「……取りあえず、コーネリア姉上に贈り物を用意した方がいいだろうが……」
 何がいいと思う? とルルーシュは己の騎士に問いかける。
「ご本人用ではなく、生まれていらっしゃるお子様用に何かを贈るのが一番いいと思うけど……」
 何がいいのだろうか、とスザクは首をひねった。
「産着、かな?」
 それとも他のものの方がいいのか。はっきり言って、子供を持ったことはもちろん、作ったこともない自分にはわからない。
「女性陣に聞いた方がいいと思うけど……」
「……ごめん、私もわからないから」
 視線を向ける前にカレンがこう言ってきた。
「でも、ミレイさんならわかるんじゃないかしら」
 でなければ、状況確認もかねてマリアンヌに連絡を入れてみたらどうだろうか、と彼女は提案をしてくる。
「母上に?」
「そうです。あの方であればよいアドバイスをしてくださるでしょうし、ナナリー様が無事に到着されたことも一緒にお伝えすればいいのではありませんか?」
 クロヴィスからも連絡が行っているかもしれないがルルーシュからのそれはまた別だろう。カレンのそのセリフにルルーシュは頷く。
「そうだな。俺から報告をするのが筋か」
 問題はマリアンヌが掴まるかどうかだが、それは連絡を入れてみればわかる。ダメだったならば、伝言を頼めばいいだけのことだろう。
「スザク」
「通信施設を借りてくるね。それと、ミレイさんにも連絡を入れておくよ」
 後は、一応ユーフェミアにも声をかけておくから。そう言ってスザクは部屋から出て行く。
「……姉上へのお祝いは、ナナリーと連名の方がいいよな?」
 彼の後ろ姿を見送りながらカレンに問いかける。
「そうですね。そうされた方がよろしいかと思います」
 カードであればそれぞれが書いてもいいような気はするが……とカレンは微笑んだ。
「カードであれば、場所を取らないか」
 どうせ、贈り物はあちらこちらから届けられているに決まっている。いくら父が反対をしようと、コーネリアの体内に宿っている赤ん坊の命までは取らないと思いたい。
「……そんなことになったら、絶縁してやるだけだしな……」
 もっとも、その前にマリアンヌがしめてくれるだろうが、とルルーシュはこっそりと付け加えた。
「ルルーシュ様?」
「何でもない。それよりもカードだが……確か、漆塗りで綺麗なのがあったよな?」
 以前、キョウトで見たことがあるが? とルルーシュは話題をそらそうと口にする。
「もちろんですよ。後で、井上さんにでも聞いておきますね」
 そうすれば、多分、キョウトに伝わるだろう。そうすれば、桐原達がよいものを見繕ってくれるのではないか。
「そうだな。それが無難か」
 自分が現地に行って選ぶことはむずかしいだろう。本国から何と言われるかわからないのだ。
 最悪、本国に戻らないと行けないような気がする。
 どちらにしても、マリアンヌと話が出来ればもっと詳しい状況がわかるのではないか。
 そう考えていたときだ。
「大変だ!」
「クロヴィス殿下が倒れられたぞ!!」
 外からこんな声が響いてくる。それだけではなく、人々が右往左往している気配も、だ。
「とうとう、クロヴィス兄上の処理能力がパンクしたか」
 まぁ、よく保った方だよな……とルルーシュは心の中だけで呟く。
「……ルルーシュ様?」
 どうしますか、とカレンが問いかけてきた。それはきっと、スザクがこの場にいないからだろう。でなければ、即座に状況を確認するために動いているはずだ。
「スザクが確認してくると思う」
 逆に言えば、今、自分から離れている彼が同じような行動を取るのは当然だろう。
 それに、言葉は悪いが、カレンよりはスザクの方がクロヴィスの側近達には信頼されているのだ。
 それは、彼が自分と共にブリタニア宮殿で育ったからに他ならない。
 だからこそ、このような状況であれば本来であれば守秘義務が課せられるような内容ですら彼は耳にすることが可能であるはずだ。
「……ユフィ姉上もいらっしゃるしな」
 あるいは、そのせいでクロヴィスが限界を迎えたのかもしれないが。
 それでも、彼女も皇族だ。コーネリアの補佐をしていたこともあるはずだ。もっとも、それが名目だけであるのかどうかを自分は知らないが、とルルーシュは思う。
「ユーフェミア様、ですか?」
 カレンが複雑なものを滲ませた声音でこう呟く。
「兄上がされていた視察程度はしてくださるだろう」
 できれば、ダールトンかグランストンナイツを借りられればいいのだが。そうすれば、彼女の暴走も最低限で抑えられたに決まっている。
 だからといって、スザクを貸すわけにはいかない。そして、カレンはどう考えても彼女と相性がよくないだろう。
 かといって、クロヴィスの側近では彼女の暴走を止められるかどうかがわからない。
 彼女の首根っこを押さえていられる人間は、間違いなく二番目の兄姉の側で鍛えられた者達だけではないだろうか。
「……いっそのこと、父上の騎士を借りて来るという手もあるな」
 彼等であればユーフェミアをきっちりと押さえつけてくれるだろう。そう考えたところでルルーシュはその考えを即座に脳内のゴミ箱に捨てる。
 彼等が来れば、クロヴィスが入院しかねない。
 何よりも、父を抑えられる人間がいなくなるのではないか。
「ルルーシュ様、それはやめておいた方が……」
 クロヴィスならばまだしも、本国のシュナイゼルが倒れたらとんでもないことになる、とカレンも口にする。
「だな……しかし、そうするとユフィ姉上のフォローができるものがいなくなるな」
 取りあえず、マリアンヌと連絡が取れたら、それも相談した方がいいかもしれない。
「……全ては、スザクが戻ってきてから、と言うことか」
 歯がゆいがしかたがない。
 ルルーシュは吐息と共に言葉をはき出す。
「そうですね」
 確かに、今迂闊に動くよりも確実な情報を手にしてからこれからの方策を考えた方がいいだろう。
 だが、今でも出来ることがある。
「……カレン……」
 そう判断をしてスザクは彼女に呼びかけた。
「はい」
「スザクが戻ってからで構わない。藤堂に連絡を取ってくれ」
 最悪のことを考えれば、トウキョウ租界を固めておいた方がいいかもしれない。
「……ひょっとしたら、久々に黒の騎士団に召集をかけるかもしれない、ともその時に伝えておいてくれ」
 そうならなければいいが。心の中でそう呟くが、こういう時の予感ほど当たる、と言うこともルルーシュはよく知っていた。

