その報告がスザクの元に届けられたとき、ルルーシュがその場にいなかったのは幸いだったかもしれない。
「……スザク……」
 一緒に報告を耳にしたカレンが、思い切り顔をしかめながら、声をかけてくる。
「予想よりも遅かったかな?」
 それに対しスザクはこう言い返した。
「スザク?」
「……星刻殿からの情報とディートハルトのそれを総合したら、もっと早く動くかな……と判断していたんだけどね」
 報告が来たのが今日、と言うことは、あちらも慎重になっていたのだろうか。だとするなら、少々厄介かもしれない……と心の中で呟く。
「それはいいんだけど……問題は、僕たちが動くと、こちらが手薄になるかなって事なんだよね」
 もちろん、アリスもロロもいる。だが、それだけでは不安なのだ……とスザクは付け加えた。
「君がアテにならないというわけじゃないんだけどね」
 そういいながら向けた視線の先には、ピザを頬ばっているC.C.の姿がある。
「……私は、あくまでも傍観者だからな」
 だが、と彼女は目を細めた。
「助言ぐらいはしてやろう」
 ルルーシュを危険にさらすのは本意ではない。彼女はそうも付け加える。
「助言?」
「人手が足りないのであれば、借りればよかろう。シャルルの所に、お前の知己がいるではないか」
 あれに声をかければいい。それだけを言うと、彼女はもう興味を失ったというようにまたピザをぱくつき出す。
「……そんなこと言ってもね……」
 確かに、彼等に声をかければ手を貸してくれるかもしれない。だが、彼等には彼等の立場があるのではないか。
「誰のこと?」
 カレンが興味津々という表情で問いかけてくる。
「……ジノ・ヴァインベルグとアーニャ・アールストレイム……と言ってわかる?」
「わからないわけないでしょ!」
 ルルーシュの騎士になってから、すぐに覚えたわよ! と彼女はすぐに続けた。
「誰が、ナイト・オブ・ラウンズの名前を忘れるものですか!」
 まして、その二人は自分たちと同年代のはず。しかも、十代でラウンズに選ばれた人間でしょう、とさらに言葉を重ねた。
「そうだね。ジノは……十五、かな? アーニャも同じくらいだったはず」
 しかも、二人とも自分たちよりも年下だ……とスザクは訂正しておく。
「詳しいわね」
「……本国にいたからね。その時に知り合っただけだよ」
 でも、と考え込んだときだ。
「ジノとアーニャがどうかしたのか?」
 ドアが開いたかと思った次の瞬間、こう言いながらルルーシュが問いかけてくる。
「ルル?」
「外までカレンの雄叫びが聞こえたぞ」
 苦笑と共に告げた彼の側には珍しいことに藤堂の姿があった。だから、一人でふらふらと出歩いていたのかもしれない。
「久々に会いたいな、って思っただけだよ」
 微笑みながら、スザクはこう言い返す。
「二人にか?」
 ルルーシュのこの問いかけに、スザクは頷いてみせた。
「そうだな……俺も、久々にあの二人には会いたいが……」
 いくらなんでも呼び寄せることは難しいだろう。いくら、シャルルが自分に甘いとしても、だ。
「まぁ、声だけはかけておくか」
 二人いっぺんは無理でも、どちらか一人ならば顔を出してもらえるかもしれない。
「そうだね」
 二人のうちどちらか一人でも来てくれれば助かる。心の中でそう付け加えながら、スザクは頷いた。
「問題は……」
 ふっと、何かを考え込むかのようにルルーシュが首をかしげる。
「母上も『一緒に行く』と言い出されかねない、と言うことだな」
 最近、ナナリーも彼女の手を離れているから暇をもてあましているらしい、と聞いているから……とルルーシュはそのまま言葉を重ねた。
「それは……それで構わないんじゃないかな?」
 スザクはこう言って笑い返す。
「いらしたら、藤堂さん達にお世話をお願いすればいいんだし」
 本人達はいやがるだろうが、彼等以上に適任者はいないのではないか。スザクはさらに言葉を重ねた。
「そうだな……ただ、あまりアルコールを口にされるのは……」
「その位は妥協しないと。マリアンヌ様がお気に入りだと言うことで、日本酒の醸造は早々に解禁になったし、各地の蔵元もさらに研鑽しているらしいよ」
「そうそう。だから、いっそのこと、自慢のお酒を持ってきて貰えばいいじゃない」
 マリアンヌに味見をして貰えると言うことだけでも名誉なことだ、と思うだろうして……とカレンも頷いてみせる。
「母上なら無条件で飛びつきそうだな」
 その企画は、とルルーシュは呟く。
「ついでに、ダールトンも押しかけてきそうだが……それはそれで構わないか」
 きっと、ストッパーになってくれるだろう。そう彼は結論づけたようだ。
「母上の護衛と言うことなら、ジノもアーニャも来やすいだろしな」
