1.出会い編

「……婚約、ですか?」
 ルルーシュはどこかあきらめを含んだ声音でこう聞き返す。今だ、喪服を脱げない――もっとも、脱ぐ気もないが――自分にそんな話を持ちかけてくる貴族などいない。
 そう考えれば、答えは一つしかないだろう。
「ルルーシュ……その、だね」
 一番上の兄オデュッセウスが困ったように眉を下げている。
「どこの国に、人質としていけばいいのですか?」
 そんな彼に向かって、ルルーシュはさらに言葉を重ねた。
「ルルーシュ!」
「母さんもいない。後ろ盾も失った。そんな皇子はそれ以外に使い道はないのではありませんか?」
 母もナナリーも既にこの世にいない。
 自分一人だけが取り残されてしまった。
 こうなれば、もう、ブリタニアにも自分の命にも興味がない。そういいきってしまうのは間違いなのか。
 そう考えながら、こう問いかける。
「いいえ。それは違うわ」
 だが、予想外の場所から声が響いてきた。視線を向ければ、そこは一番上の姉ギネヴィアがいた。
 シュナイゼルとコーネリアの組み合わせなら、まだわかる。オデュッセウスだけ、と言うことも、だ。しかし、どうしてこの二人なのだろうか。
「何が違うのですか、姉上」
 ともかく、と思いながら聞き返す。
「あなたでなければ、今回のことを任せられないから、よ」
 人質と言うだけならば、他の誰かでもいいのだ。しかし、今回の婚約はそれだけではない。
「今、あの国と戦争をするわけにも、あの国を中華連邦と手を結ばせるわけにもいかないの」
 そのあたりのさじ加減を間違えない人間、と言えばルルーシュだけだ。
「兄上では年が離れすぎているし、シュナイゼルでは相手に警戒感を与えてしまうだけよ」
 だから、ルルーシュなのだ。そういいながら、ギネヴィアはルルーシュの側まで歩み寄ってくる。そして、綺麗に整えられた指先でルルーシュの頬を撫でる。
「心配しないで。咲世子が付いていく、と言っているわ。他にも、すぐに連絡を取れるように今からシュナイゼルが準備をしているし」
 週に一度はユーフェミア名義で手紙を送るわ……と彼女は微笑んだ。
「だから、あなたは気分転換のつもりで行っていらっしゃい」
 いやになったら、いつでも言えばいい。すぐに迎えに行くから。そうも彼女は付け加える。
「……ですが、どうして……」
 自分何かのためにそこまでしてくれるのはどうしてか。ルルーシュにはそれがわからない。
「君が可愛いからに決まっているだろう?」
 即座にオデュッセウスがこう口にした。
「確かに、私たちはライバルといえる存在かもしれないがね。それでも、弟妹達は可愛いと思っているよ」
「そうよ。それに、あなたはきちんと自分の立場を自覚している。そういう賢い子は大好きだわ」
 だから、甘えてくれてもいいのだ。そういわれても、すぐに頷けない自分がいることに、ルルーシュは気付いていた。

