最終的には、ラウンズを総動員しただけではなくマリアンヌ自ら乗り出すことになった捕縛作戦の結果、ルルーシュとスザクはブリタニア本国へと送還されることになった。 「……ルルーシュ殿下……あの、ですね……」 本人は参加しなかったもののそれを容認したと言うことで完全にルルーシュから無視されることになったカレンとジェレミアが、必死にその機嫌を取り結ぼうと努力している。しかし、あそこまで本気で怒らせては、自分でも機嫌を直させるのに苦労するのだ。他のものでは言うまでもないだろう。 第一、そんなことをしてやるつもりもない。 そんなことを考えながらも、スザクは目の前の光景を見つめている。 彼の視線の先で、ルルーシュの頬がさらにふくらんだ。 「お前の顔なんて見たくない! 出て行け!!」 そのまま、叫ぶようにこう告げる。 「ルルーシュ殿下!」 それにジェレミアはこの世の終わりというような表情を作った。 「そうおっしゃらずに……」 しかし、このままでは自分たちにまで被害が及びかねない。自分はともかく、ナナリー達はかわいそうだ。そうかんがえると、スザクはそっと彼の元に歩み寄る。 「クルルギ?」 そんな彼の気配に気付いたのだろう。ジェレミアが振り向いた。 「今日の所はこの辺で。これ以上粘られても、逆効果です」 ルルーシュの機嫌がさらに悪化するだけだ……とスザクはジェレミアの耳元で囁く。 「それよりも、明日までにルルが気分転換できそうな何かを探してきてはいただけませんか?」 自分ではチェスの相手は務まらないし、シュナイゼルではルルーシュが癇癪を起こす。それならば、他に気晴らしの道具を探して貰った方がいい。そう付け加えたのは、彼が出て行きやすくするためだ。 「……わかった……」 どうやら、うまくそれに引っかかってくれたらしい。ジェレミアは小さく頷く。 「明日また、参ります……お許しいただけるまで、毎日、通わせていただきます」 そのまま、ルルーシュの方へと視線を戻すと、彼はこう告げた。 「来なくていい」 即座にルルーシュはこう言い返す。 「スザク以外の連中の顔は、今、見たくない!」 絶対来るな、とさらに言葉を重ねる彼に、ジェレミアは凍り付いている。流石に、これではかわいそうだ。 「ルル。そういうことは言わないの」 しかたがないとばかりに、スザクは注意の言葉を口にする。 「ナナリー様達に八つ当たりは出来ないでしょう?」 こう付け加えたのは、ルルーシュにジェレミア来訪を認めさせるための口実のつもりだった。 「クルルギ……」 それはないだろう、とジェレミアが泣きそうな表情になる。 「あぁ、それはそうだな」 しかし、ルルーシュの方はそれで納得したらしい。 「文句を言う相手は必要か」 なら、来てもいいぞ。ただし、胃を壊しても責任は取らないが……と唇の端だけを持ち上げながら彼は口にした。 「ルルーシュ殿下!」 途端に、ジェレミアの表情が明るくなる。 どうやら、彼の耳には最後の方のセリフが届いていないらしい。あるいは聞こえていても即座に消去されたか、だ。 とりあえず、ルルーシュの気分転換になるなら構わないか。そう思ってしまうスザクだった。 それでも、とりあえず注意だけはしておくべきだろうか。 「ルル。八つ当たりはいいけど、あれはやりすぎだよ?」 やるなら、もっと別の方法を使わないと……とスザクは口にする。 「あのロールケーキよりはましだ!」 ルルーシュは即座に吐き捨てるような口調でこう言い返してきた。 「ロールケーキ……」 「バッハとか言いたくなったけど、それじゃ、バッハの方がかわいそうだ」 彼の作った音楽は素晴らしい。后妃と子供と領地を増やすだけしか脳がない家の父親とは雲泥の差だ、と彼は付け加える。 「ルル。仮にも君のお父様で、ブリタニアの皇帝陛下だよ?」 少しは言葉を慎まないと、とスザクは注意の言葉を口にした。 「そんなのは、知るか!」 第一、とルルーシュはスザクを見上げてくる。 「尊敬できる父親は、息子をこんな所に閉じ込めたりしない!」 しかも、周囲にラウンズまで配置して……と彼は付け加えた。 「……そうだけど、ね」 その言葉には苦笑を返すしかない。しかも、ルルーシュだけではなく自分までもがこの離宮に軟禁状態なのだ。 「流石に、戴冠式直前に逃げ出されると困る、と言うところかな?」 