久々にあったジノは、かなり落ち着いたように見える。
「ルルーシュ殿下! それにスザク!!」
 だが、それは見た目だけだったようだ。
「どうして、俺を仲間はずれにしたんですか!」
 二人の姿を見つけた瞬間、彼はものすごいスピードで駆け寄ってくる。同時に、こう叫んだ。
「……お前はラウンズだろうが……」
 そんな彼に向かって、ルルーシュはあきれたようにこう言い返す。
「第一、もう八年も前の話だろうが、それは」
「それでもです!」
 せめて、自分にだけは計画を教えて欲しかった……といいながら、彼はルルーシュの前に膝を着く。
「お前は父上の騎士だろうが」
 ジノに話をしたらシャルルに筒抜けぬなる可能性があっただろう、と心の中で付け加える。ラウンズに任命された瞬間から、その人物は彼に忠実にあらねばならない。内密に、と言われた話でも、命じられたら伝えなければ行けないのだ。
「俺は、さっさとあそこから逃げ出したかったんだ!」
 正確には、自分の置かれた状況に、である。
「俺は、生まれたときから、男だ!」
 ドレスなんて着たくなかったんだ!! とルルーシュは叫ぶ。
「はいはい。それはよくわかっているから」
 そんな彼をなだめるかのように、スザクがそっと肩に手を置いてくる。
「それに、今回は彼も仕事できたんだから。ね?」
 とりあえず落ち着いて……と彼は続けた。
「……仕事の話が終わったら、しっかりと私に付き合って貰うぞ、スザク」
 しかし、ジノはジノで彼に含むものがあるのか。こんなセリフを口にしてくれた。
「わかっているよ。こっちも、君と相談しないといけないことがあるから」
 にっこりと微笑みながらスザクは言い返す。
「スザク?」
 それに、ルルーシュは少しだけ不満を滲ませる。彼等の相談は、自分には内密の話なのではないか。ジノではないが、仲間はずれにされるのは面白くない。
 しかし、スザクにはそれだけでルルーシュの気持ちがわかったようだ。
「だって、ルルに教えたらマリアンヌ様にばれちゃうでしょ?」
 だから、今回だけは我慢して。そう言い返されてしまう。
「……わかった……」
 確かに、マリアンヌを驚かせようと言うのであれば、自分は知らない方がいい。あの母相手に、しらを切り通すことは出来ないとわかっているのだ。
「納得してくれて嬉しいよ、ルル」
 その上、スザクにこう言われて納得しないわけにはいかない。
「……ともかく、政庁に戻るぞ。ナナリーも待っている」
 ジノと会うのを楽しみにしていた。そう口にすると同時に、ルルーシュはきびすを返す。
「お前の恨み言は、執務が終わってから聞く」
 それで構わないだろう? と視線だけジノに戻して問いかける。それに、彼は小さく頷いて見せた。

 ルルーシュが眠ったのを確認して、リビングへと足を向ける。そうすれば、予想通りジノとカレンの姿がそこにあった。
「とりあえず、幸せそうで何よりだ」
 独り身には当てられる光景だが……と彼は苦笑を浮かべる。
「失礼ですけど、ヴァインベルグ卿はまだましです」
 自分はあの二人のラブラブぶりを目の当たりにしなければいけないのだ。そうカレンは口にする。
「もっとも、それはもう日常ですけど」
 二人のラブラブぶりがないとむしろ心配になってしまう。そう付け加えられても、苦笑しか返せない。
「あぁ、そうかもしれないね」
 何かを思い出したのか。あっさりジノは頷いてみせる。それはそれで、嬉しくないような気がするのは錯覚だろうか。
「昔から、ルルーシュ殿下とスザクの間には割り込めなかったんだよな」
 もっとも、割り込む気持ちはなかったけど……とジノは苦笑を浮かべる。
「そうなの?」
 ほんの僅かな間にしっかりとうち解けたらしい。明るい口調でカレンがジノに問いかけている。
「そうだよ。本当に仲がよかった」
 小さなルルーシュがスザクの後をちょこちょこついて回る姿も、スザクの前を偉そうに歩いている姿も、見ていて微笑ましかった。そう彼は続ける。
「あの方の騎士はスザクだけだ……と思っていたからね。私は、そんなスザクをフォローできる立場になろうと考えていたのだよ」
 おかげで、ナイト・オブ・ラウンズに選ばれたが……とジノは人の良さそうな笑みを浮かべた。
「マリアンヌさまのおかげ、だよね、本当に」
 それがなければ、こうして《騎士》としてルルーシュの側にいられたかどうかわからない。
「否定できないな」
 アーニャと三人セットで、思い切りしごかれたおかげだ……とジノも頷いてみせる。
「と言う昔話はそろそろ脇に置いておいて、だ」
 しかし、次の瞬間、彼は表情を一変させた。
「わざわざ、私を指名してきたのにはそれなりの理由があるのだろう?」
 ルルーシュがいない今なら、話が出来るのではないか。そう彼は問いかけてくる。
「まぁ、あてにしていなかったと言えば嘘になるけどね」
 スザクは苦笑と共に言い返す。
「でも、マリアンヌ様のことも口実じゃないよ?」
 ちゃんと、品評会は開く予定だし、それにマリアンヌに審査員としてきて貰うつもりなのも……と微笑みと共に付け加えた。
「ルルーシュ様が頑張って準備しているものね」
 ついでに、玉城もこき使われているようだけど……とカレンも笑いながら同意をしてくれる。
「その前に、ちょっと片づけたいことがあるだけ」
 ルルには内緒で、とスザクは笑みを深めた。
「手伝ってくれるなら、嬉しいけど?」
「もちろん、手伝わせてもらうに決まっているだろう?」
 そんな楽しそうなこと、黙ってみているだけなんてできるか! と彼は言い返してきた。
「……でも、実行部隊は僕たち、だけど?」
 ジノの役目ははあくまでも自分たちのバックアップだ……とスザクは言外に告げる。
「それでもいい。だから、まず、何が起こっているのか、きちんと説明してくれ」
 それを知らなければ、自分としては何をしていいのか判断できない。そう言い返してくる彼は、間違いなく指揮官としても有能だと思える。
 もちろん、そういう言う相手だからこそ、自分は共犯者に選んだのだ。スザクは心の中でそう呟きながら笑みを向ける。
「とりあえず、これを見てくれる?」
 ルルーシュには絶対見せられない写真を彼の前に差し出す。
「スザク!」
 その瞬間、彼の目がつり上がった。