 枢木家のリビングでは、双子が父をにらみつけていた。
「もう一度言ってくださいますか?」
 特に怒りを隠せない、と言う様子でゲンブに問いかけたのは妹の方だ。
「ブリタニアの皇子と婚約をしろ」
 それに対し、ゲンブは一言でこう言い返してくる。
「現状では、ブリタニアと戦争をするわけにはいかん。時間稼ぎのためにはその位の妥協は必要だろう」
 確かにそうかもしれない。だが、と思う。
「どうして僕が!」
 他にも候補者がいるだろうが、とそうも叫んだ。
「そうですね。名目だけの婚約なら、神楽耶でも構わないでしょう?」
 さらに、兄のスザクが妹の言葉に同意をする。
「……神楽耶様は皇のただ一人の後継者でいらっしゃるぞ?」
 その方に、名前だけとはいえ、ブリタニア人を近づけられるか。ゲンブは即座にこう言い切った。
「それに、こちらに来るという皇子は、お前達と同じ年齢だ。そう考えれば、桐原をはじめとする家の者では年齢が離れすぎている」
 その理由で、スザクが神楽耶の婚約者なのだから、と父はさらに付け加える。
「だからといって、僕じゃなくてもいいでしょうが!」
 第一、この年で婚約って何なんだ……と彼女は言い返す。
「父さんは、兄さんはともかく僕なんてどうでもいいって言っていたくせに!」
「スザ子!」
 そんなことはない、とゲンブは驚いたように言い返してくる。
「ほら! 僕の名前だってちゃんと覚えてないじゃない」
 それにこう言い返せば、ゲンブは別の意味で驚いたようだ。
「……だが……」
「それはみんながおもしろがって付けたあだ名です!」
 気が付いたら、それが本名のようになっている。しかし、自分はあくまでも自分で、スザクの従属物ではない! とさらに言葉を重ねた。
「……それでも、既に動き出している以上、止められん」
 スザ子が拒んだ時点で、戦争が起きるかもしれない。その責任を取れるのであれば、断るが。ゲンブは話題をそらすかのようにこう言ってくる。
「父さん! それはないだろう!」
 いくらなんでも、スザ子にそんなことを押しつけるな! とスザクが叫ぶ。
「だが、国同士の約束というのはそういうものだ」
 そして、そういう立場の家に生まれた以上、二人にも責任はある。彼はそう続ける。
「仲良くしろと言っているわけではない。ただ、名目だけでもいいから婚約をしてくれればいい」
 その後のことは、好きにしろ。その言葉に、ある決意がスザ子の中で生まれた。
「あちらから婚約を破棄させてしまっても、いいわけですね」
 その場合、自分たちに日があるわけではない。だから、ブリタニアも何も出来ないだろう。
「そういうことになるな」
 言質を取った、と双子は心の中で呟く。
 なら、相手を追い出してやろう。そうも決意をしたのだった。

 出迎えの行事など、あるはずがない。それはわかっていた。
「しかし、有無を言わさずに車に放り込まれるとは、な」
 それだけ、自分の存在を周囲に知らせたくなかった……と言うことか。そういって、唇の端を少しだけ持ち上げる。
「ルルーシュ様」
 そんな彼に向かって、唯一の随行人である咲世子がそっと声をかけてきた。
「大丈夫だ……自分の立場は、わかっている」
 車を回してもらえただけでも僥倖だろう。もっとも、あちらにしても、今、自分に死なれては困るはずだ。だから、その程度のことは当然なのだろうか。
「本当に、ジェレミア卿が同行されずに幸いでした」
 ため息とともに咲世子は口にする。
「あのお方であれば、出迎えが一人もおられなかった時点で、ルルーシュ様を本国に連れ帰られたでしょうから」
 マリアンヌを崇拝し、ルルーシュを大切にしていてくれた彼ならば、その位やりかねない。
 そのせいで、二国間の関係が悪化したとしても、あの状況ではジェレミアの方に――少なくともブリタニアでは――軍配が上がりそうだ。だが、その結果、今車窓から見える光景が戦火に包まれることになる。
 そうなったら、一番困るのは、一般民衆だ。
「置いてきて、正解だったな」
 小さな声で、ルルーシュはこう呟く。
「そうですわね」
 こう申し上げてはいけないのかもしれませんが……と咲世子は苦笑と共に頷いて見せた。
「問題は……いつまでごまかせるか、だな」
 兄姉たちのあの様子では、絶対に近いうちに、様子を見に誰かを寄越すだろう。
 いや、それ以前に、この地でアッシュフォードが学校を開きたいと言っているらしい。現在はその許可が出るのを待っている状況だ、とも聞いている。
 それはきっと、自分がここにいるからだ。
「……ともかく……穏やかに過ごせれば、それでいい」
 将来、どうなるのかはわからない。それでも、とルルーシュはため息をつく。
「僕のことを好きになってくれなくていい。ただ、放っておいてくれれば」
「ルルーシュ様!」
「兄上達も、さっさと僕のことなんて忘れてくださればいいのに」
 母も妹もいない世界で、自分が望むことはそれだけだ。そう告げれば、咲世子は哀しげな眼差しを向けてくる。しかし、あえて口を開くことはなかった。
 そうしている間にも、車は進んでいく。
 やがて、視線の先に枢木邸のものらしい重厚な門が現れた。

