アリエス宮襲撃事件で足にケガをしたのはナナリーではなくルルーシュという設定になっています。
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再会



 かつては美しい稜線を描いていた富士も、今はその半分が大きく削り取られ、代わりに無骨な工場で覆われている。
「……しかたがないとはいえ、醜いな」
 皇族専用機からその姿を見つめながら、ルルーシュは小さなため息をつく。
「ルル様……」
 それを耳にしたのだろう。アーニャがそっと呼びかけてくる。
「わかっている。あの程度ですんでいるだけ、マシと言えばマシだと言うこともな」
 ただ、とルルーシュは付け加えた。
「ここは……母上と共に訪れた最後の場所だったからな」
 だから、記憶が美化されていたのかもしれない……とそうも呟く。
「それに……ここには、俺の初めての友人もいたんだ」
 彼の存在は、今も自分にとって大切だといえる。しかし、相手がそう思ってくれているとは思えない。いや、きっと恨まれているだろう。
 それも、しかたがないことだ……とわかっていても、やはり引っかかってしまうのかもしれない。
「……ルル様……」
 何を言いたいのかわかったのか。アーニャにしては珍しく心配そうな色を表情に表している。
「気にするな。今は、アーニャ達が側にいてくれる。それだけで十分だ」
 決して友達ではない。
 だが、自分にとってはそれでも十分なのだと思わなければいけないのだろう。ルルーシュは心の中でそう呟きながら微笑んで見せた。
「それよりも着陸まで後何分ぐらいだ?」
 話題を変えるかのようにこう問いかける。
「先ほど確認した。着陸まで、後二十分。迎えは、既に着いているそうです」
 ここのエリアに赴任している総督と副総督はクロヴィスとナナリーだ。だから、誰かまでは確認しなかったが、迂闊な人物を寄越すはずがないだろう。アーニャはそうも付け加える。
「そうだな。もっとも、うるさい奴が来なければいいんだが……」
 自分に取り入っても意味はないと思うのだが、とルルーシュはため息をついた。
「そんなことは、ない」
 ルルーシュは人気者だから、とアーニャは言い返してくる。
「だから、ルル様と知り合いになりたい人は多い」
 もっとも、ビスマルクがそんな者は排除していいと言っていたから、遠慮はしない。そういって彼女は笑う。
「アーニャ?」
「ルル様に変な虫をつけたら、みんなに怒られる」
 だから、頑張るのだ。そういわれて、どのような反応をすればいいのか。ルルーシュは思わず悩む。
「……俺は男だぞ……」
 この呟きも、いつもほど力はなかった。

「お久しぶりでございます、ルルーシュ殿下」
 専用機から降りたルルーシュの前に、一人の男がこう言って跪いた。
「元気そうだな、ジェレミア」
 その相手に向かって、ルルーシュは優しい微笑みを向ける。
「ナナリーが迷惑をかけているのではないか?」
 そのまま、彼にこう問いかける。
「ご心配はなさらずに。ナナリー様は私どもの言葉に素直に耳をお貸しくださいますから」
 この言葉に、ルルーシュは苦笑を浮かべた。
「と言うと、問題はクロヴィス兄上か」
 彼であればそうかもしれないが、とそのまま付け加える。
「ルルーシュ殿下」
 あの、と慌てたようにジェレミアが声をかけてきた。
「お前が気にすることはない。こちらに来る前に、シュナイゼル兄上やオデュッセウス兄上とそういう話になっただけだ」
 それが事実だったのか、とそう続ける。
「……殿下、あの……」
「心配するな。お前がそういっていたわけではないだろう?」
 勝手に自分が判断をしただけだ。そういって目を細める。
「それよりも、兄上とナナリーは?」
 政庁か、と付け加えればジェレミアは頷いて見せた。
「はい。出かけようとしたときに本国から連絡が入ったようで……本来であれば、お二人揃ってルルーシュ殿下をお迎えに来られる予定でしたが」
 その言葉に、ルルーシュは笑みの意味を変える。
「……ルルーシュ殿下?」
 まさか、とジェレミアは言外に問いかけてきた。
「流石に、ここで長時間拘束されるのは辛いからな」
 それよりも、政庁で付き合わされた方がマシだ……と隠すことなくルルーシュは口にする。今の自分の体を否定しても意味がないとわかっているからだ。
「何よりも、政庁であれば側に寄ってくる人間は身元がそれなりに保証されているだろう?」
 この言葉に、ジェレミアは表情を強ばらせる。何故ルルーシュが急にエリア11を訪れることになったのか、彼は知っているのだろう。
「……ともかく、ここは風が強うございます。お車へお乗り頂けますか?」
 それからでも話は出来る、と彼は微笑みと共に問いかけてくる。
「そうさせて貰おう」
 ルルーシュがこう言うと同時に、アーニャが車いすに手をかけた。
「こちらでございます」
 それを確認して、ジェレミアは立ち上がる。そして、すぐ側に停車している車へと二人を導いていった。

