リヴァルやシャーリー。そして、何故かニーナまでもがぴりぴりしている。
しかし、その理由がわかっているだけに、ルルーシュには何も言えない。
「……ルルーシュ君、あれ……」
しかし、カレンはそうではなかったのか。不安そうにこう声をかけてきた。
「昔から、会長が過保護なんだ。それがあいつらにも伝染していてな」
特にリヴァルは……とルルーシュはため息とともに告げる。
「そうなの」
知らなかったわ、と続ける彼女に悪気はないのだろう。
「君が学校に来ないからだ」
だから、とりあえず事実だけを指摘しておく。
「まぁ、あれ以来かなり酷くなっていることは否定しないが」
未だに、誰が侵入したのか。その方法も含めて明らかになっていないらしい――いや、自分が知らないだけかもしれないが……とルルーシュは心の中で付け加える――そのせいで、リヴァル達は警戒を解かないらしいのだ。
いくら『大丈夫だ』と言っても彼等は聞く耳を持ってくれない。それどころか『ルルーシュの大丈夫は信用できない』とまで言われるほどだ。
「……そうね。あの時のリヴァル君は凄かったわ」
その時のことを思い出したのか。カレンが微苦笑を浮かべている。
「でも、今日は本当にどうしたのかしら」
いつもよりも酷いような気がするけど、と彼女はその表情のまま口にした。
「転校生が来るって……ミレイちゃんが」
二人の側で本を読んでいたニーナが口を挟んでくる。
「転校生?」
あぁ、それでか……とルルーシュは納得をした。
「しかし、珍しいな。こんな季節外れに転入生、とは」
学年の変わり目なら、少ないながらもいるが……と付け加える。それとも、急にこちらに派遣されることになったものの家族なのだろうか。あるいは……と顔をしかめる。
「二年生に二人と、一年生に二人……って言ってたわ」
でも、兄弟じゃないんだって……と続けるところから判断をして、これはミレイが自分たちに伝えるためにニーナに教えたのではないだろうか。
「……そうか……」
また、周囲が騒がしくなるな……とルルーシュはため息をつく。
「それよりも、ニーナ。今日は何の本を読んでいるんだ?」
話題を変えようとして、ルルーシュは問いかける。
「おじいちゃんの書棚にあったレポート。凄く面白いの」
さらり、と彼女はこう言い返してきた。きっと、そのおもしろさの半分も、自分は理解できないだろう。
「そうか」
「うん。医療サイバネティックの応用なんだけど、今まで知らなかったことが書いてあるの」
どうやら、その気持ちは彼女にもわかっていたらしい。さらりと概要だけ教えてくれた。
「誰のレポートだ?」
しかし、医療サイバネティックの一言は気にかかる。だから、問いかけてみた。
「ラクシャータ・チャウラーって人。読んでみる?」
こう言いながら、彼女は手にしている本をルルーシュの方へ差しだそうとしてくる。
「俺に理解できそうならな……読み終わったら、感想を聞かせてくれ」
それは申し訳ない。そう思って、ルルーシュはこう言い返した。
「わかった。何なら、後で概要だけ渡すわね」
自分の役にも立つから。そういってニーナは笑う。
「そうしてくれると嬉しいな」
そんな彼女にルルーシュも微笑み返した。
「代わりに、表現でおかしいところがあったら、教えて?」
自分ではわかったつもりになっていることがあるから……とニーナは付け加える。
「わかっている」
give-and-takeだよな、そう呟く。
「……そういうことなの」
二人の様子を見ていたカレンがこんなセリフを漏らす。
「カレン?」
「何が?」
意味がわからない、と二人同時に彼女の顔を見つめた。
「そうやって、お互いの苦手なところを教え合っているから、成績がいいのね」
納得したわ、と彼女は付け加える。
「で、そういうあなた達がフォローしているから、リヴァルとシャーリーもそこそこの成績をキープしているのね」
違う? と言われて、ルルーシュは苦笑を返す。前者はともかく、後者に関しては思い切り心当たりがあるからだ。
「……だって、ずっと同じクラスだったから……」
どうせなら、卒業まで同じクラスで過ごしたい。ニーナはそう告げる。
「そうだな。最後まで同じクラスで過ごせればいいな」
いきなり、目の前から消えないで欲しい。そうルルーシュは付け加えた。誰かを失うことは自分の中に巣くっている恐怖と繋がる。だから、と心の中だけではき出す。
「大丈夫よ。きっと」
カレンが微笑みながらこう言ってくる。
「二人が付いているなら、少なくとも成績面では大丈夫でしょう?」
