いったいどうすればいいのか。
「……みんなが戦っているというのに……」
それなのに、自分はここから動くことが出来ない。その事実に、カレンはいらだたしさを感じていた。
だからといって、迂闊な行動を取ることも出来ない。
このまま、戦いに加わることも出来ずに指をくわえているだけなのか。
「あの方の剣、なのに」
それなのにここでぼんやりとしているだけなんて。そう考えれば悔しさも倍増だ。
でも、とカレンは心の中で呟く。
ゼロが、自分にここで待機をするように命じたのだ。
それにはきっと、何か理由があるはず。
だから、と自分に言い聞かせる。
ひょっとしたら、切り札だというルルーシュの護衛のために自分をここに残したのかもしれないだろう。そう考えた瞬間だ。
「……そう言えば、ルルーシュ達の姿がないけど……」
ようやくその事実に気が付いた。自分のその反応に、カレンは驚愕を隠せない。
「そんな……」
自分が与えられていた任務だったのに。どうして、それを忘れていたのか。
「……ともかく、あの子を探さないと」
自分のフォロー役として送り込まれた少年。その存在が気に入るはずもない。しかし、自分一人でスザクだけならばまだしも、ジノまで相手にすることは不可能だった。だから、とその存在を受け入れていたことも事実。
ゼロに拾われ育てられたというあの少年であれば、あるいは、何かを知っているのかもしれない。
「……その位なら、大丈夫よね?」
ここは現在、ブリタニア軍の保護という名の監視下にある。それでも、仲間に用事があると言えばうろついたとしても見逃してもらえるのではないか。
カレンはそう判断をして立ち上がる。
「あの子が見つかればいいんだけど」
そうすれば、きっと、自分がこれから何をすべきなのかわかるはずだから。
少なくとも、この時はそう信じていた。
さりげなく、スザクは位置を移動していく。
「……どうして……」
その間にも、ルルーシュの力のない呟きが耳に届いていた。
出来ることなら、今すぐにでも彼を抱きしめて安心させたい。しかし、目の前に敵がいる以上、そんなことが出来るはずもないこともわかっていた。
「……君が、ある《力》を持っているから、だよ」
あいつらはそれを利用したいのだ。掠れたような声が周囲に響く。それが誰のものか、スザクには確認しなくてもわかった。
「……嘘だろう……」
同時に、ルルーシュが『信じられない』と呟く声も、だ。
「これが魔女の呪い、だよ。死にたくても死ねない」
もっとも、とV.V.は静かな声音で言葉を重ねる。
「僕は、僕が大切だ、と思う者達を守るためにこの呪いを受け取った。そしてそれに関して、後悔はしていないよ」
君も守れたしね、と彼は微笑む。
「それに……お前達の願いは、叶えちゃいけないんだ!」
ゆっくりと立ち上がりながらV.V.は言葉を重ねる。
「勝手なことを」
嘲笑と共に緑色の髪の魔女が言葉をはき出す。
「そう言うお前はどうなんだ? お前の願いも叶えてはいけないものだったのではないか?」
諦めていれば、世界はもっと穏やかになっていたかもしれない。そう言って唇の端を持ち上げる。
「お前達が馬鹿なことを考えていなければ、ね」
ため息とともにV.V.が言い返す。
「ブリタニアだって、ここまで版図は広げなかっただろう」
むしろ、と彼はさらに言葉を重ねる。
「お前達のねらいにまんまと乗せられた、と言った方が正しいのかもしれないね」
忌々しいことに、と彼は相手をにらみつけていた。
「……こいつらが?」
まだ衝撃から抜け出せていないのだろう。ぼんやりとした口調でルルーシュが呟いている。
「そう。ブリタニア――いや、シャルルが征服をするように指示を出した国には、少なからずここと同じような遺跡が存在している」
それをこいつらに利用されないように。
「遺跡の力を使えば、どんなことが出来るか。その一端は君も体験しただろう?」
アッシュフォード学園からこの地まで一瞬で飛んでくるような……とV.V.はルルーシュに話しかけている。
