確かに、あの可愛い姿に理性をとばしてしまった。そして、まだ幼い体に無体を働いた記憶もある。
「……でも、誘ってきたのはルルの方だし……」
 合意の上の行為だったのに、とスザクはため息をつく。
 確かに、疲れていたからあっさりと理性を手放したのはまずいとは思うけど……と考えた瞬間、またため息がこぼれ落ちた。
「でも、相思相愛なんだから、いいじゃないか……」
 その話を聞きつけたらしい殿下方は、何故か応援の言葉をいただいてしまった。マリアンヌにいたっては『スザクさんを信じていますから』という、ある意味怖い声をかけられてしまった。ついでに、皇帝陛下に関しては確かめる勇気はないし、聞く気力はもちろんない。
 しかし、それに関しては――言葉は悪いが――聞き流しておけばいいだけのことだ。ルルーシュさえ自分を拒まないのであれば、それでいい。
 第一「またしようね」と言ってきたのは、彼の方だ。
 うっすらと頬を染めてこういった彼は本当に可愛らしかった。
「……それなのに……」
 どうして、カレンに邪魔をされなければいけないのだろうか。
 確かに、あのまま二人で眠っていたのはまずかったと思う。ついでに、ルルーシュに自分のパジャマの上だけを着せておいたとか、それもカレンを刺激したのかもしれない。でも、一つのパジャマを分け合って切るのは、男のロマンだろう。スザクとしては、そう主張したくなる。
「どうして、それだけで殺されかけなければいけないんだよ」
 怒られるかもしれない、と言う予感はあった。でも、彼女だって自分とルルーシュが思い合っていることは知っていたはず。
「……僕だって、健康な男だし……」
 そうなったら、やっぱり、そう言うことはしたいし……とスザクはまたため息をつく。
 カレンだって、その位はわかってくれている。そう考えていたのは、自分の判断ミスだったのだろうか。
 そんな彼の脳裏には、あの晩のことがしっかりと思い浮かんでいる。
 ルルーシュが自分のベッドにいなかった。そうなれば、どこを探せばいいのかは既にみなには知られている。だから、カレンも迷うことなくスザクの部屋を訪れたのだろう。
 しかし、だ。
 ノックもしないでドアを開けるのは何なのか。その瞬間にスザクの意識は覚醒したとはいえ、そう言った意味での対処が取れなかったのは事実。
 目の前の様子に流石の彼女も、一瞬フリーズしてしまった。
「ちょっと、あんた!」
 だが、すぐに怒りがわき上がってきたらしい。
「ルルーシュ様に、何をしたのよ!」
 この叫びとともにベッドの上にいるスザクに跳び蹴りをしてきたのだ。
「ちょっと、待ってよ!」
 ルルーシュもいるんだよ! と口にしながら、彼はベッドから飛び降りる。もちろん、腕の中にはルルーシュを抱きしめていた。
「ルルまで巻き込む気?」
 この問いかけがカレンの怒りに油を注いだのだろうか。
「あんたが、大人しくやられていればいいだけでしょうが!」
 大人しく攻撃を受けていれば、ルルーシュにはでは危害が及ばないだろうが、と彼女は叫びながら、今度は拳を突き出してくる。
「うわっ!」
 それを避けた瞬間、彼女の拳がサイドテーブルをたたき割った。
「……ちょっと、本気?」
「いつだって、本気よ!」
 それはいいのだが、この状況にもまったく目を覚まさないルルーシュも問題があるのではないだろうか。
「無理、させたから、かな?」
 やっぱり、とため息をつきながら、繰り出された蹴りを避ける。
 ルルーシュを抱えていても彼女の攻撃を避けることは可能だ。しかし、それもいつまで続くか。
「何、言ってんのよ!」
 さっさとルルーシュを放してあの世に行けば? と告げるカレンの目は本気だった。
「そんなことをしたら、ルルが泣くだろう!」
 自分が側にいなければ、とスザクは真顔で言い返す。
「それ以前に、マリアンヌ様にあの世から引きずり出されて、また殺されるって」
 ルルーシュとの約束を破った、と言って……と口にした瞬間、今度はナイフが飛んでくる。
「危ないなぁ……」
 本当に、と呟きながらも、スザクはそれを蹴り飛ばす。
「何で当たらないのよ!」
 これは予想外だったのだろうか。カレンがあきれたようにこう言ってきた。
「当たったら、ケガをするじゃないか」
 普通避けるでしょう、とため息を返す。
「当たるように投げたんでしょうが!」
 絶対に避けられないように投げたのに、と彼女は頬をふくらませる。
「当たりなさいよ、あんたも」
 こんなセリフを口にしてくると言うところから判断をして、彼女もそろそろ切れかかっているのではないだろうか。
「だから、それじゃケガをするでしょう?」
 それは困るよ、とスザクは言い返す。
「……ルルーシュ様に無理強いしたくせに!」
「誘ってきたのは、ルルの方だよ」
 ちなみに、誘い方を教えたのはコーネリアだから……とスザクはさらに言葉を重ねる。だから、合意の上の行為だ、とも付け加えた。
「その位、あんたが我慢すればいいことでしょう?」
 あんたなら、死なないから……ととんでもないことを言い返されてしまう。
「だから、ルルが泣くって」
 この時期だから、余計にそんなことをさせるわけにはいかないだろう。スザクはそう言い返す。同時に、そのまま大きく後ろに下がった。一瞬遅れて、先ほどまで彼が立っていた場所に大きな穴が空く。
「だから、ルルまで巻き込まないでよ」
 このままだと、自分より先に彼の方に被害が出そうだ。もちろん、全力でそれは避けるつもりだけど、とスザクは心の中で呟く。
「だったら、さっさとルルーシュ様を放しなさいよ!」
 そうしたら、じっくりとおしおきをしてあげるから……とカレンが口にした。
「……やだ」
 あんなに可愛いルルを見られなくなるのは辛い。第一にして、そんなことをして欲求不満になったら、それこそどうなるかわからないよ……とスザクは開き直って告げた。
「そういう問題じゃないでしょう!」
 カレンの雄叫びが周囲に響く。そのまま、彼女は今まで自制していたらしい剣を抜いた。
「尋常に成敗されなさい!」
 いったい、そんなセリフをどこで覚えたのか。
 そう言えば、彼女も元はと言えばテロリストの一人だったな……と心の中で呟く。
 何よりも、これだけ騒いでいて誰も見に来ないというのは何なのか。
「……後始末が大変そう……」
 目の前で切り刻まれていく家具を見ながら、スザクはため息をつく。
「……スザク?」
 それが刺激になったのか。それとも、別の理由からか。ようやくルルーシュが目を覚ます。しかし、すぐには目の前の状況を理解できないらしい。
「……何で、カレンが怒っているんだ?」
 ぎゅっとスザクの首にすがりつきながら、ルルーシュが問いかけてくる。そのおかげで、今までよりも避けやすくなったのは事実だ。
「僕とルルが一線を越えちゃったから、だって」
 スザクが素直に告げる。
「だって、合意の上の行為だぞ? 誘ったのは、俺の方からだし」
 何でダメなんだ? とルルーシュは首をかしげた。
「僕もわからないよ」
 どうしてダメなんだろうね、とスザクも言い返す。それでも、カレンの暴走は止まる気配を見せなかった。

