ピザ生地の様子を見てくる、と告げたルルーシュについてスザクもまた厨房へと向かった。
ジノはニーナと共にガニメデの方へと行っている。本当は彼も一緒に来ると行ったのだが、ルルーシュがそう命じたのだ。
彼のそんな態度は、やはり本来の立場を伺わせるな……と思いながら、ドアを開けた。
「……ルルーシュゥ」
酷いじゃないか、とゴーグルをつけていながらも目を赤くしているリヴァルが訴えてくる。
「すまない」
でも、とルルーシュが首をかしげた。
「確か、ロロとライにも頼んだはずだが?」
二人はどこに行ったんだ? と逆に聞き返している。この状況が嫌で逃げ出したのではないか、と考えているのではないか。
「私ならここだよ」
言葉とともに、ライが姿を表した。その手にはタマネギの箱がある。
「これでラストだ」
言葉とともに、彼はリヴァルの前にその箱を置いた。
「了解……」
でも、まだあるのか……と彼はため息をつく。
「スザク、悪いが……」
「切るのを手伝えばいいんだよね?」
ルルーシュの言葉に、スザクは頷いて見せた。
「でも、ルルーシュの用事を済ませた後でもいい?」
できれば、離れたくないんだけど……と彼は続ける。
「隣の部屋だぞ?」
「それでも、だよ。何があるかわからないじゃない」
彼女にも『離れるな』と言われたじゃないか。スザクはさらに言葉を重ねた。
「時間の無駄だ」
しかし、ルルーシュは納得をしてくれない。
「ドアを開けておけば見えるだろうが。それでは不十分なのか?」
直ぐに戻ってくるんだし、と彼はさらに言葉を重ねる。時間がもったいないだろう、と付け加える彼の表情から判断をして、これ以上逆らえば完全に機嫌を損ねてしまうのではないか。そのせいで、万が一のことがあっては困る。
「わかったよ。でも、ドアは全開だよ?」
「……スザク」
そこまで言うのか、とルルーシュは視線で告げてきた。
「そうだね。俺たちから見えるようにして貰わないと、心配で手元が狂うかも」
だが、リヴァルがスザクのフォローをするかのようにこう言ってくる。それには流石のルルーシュも妥協しないわけにはいかないようだ。
「……まったく、お前らは……」
何でそこまで、とルルーシュはため息をつく。
「また、君が目の前からいなくなったら……きっと、おかしくなるよ、僕は」
ルルーシュの生存がわからなかったときなら耐えられたことも、こんなに近くにいる状況では無理だから、と口にした。
「スザク……」
それにルルーシュは困ったような表情を作る。
「だから、お願い」
構わずに、スザクはさらに言葉を重ねた。
「……しかたがないな……」
渋々と言った様子でルルーシュがこう言い返してくる。
「ありがとう、ルルーシュ」
笑みを浮かべながら言葉を返せば、うっすらとルルーシュの頬が赤くなった。それを隠そうとしてか。彼は直ぐに体の向きを変える。
「ともかく、俺のことよりもそっちを何とかしろ!」
そのまま、叫ぶようにこう告げると生地を置いている部屋へと駆け込んでいった。
「ジノも引っ張ってくるべきだったかもしれないな」
こう言うときに、自分が側に行くとルルーシュは気持ちを落ち着けられないはず。だから、ジノに頼みたかったのだが……と考えても既に後の祭りだろう。
自分が注意をするしかない。そう考えていたときだ。
「悪い、スザク」
リヴァルがこう囁いてくる。
「俺のせいで、ルルーシュが機嫌を損ねたみたいだし」
この言葉に、スザクは思わず苦笑を浮かべた。
「気にしなくていいよ。この前から微妙にルルーシュの機嫌を損ねているから」
告白をしたのがまずかったのかな、と首をかしげてみせる。
「あぁ……ルルーシュはその手のことに疎いからな」
リヴァルが頷いて見せた。その声が耳に届いたのだろう。隣の部屋から何かを殴るような音が響いてくる。
「ありゃ……完全に怒らせたかも」
失敗したなぁ、とリヴァルが呟く。
「頑張れ、スザク」
