日本解放戦線の動きがおかしい。
「あいつらは、こんなに動きが鈍かったか?」
コーネリアがこう問いかけてくる。
「いえ……そうではない、と記憶しておりますが」
即座にダールトンは言葉を返した。勇猛果敢、と言うのがふさわしい戦いをしかけてきていたはず。もっとも、それはこちらから見れば『無謀』の一言で切り捨てられるものではあった。
「では、何故守りに徹している」
何かを画策しているのか。コーネリアは考え込むようにこう呟いた。
「可能性はあるでしょう」
こう答えたのはギルフォードだ。
「何を、だ?」
それがわからぬうちは、落ち着かない。言葉とともにコーネリアは唇を噛む。
「姫様」
ふっとある可能性に気付く。だが、それを確認できそうな相手はこの場にはいない。だから、と思いつつダールトンは口を開く。
「何だ?」
「特派のクルルギ准尉に連絡を取ってもよろしいでしょうか」
彼であれば自分の問いかけに答えてくれるかもしれない。だから、と思いながら告げた。
「……理由は?」
「確認です。クルルギ准尉は、旧日本軍に知己が多かった、と聞いております故」
おそらく、あの場にこもっている者達のことも知っているのではないか。だからこそ、自分の仮説を確認することが出来る。そう付け加えた。
「不確実な情報を姫様のお耳に入れるわけにはいきません」
そのせいで、コーネリアの判断にマイナスの影響が出てはいけない。その結果、被害を被るのは一般の兵士達なのだ。
この言葉に、コーネリアは頷いてみせる。
「そうか。なら、許可をする。確認してから聞かせてもらおう」
そのまま、彼女はこう続けた。
「Yes.Your Highness」
ダールトンは静かに言葉を返す。そのまま、特派に連絡を取るためにきびすを返した。
G−1ベースからの連絡はすぐに取り次がれた。
「……ダールトン将軍のお考えは、かなりの確率で正しいと自分は考えます」
スザクはすぐにこう言い返す。
「片瀬少将は元々、守りの人ですから。攻撃については、いつも藤堂中佐が指揮をとっていたかと」
日本解放戦線とキョウトは繋がっている。だから、あちらからの要請で藤堂がこの場を離れているのではないか。そうも付け加える。
『そうか。君が同意をしてくれるのであれば、確率は高い、と言うことだな』
なら、その通りコーネリアに告げる、とダールトンは頷く。
「自分の言葉は参考にならないのでは……」
『君は重要な場面で嘘を付くことはない、とルルーシュから聞いているからな。それに、この場にいる誰よりも、あちらの情勢について詳しい』
だから、信頼できると判断をした。そういわれて、少しだけ背中がこそばゆくなってくる。しかし、彼の言葉が嫌なわけではない。
「過分な評価をして頂いているようですが……ご期待に添えるように努力させて頂きます」
何よりも、彼もまた一種の《共犯者》なのだ。
だから、と素直に言葉を口にする。
『期待している。だが、無理はしないように』
ルルーシュが悲しむようなことはするな。言外に、彼はこう付け加えてきた。
「わかっています」
苦笑と共にスザクは言い返す。
「ですが、同じ言葉をお返ししてもよろしいでしょうか」
彼等に何かあってもルルーシュは悲しむだろう。その結果、思い出さなくてもいいことまで思い出してしまったら……と不安になる。
『わかっている』
息子達にも釘を刺しておく。この言葉とともにダールトンは回線を切った。
「お忙しいんだろうな」
それに関して文句はない。自分に連絡をしてくる時間を作るだけでもかなりの無理をしたのではないか。だが、内容が内容だけに、そうする以外なかったのだろう。
「……藤堂さんがいないだけでも、日本解放戦線の戦力は半減するか」
なら、その前に片づけてしまえばいい。
確かに片瀬達とは何度か顔を合わせたことがある。しかし、その存在は自分にとって何の重みもないのだ。
「不安があるとすれば、キョウトが何を考えているのか、だな」
その構成メンバーの顔ぶれはだいたい想像が付いている。しかし、確たる証拠を自分は握っていない。だから、下手に糾弾できないのだ。
「と言うか……藤堂さんが向かっている先がキョウトならいいけど、な」
万が一、黒の騎士団であったとするならば、と心の中で呟く。
「だとするなら、この状況は故意に作られている、という可能性もあるわけだよ、な」
しかし、それを確認する手段はもちろん、権限も今の自分にはない。
「……何事もなければいいんだけど……」
何かが引っかかっている。何が引っかかっているのか、言葉には出来ないが、気にかかるのだ。それが第六感と言われるものだと言うこともわかっている。
「説明できれば、協力をしてもらえるかもしれないけどね」
自分でも説明できない以上、他人を納得させられるはずがない。
そうしている間に、本隊には出撃命令が出てしまった。
「ジノだけルルーシュの手料理をごちそうになっただなんて、ずるいですわ」
開口一番、ユーフェミアがこう告げる。
「ユフィ……」
