トウキョウ租界に戻ったルルーシュが真っ先に足を向けたのは図書館だった。もちろん、スザクとライも同行している。
「それで……何の本を探してくればいいの?」
 スザクがこう問いかけて来た。どうやら、力仕事は自分の役目だ、と認識しているのか。
「とりあえず、歴史書だな」
 できれば、まだブリタニアがブリテンにあった頃。そして、十字軍が派遣されていたあたりのことが詳しく書かれている本がいい。そう告げる。
「……もう一回言って?」
 お願い、とスザクが聞き返してきた。
「早くて聞き取れなかった」
 小さな声でこう付け加えられて、ルルーシュは一瞬目を丸くする。
「……一緒に行って僕たちが選んだのをスザクに運んで貰った方が早いかもしれないね」
 フォローなのか――それともあきれているのか――ライがため息とともにこういった。
「そうだな」
 しかし、それは正しい指摘だろう。
「その方が早そうだ」
 何よりも、今は時間が惜しい。いつ、また、魔女達が騒ぎ出すのか、わからないのだ。だから、とルルーシュは立ち上がる。
「……ごめん……」
 スザクが肩を落としながらこう言ってきた。
「気にするな。お前はあくまでも力仕事担当だ、と言うことだろう?」
 それでラウンズが務まっているのかどうか。それが不安だ。しかし、強ければいいのなら、構わないのか……と思い直す。
「運ぶ方は任されるよ」
 調べる方は無理だけど、とスザクは、素直に口にした。
「まぁ、そちらの方は僕が手伝えるから大丈夫か」
 苦笑と共にライが続ける。そして、彼もまた腰を上げた。
 そのまま、書架の方へと三人で移動をする。
「思ったよりも、少ないんだな」
 だが、アメリカ大陸に移住してからのそれはたくさんあるのに、それ以前のものは本当に数えるほどしかない。
「ひょっとしたら、閉鎖書架の方にあるのか?」
 それとも、研究室の方にそそっているのだろうか。だとするなら厄介だ、とルルーシュは眉根を寄せる。
「とりあえず、ここにある分を調べてみるか」
 それでダメならば、諦めて司書に聞けばいい。
「……何を調べたいんだ?」
 調べたい内容によっては、別のアプローチが出来るかもしれないのではないか。ライの言葉に、ルルーシュは一瞬考え込む。しかし、彼等に協力を求める以上、話しておいた方がいいのは事実だ、と思い直した。
「……ある人物が、実在していたかどうか、だ」
 一番知りたいことは、おそらく史実に残っていないだろう。だが、彼等が実在していた人間だとわかれば、自分の中で可能性が確証に代わるのだ。ルルーシュはそう告げる。
「おそらく、それなりに有名な《騎士》だったはずだ。直接ではないが、現在のブリタニアの皇族に繋がる者達だとも思う」
 紋章に共通点があったから。ルルーシュの言葉に、ライは少し考え込む。
「……名前がわかっているなら、系図で調べられないわけ?」
 不意にスザクがこう言ってきた。
「スザク?」
「……名前と時代がわかっているなら、たどっていけば何とかならない、のかな?」
 日本の宮家であれば、そうやって調べることがあるのだ……と彼は続ける。おかげで、自分は代々の天皇の名前は暗記させられたんだよな……と苦笑と共に付け加えた。
「王か、それに連なるものなら、確かに家系図に記されているかもしれないな」
 問題なのは、そうではないときだ。
 だが、その時にはその時でまた、あれこれ考えればいいのか。そう思い直す。
「なら、それも持っていくとして……後はここである資料も持っていってそれから分担すればいいか」
 三人で手分けをすれば、確認だけならば直ぐに出来るだろう。ライもそう言って頷く。
「なら、どれを持っていけばいいの?」
 まずはそれからだよね? とスザクが口を挟んでくる。
「……とりあえず、黙って手を出してろ」
 この言葉に、彼は素直に両手を差し出した。その上に遠慮なく本を積み上げていく。ルルーシュならば既に運べないくらいになっていそうな冊数になっても、揺るぎもしないスザクの腕力に、感心してしまったことは否定できない事実だった。

