はぁ、とロイドはため息をつく。 「いい加減、実戦データーがとりたいなぁ」 ここしばらく、平和なのは嬉しい。 でも、と彼は呟く。 「ランスロットも、すっかり、お蔵入りで……つまらないよねぇ?」 出番がなくて、と彼は自分が開発をした機体に向かって声をかけている。 「そうおっしゃるなら、量産機の方をもう少し面倒を見られたらいかがですか?」 そんな彼の背後からセシルの声が飛んできた。それを耳にした瞬間、条件反射のようにロイドは自分の頭を両腕でガードする。 「だって、量産機は面白くないんだものぉ」 そのまま、彼はこう告げた。 「ですが、このままですと費用減額ですよ?」 いくらルルーシュやシュナイゼルでも、ランスロットの整備しかしていない特派にどれだけの予算を割いてくれるものか。この言葉とともに、セシルが握りしめていたペンが折れる。 「それを言うなら、ラクシャータだってぇ!」 紅蓮弐式の整備がメインじゃないかぁ、とロイドは言い返す。 「あの方は、他にも汎用の機体を何種類も開発されています!」 藤堂達が使っているだろう、とセシルはとうとう我慢できなくなったのか、手にしていたファイルを振り上げる。 「それも確認しないで、勝手なことを言わないでください!」 この雄叫びと共にファイルが振り下ろされた。 「セシル君、痛い! 痛いってばぁ!」 「黙りなさい。今日という今日は、しっかりと矯正して上げます!」 この叫びが聞こえた瞬間、特派のラボ内からは人気が一斉に退いていく。 数分後、臨終をしたファイルが、ラボの床に放置されていたことは、あえて言わなくてもいいのだろうか。 「……その顔はどうしたんだ?」 呼び出しに応じて姿を見せたロイドを見た瞬間、ルルーシュはこう問いかけてしまう。 「まぁ、ちょっと……」 あまり聞かれたくないことなのか。ロイドはごまかすように笑った。 「……セシルさんを怒らせました?」 しかし、スザクには思い当たることがあったのか。ストレートにこう問いかけている。その時のロイドの表情から判断をして、それが正解なのだろうとルルーシュは理解をした。 「要するに、そいつは暇なんだな」 いつものように執務室のソファーを私物化していたC.C.がこう言って口を挟んでくる。 「それで失言をして、おしおきされたんだよな?」 くすくすと笑いながらさらに言葉を重ねる彼女に、ロイドは頬を引きつらせた。ということは、それが正解だったのだろう。 「……今度は、何をやったんだ?」 だが、考えてみればセシルにおしおきされるのはロイドの方に原因があることが多いのだが、と思いつつ問いかける。 「……最近、ランスロットの出撃回数が激減したな、と……それだけですよぉ」 出撃させないと、可哀想かな……ちょっと付け加えちゃっただけです、とロイドは告げた。 「何だ、その程度か」 もっとまずいことを口走ったのか、と思って心配していれば……とルルーシュはあきれる。 「いや、十分だと思うよ」 ランスロットが出撃をするときは、ルルーシュだけではなくエリア11に危険が迫っていると言うことだから。厳しい口調でスザクがこういった。 「それを望んでいると思われても、おかしくはないよ」 自分たちはロイドのことを知っているから、そうは考えないけれども、功を焦っている連中ならどうだろうか。 そう言われればそうかもしれない。 「俺やシュナイゼル兄上ならば笑って聞き流すだろうが……他の皇族方の耳に入れば、どうなるか……それはわからないからな」 いや、シャルルやマリアンヌも笑ってすませるだろうが……とルルーシュは心の中で付け加える。 「……別に、アスプルンド伯爵家がどうなろうと、僕は構わないんですけどねぇ」 でも、ルルーシュ達の側にいられなくなるのはいやだし、開発が出来なくなるものいやだ。ロイドはそう言ってため息をつく。 「……なら、諦めて、ランスロットの量産機をさっさと作ってしまえ」 そうしたら、あれこれ頼みたいこともあるし……と今度はルルーシュがため息をついてみせた。 「ルルーシュ様ぁ?」 どうかしたのか、とロイドが不審げに問いかけてくる。 「……やっぱり、ロイドさんじゃなくラクシャータさんに頼んだ方がいいんじゃない?」 あれ、とスザクがそっと囁いてきた。 「だが、ラクシャータには既に俺の専用機の開発を頼んであるぞ」 流石に、二ついっぺんは無理なのではないか。そう言いながらルルーシュは彼を見上げる。 「ちょっと! ルルーシュ様ぁ!!」 今、聞いてはいけないセリフを聞いたような気がするんだけどぉ……とロイドがデスクに手を突いた。