いきなり弟が出来てしまった。
 そういうしかないこの状況に、ルルーシュはどうすべきか、わからない。
「……ともかく、このV.V.っていうのは、誰かな?」
 スザクがこう問いかけてくる。
「……C.C.さんの同類、とお聞きしましたけど……」
 それに言葉を返したのはナナリーだ。
「誰から、だ?」
 反射的に、ルルーシュは妹に問いかける。
「C.C.さんが教えてくださいましたけど? 折り紙のお礼だと言って」
 もっとも、彼女も新しい《きょうだい》のことは知らなかったようだが……と彼女は続けた。
「……父上と母上。どちらに聞けばいいかな」
 事情を、とルルーシュはため息をつく。
「……とりあえず、マリアンヌ様、じゃないかな?」
 シャルルの方が確実かもしれない。だが、それはそれで厄介な状況を生み出す結果になるのではないか。スザクの説明はもっともなものだ。
「確かに、そうかもしれない」
 シャルルよりはマリアンヌの方が話しやすい。
 そして、彼女の方が冷静に物事を受け止めてくれるはず。
「だが、その前に、その弟とやらにあって話を聞いてみるか」
 どうしてここに来たのか。その理由を知りたい、とルルーシュは思う。
「そうだね。それがいいかも」
 スザクが即座に頷いてくれる。その事実に内心胸をなで下ろしていた。
 もし、彼が反対をしたら、自分はきっと諦めていただろう。会うのが嫌なわけではないが、いきなり《弟》と言われても受け入れられるかどうかがわからないのだ。
「父上の場合……実例がありすぎるからな」
 自分たちの上に、いったい何人、兄姉がいるのか。一応、一通り顔を合わせてはいるが、認知されていないものもまだまだいると言う話を小耳に挟んだことがある。
 と言うことは、認知されていない弟や妹がいたとしてもおかしくはない。
「それでも、その方に罪はないと思います」
 だから、会ってみたい……とナナリーに付け加えられては、反対なんか出来るはずがないだろう。
「そういえば……彼は、今、どこに?」
 自分は指示をしていなかった、と思いだして、ルルーシュは顔をしかめながら問いかけの言葉を口にした。
「大丈夫。カレンとアリスが一緒にいるから」
 スザクがすぐにこう言ってくれる。
「むしろ、その方が心配だと思うのは、間違っているか?」
 アリスはともかくカレンは……とルルーシュは思わず言い返してしまった。
「大丈夫だよ。カレンも可愛いものが大好きだから」
 いったい、それはどういう意味なのか。ルルーシュはそう考えてスザクを見つめる。
「ナナリーさまと同い年だそうですから」
 つまり、カレンとは一回り近く違うと言うことだ。そのような年少者に彼女が冷たくするはずがない、と言われてとりあえず納得をしておく。
「わかった」
 なら、大丈夫だろう。そういいながら、ルルーシュは立ち上がる。
「ナナリー?」
 そのまま、妹に手を差し伸べた。心得ているのか、彼女はためらうことなくその手を取る。
「スザク」
「とりあえず、最初だけは僕も同席するから。マリアンヌ様に連絡を取るのは、その後でもいいよね?」
 視線を向ければ、彼はこう問いかけてくる。
「あぁ。構わない」
 スザクがそう判断をしたのであれば、自分は何も言わない。
 どのような状況にあろうとも、彼が自分のためにならないことをするはずがないと言う信頼感がルルーシュの根底にはある。
 それはきっと、幼い日からの積み重ねの結果だろう。恋人と言える関係になったから、なおさらなのかもしれないが。
「では、行くか」
 こう言いながら、ルルーシュは《弟》の顔を見るための第一歩を踏み出した。