後は、自分たちが自爆しなければいいだけではないか。そんなことも彼女は付け加えた。
「……リヴァルが一番危ないな」
「バイク?」
「あぁ」
あれで事故を起こすだけならばまだいい。速度違反だのなんだので掴まったら、即座に退学だろうな。ため息とともにルルーシュはそう告げる。
その時だ。
「それはないでしょ!」
ルルーシュ、といいながらリヴァルがのしかかってくる。
「重いぞ」
ため息とともに言い返す。
「まぁまぁ」
しかし、それを気にもとめないのがリヴァルだ。同じような行動を取れる人間は、おそらくスザクだけだろう。そう考えたところで、自分がどうして彼等にそれを許しているのか、ルルーシュにもわかってしまった。
二人とも、自分にとって《友達》と呼べる存在だ。だから、こんな風に側に寄られても気にならないのではないか。
もっとも、できればリヴァルは遠慮して欲しいのだが……とこっそりと呟く。
「それよりも、さ。今日、このクラスに来る転入生は二人とも男、らしいぜ」
後、一年生の二人も男だってさ……と付け加える彼の声音に、どこか残念そうな響きがあることにルルーシュは気付いていた。
「……会長に言ってやろうか? そのセリフ」
「そうは言うけどさ。どうせなら、女の子の方がいいじゃん」
普通の男としては、と彼は主張する。
「否定はしないが、しかたがないだろうな」
こればかりは、自分たちの自由になることではない。それよりも、とルルーシュは首をねじって彼を見つめながらさらに口を開く。
「ともかく、転入生に早く学校になじんでもらわなければいけない。だが、会長のとんでもない《祭り》は阻止しなければいけないと思うが?」
どうだ、と真顔で付け加える。
「それは否定できないな」
そんな状況になった場合、一番最初に被害を受けるのは自分たちだ。それだけは避けたい。リヴァルも真顔で言い返してくる。
「そんなに、凄いの?」
ミレイ企画の《祭り》って……とカレンが問いかけてきた。
「そういえば、カレンさんは知らないのか」
「こんなに、続けて学校に来るようになったのは、最近だもんな」
ルルーシュの言葉にリヴァルがこう付け加える。その瞬間、カレンの頬が引きつったことにルルーシュは気付いてしまった。
「そうね。最近は調子がいいの」
しかし、それをすぐに微笑みに返ると、こう言ってくる。
その微妙な表情の違いが引っかかる、と言ってはいけないのだろうか。
ルルーシュが心の中でそう呟いたときだ。
「ルル、それにみんなも。先生が来るわよ」
いい加減、おしゃべりはやめないと……とシャーリーが口を挟んできた。
「……確かに、怒られるのはごめんだな」
話なら、また後でも出来る。そう続ければ、他の三人も頷いてみせた。
「じゃ、また後で」
こう言いながら、それぞれが自分の席へと戻っていく。しかし、最初から自分の席に座っていたルルーシュはそのまま、放置されていた本へと視線を戻した。
「……今度は、何を作ってやるか、な」
偶然見つけた和食のレシピ本には、ルルーシュが知らないような料理が並んでいる。それはそれで、作ってみるのが楽しみだ。そんなことを考えながら、ページをめくっていく。
それでも、教師の気配がドアの外に来たときには諦めて本を閉じる。
こんなことで評価を下げては意味がない。そう思ってのことだ。
「みんな、揃っているな?」
机の中に本をしまうと同時に、教師が教室の中に入ってくる。
その後に続いて転入生が姿を見せた。
それは、このような状況では普通のことだと言っていい。
だが、それは見知らぬ相手が対象のときだ。教師の背後に見覚えがある癖毛を見かけて、ルルーシュは無意識のうちに腰を浮かせる。
「スザク!」
まさか、と思いながら、その名前を口にした。
「ルルーシュ。今日から、クラスメートだよ」
しかし、返された声は間違いなく彼のものだ。
「……いったい、どうして……」
今朝、出かけるときはそんなことを言っていなかっただろう。そう呟くルルーシュに、二人の関係を知らないクラスメート達の視線が突き刺さっている。それすらも、ルルーシュは気付いていない。
「知り合いか?」
教師がこう問いかけてくる。
「友達です」
その問いかけに、ルルーシュはためらうことなくこう言葉を返した。
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08.12.12 up
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