 よほど空港まで出迎えに来られなかったのが不満だったのか。ルルーシュの乗った車が政庁の前に着くと同時にクロヴィスが姿を現した。そんな彼に少し遅れて、ナナリーも飛び出してくる。
「ナナリー! 戦場ではないのだから、もう少しおしとやかにしたらどうだ?」
 ルルーシュはクロヴィスの姿を完全に無視したのは、別に嫌がらせでも何でもない。彼よりも久々に会う妹の方が優先度が高かっただけだ。
「だって、実際にお会いするのは本当に久しぶりなんですもの」
 こう言いながら、ナナリーはルルーシュの首筋に抱きついてくる。
「ナナリー」
 あきれたような口調でルルーシュは妹の名を呼んだ。しかし、その声音は優しい。
「わかっています。でも、ユーフェミアお姉様が自慢げに連絡してこられるんですもの」
 ルルーシュとお茶をしたと、と彼女は頬をふくらませる。
「そのたびにナナリーの機嫌が悪くなるのだよ」
 困ったものだね、とクロヴィスがため息をついた。
「クロヴィス兄さん。お元気そうで何よりです」
 そんな彼へと視線を向けながら、ルルーシュは微笑んだ。
「ナナリーがご迷惑をかけているのでしたら、申し訳ありません」
「構わないよ。私なら大丈夫だと判断して、君が預けてくれたのだしね」
 だから、その位は何でもない。そういってクロヴィスは優しい笑みを浮かべる。
「ナナリーも、本気で怒りをぶつけては来ないしね」
 それに関しては、と彼は続けた。
「……仕事を放り出しているときは別だが、ですか?」
 くすり、と笑い返しながらルルーシュは聞き返す。
「ルルーシュ!」
「そうなんですよ、お兄さま。クロヴィスお兄さまったら、よく行方不明になられるんです」
 仕事を放り出して、とナナリーがルルーシュに抱きついたまま言葉を口にした。
「……ナナリー、君ね」
 そういうことは、と慌てながらクロヴィスもまたルルーシュと視線を合わせようとするかのように腰をかがめる。その瞬間、周囲に携帯のシャッター音が響いた。
「アーニャ?」
「……ノネットに頼まれた。それと、ヴァルトシュタイン卿にも」
 ルルーシュの写真を送るように、と彼女は言い返してくる。その間にも、携帯をいじる手を止めていないと言うことは、メールを打っているのだろう。
「ノネットはともかく、ビスマルクもか……」
 何を考えているんだ、と呟いた瞬間、ルルーシュはついでのように小さなくしゃみをこぼした。
「お兄さま?」
「あぁ、中でゆっくりと話をしよう。そのために、今日は頑張って仕事をしたのだからね」
 だから、緊急の事態が起こらなければ、残りの時間はルルーシュと話をしていても大丈夫だ。そういってクロヴィスは微笑む。
「それと、君の歓迎の会についてだが」
 この言葉を耳にした瞬間、ルルーシュの体が強ばる。
「君がそうやっていやがるだろうし、君は休暇のようなものだと聞いたからね。特に親しいものだけを招いて会食会、と言うことにさせて貰ったよ」
 アッシュフォードの家の者やロイド達だから、と彼は続けた。もっとも、一部、どうしてもはずせない厄介な者達も同席させるが……と彼は眉根を寄せる。
「その位は妥協しないといけないでしょうね」
 ルルーシュはそんな兄を安心させるように言葉を口にした。
「ナナリーとアーニャが側にいてくれるなら、迂闊な人間は近づけないでしょうし」
 女性に護られているというのは少し不満がある。だが、それも間違いなく自分なのだ。
「ロイドとは、後でゆっくりと話をしたいですね」
 落ちこみそうになった自分をはげますように、ルルーシュは言葉を口にした。