 目の前に座っている少年の顔を見て、ナナリーはもちろん、ルルーシュも何も言えなくなってしまう。
 確かに、似ている。
 自分にではなく、ナナリーにと思いながらルルーシュは隣にいる妹へと視線を向けた。
 次の瞬間、彼女のキラキラと輝いている瞳が見える。しかも、彼女はロロから視線を話そうとはしない。
「……お兄さま」
 そのまま、ナナリーは口を開いた。
「私、双子だったのでしょうか」
 覚えていないのですが……と言われて、ルルーシュは記憶の中を探る。
「俺があったのは、ナナリーだけだ」
 他の者達も、妹は生まれたと言っていたが、弟のことが口にしていない。
「そうだったよな、スザク」
 自分よりも確実にあれこれ覚えているであろう相手に向かって、ルルーシュは問いかけの言葉を投げかけた。
「そう聞いているよ」
 と言うことは、間違いなくただの偶然なのだろう。
「でも、本当によく似ていますよね?」
 この言葉には、ルルーシュも頷いてみせる。
「ロロ、だったか」
 とりあえず、本人がどう思っているのかを聞いてみよう。そう思って声をかけた。
「はい、ルルーシュ、様」
 緊張しているのか、固い声で彼は言葉を返してくる。その声音もナナリーによく似ているような気がするのは錯覚だろうか。
「君は、何か聞いているか?」
 そんなことを考えながら問いかけたせいなのかもしれない。自分の声音に優しい響きが含まれたのは。
「……僕は……」
 それに彼は小首をかしげながら口を開く。その様子もまた、ナナリーを喜ばせたようだ。
「とりあえず、殿下方の元へ行くように……と言う指示を受けただけです。弟とかそういうことは言われていません」
 ただ、と彼は続ける。
「もし、皆様にお認めいただけるのでしたら、騎士として皆様をお守りさせて頂きたいと思っています」
 そう、自分をここに送ってくれた相手にも告げたのだが……と言うセリフでロロは言葉を締めくくった。
「そのことに関してなんですけど」
 不意にカレンが口を開く。
「殿下方がおいでになるまで話をしていたのですが……彼のナイトメアフレームに関する知識はかなりのものです」
 もっとも、知識と実践は違うが……と彼女は続ける。しかし、それはこれからいくらでも積むことが出来るだろう、とも続けた。
「私も、カレンさんの意見に賛成です」
 アリスもこう言って頷いてみせる。
「そうか」
 どうしようか、と言うようにルルーシュはスザクを振り仰いだ。
「二人がそういっているのであれば、構わないんじゃないのかな?」
 基本的なことは、自分たちが順番に付き合って訓練すればいいだろうし……と彼は続ける。
「それに……ルルには僕とカレンがいるけど、ナナリー様には今、アリス一人だしね」
 もっとも、これに関してはどうなるかわからないが……というのは、きっと、相性のことを言いたいのだろう。
 確かに、スザクとカレンの二人は、それぞれが弱点を補っている。
 それは、彼等が努力をして歩み寄ってきたからではないか。
 だが、アリスとロロはどうなのだろう。ロロという人物を自分は知らない。だから、判断できかねる、とルルーシュは心の中で呟く。
 しかし、それはこれから見定めていけばいいのではないか。
 何よりも、ナナリーが期待に満ちた視線を向けてきている。彼女の希望を却下するのは不本意だ。
「わかった。ロロの滞在を認める」
 ここでの生活のルールは、とりあえずカレンに聞いておけ……とルルーシュは付け加えた。
「私?」
「スザクにはこれから、母上に連絡を取ってもらわないといけないからな」
 それともカレンがしてくれるか? と付け加えれば、彼女は首を静かに横に振ってみせる。
「それについては、私よりもスザクの方が得意だわ」
 確かに、とカレンはすぐに口にした。
「わかりました。では、私が責任を持って彼にここでのルールを教えます。その前に、確認させてよろしいですか?」
「何だ?」
「どこまで立ち入りを認められますか?」
 それによって伝えるルールが変わってくる、という言葉にルルーシュは少し首をかしげる。
「そうだな」
 自分の弟になるわけではない。だが、ナナリーの様子を見ればあちらこちらに付き合わせることは目に見えていた。だからといって、入られては困る場所もある。
「ナナリー達と同じ程度でいい。あぁ、ロイドにも紹介しておいてくれ」
 ナイトメアフレームに関しては、彼の手を借りることも多いだろうから……と告げれば、カレンは頷いて見せた。
「わかりました」
 これで、ロロのことは心配いらないだろう。
「そういうことだからな、ロロ。よろしく頼む」
「よろしくお願いしますね、ロロさん」
 ルルーシュの後に続いてナナリーもこういった。
「……はい」
 それに、ロロは一瞬目を丸くする。
「僕の方こそ、よろしくお願いします」
 しかし、あまり表情が動かないのはどうしてなのだろうか。マリアンヌに相談をすればわかるのかな、とルルーシュは思う。
「と言うこと、部屋を整えさせないとな。とりあえず、ナナリーの隣でいいか」
 面倒を見てくれるな? と口にしながら彼女に視線を向ければ、
「任せておいてください、お兄さま」
 と即座に言葉を返してきた。
 そういえば、下に兄弟が欲しい、と言っていたような気がする。と言うことは、ロロの方が弟になるのだろうか。
「頼んだよ、ナナリー」
 ともかく、母に連絡を取って……それから考えよう、とルルーシュは心の中で呟いていた。

 その後、ブリタニア本国で一騒動会ったようだが、それはルルーシュのあずかり知らぬ事であった。
「お兄さま! ロロさんって凄いんですよ」
 彼にとって重要だったのは、妹の嬉しそうなこの報告と、その隣で淡い笑みを浮かべるようになった少年。そして、自分が統治をするこのエリアの平穏だけだったのだ。
「そうか」
 でも、何が凄いんだ? と問いかければ、ナナリーが即座に言葉を返してくる。
 そんな彼の様子をスザク達が微笑ましそうに見つめていた。




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