空だけが赤く染まっていた。
先ほどまでは、空だけではなく大地も赤く染まっていたが、今は黒く焼け残った瓦礫と、まだ微かに立ち上っている煙だけがその名残を伝えている。
その中で、唯一、残っている石の壁。
その陰に隠れるようにしてその子供はいた。
彼の細い腕に抱きしめられていたのは、等身大の人形か。
それとも……と思いながら、ゆっくりとそちらの方に歩み寄っていく。
その気配に気が付いたのだろうか。少年が顔を上げる。
しかし、ロイヤルパープルの瞳には生気が感じられない。全てを諦めきった老人のような虚無だけが映し出されていた。
同時に、彼が抱きしめていたものが人形ではないとわかってしまう。
それは、既に命の火が消え去った彼の妹の抜け殻だった。
「……ルルーシュ、さま?」
もっと早く、自分が彼らを捜し出せていたら、彼女の命は救えたのだろうか。それとも、と唇をかみしめる。
「……誰?」
不意に、少年が顔を上げた。
その問いかけから、少年――ルルーシュが正気まで手放してはいないとわかる。だが、それだけに辛い思いをしてきたのではないか。
そう思ったのは、まだ甘かったのかもしれない。
「ルルーシュ……それが、僕の名前?」
次の瞬間、彼の口から出た言葉に、思わず目を丸くしてしまう。
「……記憶が……」
彼は、全てを失ってしまったのか。
それをさせてしまったのは自分たちかもしれない、と慚愧の念がわいてくる。
「違うの?」
しかし、邪気のない表情で問いかけてくるルルーシュの様子から、その方が彼にとっては幸せだったのかもしれないと思い直す。
「いや、違わないよ」
そっと地面に膝を着くと何とか微笑みを浮かべた。
「君はルルーシュだ。この子は……」
「……ナナリー……」
小さな声で、ルルーシュは呟く。
「僕は、この子を守れなかった……」
その言葉の裏に、どれだけの感情がこめられているのか。それは推測するしかできない。
だが、と目を細める。
この子が記憶を失った理由の一端には、彼女を失ったこともあるのではないか。この二人は本当に仲のよい兄妹だったのだ。そして、母親を失ったあの日から、お互いがお互いの支えだったはず。
「それでも、ナナリー……は微笑んでいるよ?」
最後まで君が側にいたからだろうね、と優しい声で告げる。
「……おじさんは、誰?」
小さな声で、ルルーシュがこう問いかけてきた。
それが、自分の中にある一番古い記憶だった。
その後、日本と呼ばれた国は世界地図から消えた。
代わりに生まれたのは《エリア11》と呼ばれる支配された地。
だが、もう一つ生まれた存在があったことを、知る者は僅かだった。
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08.06.07 up
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