コーネリアが来てからと言うもの、ルルーシュはひまになった。
「……それはありがたいのだが……」
 でも、できれば仕事が忙しい方がよかった……と彼は呟いてしまう。
「ルルーシュ様?」
 その理由がわからないのだろう。カレンが不安そうに見つめてくるのがわかった。
「ユーフェミア殿下に振り回されているんだよ、ルルは」
 あの方もひまだから、と苦笑と共にスザクが説明をしている。他の誰かがそんなことをしていれば、無条件で処分していただろうに、と考えてしまうくらい、自分は疲れているのかもしれまい。ルルーシュは心の中でそうも呟く。
「仕事であれば、ユーフェミア殿下も無理強いはなさらないんだけどね……」
 そうでないとわかると、彼女は自分の欲求を押しつけてくるのだ。
「あの方の怖いところは、自分の希望を通すためにはどうすればいいのか。それを的確に掴んでおいでだ、と言う事かも」
 ルルーシュの場合、ナナリーを巻き込めば九割方大丈夫だ。
 さらにマリアンヌが味方に付けば、それこそ、政務でもない限りルルーシュに勝ち目はない。
 さすがは姉、と言うべきか。
 それとも、自分の欲求に正直だと言うべきか。
 他の誰かが聞いたら皇族批判と言われかねない言葉でも、スザクであればそうとがめられることはない。
「……そこまでにしておけ、スザク」
 だからといって、あまり聞かれていい会話ではないだろう。そう判断をして、ルルーシュは自分の騎士に声をかける。
「ごめん、ルル。気がゆるんじゃったみたいだね」
 苦笑とともにスザクがこう言い返してきた。
「……むしろ、怒ってるんじゃないの?」
 ぼそっとカレンが呟く。
「そんなことはないと思うけどな」
 即座にスザクが反論をしている。だが、どちらが正しいのかと言えば、カレンの言葉の方だろうとルルーシュは考えていた。
「とりあえず、ユフィ姉上のことは気にするな。しばらくは大丈夫だと思うぞ」
 苦笑と共にルルーシュは言葉を口にする。
「ルル?」
「コーネリア姉上の赤ちゃんに、何か作って上げればいいのでは、と母上がおっしゃってな」
 本来であれば、母親が用意する物なのだろうが、コーネリアにその時間はないだろうから……とマリアンヌはそうも言っていた。だから、代わりにユーフェミアが用意して上げればいいのではないか。母がそう言ったのは、間違いなく自分たちに対する気遣いも含まれているはずだ。
「それももっともだと言って、あれこれ作っているそうだ」
 ナナリーも巻き込まれているが、あの子にとってもいい経験だろう。そう思う……とルルーシュは続けた。
「なら、今のところ問題はないんだよね?」
 それなのに、どうして仕事の方がいいの? とスザクが問いかけてくる。
「……することがないと言うことが、こんなに苦痛だとは思わなかっただけだ……」
 いつも、目の前にはしなければいけないことがあった。エリア11に来てからはなおさらだ。
「ひまになったのはいいが……俺だけ、することがない」
 チェスにしても、相手がいなければ意味がない。だからといって、学校に行くことをコーネリア達が許可してくれるかどうかと言えば、また別問題だろう。そもそも、家出をする前に、きっちりとブリタニアで大学卒業の資格まで取ってしまっているのだ。行く意味があるだろうか。
「暇つぶしになりそうな趣味を作っておくべきだったと、今、後悔しているところだ」
 ため息とともに呟く彼に、彼の騎士達が苦笑を浮かべるのがわかった。
「いっそ、みんなの所に行きますか?」
 彼等の所であれば、コーネリアは怒らないだろう。言外にカレンはそういってくる。
「……そうだな。久々に彼等の顔を見に行くのもいいかもしれん」
 許可は取らなければいけないだろうが、とルルーシュは頷く。
「なら、その方向で調整をしておきますね」
 カレンがこう言いながら立ち上がった。
「カレン?」
「扇さんに連絡をしておけば、すぐにみんなを集めてくれると思いますよ」
 それから、情報交換をすればいいだろうし……と彼女は微笑む。
「中華連邦の動きか。確かに、それは掴んでおきたい」
 それに、とルルーシュはあることを思いだして呟く。
「ラクシャータの新型がそろそろロールアウトする頃じゃなかったか?」
 完成しているのであれば、連中を乗せてデーターをとるというのもいいのではないか。ルルーシュはそう言って笑う。
「あ、そうですね。それも確認しておきますか?」
 ラクシャータさんに、とカレンが即座に口にする。
「頼む」
 言葉を返しながらも、ルルーシュの脳内ではあれこれ計画がまとめられていく。
「……ルル……」
 小さなため息とともにスザクが呼びかけてきた。
「何だ?」
 どうかしたのか? とルルーシュは聞き返す。
「まさかと思うけど、それを使って何かしでかそうなんて、考えてないよね?」
 この問いかけに、内心焦る。だが、それを表に出すことはない。
「何かって、中華連邦に仕掛けるとかか?」
 そんな無謀なことはしない、と言い返す。
「……なら、何を考えているわけ?」
 にっこりと綺麗に笑いながらスザクがさらに問いかけの言葉を口にした。
「まさか、僕までごまかせるなんて、思っていないよね?」
 伊達や酔狂で、ルルのことを見てきた訳じゃないんだよ? と付け加える彼の言葉の裏に、別の感情が見え隠れしているのはルルーシュの錯覚ではないはずだ。
 しかし、それが何であるのか、ルルーシュにはまだわからない。でも、スザクがこうして自分だけを見てくれているのは嬉しいと思う。
「……藤堂は、剣道の達人なんだろう?」
 とりあえず、口にしなければ許してはもらえないと判断をして、ゆっくりと言葉を綴り出す。
「そうだよ。俺も朝比奈さんも、藤堂さんに剣道を習っていたから」
 それがどうかしたの? とスザクは首をかしげる。
「桐原に、刀鍛冶の人間を紹介してもらったからな。冗談で、ナイトメアフレーム用の日本刀は作れるかと言ってみたんだ」
 しかし、当人達はそれを真面目に受け止めて作り上げてきたのだ、と微笑む。
「もちろん、きちんと対価は払ったぞ。それくらいの小遣いは貰っていたからな」
 優れた技術に対価を払うのは当然だ、と付け加えれば、スザクが「そうだね」と頷いてくれる。
「だから、ナイトメアフレームでも剣道の達人は達人なのかを確認したいんだ」
 使えるようで藤堂が望むのであれば、彼にそれを渡すし、そうでなくてもマリアンヌなら喜ぶだろう。決して無駄にはならないはずだ、とルルーシュは言い切った。
「……まさか、そんなことをしていたなんて……」
 気が付かなかった、とスザクがため息をつく。
「スザクが姉上達の所に行っていたときだったからな」
 あの時も、ある意味ひまだったんだ、とルルーシュは平然と付け加える。
「……あの時、ね」
 確かに、あの時は側にいたのがカレン一人だというので、クロヴィスの命令で、ルルーシュの外出が制限されていたのだ。
 そのせいで、ルルーシュがすねていたこともスザクは覚えているのだろう。
「ともかく……後で、時間を潰すための趣味を一緒に探そうね」
 小さなため息とともに付け加えられた言葉が、彼の心情を如実に表していた。

