「……では、私は政庁に戻る」
決して一人にならないように。そう言い残すと、ダールトンはマンションを後にする。
「僕たちも今日の所はおいとまさせてもらうよ」
それを見送った後、V.V.がこういった。
「シャルルの様子を見てこないと」
それに、あれこれ情報を集めてきた方がいい。そうでなければ、今後の行動を決めかねるだろう? と彼は続ける。
「そうだね……あの子の事も気になるし」
ライもこう言いながら立ち上がった。
「あの子?」
誰のことだろう、とルルーシュは思わず呟いてしまう。
「ロロだよ。どうやら、あちらの関係者らしかったからね。捕まえておいたんだ」
どうやら、ギアスも持っているらしい。だから、自分以外の人間では手に負えないのではないか。そうも彼は続ける。
「一応、嚮団の人間に見張らせてあるけどね」
彼等はギアスについての知識を十分与えられているから、とライは教えてくれた。
「協力させるために作った組織だしね」
自分が、と彼は自嘲の笑みと共に言葉を口にする。
「そのおかげで、色々と手間が省けているのだからいいんじゃないですか」
全ては、魔女が世界に関わることをやめさせるためだ。それさえ叶えられるのであれば、解散しても構わない組織だろう、と続ける。
「それについては後で考えればいい。今は、今でやるべきことをするだけだね」
ライはこう言って会話を締めくくった。
「そう言うことだから、後を頼むね」
彼は言葉とともにスザクを見つめてくる。
「わかってます」
大丈夫だ、と頷き返す。
「じゃ、また明日……」
それを確認して、二人とも部屋を後にする。
その瞬間、いきなり室内が広くなったような気がするのは錯覚だろうか。
沈黙が部屋の中に満ち始める。そうなると、何か気まずいと思えるのはどうしてだろう。先ほどまでは何でもなかったのに。
「とりあえず、片づけないとね」
その気まずさを振り払おうというのか。スザクがいきなり立ち上がった。その瞬間、何故かルルーシュは彼の服の裾を握りしめてしまう。
「ルルーシュ?」
どうしたの? とスザクが問いかけてくる。
「……あっ……」
そう聞かれても、意識してやった行動ではない。自分でもどうしてこんな行動を取ったのかわからないのだ。
「とりあえず、僕はどこにも行かないよ」
ただ、これを片づけて来ようと思っただけ。そう言ってスザクは微笑みを深める。
「一人になるのが嫌なら、一緒に運ぼうよ」
そうすれば、大丈夫でしょう? とその表情のまま問いかけてきた。
「俺は、別に……」
そんなつもりでは、とルルーシュは慌てて口にする。
「一緒にいてくれると、僕も安心だから」
ね、とスザクは付け加えた。どうして、彼はこんなにすんなりと本心を口に出来るのだろうか。
それとも、これは自分を安心させてくれるためのものなのだろうか。
こんなことを考えていたときだ。
「それとも、僕と一緒にいるのはいや?」
いきなりスザクはこう問いかけてくる。
「何故、そう言うことになる」
別に、嫌だとは言ってないだろう……とルルーシュは言い返す。
「ただ……お前にもしなければいけないことがあるのではないか、と思っただけだ……」
さらにこう付け加えた。
「ルルーシュのこと以外に、優先することなんてないよ」
即座にスザクが言葉を返してくる。
「他のことなら、代わりにやってくれる人がいるから」
だから、気にしないで……と彼は続けた。
「それとも、僕がここにいると邪魔?」
もっとも、ルルーシュに何かあったときに直ぐに駆けつけられるようにしなければいけないから、ドアの前にいることになるけど。その位は許して欲しい。スザクはさらにこう言ってくる。
「迷惑であるはずがないだろう」
むしろ、ここにいてくれて安心できるというのに、という言葉は口にしない。
「いたければ、いればいい」
仕事がないなら、別に追い出そうとは思わない……と続ける自分に、少しだけ嫌になってしまう。どうして、素直になれないのか。
「うん。ありがとう」