 スザクが戻ってきたのはそれからすぐのことだ。通信装置のある場所まで移動しながら、お互いに情報交換をするのは、時間を少しでも有効に伝いたかったからだ。
「確かに、十分警戒だけはしておいた方がいいだろうね」
 ルルーシュの判断を聞いたスザクが頷いてみせる。
「現在、このエリアには皇族が四人もいることになるしね」
「……ナナリーは安全だと思いたいが……」
 アリスの実力はともかく、アッシュフォード学園であればセキュリティがしっかりとしているし、特派も未だにあそこを根城にしているから、とルルーシュは心の中で呟く。
 カレンとスザクを交代で特派に行かせてもいいだろう。
「クロヴィス殿下のことですが」
 さらに、スザクが言葉を口にする。
「熱がおありだそうで……一両日中は安静にされた方がよろしいだろう、との医師の判断だそうです」
 緊急の書類があれば、ルルーシュの元に届けてくれるように……と頼んできた。彼はそうも付け加えた。
「そうか」
 確かに、それが無難だろう……とルルーシュも頷く。
 この地にはユーフェミアもナナリーもいるが、どちらも事情に疎い。それならば、年齢はともかくその他の面でクロヴィスと同レベルの理解をしている自分がした方がマシだ。
 何よりも、自分であればキョウトの協力も得やすいから、色々と有利に運べる可能性も高い。
「……俺が、せめて後少し、早く生まれていれば、な」
 そうすれば、もっと状況は変わっていたのだろうか。
「ルル」
「わかっている。でも、この状況では、な」
 何よりも、コーネリアの懐妊は喜ばしいことだし……とルルーシュは口にする。
「……父上にだけ通用する最後の手段もあることだし……まずは情報収集と……できれば一人ぐらい補佐をしてくれる人間を派遣してもらえれば、何とかなるか」
 でなければ、ユーフェミアの護衛だよな……とルルーシュは思う。
「ユフィ姉上をそそのかしたのが母上なら、きちんと責任を取ってもらわないと」
 しかし、自分がマリアンヌに勝てるかどうかと言えば、また別問題だ。
「……マリアンヌ様までもこちらに来られなければいいんですけど……」
 ぼそっとスザクがこう口にする。
「やめてくれ!」
 それだけは考えたくないのだから、とルルーシュは言い返す。
「母上にこちらに来られるくらいなら、コーネリア姉上に来て頂いた方がマシだ!」
 クロヴィスの監視であれば、身重の彼女でも負担にはならないだろう。何よりも、ユーフェミアを抑えてもらえる。
 それに、この地であれば、本国ほどではないがそれなりに医療機関も充実しているから出産することに関して問題はないはずだ。
「それは否定しないけど……」
 でも、クロヴィスが本気で寝込みそうだ、とスザクはそっと囁いてくる。
「……兄上なら、やりかねないな」
 むしろ、喜々としてそのままアトリエにこもりそうだ。そう言ってため息を吐く。
「まぁ、いい。今必要なのは情報だけだからな」
 それからあれこれ考えればいい。言葉とともに通信設備がある部屋へとルルーシュは足を踏み入れる。その後をスザクは当然つい来てくれる。
 ある意味、これからが正念場だった。





BACK





08.02.25up