今まで黙って二人のやりとりを聞いていたライがこう言いながら肩を叩いてきた。
「……それって、応援されているのかな?」
スザクがため息とともにこう告げる。
「もちろんだとも」
見ていて楽しいからな、と言われても嬉しくない。それでも、邪魔をされないだけましなのだろうか、と本気で悩んでしまう彼だった。
ルルーシュから決して目を離してはいけなかったのだ。
相手は不思議な《力》を使うかもしれない。そうは聞いていたが、その内容まで知らされていなかった。
そのせいで一瞬だが隙ができたとは言わない。しかし、少しだけとは言え気がゆるんでいたことだけは事実だった。
「……ロロ?」
何故、彼がここにいるのか。
それよりも、ここは一体どこなのか。
こう考えながら、ルルーシュはさりげなく周囲を見回す。
そうすれば、ここがまだ学園の敷地内だと言うことは理解できた。しかし、先ほどまでいた場所からなかなり離れている。
自力で移動した記憶はない。ならば、誰かが連れてきたのだろうが……スザク達がそれを許すはずがない。
「すみません、先輩」
ロロが小さく謝罪の言葉を口にする。
「でも、こうするしかないんです、僕には」
あの人がそれを望んだから……と付け加えながら、彼は視線を移動させた。つられるようにルルーシュもそちらへと視線を向ける。
そこに、まるでシミのように黒い姿が存在していた。
それが誰なのか。ルルーシュは知っている。
「……ゼロ……」
どうして、あいつがここにいるのか。そう思ったときだ。
ロロの体がルルーシュの傍から吹き飛ばされる。いや、誰かが彼の体を突き飛ばしたのだ。
スザクか。ルルーシュは反射的にこう考えてしまう。
「大丈夫だね、ルルーシュ」
しかし、耳に届いたのは別人のそれだった。
「……ライ?」
何故、彼が……とルルーシュは思う。
「……ヴァルトシュタイン卿に頼まれたのだよ」
そんな彼に一瞬だけ視線を向けると、ライはこう言った。
「それに……私には《ギアス》が効かないからな」
だからこそ、追いかけてこられたのだ……と彼は続ける。
「……そんな……」
信じられない、とロロが呟く。と言うことは、彼がその《ギアス》とやらを使って自分をここに連れてきた、と言うのだろうか。ルルーシュはそう判断をする。
だが、そんなことは信じられない。
信じられないが、この状況では信じざるを得ないだろう。
「スザク達も、直ぐに追いかけてくる。だから……」
心配いらない、とライは続けようとしたのではないか。
「残念だが、時間切れだよ」
しかし、いきなりゼロが低い笑いと共に言葉を綴る。
「本来であれば、君だけをご招待する予定だったのだがね、ルルーシュ君」
余計な御邪魔虫まで招待しなければいけなくなったか、とさらに言葉を重ねた。
「まぁ、そいつも我らと関係ないわけではないからね」
付き合って貰おう、と口にすると同時に、ゼロは指を鳴らす。その瞬間、地面が何故か赤く輝く。
「なっ!」
何かの紋章がはっきりと浮かび上がった。そう思った瞬間、急速な落下感覚がルルーシュを包む。
「ルルーシュ!」
反射的に、ライが腕を掴んでくる。その腕をルルーシュは反射的に握りかえしていた。
そのころ、政庁はあまりの事態に誰もが動きを止めていた。
「……宣戦布告、だと?」
予想外の状況に、コーネリアも一瞬、絶句する。
だが、直ぐに彼女の中に怒りがわき上がってきた。
「この私をバカにしているのか!」
こうなったら、遠慮はしない。徹底的に叩きつぶしてやる! と彼女は宣言をする。
その言葉は周囲にいる者達を鼓舞した。
「至急、兵を集めろ! それと、民間人を安全な場所へ避難させるように」
彼女の指示と共に、政庁はまた、慌ただしく動き始めた。
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09.05.22 up
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