そういう問題ではないのではないか。ルルーシュはその思いをこめて彼女の名を呼ぶ。
「わたくし個人にとっては、とても重要な問題です」
もっとも、と彼女はすぐに言葉を重ねた。
「副総督としては、もっと優先しなければいけないことがあることはわかっています」
それでも、ルルーシュの手料理は食べたかった……と付け加えられては、どうすればいいのか。
「……スザクが帰ってきた後でしたら……何か、簡単なお菓子でも用意させて頂きます」
流石に食事を用意、と言うわけにはいかないが。ため息とともにルルーシュはそう告げた。
「しかたがありませんわね。それで我慢をします」
あまり無理を言って、ルルーシュの負担を増やしたくはない。苦笑と共にユーフェミアはこう告げた。
「それにしても……何かお忙しかったのですか?」
前回会ったときよりもやせられたようですけど、と付け加えられて、ルルーシュは一瞬、反応に困る。しかし、すぐに笑みを作った。
「会長が今度の学園祭でとんでもない企画を立てていてくれていますので、その準備に忙しかったのですよ」
スザクに協力を求めるつもりではあったが、今回のことを考えれば対応策も考えて置かなければいけない。
もっとも、最悪の場合、自分が何とか出来ることではある。しかし、その代わり、誰でも自分の代わりを出来るようにしておかなければいけないだろう。
「スザクに、ですか? どのような内容ですの?」
興味津々と言った様子でユーフェミアが問いかけてくる。
「世界一のピザを作りたいのだそうです。アッシュフォードにはガニメデがありますから、それを使って作るのですよ」
ナイトメアフレームの操縦に関しては、スザクが一番だから……とルルーシュは微笑んだ。
「それなら、私でも大丈夫ですよね?」
ジノが楽しげな口調で言葉を挟んでくる。
「これでも、ナイト・オブ・ラウンズの一員ですから」
ナイトメアフレームの操縦に関しては自信がある、と付け加えた。
「それこそ、畏れ多いだろうが」
帝国最強の騎士にそのようなことをさせられるか、とルルーシュは言い返す。
「大丈夫。私は気にしないから」
そういう問題ではないのだが、とルルーシュは言い返したくなる。しかし、本人は本気らしい。
「それにしても、ガニメデとは……是非とも、実物を見せて貰わないと」
存在を知れば、同じ事を言う者は他にもいる。彼はそう続けた。
「そうなのですか?」
ユーフェミアが興味深そうに問いかけてくる。
「えぇ。今、本国には一機も残っていないはずですし……ラウンズには《閃光のマリアンヌ》を信奉しているものは多いですから」
自分もそうだが、と彼は言葉を返した。
「……閃光のマリアンヌ?」
その中のある言葉がルルーシュは気にかかってしかたがない。唇に乗せればなおさらだ。
「先輩?」
何を言っているのか、と言うようにジノが彼を見つめてくる。しかし、すぐにルルーシュの記憶のことを思い出したのだろう。
「ガニメデのテストパイロットをなさっていた方で……現在のラウンズが召集される前、ナイト・オブ・シックスの地位におられた方ですよ」
ちなみに、その時ナイト・オブ・ファイブの地位にいたのがビスマルクだ、と彼はさりげなく付け加えた。
「その後、陛下に召し上げられて、第五后妃の座を与えられたはずです」
もっとも、后妃になった後も軍事面で皇帝を支えていたから《戦女神》と呼ばれていたそうだ、と言葉を締めくくる。
「そう、なのですか?」
だとするならば、ダールトンと義兄達の会話の中に出てきたのだろうか。
しかし、それとは違うような気もする。
「えぇ。お姉様は、あの方にあこがれて軍人への道にお進みになったのです」
では何が違うのだろうか、と考えているルルーシュの耳に、ユーフェミアのこんなセリフが届いた。
「そうですか」
だから、ラウンズにもひけをとらない実力を身につけておいでなのか……とジノは納得したように頷いている。
その瞬間、何か、見覚えのない光景が脳裏をかすめた。しかし、それははっきりとした像を結ぶ前に消えてしまう。その事実に、彼は無意識のうちに眉を寄せていた。
「……ルルーシュ?」
それを見とがめたのか。ユーフェミアが不審そうに彼の名を呼んだ。
「何でも、ありません」
とっさに、ルルーシュはこう言い返す。
「ですが……」
「そうは見えませんでしたよ?」
二人がルルーシュの言葉を否定した、まさにその時だ。
「失礼します!」
言葉とともに護衛の兵士が飛び込んでくる。
「無礼だぞ!」
ユーフェミアの許しも得ずに、とジノが相手をしかりつけた。しかし、相手の方にもきちんと理由があったらしい。
「申し訳ありません。ですが、緊急事態ですので……」
その後に続けられた内容に、三人は言葉を失った。
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09.01.23 up
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