだけどぉ……とさらに彼は言葉を重ねてきた。 「シュナイゼル殿下から何もお聞きになっていらっしゃらないのですか?」 スザクがどこか疲れたような口調で言い返す。 「聞いてないってことは、信用されてないってことかしら?」 どこか投げやりな口調でカレンもそれに追い打ちをかける。 「ほんとぉにどうしたんだよぉ!」 二人ともそれって八つ当たりぃ? とロイドは視線を向けてきた。 「否定しませんよ」 さらりと言い返すあたり、スザクも自分がかなりに詰まっているのではないかと思う。しかし、自分はまだましな方だとも言えるのではないか。 「スザク君……わかっていても、そこまできっぱり言われると悲しいよぉ」 「……ロイドさんが泣き真似をしても可愛くありません!」 よよっとわざとらしい仕草で泣きつこうとした彼の腕を避けながらスザクはこういう。 「そうよねぇ。三十路すぎた男の泣き真似なんて可愛くないわ」 カレンもしっかりと頷いている。だけならまだましだったのか。 「しかも、プリン伯爵だしねぇ」 「確かに気持ち悪いですわ」 その場にいたラクシャータとセシルまでが頷いているのであれば、これ以上ロイドも何も言えない。彼女たち二人を本気で怒らせればどうなるか、彼が一番よく知っているのだ。 「で、本当になにもあの性悪殿下から聞いてないのかい?」 こういうセリフを口に出せるのは、やはりラクシャータだけだろう。しかし、お願いだから本人の前ではそういうことはいわないで欲しい。後が恐いから、と言うのはワガママなのか。。 もっとも、ラクシャータのことだから、その程度のことはきちんと考えているのだろう。 「……聞いたことはないけどねぇ」 でも、とロイドは口元を引き締める。 「昔話でなら聞いたことがあるんじゃないのかな? ブリタニアの皇族は、昔から三人の守護者がいると」 もっとも、おとぎ話だから、かなりいいように改変されているらしいけどぉ……と彼は口にした。 「ひょっとして、あの『黒の皇子と灰色の魔女と白の予言者』の話ですか?」 真っ先に口を開いたのはセシルだ。 「そぉだよぉ。あのものすごく馬鹿馬鹿しい話」 まぁ、その方が真実を隠しやすかったんだろぉけど……と言うのは当たっているかもしれない。日本でもよくある話だ。 歴史には残せない真実を残すために昔話という形を取ることがある。 しかし、それがどういう話なのか自分は知らない。だから、後でルルーシュに聞いてみようか、とスザクは心の中で呟いた。 「皇族以外だと、ダールトン将軍とかバトレー将軍あたりならご存じじゃないのかなぁ」 残念だけと、まだ自分はその立場にふさわしいと思われていないようだ……とロイドは笑う。 「まぁ、そんな面倒なことはどうでもいいんだけどぉ」 自分にはナイトメアフレームの研究の方がいいから……というのはロイドらしいと言うべきなのか。 「でも、殿下も厄介なのに好かれたかもしれないねぇ」 もし、本当に彼女がその中の一人だとするのであれば……と付け加えられた言葉にスザクは小さなため息を吐く。 「なんて言うか、これが始まりだったりしてぇ」 明るい口調でロイドが口にした言葉が何やらものすごく嫌なものに感じられてならない。 「冗談はやめてくださいよ!」 日本には昔から《言霊》と言うものがある。下手なことを口にしてくれたせいでそれが現実になったらどうするのか、とスザクは思う。 「そんなことになったら、ルルが本気ですねますよ?」 彼がすねたら、無条件で特派が八つ当たりの対象になる。最悪、特派そのものが亡くなりかねないぞ……と付け加えた。 「それは困るよぉ!」 「まぁ、黒の騎士団はそのまま存続でしょうから、ラクシャータさん達は安心でしょうけど」 セシルさんも黒の騎士団に来ればいいだけですし、とスザクは微笑む。 「そうですよね〜」 セシルが来てくれるなら大歓迎だ、とカレンも笑う。 「女性が増えるのは大歓迎だよ」 さらにラクシャータが追い打ちをかけた。 「……みんなで……」 流石に、これにはロイドもショックを隠せないようだ。呆然としながらこう呟く。 「ともかく、スザクはルルーシュ様の側にいて。他の雑用は何とかするから」 自分が、とカレンがロイドを無視して話しかけてくる。 「そうだね。今は面倒なことはないから……頼んでいい?」 ルルーシュが何をしでかすかわからないから、できれば側にいたいんだよね……とスザクも頷く。 「何をするの?」 「……一番恐いのは家出かなぁ」 自分がついて行ければいいけれど、一人で行かれたらまずい……とスザクはため息を吐いた。 「確かに」 「……最近、さらに行動力が付いてきたもんねぇ、殿下」 しかも、ますますマリアンヌににて美人になってきたしぃ……と復活をしたロイドが口を挟んでくる。 