アリエス宮襲撃事件で足にケガをしたのはナナリーではなくルルーシュという設定になっています。
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ご機嫌斜め

 足を踏み入れた瞬間、ラウンジ内に微妙な空気が漂っていることにビスマルクはすぐに気がついた。
 しかし、いったい何が……と微かに眉根を寄せる。これで一同の連携が崩れるようなことになれば、いざというときに支障が出るのではないか。そう考えながら、室内をゆっくりと見回す。
「……ルルーシュ様?」
 そうすれば、いつものように車いすではなく、何故かソファーに座っている彼の姿が確認できた。しかも、彼の足とも言える車いすは室内には見あたらない。
「どうか、なさいましたか?」
 彼があれを手放すはずがないのに。そう思いながら問いかける。
「何でもない!」
 即座に言葉が返ってきた。しかし、それはいつもとは違って、どこか苛立ちを隠せないものだ。
「そうは、思えませんが?」
 何か、ご機嫌を損ねるようなことでもあったのか。そう問いかけながら、ゆっくりと彼の側に歩み寄る。
「本当に、何でもない!」
 しかし、ルルーシュはあくまでもこう言い切った。そんな彼の態度はどこか見覚えがある。そう考えれば、幼い頃、マリアンヌが出撃するたびに同じような表情を浮かべていたな、と思い出せた。
 こういう時の彼は、いつまで経っても素直に言葉を返してくれない。ならば、質問を変えようと判断をする。
「では、ルルーシュ様。車いすはどうなさいました?」
 この問いかけにもルルーシュは言葉を返してはくれない。口をつぐんだまま視線をそらすだけだ。
「……壊れた……」
 代わりに答えを口にしたのはアーニャだった。
「壊れた? まさか」
 ルルーシュ用に作られた車いすは、万が一のことを考えてかなり丈夫に作られている。それが壊れるなど、普通では考えられない。
「壊れた……ジノとルキアーノが悪い」
 しかし、アーニャはこういう。
「あの二人が?」
 ラウンズである以上、ルルーシュがどのような立場であるのかよく理解しているはず。そして、彼をないがしろにするような人材をシャルルも自分も――いくら有能であろうとも――ラウンズに任命するはずがなかった。
 それなのに、あの二人が悪い……と言うのはどういう事なのだろうか。
「さっき、訓練中に、通路を破壊。そこに、ルル様が来ただけ」
 アーニャは、相変わらず淡々とした口調でこう言ってきた。
「……事故だ」
 それに、ルルーシュがこう言ってくる。
「俺が、きちんと状況を確認していなかったのが悪い」
 自分にはケガはない。しかし、その代わりに車いすが壊れたのだ、と彼は諦めたように口にし始める。それとも、アーニャに説明させるよりも早い、と判断したのだろうか。
「だから、今、あの二人が責任をとって、修理の手配と予備を取りに行っている」
 廊下に座り込んでいるわけにはいかないから、自分はここに来ただけだ。
 確かに、皇族である彼を廊下に直接座らせておくわけにはいかないだろう。だから、その判断は正しい。
 しかし、と思う。
「……誰が、ここにルルーシュ様をお連れしたのですか?」
 車いすが使えない状況で、と言外に問いかけてしまったのは、部下に不始末がなかったか。それを確認したいからだ。
 だが、この一言は失敗だったらしい。
 ルルーシュはきゅっと唇を結ぶと、また視線をそらしてしまう。そんな彼の態度に、アーニャはアーニャで肩を落としてしまった。
「ルルーシュ様……」
 本当に、何をむくれているのだろうか。
 確かに、こんな風に年齢相応の態度を見せられるとかわいらしいと思える。しかし、皇族としてはどうなのだろうか。
「アーニャが泣きそうですよ」
 うまい言葉を見つけられずに、ビスマルクはこう告げる。
「……わかっている……アーニャが悪いわけではない」
 ただ、自分が勝手にこだわっているだけだ。ルルーシュは視線を背けたまま、こう言い返してくる。
「ルルーシュ様」
 要するに、本気ですねているだけらしい。
 それが伝わったのか。アーニャはほっとしたような表情を作った。
 かつてアリエス宮で行儀見習いをしていたせいか、彼女はルルーシュとナナリーに心酔している面がある。だから、こんな些細なことでも重大なことと受け止めてしまうのだろう。
 ルルーシュもそれがわかっているから、彼女が悪いわけではない、と自分の非を認めるような言葉を口にしたのか。
 しかし、あのルルーシュがここまですねる理由は何なのか。それを知りたいと思ってしまうのは自分の勝手なのだろうか。
 そんなことを考えていたときだ。
「殿下」
 ジノの声が入り口から響いてくる。
「車いすの予備ですが、これでよろしいのですか?」
 視線を向ければ、ルルーシュが軍務に付くとき、万が一のことがあってはいけない……と言ってシャルルが用意させていた方の車いすを押しながら彼が近づいてくるのが見えた。それよりも、側にいるものが抱えて避難させた方が早い、ということで、お蔵入りになっていたものだ。
「あぁ。すまない」
 それを見て、ルルーシュはほっとしたような表情を作っている。
 ということは、自由に動けなかったことが彼にとって不満だったのだろうか。
 その可能性は十分にあり得るな、とビスマルクが小さく頷く。
「そう言えば、アーニャ」
 ジノがいつもの口調で同僚に声をかけている。この二人は仲がいいから、いつものことだと言っていい。
「ルルーシュ殿下を落とさなかっただろうな」
 だが、爆弾というのはいきなり、投下されるものらしい。
「ジノ!」
 慌てたようにルルーシュが彼の名を呼ぶ。
「……大丈夫。ルル様は、ものすごく、軽いから」
 それを気にすることなく、アーニャが言葉を返している。
「それはよかった」
 にこやかな会話のわきで、ルルーシュの機嫌がどんどん降下していくのがわかった。
 ということは、一番の問題は《アーニャ》に《運ばれた》事だったのではないか。
 確かに、それは十分にあり得る。
 体が不自由とはいえ、ルルーシュも間違いなく《男》だ。自分よりも年下の女の子にここまで運ばれたというのは屈辱以外なんでもないだろう。
「そこまでにしておけ、二人とも」
 これ以上はルルーシュがかわいそうだ。そう判断をして、ビスマルクは彼等の会話を中断させる。
「ルルーシュ様の車いすは直りそうなのか?」
 まずはそれを確認しないと。そう判断をして問いかけた。
「と、思います。もっともそれに関してはブラッドリー卿が確認ができ次第、連絡を寄越すことになっていますが」
「そうか」
 今のところ、自分のもとに報告が来ていないと言うことは、修理が可能だと言うことなのだろう。
「ルルーシュ様。こちらにお移りになりますか?」
 ならば、これから重要なのはルルーシュの機嫌を直すことではないか。とりあえず、自分で移動できるようになれば、少しはマシになると思う。そう判断をして、ビスマルクは彼に問いかけた。
「あぁ」
 そうする、とルルーシュは頷く。
「では」
 自分が、と思いながら彼に手を伸ばそうとした。
 しかし、それよりも先にアーニャが当然のように彼の体をひょいっと抱え上げる。
「……アーニャ……そういうことは、我々に任せろ」
 これで、ルルーシュの機嫌が最悪まで下がってしまった。いったいどうやって浮上させるべきか。それを考えるだけで頭が痛い。
 そう思いながらもそれが嫌ではない自分がいることにも、ビスマルクは当然のように気付いていた。


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08.09.15up