それでも、スザクは嬉しそうにこう言ってくれる。
「別に……礼をを言われる事ではない!」
ものすごく気恥ずかしく思えるのはどうしてなのか。それはわからない。それでも、気分を変えようと、ルルーシュは目の前のカップをお盆の上に移動させ始める。
「だから、僕がやるよ」
それを見て、スザクも手を出してきた。
偶然だろう。スザクの手がルルーシュのそれに触れる。
その瞬間、自分の心臓が大きく高鳴るのをルルーシュはしっかりと感じてしまった。
「……困ったわね」
カレンはこう呟きながら、眉を寄せる。
ルルーシュを拉致しなければいけないのに、肝心のルルーシュが学校に来ていないのだ。これでは、ゼロの命令を遂行することが出来ない。
「ロロの行方もわからないし……」
これでは、八方ふさがりではないか。
だが、と直ぐに思い直す。あの噂が本当なら、ことが収まるまで、ルルーシュが学校に来ることはないように思える。
「いったいどうすればルルーシュに会えるのかしら」
もしくは、彼が学校に出てこざるを得ない状況を作れるか、だ。
「といっても、それが難しいのよね」
ルルーシュだけではない。自宅通学の者達の多くが欠席をしている。それは、間違いなく安全を確保できないからだ。
いや、彼等だけではなく、寮にいる者達の中にも本国へと戻っていく者も多くいるのだ。
ルルーシュもその中の一人かもしれない。
彼の養父は、あのダールトン将軍だし……とカレンはため息をつく。
「だからといって、諦めるわけにはいかないし」
本当にどうすればルルーシュを引っ張り出せるのだろうか。
「いっそのこと、あたしを人質にとって貰おうか」
名目だけでも、と考えて、カレンは直ぐにその意見を捨てる。残念なことに自分はルルーシュとそんなに仲がいいわけではない。あるいは、自分の顔と名前が一致しないのではないだろうか。
そんな人間のために、彼が危険を冒すはずがない。
しかし、彼が大切にしている人間なら、ひょっとして……と心の中で呟く。
「ダメね、それも」
ルルーシュの親しい人間について思い浮かぶ者達はいる。しかし、そのためには学園内に黒の騎士団のメンバーが潜入しなければいけない。だが、それが難しいのだ。
「この周囲は、警戒が厳しいから……」
名誉ブリタニア人であろうと、迂闊に近寄ることが出来ない。
「ひょっとして、ルルーシュが登校していないのはそのせいもあるのかしら」
彼の護衛――それだけでは無さそうな気がするが――を務めているスザクは名誉ブリタニア人だ。いくら軍人とはいえ、この状況でのこのこと歩いていれば即座に職務尋問されかねない。
だから、ルルーシュも迂闊に出歩けないのではないか。
「もう、堂々巡りね」
本当にどうしようか、とカレンは頭を抱えたくなる。しかし、校内でそんなことは出来ないし……と心の中で付け加えた。
「設定、間違えたわね」
病弱という設定になんてしなければよかった。そう呟いたときだ。
「なら、ブリタニア人を使えばいいだろう?」
頭の上から聞き覚えのある声が響いてくる。
「C.C.! あんた、何でここに」
反射的にこう叫んでしまう。だが、直ぐにカレンは自分の口を手で塞いだ。そして、周囲を見回す。どうやら、幸いなことに、今の叫びを聞いたものはいないらしい。
「お前の手助けをしてやろうか、と思っただけだ」
流石に煮詰まっているようだからな、と彼女は言い返してくる。
「……ゼロが?」
「否定はしないが……心配するな。あいつも今、どのような状況かわかっている」
あちらが警戒していることも、と彼女は続けた。
「だからこそ、お前にあれを拉致してくるように命じたんだろうが……あちらも馬鹿ではないと言うことだ」
それだけ、ルルーシュを奪われるのがいやなのだろう。逆に言えば、あれを手に入れられれば、こちらが有利ということだ。
「ディートハルトに命じて、適当な連中を用意させよう」
そのあたりのことを打ち合わせないとな、と付け加える彼女に、カレンは頷き返した。
・
09.07.27 up
|