 通されたのは、この家で数少ない椅子が置かれている部屋ではないだろうか。
 ルルーシュがそう判断をしたのは、この家が純然たる日本家屋、だったからだ。
 しかし、畳とやらで正座、とかをするよりはこの方がありがたい。そう思う人間が自分以外にもいる、と言うことだろう。一応、彼はこの国の首相なのだ。この家を訪れるのは日本人とは限らないと言うことかもしれない。
 だが、と心の中で呟きながら、ルルーシュは目の前の茶碗へと手を伸ばす。
 日常的に使っていたティーカップと違ってこれにはとってがない。だから、直接指先に熱さが伝わってくる。しかし、それを持ち上げる前にルルーシュは手を引き込めた。
「……温度が間違っていないか?」
 それとも、単なる嫌がらせか。
「歓迎されている、とは思っていなかったがな」
 ずいぶんとまた幼稚な嫌がらせをしてくれるな、とため息をつく。それでも、毒が入っていないだけましなのだろうか。
 そんなことを考えていたときだ。
「お待たせして申し訳ない」
 言葉とともに姿勢のよい壮年の男性が姿をあわらす。その人物が誰なのか、知らないものはこの国にはいないだろう。
「いえ。お忙しいところ、申し訳ありません」
 クルルギ首相、とルルーシュは椅子から立ち上がりながら言葉を返す。
「それはこちらの言葉です」
 本来であれば、もっと大がかりに歓迎の式典をすべきだったのだろうが……と彼は厳つい顔に微苦笑を刻む。
「流石に、サミットが近い現状では準備が間に合いませんでした」
 もっともらしい言葉を口にしながら彼はルルーシュに座るように促す。
「そういえば……兄から聞いております」
 二番目の、と付け加えれば、ゲンブは静かに頷いてみせる。
「シュナイゼル殿下がおいでになったときに、正式に発表をさせて頂きましょう」
 それまでは、ここで日本の文化に慣れ親しんで頂ければ、と彼は続けた。
「えぇ。僕も、それを楽しみにしていました」
 日本の文化はブリタニアのそれとは違ってとても興味深いものだ、と聞いている。だから、と微笑み返す。
「そういって頂ければ、こちらとしてもありがたいです」
 一応、蔵の中にあるものはルルーシュが希望すれば、自由に見られるようにしておく。もっとも、側に誰か扱いになれたものをつけることになるが。そうも彼は付け加える。
「ご配慮、感謝いたします」
 それに、ルルーシュは静かに言葉を返す。それが監視のためだとしても、興味を満たせるのであれば構わない、と思うのだ。
「それと……殿下には離れの方をお使い頂けるように準備をしてあります。同行された方には、既にそちらを確認に行って頂いておりますよ」
 普通に聞けば、親切な申し出、と受け取れるかもしれない。だが、ルルーシュには『そこに閉じこもっていろ』と聞こえた。それとも、それは穿ちすぎなのだろうか。
「ありがとうございます」
 しかし、それを表に出すようなことはしない。静かな笑みと共に礼を口にする。それに、ゲンブは微かに眉を持ち上げた。と言うことは、このような切り返しをされるとは思っていなかったのだろうか。しかし、このくらいはブリタニアの皇族であれば物心着くと同時に身につけるものだ。でなければ、どこで誰に足を引っ張られるかわからない。
「そろそろ、娘の支度も出来た頃でしょう」
 このままでは分が悪いと判断をしたのか。ゲンブはこう口にする。
「ご紹介して頂けますか?」
 だから、ルルーシュも微笑みと共にこう言い返した。