 この騒動が収まったのは、彼女の体力が尽きた後で、だった。

 しかし、問題はその後だったと言っていい。
 スザクが使っている部屋が半壊――もちろん、破壊したのはカレンだ――のおかげで、修理中は別の部屋を使わざるを得ないのだ。しかも、わざわざルルーシュから一番遠い部屋をあてがってくれた人間がいる。
 ルルーシュは自分の部屋で寝ればいい、と言ってくれたが、カレンのあの様子では、場所がどこであろうと彼と一緒に寝ていたと言うだけで破壊してくれそうだ。
「……一番の敵が身近にいたとはね」
 と言うよりもルルーシュの肉親には祝福されているのに、どうして同僚に邪魔されないといけないのか。
「……認めてもらえなかったとしても、妥協して貰わないと……」
 でないと、本気でやる気が減退してしまう。離れているだけならばともかく、顔も見られないという状況は、本当に初めてだし……とスザクはため息をついた。
「ロイドさんにも怒られたし」
 ランスロットとの適合率が下がったって、と思わずぼやいてしまう。
「……そのうち、僕が切れそう」
 切れたあげく、ルルーシュをさらってどこかに逃げ込むかもしれないよなぁ……とため息とともに言葉をはき出した。
「ス、スザクくん!」
「それだけはやめておいてよねぇ」
 どうやら、その呟きはしっかりと二人の耳に届いてしまったらしい。慌てたようにロイドとセシルがスザクの腕を左右から掴んできた。
「……でも、ルル不足で、ちょっと……」
 切れそうですから、と笑顔で口にした瞬間、二人とも表情を強ばらせる。別ににらんでもいないのに、どうしてだろう……とスザク自身は不思議に思ってしまう。
「と、ともかく……落ち着いてね、スザク君」
「不本意だけど、あいつにも協力を求めて何とかしないとぉ」
 特派が総督誘拐に荷担することになりかねない。珍しくも焦ったような口調でロイドがこう言い切った。
「それ以上に問題なのは、総督ご自身がそれを嫌がらないだろう、と言うことですわ」
「ルルーシュ様ならそうだろうねぇ」
 むしろ、積極的に逃げ回る。そうなった場合、自分たちで捕まえられるかどうか。
「何よりも、シュナイゼル殿下からの嫌がらせが怖いから……そんなことはしないでねぇ?」
 自分たちだけで二人を見つけ出さなければ開発費全面カットとか言い出しかねない。本気でロイドは嫌そうな表情を作って言葉を口にする。
「……でも、僕たちのせいじゃないですから」
 そうなったとしても、と僕は知らないからですね……とスザクは言い返す。
「スザク君が壊れたぁ!」
 どうしよう、とロイドが騒ぎ出した。
「これは……やっぱり、カレンさんを説得するしかないのでは……」
 スザク君はこうなったら、てこでも動きませんよ……とセシルがため息をつく。
「だよねぇ」
 そちらの方が、まだまだ可能性はありそうだよねぇ……とロイドも頷いた。
 その時である。
「スザク!」
 ここで聞くはずがないと思っていた声が響く。
「ルル?」
 まさか、と思いながらスザクは視線を巡らせる。そうすれば、真っ直ぐに彼の方に駆け寄ってくる人影が確認できた。
「どうしたの?」
「……スザクに会えないのが、我慢できなかったから……」
 政庁を抜け出してきた。ルルーシュはそう言って抱きついてくる。
「僕も、ルルに会えなくて寂しかったよ……」
 その体をスザクもしっかりと抱きしめ返す。
「……まぁ、こうなって貰った方がよかったのかねぇ」
 これでは誰も文句は言えないだろう。ロイドがそう呟いている。
「ですねぇ」
 ともかく、カレンを止めておきましょうか。そう言って二人は出て行く。
 それを感じながらも、スザクは久々のルルーシュの感触を満喫していた。

 結局、二人を離しておくよりも側に置いておく方がそれぞれの仕事の効率が上がる。それがわかった時点で、カレンは渋々ながら妥協をしたのだった。





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