 それがいいか、と呟いている。これならば、すぐにメールなり連絡を入れるだろう。
「……それよりも、ロイドさん達からの連絡は何だったの?」
 ナナリーの機体が出来たのか? とスザクは問いかける。
「とりあえず、テスト用の機体が出来たらしい。ついでに、俺の方もシステムだけは出来たようだ」
 とりあえず、サザーランドに組み込んでテストを……と言うことになっているらしい。だから、近いうちに時間を作って特派に行かなければいけないな……と彼は付け加えた。
「そうなんだ」
 あのとんでもないシステムが実現するとは思わなかったけど、と心の中で呟きながらスザクは頷いてみせる。
「……ガウェインでは不満だったのか?」
 新しいピザの箱を開けながらC.C.が問いかけてきた。
「……自分では動かせないからな……」
 それはそれでいいのだろうが、だが、どのパイロットも自分の望むような動きをしてくれないから……とルルーシュは言い返す。
「なるほど……だが、お前は鈍くさいのだから、あまり無理はするな」
 それは禁句だろうというセリフを彼女は平然と口にしてくれた。
「……C.C.……」
 ルルーシュが低い声で相手の名を呼ぶ。
「本当のことだろう? まぁ、その代わり、お前はその優秀すぎる頭脳と頼りになる騎士を授かったんだから、構わないではないか」
 身体能力ぐらいナナリーに譲ってやってもかなわないではないか。そういってC.C.は笑う。
「それとも……私に操縦して欲しかったのか?」
 毎日、ピザ十枚。そして、一回の出撃ごとに五枚追加で引き受けてやると言ったのに……というのは譲歩案なのだろうか。
「コクピットがピザ臭くなるからごめんだ、と言っただろうが」
 第一、今でもその位食べているだろうが……と彼はため息をつく。
「ともかく、だ」
 さっさと話題を変えたい、と言うようにルルーシュは口を開いた。
「そういうことだから、明日、二人のうちにどちらかに付き合って欲しいんだが」
 時間があるか? とスザク達に視線を向けてくる。
「明日?」
 こう呟きながら、スザクはカレンへと視線を向けた。
「あたしが行きます」
 ラクシャータに相談をしたいこともあるから、とカレンがすぐに口を開く。しかし、それが自分に時間的な余裕を与える口実であることは否定できないだろう、とスザクは判断をする。
 その間に、根回しをすませてしまえ。そういいたいのだ、彼女は。
「それなら、僕はこちらに残るよ。状況次第では、本国から連絡が来るかもしれないし」
 カレンが一緒に行ってくれるなら、自分は安心だし……とスザクは微笑む。
「そうか。そういうことなら、カレンに頼もう」
 ナナリーのことを考えれば、その方がいいかもしれない。ルルーシュはあっさりと頷いてみせる。
「カレンなら、シャワーブースでもどうこうできるだろう?」
 そんなに心配しなくていいのかもしれないが。ルルーシュはそう続ける。
「そういうところは、シャルルにそっくりだな」
 過保護なところは、とC.C.が即座に口を挟んできた。その瞬間、ルルーシュが思いきり嫌そうな表情を作った。
 どうやら、あのシャルルに『似ている』と言われることは不本意らしい。
「……明日から、ピザの量を半分にしても構わないようだな」
 しかし、その方法は間違っていると思うよ……とスザクは苦笑を浮かべる。
「ほぉ?」
 予想通りと言うべきか。C.C.が気に入らないというように目を細めた。
「たかだか十数年しか生きていない童貞ぼうやが、この私に向かってそういうことを言うと?」
 もっとも、処女ではないようだがな……と言う言葉に、カレンが思い切り咳き込んでいる。
「……どういうことだ?」
 しかし、ルルーシュには意味がわからないのか。首をかしげて聞き返している。この反応はC.C.も予想外だったのか。
「……お前、本当にわかっていないのか?」
 どう反応していいのかわからないというような表情でこう呟いている。
「俺は男だからな。童貞なのは否定しないが、処女にはなれないと思うぞ」
 真顔でこういうルルーシュに、自分は教育を間違えたのではないかとスザクは頭を抱えたくなった。
「……私が悪かった……」
 この場合、責めるべきはお前じゃないな……とC.C.はC.C.で遠くを見つめながら呟いている。
「だから、何なんだ?」
 本当に意味がわからない、とルルーシュは首をかしげていた。
 そんな彼に誰が真実を教えるべきか。
「……やっぱり、僕なのかな……」
 ため息とともにスザクはこう呟いていた。




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08.11.17up