 朝から、ジノが妙に浮かれている。それは一体どうしてなのか。ルルーシュがそう考えていたときだ。
「ルルーシュ様」
 本人がこう声をかけてくる。
「何だ?」
「あのロロという子。ここにいる間だけでいいので、私に預けて頂けますか?」
 今は、スザク達が面倒を見ているようだが、彼等が優先すべきなのはルルーシュだ。しかし、自分はそうではない。
 だから少し、鍛えさせてくれ……とジノはさらに笑みを深める。
「休暇半分、とはいえ、何もしていないと体がなまりますから」
 さらにこう付け加えられるが、納得していいものか。ルルーシュは少し悩む。
「それに、若手を育てるのも、ラウンズの役目なんですよ?」
 基本は出来ているようだから、ちょっとしごいてもいいかな……と彼は付け加えた。
「そうなのか?」
「そうです。と言っても、性格的に向いていない人間も多いですけど」
 ジノが誰のことを指しているのか。想像が出来てしまうくらいあの男の悪名は広まっている。しかし、とルルーシュは首をかしげた。
「ヴァルトシュタイン卿やマリアンヌさまが何をされていたのか、ルルーシュ様もご存じでしょう?」
 だが、この一言でルルーシュの疑問はあっさりと解決する。
 ビスマルクは現職のナイト・オブ・ワンだから直接指導する機会は少なかった。だが、さりげなく助言を与えていたのをルルーシュは覚えている。
 そして、母はと言えば、スザクやジノ達はもちろん、コーネリア達もその手で鍛え上げたではないか。しかも、スザクとコーネリア以外の者達はみな、ラウンズ入りを果たしていると言う、ある意味、信じられない成果まで残している。
「そういうわけですので、少しはそのまねごとをさせてください」
 あの二人のようにきちんと面倒を見られるかどうかはわからない。それでも、と言葉を重ねられては、彼の言葉が本心からのものだと認めないわけにはいかないあろう。
「大けがをするようなことだけはさせないでくれ……ついでに、余裕があったら、ナナリーとアリスにも付き合ってやってくれないか?」
 遠慮なくたたきのめしてやってくれ。そう続ける。
「いいんですか?」
「構わない。敗北を知らなければ、その恐怖を自覚しないままで終わるだろう?」
 ジノ達にマリアンヌの存在があるように、とルルーシュは笑う。
「Yes.Your Highness」
 そういうことでしたら、遠慮なく……とジノは頷く。
「それと……もう一つお願いがあるのですが?」
「何だ?」
「お時間があるときで構いません。ルルーシュ様が提案されたという機体、見せて頂けませんか?」
 何か、ものすごく面白そうなものだ……と聞いたのだが。そういってくる彼の瞳はものすごく輝いている。
 やはり、騎士というのは新しい機体に興味を示すものなのだろうか。
「ランスロットやトリスタンとはまったく目的が違うぞ?」
「わかってます。単なる好奇心です」
 自分で使えなくても確認したい。その気持ちはルルーシュにも理解できる。
「わかった。後でスザクと相談しておく」
 ジノが護衛の代わりをしてくれるのなら、早々に時間を作れるのではないか。ルルーシュはそう言って笑った。
「楽しみにしております」
 ジノもまた、楽しげに笑う。
「では、お許しをいただいたので、オコサマの面倒を見てきますね」
 その成果はお茶の時間にでもご報告させて頂きます。そう続けた。
「楽しみにしている」
 そんな彼に、ルルーシュは微笑みを向ける。そして、今度こそ山積みになっているであろう書類を片づけるために歩き始めた。

 遠ざかっていく小さな背中をジノは満足そうに見つめている。
「後はお前次第だぞ、スザク」
 自分の役目は彼からあの言質を引き出すこと。後はルルーシュの騎士であるスザクの役目だ。
「大丈夫、その時にはしっかりと殿下方をお守りしてみせるから」
 だから、バカはきっちりと処分をしろ。その結果、厄介な状況になったとしても自分が出来る限るの弁護をしてやるから。
 もっとも、弁護をしなくてもあれを見せただけで皇帝以下全ての者達は納得するだろうが。
 心の中でそう付け加えると、ジノはロロを探すためにきびすを返した。





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08.12.01up