だから、その下準備をさせないように、自分たちがセットでここに押し込められていると言うことだ。 「僕としては少し嬉しいけど、ね」 スザクは小さな声でこう呟く。 「スザク?」 いったい、何を言い出すのか。そういうようにルルーシュは首をかしげて見せた。 「だって、ここだよ? 僕がルルと初めてあった場所は」 自分がどうなるのかわからないまま、ただ無為に日々を過ごしていたのは……とスザクは心の中だけで付け加える。 そんな彼の視線の先で、ルルーシュは何かを思い出そうとするかのように周囲を見回していた。 「……あぁ、そうだ」 その視線が、ベランダへと向けられたとき、彼はこう呟く。 「ここは俺の場所だった」 そして、ここでスザクと出会ったんだ……とルルーシュは微笑む。 「調度も、あの時のままか?」 確認するように彼はこう問いかけてきた。 「だと思うけど」 自信はないな、とスザクは付け加える。それでも、見覚えがあるような気がするからそうなのかもしれない。 「……と言うことは、あそこでスザクに絵本を読んでもらったんだ」 そういいながら、ルルーシュは部屋の中央に置かれたソファーへと歩み寄っていく。 「記憶していたよりも小さいな」 呟きと共に、そっとその背に触れている。 「じゃなくて、ルルが大きくなったから……じゃないかな?」 彼の背後に歩み寄りながら、スザクは言葉を口にした。 「そうか?」 「そうだよ」 言葉とともに振り向いた彼の体を、スザクは腕の中に閉じ込める。 「あのころのままだったら、こんなことできないし」 小さな笑いと共に身をかがめるようにして唇を寄せていった。その意図がわかったのだろう。ルルーシュは目を閉じる。 そのまま、スザクは彼の唇に自分のそれを重ねた。 腕の中で、ルルーシュが体の向きを変える。そして、そのままスザクの胸に頬を押しつけてきた。 「……やっぱり、面白くない」 次の瞬間、ルルーシュのこんな呟きが耳に届く。 「ルル?」 ひょっとして、何か気に障るような行為をしてしまったのだろうか。そう思いながら、スザクは腕の中の存在に声をかける。 「スザクとこうしていられるのはいいけど……でも、やっぱり閉じ込められているのは面白くない!」 いったいどうすれば嫌がらせになるのだろうか。 そういいながら、彼は首をかしげた。 「女装、はダメか」 むしろ喜ばせるだけだ、と彼は顔をしかめる。 「そもそも、ここからでられないとそれに関して手配もすることも出来ないよ」 流石に、とスザクは冷静に指摘をした。 「……そうだよな」 なら、どうすればいいのだろうか……と首をかしげる。 「かといって、戴冠式の会場から逃げるのは不可能だろうし」 流石に、それは向こうも警戒しているだろう。ルルーシュはこう言ってため息をつく。 「だろうね。流石に、僕も迂闊には動けないだろうし」 きっと、ジノ達が側にいるはずだ。でなければ、他のラウンズだろうか。そうなれば、無傷でルルーシュの元に駆け寄るのも難しくなる。ケガをしてしまえば、逃げ切ることも難しいだろう。 「だから、考え方を変えたら?」 にこやかな口調でスザクはそう告げる。 「……スザク?」 「別に、仕返しは戴冠式の時でなくてもいいでしょ?」 皇帝になれば、何をしても許されるのではないか。例えば、他の誰かにその座を譲ることだって出来るだろう。 もっとも、それはそれで混乱を招くことになるだろうが……スザクは付け加えた。 「だが、そういうことも可能だ……と言うことだな」 言われてみればそうか、とルルーシュは頷く。 「……そういうことなら、そちらの方向で考えてみよう」 こうなったら、徹底的にやってやる……と彼は笑った。 「そうだね」 その時は手伝うよ、とスザクも笑い返す。 「でも、その前にゆっくりと休まないとね」 疲れていてはいい考えが浮かばないかもしれないよ、とそう続ける。 「そうだな」 確かにそうかもしれない、とルルーシュは口にした。 「大丈夫。僕はずっとここにいるから」 だから、安心しておやすみ。そう付け加えれば彼は小さく頷いてみせる。そして、そのまま目を閉じた。 そんなルルーシュの細い背中をスザクはそっと撫でる。 そうしているうちに彼のまぶたも閉じていく。 やがて、二人分の寝息が静かに広がっていった。 終 BACK 09.04.13up |