「……ミレイは、相変わらずだね」
 それにロイドも、とルルーシュは苦笑を浮かべる。しかも、あの二人が婚約をしたらしいとも聞いた。そうなった場合、彼等の家庭はどれだけ騒がしいことになるのだろうか。
 そう呟きながら、ルルーシュはベッドの上で体を伸ばす。
「ルル様、マッサージ、する?」
 それに気が付いたのだろう。
 側で何かをメモしていたらしい――あるいは、ブログの更新だろうか――アーニャが問いかけてくる。
「頼んで、構わないか?」
 そういって、ルルーシュは彼女に視線を向けた。それに、アーニャは淡く微笑むと頷いてみせる。
 携帯をそっとテーブルの上に置くと、乱暴な仕草でブーツを脱ぎ捨てた。そのギャップは、彼女らしいといえるだろう。
 そのまま、彼女はそっとベッドの上に上がってきた。小さな手がそのままルルーシュの両脚に触れてくる。
「痛くない?」
 ルルーシュの強ばった筋肉をそっともみほぐしながら彼女はこう問いかけてきた。
「大丈夫だ」
 気持ちいい、と微笑み返す。
「よかった」
 ほっとしたような表情で呟くと、アーニャはさらにマッサージを続けようとする。しかし、その動きが不意に止まった。
「誰?」
 厳しい口調で彼女が窓の方へと視線を向ける。
「さすがはシャルルの騎士だ。なかなか鋭いね」
 もっとも、ビスマルクにはまだまだ及ばないようだけど……といいながら、不意に人影は現れた。その相手に、アーニャはとっさに身構えた。
「その人は敵ではない」
 警戒を解け、とルルーシュは静かな口調で告げる。そのまま、腕の力だけで体を起こした。
 その瞬間、微かに痛みが走る。だが、それをルルーシュは即座に隠した。
「ごめん。体が辛いなら横になっていてもいいよ」
 そんな彼に、相手は気遣うような笑みを向けてくる。
「いえ。あなたの方が立場が上ですし」
 V.V.様、と静かに言い返した。
「気にしなくてもいいのに。君なら、ね。それに『様』はいらない」
 こう言いながら彼はためらうことなくベッドに腰を下ろす。
「本当は、ブリタニアで会いたかったんだけどね。ちょっと厄介ごとが片づかなくて」
 シャルルも動けないようだから、君を呼び出してしまった形になったね……とそういって視線を向けてくる。そうすれば、身の丈ほどもある髪がさらさらと音を立てて流れた。
「それこそ、気になさらずに。俺としても、このエリアには用事がありましたから」
「ナナリー? あの子も元気そうで何よりだ」
 そういってV.V.は目を細める。
「ともかく……先に用事を済ませていいかな?」
 この問いかけに、ルルーシュは静かに頷き返した。

 話の内容は、かなり厄介なものだった。それでも、対処が出来ないわけではない。
「あぁ、それと……」
 話は終わったから……と呟きながら立ち上がった彼は、不意に動きを止めると言葉を口にし始める。
「明日、アスプルンドの所に行くのだろう?」
 そこで面白いものに会えるよ、と彼は続けた。
「面白いもの?」
「そう、面白いもの。シャルルとは話が付いているから、気に入ったら、そのまま君のものにしていいよ」
 こう言って彼は目を細める。
「君専属の盾にはなるはずだから」
 この言葉に、アーニャが忌々しそうに顔を歪めた。
「アーニャ」
「だって、ルル様には私たちがいる」
 なのに、どうしてルルーシュの側に知らない人間をつけなければいけないのか。彼女はそう続ける。
「お前達がいてくれるのはわかっているが……だが、それでも、お前達はあくまでも父上の騎士だ」
 自分の好きかってにしていい存在ではない。
「何よりも、身の回りの世話を頼むには、ちょっと、な」
 ジノであればともかく、他の者達には……と言外に続ける。
「ルル様?」
「その子も、一応、男の子だと言うことだよ」
 くつくつとV.V.が笑う。
「君達に、男性には知られたくないことがあるのと同じに、その子にも女性に知られたくないことがあるだけだよ」
 それはそうなのだが、とルルーシュはため息をつく。
「何か……貴方に言われると複雑な気持ちになりますね」
 見かけだけを言えば、彼はアーニャよりも年下にしか見えないのだ。
「そういう細かいことを言う男は嫌われるよ」
 そういう問題ではないように思うのだが、ルルーシュはあえて何も言い返さない。
「今度おいでのときは、事前にご連絡をください。お茶の支度をして待っていますから」
 代わりにこう告げる。
「そうだね。君とゆっくりとお茶をするのは楽しそうだ」
 ついでにチェスの勝負もしよう、と彼は笑う。
「楽しみにしています。父上は無視の方向で」
「それはそれで面白いかもね」
 この言葉とともに彼は、窓際のカーテンの影へと姿を隠す。
「アーニャ?」
 その後を追いかけていった彼女が勢いよくカーテンをめくりあげた。しかし、そこには誰もいない。
「……手品?」
 不思議そうに彼女が首をかしげる。
「あの方は嚮団の嚮主の座についておいてだからね」
 多少の不思議はそのせいだと思えばいい。ルルーシュは苦笑と共に口にする。
 そのおかげで、自分はこうして命をつなげることが出来たのだ。もっとも、それでも母は救えなかったのだが。しかし、その事実を一番後悔しているのは彼だろう。
 だから、彼を恨むつもりはない。
 ただ、そのせいで気を遣わせているのではないかと思うと申し訳ない、と感じるだけだ。
「それよりも、マッサージの続きをしてくれるか?」
 気分を変えるようにこう告げる。
「はい」
 即座に、アーニャは言葉を返してきた。