 ふすまのすきまから、そっと応接間をのぞき込む。
 その瞬間、視界に飛び込んできた少年の姿に、スザ子は思わず目を丸くしてしまった。
「……あれ、本当に男か?」
 同じように目を丸くしていたスザクが呟きを漏らす。
「どう見ても、お前よりも女らしいぞ」
 しかし、このセリフは何なのか。
 確かに、自分がガサツで決して『女らしい』とは言えない性格だとはわかっている。
 まして、顔は目の前の相手にそっくりなのだ。
 可愛いとは言われても、絶対に美人と言われないだろう、と言うこともわかっている。
 せめて自分の髪が神楽耶や目の前の少年のように艶やかな黒髪だったら、自分に対する認識は違ってきたのだろうか。そんなことも考えてしまう。
「……指先も赤くなってるな」
 その事実をしっかりと確認して、スザクがこう呟く。
「あれだけ熱ければ、当然じゃないか?」
 ため息とともにこう言い返す。はっきり言って、自分だって、あれを触りたくはなかった。茶托がなければ、誰もあれをルルーシュの前に差し出せなかっただろう。逆に言えば、そうでなければあんなことを計画するはずもなかったが。
「きっと、あれだと痛いよな」
 それを表情に出さないのはほめてもいいのだろうか。
 スザクのその感想は微妙に間違っているような気がしてならない。
「……だから?」
 謝れと言うのか。それとも、とスザ子は聞き返す。
「誰も、そういってないだろう?」
 第一、とスザクは即座に言い返してくる。
「あいつとお前じゃ、どう見ても、ドレスを着るのはあっちの方だよな」
 お前よりも似合いそうだ。それは、自分も自覚している。しかし、他人から指摘されるとこれ以上にむかつくことはない。
「なら、お前があいつを嫁にもらうか?」
 それでも構わないんだぞ、と言い返す。
「何で俺が?」
 あいつの婚約者に選ばれたのはお前、とスザクは笑う。だから、あいつを嫁にもらうとしても、それはお前の役目、と言い切る。
「まぁ、いいんじゃないか? 男女と女男の組み合わせも」
 それとも、今から真面目に礼儀作法を習うのか? と付け加えられて、スザ子はむっとした。
「それはお前も同じだろうが!」
 自分以上に行儀作法を身につけなければならない立場だろう、と言い返す。本当は怒鳴りつけたかったが、そんなことをすれば父だけではなくルルーシュにもばれてしまうから、と必死にこらえた。
「それとも、何だ? 神楽耶の後ろでへらへらと笑っているか?」
 それでもいいかもしれないな、と付け加えたのは、それが一番彼にとって有効だと思ったからだ。
「……俺を怒らせたいのか?」
「先にしかけてきたのはお前の方だぞ?」
「まったく……珍しく綺麗な着物を着ていると思えば……結局、馬子にも衣装ってことか?」
「それはお前も同じだろう? 七五三と変わらないだろう?」
 こんな感じで気が付けばどんどんヒートアップしていくのはいつものことだ。
 しかし、今日だけはそれをこらえなければいけなかったのに。
 その事実を思い出したのは、二人揃ってふすまを破った後だった。

「ともかく……家の子供達を紹介させて頂いてよろしいですかな?」
 この言葉にルルーシュは小さく頷いてみせる。確か目の前の相手には、婚約者になる娘とその双子の兄がいたはず。
「では、失礼をして……」
 子供達を、とゲンブが誰かを呼び寄せようと手を叩こうとしたその瞬間である。いきなり、隣室とここを仕切っていたふすまが室内へと倒れ込んできた。
「……敵襲?」
 とっさいにこう口にしてしまったのは、ルルーシュの中に、まだ、あの日の光景が色濃く刻みつけられていたから、か。
 しかし、ここは仮にも日本国首相の自宅だ。そして、ここには当主であるゲンブもいる。
 そのような場で自分をお暗殺しても、日本の益にはならない。
 何よりも、そのような状況になれば、必ず咲世子が助けに来てくれるはずだ。それがわかっているからこそ、兄姉たちも彼女だけが随伴をすることを許してくれたのだろう。
 それも、ゲンブもまた驚いたような表情を作っている。と言うことは、彼も知らない事実だ、と言うことか。
 ルルーシュがそう考えていたときだ。
「お前達は!」
 ようやく我に返ったらしいゲンブが周囲を振るわせるような声で雷を落とす。
「呼びに行くまで大人しく待っていろ、と言いつけておいたはずだが?」
 それが、何故、ふすまを壊すまで取っ組み合いをしている。しかも、二人ともわざわざよそ行きを着せたにもかかわらず、そこまで汚すとは……と彼はさらに言葉を重ねていく。
「まったく……少しはルルーシュ殿下を見習え!」
 しかし、この言葉は彼等にとっては逆効果ではないか。
 そもそも、置かれていた状況が違うのだから自分と比べても意味はないだろう。
「クルルギ首相」
 だが、それを何と伝えればいいのか。ルルーシュはすぐには言葉を見つけられない。これが二番目の兄シュナイゼルであれば、話は違っていたのだろうが。そう考えれば、今の自分に不満がわいてくる。
「なかなか印象的な登場をしてくれたその二人が、首相のお子様ですか?」
 そうとしか考えられないことはわかっていた。それをわざわざ指摘するのも、馬鹿馬鹿しい。それでも、空気を変えるためにはその馬鹿馬鹿しいことでも問いかけておいた方がいいのではないか。そう思って言葉を口にする。
「えぇ。お恥ずかしいですが」
 困ったものです、とゲンブはため息とともに告げた。
「殿下の爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいです」
 この落ちつきのなさは……と彼はさらに言葉を重ねる。それが二人には気に入らなかったのだろう。思い切り頬をふくらませている。
「そうですか? 僕には、少しうらやましいです」
 彼等のように過ごせていられたら、どれだけよかっただろうか。しかし、自分には母や妹を守らなければ義務があった。だから、自分のした選択を悔やむつもりはない。
 それでも、目の前の二人のように――そして、妹たちのように――年相応の態度をとりたいと思ったことがないわけではない。
「元気そうな方ですね」
 ルルーシュはこう言って微笑む。
 しかし、それを見た瞬間、二人揃って顔を真っ赤にしたのはどうしてなのか。今までにない反応に、ルルーシュはそのまま首をかしげてしまった。

