クロスロード



 目が覚めた瞬間見えたのは、ペンドラゴンの空だった。
「あいつは……」
 何をしてくれるんだ、とルルーシュはつぶやく。
「ご丁寧に服を着替えさせ、その上初期費用までも与えてくれるとは」
 もっとも、この金額では早々になくなるだろう。適当に稼がなければいけないか、とそうつぶやく。
「賭けチェスは相手を探すのが面倒だしリスクが高い。そう考えれば、株価な?」
 適当な身分証明書を作らなければいけないが、と続ける。そのくらいならばギアスを使えば何とかなるだろう。
 そう考えたところでルルーシュの動きが止まる。
 今の自分にギアスが使えるか。そう思ったのだ。
「適当な奴で試すか」
 あまり大きなことを命令してもだめだ。何かをおごらせるくらいがちょうどいいだろう。
 だが、学生はかわいそうだ。適当に稼いでいる人間を狙うのがいいのではないか。ついでにおごらせるのは飲み物ぐらいでいいか。
 そんなことを考えながら周囲を見回す。
「あなた!」
 同時に声がかけられた。
 いったい誰だろう。
 そう思って視線を向ける。そこには声をかけてきた女性ともう一人がいた。
「何か?」
 口ではそう言い返しながらも内心では焦る。どう見てもシャーリーとミレイ、それにニーナだったからだ。
「ひどいわね、ルル! 三年も連絡してこないなんて」
 シャーリーがそう言いながらこちらに近づいてくる。
「すみませんが、レディ。どなたかとお間違えではありませんか?」
 とりあえず愛想笑いを作りながらこう告げた。
「ルル!」
「残念ですが、私はルルという名ではないので」
 シャーリーにそう言い返す。
「ルルーシュじゃないの?」
 ミレイがこう問いかけてくる。その瞳はまだ疑っているようだ。
「私の名前はジュリアスです」
 ジュリアス・キングスレイと脳裏に浮かんだ名前を口にする。だが、違和感がないということはあの時期に名乗っていたのだろうか。
「ジュリアス? ルルーシュじゃなくて?」
「あぁ」
 ミレイの言葉にルルーシュはうなずく。
「……マリアンヌ様の縁者かしら」
「残念だが、孤児院育ちでね。自分のルーツは知らない」
「そう」
 絶対に関係があると思ったのに、とつぶやくミレイにほかの二人もうなずいている。
「誤解が解けたようなら、これで失礼をする」
 いつまでも話をしているとどこでぼろが出るかわからない。だから早々に話を切り上げることにした。
「待って!」
 それなのになぜかミレイが引き留めてくる。
「約束があります。今ここにいたのは時間調整のためでしたから」
 もうじき約束の時間なのだが、どうしてそれを邪魔してくるのか。言外にそう告げる。邪魔された結果、こちらが被る被害はペンドラゴンの一年分の予算に等しいが、と付け加えた。
「ミレイちゃん、まずいよ」
 ニーナがそう言うと彼女の袖を引っ張る。
「でも……せめてリヴァルとナナちゃんに会ってもらって確認してもらわないと」
 あくまでもミレイは俺を逃がすつもりはないらしい。
「リヴァルはすぐ来ると思うけど、ナナちゃんは難しいんじゃない?」
 そんなミレイの言葉にシャーリーがこう言っている。ナナリーが皇族としての役目を担っているのであれば当然だろうと思う。
「失礼」
 これ以上付き合っていられない。そう判断するとルルーシュは歩き出す。
「だから待ってって!」
 ミレイがあくまでも彼をこの場にとどめようとしてくる。
「約束があるといっているでしょう!」
 それにルルーシュはこう言い返す。
「あなたに私に約束を破らせる権利があるのですか?」
 さらにこう問いかけの言葉を投げかけた。その裏にはないだろうという言葉を含んでいる。
「でも……」
 ミレイはなおも言いつのろうとしていた。
「どうかしましたか?」
 そこにひょこりと警官が姿を現す。
「こちらの方が人の予定も顧みずに邪魔をしてこられるだけです。相手が女性なのでどうしようかと考えていました」
 お会いしたこともないのに、と続ける。さらに二言三言つぶやく。その瞬間、ルルーシュの左目が光ったことに誰も気づかない。
「いくら好みの方だとはいえ、それはまずいのでは?」
 警官がそう言う。いや、そういうようにギアスをかけたのだ。どうやらうまく効いているらしい。ならば次の計画も大丈夫だろうとルルーシュは心の中でつぶやく。
「別に、そういうわけでは……」
 ミレイが慌てて言葉を返している。
「すみません。これ以上は本当にまずいのですが」
「あぁ、言っても構わないよ。詳しいことはこちらのお嬢さんから聞かせてもらうから」
「お願いします」
 そう言い残すとルルーシュが足早にこの場を後にする。
「待ってってば!」
 ミレイの声が追いかけてきた。
「君、そこまでにしておきなさい。相手の迷惑というものも考えないとだめだろう?」
 警察官がそんなミレイを押しとどめる。
「いくら彼に一目ぼれをしたからと言って、彼の一生を左右する約束の邪魔をする権利は君にはないよ」
 それとも、と彼は続けた。
「彼の一生を君が責任を持つということかな?」
「……そんなことは、できません」
「ならば、彼の都合を優先することだね。機会はまだあるだろう?」
 お互い、ペンドラゴンにいるんだから。警官が優しい口調で諭すようにこう告げる。
「でも……」
 ナナリー様が、と彼女が口にすると同時にルルーシュは誰かを見つけたような表情で足を速める。これ以上彼女の話を聞いていても無駄だと判断したのだ。
 それよりも自分の後見人になってくれる相手を探したほうがいい。
 すぐにそう考える。
 そのほうが前向きだろう。ルルーシュはそう考えるとさらに足を速めた。