「……でも……母さんは、普通の人間だったのに……」
それなのに、どうしてそんなことが出来るのか。ルルーシュはそう問いかけている。
おそらく、彼は信じられないのだろう。記憶が戻ったからなおさらなのか。
それでも、とスザクは心の中で呟く。
目の前の相手が自分の母であると言うことは、彼の中では矛盾なく受け入れられているらしい。
それはどうしてなのか。
その答えは、先ほどのルルーシュの叫びにあるのではないか。
「君達を産んだ頃のマリアンヌは、まだ普通の《人間》だった、と言うことだよ」
優しい声音で、V.V.がこう告げる。
「それについては、とりあえずあいつらを排除した後で説明をしてあげる」
でないと、何を口出しされるかわからないからね……といいながらV.V.は二人をにらみつけた。
「そう言うことだから、君はクルルギと共にこの場を離れてくれる?」
守っていられないかもしれないから、と言われて、ルルーシュは驚いたように彼の顔を見つめた。
「……それなら、ライは……」
彼はどうするのか、とルルーシュは問いかける。
「それに、君だって……」
「私たちのことは心配しなくていい。これらを倒すのは我が悲願」
そして、とライは口にしながら、立ち上がった。
「同時に、私の義務。全ては愚かな私の罪から始まったもの」
だから、自分は魔女の前から逃げられないのだ。そう彼は続ける。
「心配はいらない。スザクが君を守るように、私が彼を守る」
必ず二人で追いかけるから。言葉とともにライは微笑んで見せた。
「ライ……」
「思い出した」
ルルーシュの呼びかけを遮るように緑色の髪の魔女が叫ぶ。
「何、C.C.」
知っているの? とマリアンヌが問いかける。
「ラインハルト、だ、そいつは」
ラインハルト・ブリタニア……とC.C.は言葉を重ねた。
「……狂王?」
その名前を知っているのだろう。ルルーシュは小さな声で呟いている。
「あぁ、私も思い出したぞ。我らを解きはなってくれた恩人故、その願いを叶えてやろうと思ったのに、恩を仇で返した愚か者か」
あのままであれば、世界の覇王となれたものを……とマリアンヌがあきれたように告げた。
「たとえ世界を手に入れようと、大切なものを守れぬ己にどれだけの価値があるというのか」
そんな自分に価値はない、とライは言い切る。
「そうだね」
確かにその通りだ。スザクは静かに頷いてみせる。
「スザク?」
どうしたんだ? とルルーシュが視線を向けてきた。
「ごめん、ルルーシュ」
そんな彼の体を、スザクは遠慮なく抱き上げる。
「……悪いが、剣を借りるぞ」
ライが、そんな彼の手から剣を取り上げた。
「おい!」
それに、思わずスザクは反論をしようと口を開きかける。
「どうせ、外にはキャメロットが来ているんだろう?」
お前の剣はもっと別のものではないか。そう言われて納得してしまう自分がおかしいのか、と首をかしげたくなる。
第一、他人の剣では使いにくいのではないか。
「必ず、返しに来いよ?」
しかし、ある可能性に気付いて、スザクはこう言う。
「わかっている」
にっ、とライが笑い返してきた。それを確認して、スザクはルルーシュを抱えたまま走り出す。
「スザク!」
何を、とルルーシュが叫ぶ。
「君がキングなんだよ! 連中にとられたら、その時点でチェックメイトだ」
ルルーシュにわかりやすいように、とチェスになぞらえて言葉を口にする。
「だから、今は逃げるんだ!」
あの二人は大丈夫、とスザクは続けた。
「君を安全な場所に預けたら、ランスロットで僕が戻ってもいいんだし」
だから、と続ければ、ルルーシュは口をつぐむ。あるいは、口を開いている余裕がなかったのかもしれない。それならそれで構わない、と心の中で呟きながら、スザクは足を速めた。
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09.06.12 up
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