そのまま、身を乗り上げるようにして顔を近づけてくる。 「何? ラクシャータに何を頼んだってぇ?」 僕の聞き間違い? そうだよねぇ! と彼はさらに言葉を口にした。 「残念だが、本当だ」 うるさい。心の中でそう呟きながら、ルルーシュはこう言い返す。 「彼女は、防御主体の機体を作ってくれると言っていたしな。操縦方法も俺向きのシステムを組んでみせる。そう言っていたから任せた」 防御システムはつまらないのだろう? とさらに言葉を重ねる。 「確かに、そうですけどぉ……」 その言葉を自分が口にした記憶があるのだろう。ロイドは一瞬、悔しそうに唇を噛む。 「でも、ルルーシュ様のためでしたら、いくらでも作りましたのに」 どぉしてぇ……とさらに叫ぶ。 「……前に呼び出したとき、さぼったのはお前の方だろう?」 自業自得だ、とルルーシュはその言葉をあっさりと切り捨てる。 「それに、お前の持ち味は攻撃方面だろう?」 だから、とルルーシュは微笑む。 「ナナリーの専用機を作ってくれ。あの子は俺よりも母上の才能を色濃く受け継いでいるからな」 悔しいが、とこっそりと付け加える。 もし、自分にもっと母の才能が受け継がれていたら、ラクシャータにあのような機体の開発を頼まなくてもすんだのに。 そんなことも考えてしまう。 「ルル」 そんな彼の考えを読み取ったのだろうか。スザクがそっと声をかけてくる。 「ルルはそのままでいいんだよ。ルルを守るために僕たちがいるんだから」 それに、人にはそれぞれ得意分野があるのだから、我慢して……と彼は続けた。 「そぉですよぉ! あの腹黒殿下なんて、ご自分じゃ歩かせるのが精一杯ですからねぇ」 それでも、戦略を練らせれば現在の所ブリタニアで一二を争うほどだ。だから、実際に戦場に出る出ないは個人の資質に左右されるものだろう。 ロイドもそういうのであればそうなのだろうか。 こう考えながら、ルルーシュはそっとスザクの方に身を寄せた。 「ともかく、だ。お前達はナナリーの機体を開発してくれ。後でこちらに顔を出すそうだからな」 ただし、必ず脱出装置はつけろよ? と念を押しておく。 「はぁい」 わっかりましたぁ、と彼は引き下がる。 「……熱いな」 その時だ。まるでこちらの話を待っていたかのようなタイミングでC.C.がこう呟く。 「確かに、暑いですねぇ」 即座にロイドが同意をしている。 「暑いか?」 自分はそう思わないのだが、とけ加えながら、ルルーシュはスザクへと視線を向けた。 「あの二人の気のせいだよ」 二人とも年なんでしょう、とさりげなく口にしたセリフはイヤミなのだろうか。でも、とルルーシュは思う。 「確かに、ロイドも三十代だもんな」 でも、ボケ始めるにはまだ早いと思うが……と首をかしげる。 「ロイドさんが変なのは昔からだよ」 そうでしょう? とスザクは微笑みながら聞き返してきた。確かにそれはそうだな、とルルーシュも同意をする。 「だから、気にしないの」 C.C.に関しては何も言わないのは、彼女が一応女性だからではないだろうか。 「……わかった」 スザクがそこまできっぱりというのならば、自分はそれ以上考えなくていいのだろう。ルルーシュはそう判断をする。 「そう言うことで、いつでも呼び出しに応じられるようにしておいてくれ」 来なかったら、ただではすまないから。ルルーシュは微笑みと共にこう続けた。 「大丈夫だよ、ルル」 セシルに伝えておくから、とスザクは微笑む。その瞬間、ロイドの表情が強ばったのをルルーシュは見逃さなかった。 やはり、ラボはほっと出来る。そう考えながら、ロイドは適当にパイプ椅子を並べるとその上に横になった。 「ルルーシュ様とお話しするのは楽しいんだけどねぇ」 今も昔も、それは変わらない。 変わったとすれば、それは間違いなく彼とスザクの関係だろう。 「……からかうのも命がけになってきたかなぁ」 本当、人の気持ちはよくわからないよなぁ……とロイドは付け加える。 「でも……ルルーシュ様が幸せそうだからいいんだけどねぇ」 それでも、どこか面白くないんだけどなぁ。そう呟いたときだ。 「ロイドさん!」 その時である。頭上からセシルの声が響いてきた。 「うわぁぁぁっ! ごめんなさい!!」 何も言われる前にこう言ってしまったのは、間違いなく条件反射だったのではないだろうか。 「……今度は、何をやったんですか?」 はっきり言って、それは墓穴だった。 「ちゃんと聞かせてくださいね」 言葉とともに襟首を掴まれる。今回ばかりは自分のミスだから、大人しく引きずられていくしかないロイドだった。 終 BACK 08.08.11up |