「だから、余計に恐いんですよ」 何がとは言わなくてもわかったのだろう。誰もが頷いてみせる。 「そういうことならしかたがないねぇ。頑張ってね、スザク君」 これでしばらく、特派の方からは解放されたようだった。 しかし、だからといってスザクが暇になるわけではない。 むしろ忙しくなったのではないだろうか。 「……いつも付いてこなくても、別になにもしないぞ!」 憮然とした口調でルルーシュがこう言ってくる。 「僕が、ルルの側にいたいんだよ」 それとも迷惑? と問いかければ、ルルーシュは首を横に振ってみせた。もちろん、彼はそういってくれるだろうとわかっていた。そういう自分は、少し卑怯なのかもしれない、とスザクは心の中で呟く。 「なら、側にいてもいいよね?」 さらにこう言葉を重ねれば、ルルーシュは小さく頷いてみせた。 「それで、今日は?」 何をするの? とスザクはルルーシュの予定を聞いてみる。 「……クリスマスのプレゼントを用意する」 この言葉だけならば可愛いと言えるだろう。 「父上に!」 それは、間違いなく《報復》の二文字が含まれているのではないか。しかし、彼だけというのはきっと、他の者達――特にマリアンヌ――には矛先を向けられないと言うことからだろう。 「でも、何がいいのかがわからない」 一番効果的なものは何だろうか。だからといって、下手にインパクトがあるものを送れば逆効果だろうし……とルルーシュは眉を寄せている。 「……ルル」 ふっとあることを思いついてスザクは口を開く。 「何だ?」 「ちょっとルルに負担がかかるかもしれないけど、ちょっといい方法を思いついたよ」 この一言を耳にした瞬間、ルルーシュの表情が明るくなる。それがものすごく可愛いと思えた。 「本当か、スザク!」 教えて、とルルーシュは彼の腰に抱きついてくる。 「セシルさんと一緒に焼いたケーキを皇帝陛下にお送りすればいい」 多分、彼は独り占めをしようとするだろう。しかも、味がどうであろうと『初めて作った』と言えば彼も何も言えないのではないか。そう付け加える。 「……セシルのレシピで、だな?」 自分とロイドとでシャットアウトしているから彼が実際に彼女の料理を口いしたことは一度だけだ。しかし、それで十分だろうとも思う。その上、その――ある意味破壊的とも言える――味に関してはあちらこちらから耳にしているらしいのだ。 だから、と言うわけではないのだろうが、スザクの提案が気に入ったらしい。 「そう。でも、味見はしないでね」 こう付け加えながらも、万が一の時のために口直し用のプリンを用意しておくべきか、と悩む。 「……気を付ける……」 真顔でこう言ってくる彼のフォローもできる限りしよう。そう思うスザクだった。 「それほどにすごいのか?」 取りあえず、実際に行動をするのは明日から……と言うことでルルーシュを眠らせた時だ。別の部屋でごろごろしているはずのC.C.が不意に姿を現した。 「見た目はものすごくおいしそうだけどね」 あくまでも見た目だけだ、とスザクは笑い返す。 「まぁ、ルルが作ったとお聞きになれば、皇帝陛下はどのようなものでも完食されるんじゃないのかな?」 その後のことはシュナイゼルに頼んでおけばいいような気がする。 「まぁ、シャルルならそうするだろうな」 自分には関係のないことだな……と彼女は笑う。 「取りあえず、ルルーシュの寝顔も拝んだことだし、今日の所は引き下がるか」 結果を楽しみにしておこう……と彼女は付け加えた。 「それと……私には普通の食事を持って来させろよ?」 決して、セシルが作った料理は持ってくるな……とさらに念を押す。 「貴方が何もしなければ大丈夫ですよ」 今回のことはあくまでも八つ当たりだから、とスザクはにこやかに言い返した。 「お前、なかなかにいい性格のようだな」 「僕はルルの騎士ですから」 彼に危害を加えようとするならば誰であろうと容赦はしない、と笑顔のまま告げる。 「本当。お前をルルーシュの側に置くようにし向けて正解だったよ」 しかし、彼女は予想外のセリフを口にしてくれた。 「はい?」 「ただし、食うのはせめてもう少し育ってからにしろ」 さらに付け加えられた言葉の意味がわからないはずがない。 「と言うことで、私はねる。お前もさっさと寝るんだな」 スザクの言葉を待たずにC.C.はきびすを返す。そのまま歩き出す彼女の背中を、スザクは何とも言えない表情で見つめるしかできない。 「……ひょっとして、マリアンヌ様の性格は……」 彼女の影響なのか、とその姿が消えたドアを見つめながら呟くことしかできないスザクだった。 終 BACK 07.12.17up |