「とりあえず、スザクは系図を頼む」
 名前だけを確認すればいいから、きっと楽だろう。そう思いながらルルーシュは彼の方に系図が載った本を押しやる。
「なんて言う名前を探せばいいの?」
 少しだけ頬を引きつらせながらもスザクが問いかけてきた。
「エリアノールとリシャール、だ。おそらくエリアノールが母親、だろうな。リシャールは若い頃になくなったと思われる」
 自分が見た光景の中から推測できた事実をルルーシュは付け加える。
「わかった。それで、十字軍の頃だから……十二世紀ぐらい?」
「そうだろうな」
 スザクの問いかけに、ルルーシュは頷いて見せた。
「……それならば、十二世紀初頭のあたり、だな」
 その二人が母子だとするならば、とライが告げる。
「ライ?」
 知っているのか、と彼へと視線を向けながら問いかけた。
「一応は。私が《誰》だったと思っている?」
 スザクではないが、一応、歴代の王の名前ぐらいは覚えている。そう言って彼は笑った。
「ついでに、その母君の名もな」
 今のブリタニアに負けないくらい――と言っても、まだ、新大陸は発見されていなかったが――巨大な領土を持っていた王だ、と彼は口にする。
「……リシャール一世か」
 そこまで言われれば、ルルーシュにも当該人物が誰なのかわかった。
「って、あの?」
 昔話にもなっている結構有名な王様だよね……とスザクも口にする。
「知っているのか?」
「……名前だけって言うか……昔、アニメで見たんだよ」
 笑うなよ、と彼は付け加えた。
「そう言うことか」
 スザクが覚えているのなら、そう言うところだろう……とルルーシュは納得をする。
「それよりも、その人がどうしたわけ?」
 逆にスザクが聞き返してきた。
「ここで話すのはまずい」
 だから、とりあえずどんな些細な記述でもいい。彼のことが載っている部分を見つけてコピーしてくれ、とルルーシュは言う。
「その後で……ライと彼に確認をして、だな」
 そこで確証が得られたなら、その時に話をする。そう付け加えれば、スザクは黙って頷いてくれた。ただ、ライは何かというように目をすがめている。
「……確かに、ここで話をすると皆の邪魔になるか」
 だが、直ぐに引き下がってくれた。

 もっとも、それも特派が使っているトレーラーに戻るまでだ。
「で? 何を聞きたいんだい?」
 そこで待っていたV.V.も含めて事情を知るメンバーだけになった瞬間、ライがこう問いかけてくる。
「……魔女も《ギアス》にかかるのか?」
 一瞬ためらった後、ルルーシュは問いかけの言葉を口にした。
「ルルーシュ?」
 いきなり何を、とライは聞き返してくる。
「あの時……魔女達にギアスをかけているシーンを見たんだ」
 その言葉に、ライは一瞬考え込むような表情を作った。
「残念だが、私は実行に移したことはない」
 そして、それに関する答えも自分の内にはない……と彼は続ける。
 なら、彼はどうなのだろうか。
 そう思いながら視線をV.V.に向けた。
「……残念だけど、僕にもはっきりと『是』とは言って上げられない」
 自分の中にも、そのころの記憶はおぼろげにしかない……と彼は口にする。
「でも、可能性がないわけじゃないよ。誰もしたことがないだけだ」
 自分が知っている中で《絶対遵守の力》を持っているのはルルーシュとライだけだ。そして、魔女との契約なしに《ギアス》を得たものはルルーシュしかいない。
「魔女が与えた《ギアス》は魔女には通用しない。でも、持って生まれた力はどうなのか、実験したことはないからね」
 さて、どうしようか……と彼は首をかしげる。
「V.V.さん?」
「実験だけなら、僕でも出来るけどね」
 でも、C.C.に通用するかどうかはわからないが……と彼はそのまま付け加えた。
「それ以前に、ルルーシュがギアスの使い方を思い出さなければいけないけどね」
 確かに、それが一番優先すべきことだろう。
「ギアスの使い方……」
「君は、今までに何回か使っている。ただし、無意識でね」
 だから、それを自分自身の意志で使えるようにならなくてはいけない。でなければ、肝心の時に役に立たないのではないか。その指摘はもっともなものだ。
「大丈夫。昔の君は使えていたよ」
 だから、そのこつさえ思い出せれば、直ぐに使えるようになる。
「……思い出さなければいけないことがたくさん、だな」
 その言葉に、ルルーシュはこう呟く。
「思い出したくないことはあんなにあっさりと思い出せたのに」
「……ルルーシュ……」
 こう続けた瞬間、彼の肩をスザクがそっと抱きしめてくれた。





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09.07.20 up