 翌日、ルルーシュは特派へと向かうために準備をしていた。
「本当に行くのかい?」
 あそこは危険だよ、と鬱陶しいほどクロヴィスが声をかけてくる。
「父上のご命令でもありますから」
 ロイドに会いに行くのは……とルルーシュは言い返す。
「それに、シュナイゼル兄上にも頼まれていますし……俺も個人的に相談したいことがあるんです」
 可能かどうかはわからないが、相談してみなければわからないから……とそう続ける。
「本国の開発陣には、ロイドであれば可能かもしれないとも言われましたし」
 あの男なら、できるできないには関わらず、おもしろがって開発に手をつけるだろうな……とそうも続けた。
「……そういうことなら、しかたがないが……」
 でも、とまだ不満そうにクロヴィスは呟いている。
「アーニャだけではなくジェレミアも連れて行きますから」
 ともかく、これ以上、時間を無駄にしたくない。昨夜、姿を見せたV.V.の言葉の意味も早く知りたいのだ。そのためには、特派へと足を運ばなければいけない。
 何よりも、厄介な者達に体制を整えるための時間を与えたくないのだが、とルルーシュはため息をつく。
「それに、兄さん。ご自分の仕事の方はよろしいんですか?」
 これ以上、自分の行動を邪魔してくれるなら、シャルルにあることないこと吹き込むぞ……とルルーシュは言外に付け加える。それとも、コーネリアの方がいいのか、とも。
「ル、ルルーシュ!」
 流石にそうされればどのような結果が待っているのかわかっているのか。クロヴィスが今までとは違った意味で慌て出す。
「その前に、ナナリーに怒られてください」
 にやり、と笑いながらルルーシュはそんな彼にとどめを刺した。
「ナナリー?」
「クロヴィスお兄さま!」
 彼が振り向くと同時に、ナナリーの手が彼の襟首を掴んだ。
「今日のお仕事は終わられたのですか?」
 にっこりと微笑みながらこう告げる彼女は、自分たちの妹なのに少し怖い。エリア11に来る前は、あんなにおしとやかだったのに。もっとも、ナイトメアフレームに乗り込んでいる時点でおしとやかとは言い難いのかもしれないが、と今更ながらに気が付いた。
「お兄さまの御邪魔をしないように、とシュナイゼルお兄さまからしっかりと言われましたよね?」
 それなのに、どうしてルルーシュの邪魔をしているのか。そう問いかけるナナリーへクロヴィスは返す言葉がないらしい。
「ナナリー。後は任せた」
 今を逃すと出かけられなくなるのではないか。そう判断をして、ルルーシュはこう告げる。そのまま、彼はアーニャへと合図をおくった。
 それを的確に受け止めたのだろう。彼女は小さく頷くとルルーシュの車いすを押して歩き出す。
「ルルーシュ!」
 まだ話は終わってない! と叫ぶクロヴィスの声がそんな二人を追いかけてくる。しかし、その後に何やら聞いてはいけない音が響いたような気がするが、それを確かめる気力は、ルルーシュにはなかった。