 しかし、藤堂がルルーシュの提案に乗ってくるとは思わなかった。
「……そういえば、朝比奈もやりたがっていたな、あれ」
 ルルーシュが持ち込んだナイトメアフレーム用の日本刀を見て、何故か彼等は興奮したのだ。
「気持ちはわかるけどね」
 それに、スザクは苦笑と共にこう言い返してくる。
「スザク?」
「あれは、確かに凄いできだったからね。どうやって打ったんだろう」
 そのシーンを見たかった、と彼は呟いた。
「……何でも、特注のハンマーを作って……とかいっていたな」
 さすがは日本人、とルルーシュは感心しているのかどうかわからないセリフを口にする。
「桐原に聞けばわかるかもしれないな」
 まぁ『伝統の技』の一言ですませられるかもしれないが。
「それ以上に、ナイトメアフレームは剣の達人にとって己の肉体同様になるのかどうか。そちらの方が気になる」
 生身であれば、藤堂は百パーセント、成功させられるだろう。
 しかし、ナイトメアフレームではどうだろうか。
「一応、今まで乗りこなすための訓練はしてきたと言うし、ラクシャータもノリノリで調整をしていたと聞いている。
「そうだね」
 でも、そうなったらロイドさんが怖いなぁ……とスザクは苦笑を浮かべた。その理由はルルーシュにもわかっている。
「スザクとランスロットなら大丈夫だろう」
 シンクロ率は九割を超えているのだろう? とルルーシュは問いかけた。
「一応ね」
 でも、ロイドさんだからなぁ……と彼はさらにため息をつく。
「確かに、ロイドは何をするかわからないか」
 でなければ、特派の主任なんてやっていられないのかもしれないが、とそう付け加えたときだ。藤堂が乗った新型が目の前に現れた。
 その腰にはルルーシュが持ってきたあの巨大な日本刀がある。
「……切れると思うか、あれ」
 その前には、ナイトメアサイズで作らせた兜が置かれていた。
「生身なら間違いなく断つよ」
 でも、ナイトメアだとどうだろうな……とスザクも視線を真っ直ぐに向けている。
 その目の前で、ゆっくりと剣が抜かれた。
 上段に構えられたそれが、ひと思いに振り下ろされる。
 一瞬遅れて、兜がゆっくりと左右に落ちた。

 その話を聞いたコーネリアがものすごく悔しがっていたのは言うまでもない。その後、藤堂達がまた彼女の前で同じ事をする羽目になったのはまた別の話だろう。




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