「……これから、どうするの?」
スザクがいきなり、こう問いかけてくる。
「どうって……ギアスの使い方を思い出さないと……」
「じゃなくて、今日のこと」
このまま、特派のトレーラーに泊まり込むつもりか。とスザクはさらに問いかけてきた。
「それでも、俺は構わないが……」
だが、それは逃げなんだろうな……とルルーシュはため息とともに言葉を重ねる。
「きっと、戻れば……義父上達と顔を合わせないわけにはいかないし」
その時、どのような表情で彼と向き合えばいいのか、まだわからないのだ。そうも彼は続けた。
「それでも……会った方がいいよ」
この七年間、ルルーシュが《父》と呼んできたのは、間違いなく彼だ。何よりも、彼は全てを知った上で愛情を注いでくれていたのではないか。スザクはそう告げる。
「それに、顔を合わせてしまえば何とかなるものじゃないの?」
すんなりと、と彼はさらに言葉を重ねた。
「そうか?」
行き当たりばったりという状況が苦手だとスザクは知っているはずなのに。そう思いながら聞き返す。
「そうだよ。だから、気にしなくていいんじゃないかな?」
気になるなら、料理でも作っていれば? とさらにとんでもないセリフを彼は口にしてしまう。
「ダールトン将軍やグラストンナイツの人たちに食べて貰いたい料理を、ルルーシュならいくつでも思い浮かぶでしょ?」
逆に、シャルルに食べさせたい料理は思い浮かばないのではないか。
そう言われて、ルルーシュは頷いてしまう。
「つまり、そう言うことだよ」
陛下には悪いけどね、とスザクは笑った。
「……意味がわからない……」
ルルーシュはため息とともに言葉をはき出す。
「簡単なことだろう?」
そう言ってきたのはスザクではない。V.V.だった。
「ルルーシュは、ダールトン達の好きな料理は知っていても、シャルルの好物は知らない、と言うことだよ」
しかし、シャルがその事実に気付いたら、こっそりと落ちこむだろうね……と彼は笑う。
「でも、ルルーシュの料理は僕も食べたいかな」
さらに彼はこんなセリフを口にしてくれる。
「あぁ、僕も食べてみたいな」
それにライまでもが同意して見せた。
「ライ」
「リヴァルがさんざん、ルルーシュの手料理のおいしさを自慢してくれたからね。是非とも食べたいんだよ」
自分たちの時には、歓迎会がなかったし……とさらに彼は付け加える。
「そう、だったけ?」
したような気がするのは錯覚だろうか。
「そうでなくても……ルルーシュの手料理は食べたいかな、僕は」
できれば、ロイド達に邪魔をされない環境で……とスザクは締めくくる。
「しかたがないな」
確かに、彼等にはあれこれ手伝って貰っているし、何よりも、自分もいい加減、デリバリーの画一的な料理の味にはあきてきた。何よりも、料理は気分転換にいいだろう。
「買い物に付き合えよ?」
荷物持ち、とルルーシュはスザクへと視線を向ける。
「その位、おやすいご用だよ」
いくらでも運ばせて頂きます……と彼は口にした。
「そうだね。その位なら、僕も手伝えるかな?」
ライも口を挟んでくる。
「じゃ、僕は先に行っているよ」
流石に自分が一緒では目立ちすぎるだろうから。V.V.の言葉の裏に、魔女達の存在があるのだろうということは確認しなくてもわかる。
「わかりました」
どうせ、一人だと食欲がわかない。だから、とルルーシュは頷いて見せた。
しかし、ダールトンが部屋で待っているとは思わなかった。
いや、その可能性はわかっていたのに、どうしてそれを除外していたのだろうか。自分の迂闊さにあきれたくなる、と言った方が正しいのか。
「……ルルーシュ……」
だが、彼の方も困惑を隠せないといった表情で彼の名を呼んだ。その後、唇が震えたのは、間違いなく敬称を付けるべきかどうか悩んだから、だろう。
「義父上……」
ルルーシュもまた、何と言えばいいのかがわからない。しかし、無意識に唇からこぼれ落ちた呼びかけは、言い慣れたものだった。
「まだ、そう呼んでくれるのだな」
ぎこちなさを隠せないまま、それでもダールトンは微笑んでくれる。
「……少なくとも、この七年間、俺が《父》と呼んでいたのはあなたです」
それ以前も、シャルルに関して言えば血の繋がった《父》と言う意識よりも《皇帝》としての認識の方が強かったような気がする。
だから、本当の意味で《父親》としての温もりを与えてくれたのは、目の前にいる相手だ。
「確かに、記憶はもどりましたが……だからといって、皇族に戻ったわけではありません」
そして、この七年間が消えるわけではない。だから、と口にしたところで、先ほどのスザクの言葉の意味がようやく理解できた。