「……それにしても、どうして特派のラボは、こんなに政庁から離れているんだ?」
 案内をしてくれているジェレミアに、ルルーシュは思わずこう問いかけてしまう。
「とりあえず、政庁には彼等が望む機器が揃っておりませんので」
 苦笑と共にジェレミアがこう言い返してくる。と言うことは、それは表向きの理由なのだろう。
「……兄さんとロイドは、そりが合わないだろうからな」
 まぁ、気持ちはよくわかるが……とルルーシュはさらに笑みを深めた。
「確かに、あれは変人を通り越していますからな」
 いっそ、ナイトメアフレームと結婚をすればいいのに。ジェレミアはどこか吐き捨てるような口調でこういった。
「そういえば、お前達は同級生だったか」
 以前、シュナイゼルからそう聞いた記憶がある。そう続ければ、ジェレミアは本気で嫌そうな表情を作った。
「……思い出したくない事実ではありますが……」
 そのまま、彼はこうはき出す。ここまでいやがるとは、いったいどのようなことをしていたのだろうか。逆に興味がわいてくるのはどうしてなのだろうか。
「あれで、開発方面に才能がなければ、まさしく、社会の害悪です!」
 貴族だからこそ、あんなに脳天気に過ごしてこられたのではないか。そうも彼は付け加えた。
「そこまで言うか」
 本当にあの男は何をしたのだろうか。
「だが、そう言える学生生活というのも楽しそうだな」
 どのような内容とはいえ、卒業して十年近く経っても鮮明に思い出せる共通の経験というのは得難いものではないか。少なくとも自分はそう思う、とルルーシュは微笑んだ。
「……ルルーシュ殿下……」
「俺には、そんなものはないに等しいからな」
 辛うじて、この国にあったが……それはもう、失われてしまっただろう。そうも続ける。
「ルル様……」
 何と言っていいのかわからない、とアーニャが声をかけてきた。
「気にするな。皇族である以上、しかたがないことだ」
 シュナイゼルもクロヴィスも、そんな馬鹿な経験をしたとは聞いていない。ユーフェミアは違うだろうが、彼女の方が特別なのだ、と言うこともわかっている。
「俺にはお前達がいる。それだけで十分だよ、アーニャ」
 少なくとも、一人でいるわけではない。だから、と微笑めば、とりあえず、アーニャは納得したようだ。
「それでも、兄上がわざわざあのようなことをおっしゃられたと言うことは……特派には何があるのか」
 それはそれで興味がある。そう呟く。
「大丈夫。ルル様は、私が守るから」
 何があろうとも、と付け加えるアーニャにルルーシュは微笑んでみせた。

 しかし、これがブリタニアでもトップクラスの開発チームなのだろうか。そう思いたくなるのは、ルルーシュだけではないだろう。
「相変わらずだな」
 見た目よりも実績を重視するロイドらしいと言えばロイドらしいのか。
 開発環境を最低限に絞れば、確かにトレーラー一台におさまる。これであれば、実践テストのさい、現場に行って直接その場でデーターをとることも可能だろう。
 機材が足りなくなれば、それが揃っている場所へと移動すればいいのだろうし。
 そう考えれば、本国であれこれやっている者達よりも実利面では優れているのかもしれない。
「問題があるとすれば……車いすで中に入れるかどうか、だな」
 ぼそり、とルルーシュは呟く。
「ご心配なく。その時には僭越ながら私がルルーシュ殿下をお運びさせて頂きます」
 即座にジェレミアがこう言ってくる。
「そうだな。その時には頼むか」
 アーニャに運ばれるよりは彼の方がマシだ。それに、ジェレミアも自分を抱えているときにロイドとケンカをするようなことはないだろう。
「……ルル様……」
 どこか、不満そうにアーニャが呼びかけてくる。
「ジェレミアの方が大きいからな。それに、アーニャには俺を守ってもらわないといけないだろう?」
「そう……私が、ルル様を守る」
「俺を抱えては出来ないだろう?」
 ビスマルクやジノであれば可能だろう。もちろん、ジェレミアもだ。だが、それはアーニャが劣っているわけではなく、たんに体格の関係だ。ノネット達も、アーニャのように出来ないのだし……とそう付け加える。
「だから、気にするな。ナイトメア戦であれば、無条件でモルドレットに乗り込む」
 現状で、あの機体が一番防御力が高い。
 そう付け加えれば、アーニャは小さく頷く。
「わかった」
 小さく頷くと、彼女はそのままルルーシュの背後へと回る。そして、車いすを押すために手を伸ばす。
「ルルーシュ殿下がそうして無条件で背中を預けられる人間は少ない。そうできる貴殿が、少しうらやましいよ」
 フォローのつもりなのか。ジェレミアがこう告げる。
「あなたは、ナナリー様を守る。私はルル様を守る。それだけ」
 相変わらず、会話になっているのかいないのか。よくわからない会話だ。それでも、この二人が意外なことに仲がよいことをルルーシュは知っている。
「そうだな」
 ジェレミアが頷いたのを合図に三人は特派のラボを兼任しているトレーラーの入り口へ向かって移動を開始した。
「しかし……ルルーシュ殿下がおいでだというのに出迎えもせんとは」
 何を考えているのか、とジェレミアが呟く。
「ロイドはいつものことだ。兄上に対しても出迎えにでたことはないぞ」
 だから気にするな。そう告げても、彼は納得できないようだった。



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