 我に返ったのは、いったいどちらが先だっただろうか。
 しかし、行動を起こしたのはスザクの方が先だった。
「本当に、男なのか?」
 お前……と口にしながら、スザクは真っ直ぐにルルーシュの方へと向かう。そして、遠慮なくその体に触れ始めた。
 それから逃れようとしたルルーシュを、スザクは強引に引き戻す。
「ほわぁぁぁっ!」
 彼のそんな行動は予想していなかったのだろう。ルルーシュの口から悲鳴とも何とも付かない声が上がる。
「……やっぱ、男かよ」
 最後に彼の手がルルーシュの股間へと触れた瞬間、スザ子の脳裏の中で何かが切れた。
「いい加減にしろ!」
 そのまま、自分が振り袖を着ていることも忘れて、スザクの後頭部へと回し蹴りをたたき込む。
「……お前は女なんだぞ?」
 ゲンブのあきれたような声が耳に届く。しかし、それに返事を返す余裕はない。
「そいつの婚約者は一応僕だぞ?」
 自分はまだ、正式に認めたわけじゃないが……と心の中だけで付け加える。
「別にいいだろう?」
 さすがは双子の片割れ。この程度のことは日常茶飯事だったせいか、さほどダメージを受けていない。
「ようは、日本の《皇》に近い家の者と殿下が結婚すればいいんだろう?」
 なら、自分でもいいではないか。スザクはそう言い返してくる。
「お前は、男だろうが! そいつを嫁にもらうとするなら、僕だ!」
 スザクは大人しく神楽耶の婿になれ! と言い返す。
「……僕は男なんだが……」
 ようやく状況を認識したらしいルルーシュがこう呟いている。
「大丈夫! お前なら振り袖も着こなせる!」
「そうそう。白無垢も似合いそうだよな」
 お互いの口から出た言葉に、思わず顔を見合わせてしまった。しかし、どちらからともかく背ける。
「確かにそうかもしれないけど、スザクと同じ意見だと思うと気に入らない」
 そのままこう告げれば、
「それは俺のセリフだ」
 と返される。本当に、こう言うときだけどうして意見が合ってしまうのか。
「ともかく……婚約するしないはともかく、お前には絶対に渡さないから!」
 ルルーシュに関しては、自分に対して優先権がある。だから、とスザクに向かってこういった。
「いいじゃん、別に」
 しかし、スザクは負けじとこう言い返してくる。
「要するに、ブリタニアと戦争にならないように、そいつと仲良くしていればいいんだろう?」
 なら、自分が嫁に貰ってもいいじゃないか。スザクは、さらにこういう。
「神楽耶の横暴さに比べたら、そいつが男だってことのほうがまだましだ」
「そういう問題じゃないだろうが!」
 こうなったら、もう一度実力行使で……と身構えようとしたときである。誰かの手がしっかりと二人の襟首を掴んでそのままつり下げられた。
「いい加減にしろ、このバカども!」
 次の瞬間、耳元でゲンブの怒鳴り声が響く。
「すみません、殿下」
 しかし、次の瞬間、彼はこう言ってルルーシュに向かって頭を下げている。
「いえ。気になさらないでください」
 にっこりと微笑む彼は、やはり美人だ。思わずその笑顔に見とれてしまった自分が悔しい。スザ子はネコの仔のようにつり下げられたまま、そんなことを考えていた。

 これが、彼等三人の出会いだった。



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