「今、俺が《義父》と呼べるのはあなただけだと思いますが?」
自然に唇からでたこの言葉に、彼は目を丸くする。
「……そうか」
だが、直ぐにこう呟いた。
「それよりも、どうしてここに?」
何かあったのか、と言外に問いかける。
「別に、何があった……と言うわけではないのだが……」
ダールトンはそう言いながらルルーシュ達の姿を順番に見つめていく。
「姫様に『少し休んでこい』と命じられたのだが……他に行く場所を思いつかなくてな」
ルルーシュは戻っていないかもしれない、それでも、ここに来てしまったのだ。そう彼は告げる。
「そう言うことでしたら……」
視線だけで、先にキッチン荷物を運ぶよう、スザクに指示を出しながらルルーシュは口を開く。
「これから夕食を作りますので、ご一緒にいかがですか?」
遠慮はしなくていい。これだけの人数がいるなら、一人分ぐらい増えても手間は変わらないから、とルルーシュは付け加える。
「そうだね。ルルーシュが料理をしている間にこちらの状況も確認しておきたいし」
こう言ったのはV.V.だ。
「そうして置いてください。必要だと思うことは、あなたの口から義父上に説明を」
きっと、今、一番冷静に物事を伝えられるのはV.V.だろう。ルルーシュはそう告げる。
「そうだね。そうさせて貰おう」
料理では何も手伝えないけれど、それなら大丈夫だ。そう言って笑う彼にルルーシュは頷いて見せた。
ゼロの機嫌が悪い。それはどうしてなのだろうか。
誰もがそう考えている。しかし、問いかけられる者はいない。いや、それ以前に側に寄ることが出来ない、と言った方が正しいのか。
「……藤堂さんでも声をかけられないなんて……」
ゼロの傍で、ただ黙ってたたずんでいる彼の姿が、さらに近づくことをためらわせるのだ。
「本当に、何があったんだろう」
知っている? と傍にいる井上に問いかけてみる。
「わからないわ」
ただ、と彼女は続けた。
「ディートハルトさんも何か慌てていたようよ」
何か、自分たちの知らないところで動いている者達がいるのかもしれない。その言葉に、カレンは眉根を寄せる。
「どうしてゼロはそれを私たちに教えてくださらないのかしら」
自分たちが信頼されていない、とは思っていない。だが、とカレンは心の中で付け加える。
「……私たちはともかく、あなたは合流していなかったからじゃないの?」
ふっと思いついたというように井上がこう言ってきた。
「ゼロが戻ってきたのも、あなたと変わらないもの」
その前も、カレンは学校に行っていたではないか。そうも彼女は続ける。
「あなたはあなたで任務があったのでしょう?」
そちらに専念して欲しかったのかもしれないし、と言葉を重ねられては納得しないわけにはいかない。
「そうね」
もっとも、それは成功したのかどうかはわからないが。カレンは小さなため息とともに言葉をはき出した。
「……そう言えば、あの子の姿が見えないわね」
今気が付いたというように井上が呟く。
「あの子?」
「ゼロの傍にいたあの子よ」
どこに行ったのかしら? と彼女は首をかしげている。
「戦闘が始まるまでは、校内にいたんだけど……」
その後はわからない。自分も探したのだが見つからなかった、とカレンは言った。
「そうなの?」
「えぇ」
そう言えば、ルルーシュもいなかったような気がする。ひょっとして、関係があるのだろうか。
確認してから合流した方がよかったのかもしれない。しかし、それではここに来られなかった可能性があるし、と呟いていたときだ。
「カレン」
不意にゼロが彼女の名を呼ぶ。
「何でしょうか、ゼロ」
反射的に言葉を返す。
「どうしても、彼にこちらに来てもらわなければいけないようだ。強引にでも」
だから、とゼロは言葉を重ねる。
「すまないが、彼の行動を確認してくれないかな?」
そして、タイミングを見計らって連れてきて欲しい。もちろん、必要な人員は手配しておく。そう付け加えた。
「ゼロ……」
いきなりどうしたのだろうか。本気で焦っているような気配が伝わってくる。
だが、そうしなければいけない、とゼロが判断したのだろう。
「わかりました」
だから、直ぐに表情を引き締めると言葉を返す。
「必ず、ご期待に応えて見せます!」
カレンのこの言葉に、ゼロは満足そうに頷いて見せた。
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09.07.24 up
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