ゼロは髪をまとめる。そして、仮面へと手を伸ばした。
「餌に食らいつくと思うか?」
 その背中に、C.C.が問いかける。
「多分ね」
 カレンの話が本当であれば、来るだろう。そう言い返す。
「もっとも、回りがどう出るか。そちらの方が問題だな」
 ルルーシュが無謀なことをする前に消そうとするか。それとも……とゼロは首をかしげる。
「いや、それはないな」
 そして、直ぐに己の言葉を否定した。
「そうすれば、ブリタニアがあの子に恨まれることになる」
 こちらとしては、その方がありがたい。だが、シャルル達はその方法を選ばないだろう。
「では、どう出ると思う?」
「答えは一つしかないと思うが?」
 おそらく、人質を取り返すために動くはずだ。もっとも、それがコーネリアの部隊かどうかはわからない。
「嚮団、という可能性もあるだろうしな」
 連中が出てきたら、本当に厄介だ。笑いながら、C.C.がこう言ってくる。
「否定は出来ないな」
 悔しいが、とゼロは口にした。
「ロロは、連中に押さえられてしまったようだしな」
 そして、帰ってこない。つまり、あの子のギアスを押さえ込める人間がいると言うことだろう。
 いや、他にもいるのかもしれない。
「できれば、あの子が力の使い方を思い出す前に手に入れたかったのだけど」
 あまり悠長なことは言っていられないのかもしれない。
「しかたがあるまい。何事も、時期というものがある。我らはそれを逸してしまったのだろう」
 最良の時は、七年前のあの時だった。
 だが、それは最後の最後で覚醒したナナリーによって阻まれてしまった。
「あの子にも、もう少し目を向けておくべきだったな」
 ルルーシュの実の妹なのだ。あの子も生まれつき《ギアス》を持っていたと考えるべきだったのではないか。
「ということは、やはり、二つの血筋を一つにしなければいけなかった、ということだな」
 もっと早くにわかっていれば……とC.C.は呟く。
「……だが、我らの手にあった系統は、マリアンヌが最後だ」
 自分たちにとって、ルルーシュが最後の望みだ……とそうも彼女は付け加える。
「わかっている。必ず、我らの《王》を取り戻してみせる」
 そして、我らの望んだ世界を必ず手に入れるのだ。
「あの方々も、それを望んでいるはず」
 過去に、何度もその可能性はあった。それを奪ってきたのは、ブリタニアだ。だから、その地を引く者によって世界を正しい方向へと導かなければいけない。
 こう告げながら、ゼロは仮面で己の素顔を隠した。

 ライが戻ってきたのは、夜が明ける前だった。
「起きていたのか?」
 少しあきれたように彼は言葉を口にする。
「しかたがないんじゃないですか?」
 そんなライの背後から聞き覚えのある声が響いてきた。視線を向ければ、目立たないようにというのか、アッシュフォード学園の制服を身に纏っているジノの姿が確認できる。
「ジノ、いいの?」
 スザクはこう問いかけた。
「ヴァルトシュタイン卿がおいでだからね。私はとりあえず自由にしていていいらしい」
 だから、スザクの手助けに来ただけだ。そう言って彼は笑う。
「どうせなら、先輩の顔を見ていたいし」
 それは理由になるのか。思わず頭を抱えたくなったのはスザクだけではないだろう。
「それに、ミレイ会長もリヴァル先輩も大切な友人です」
 だから放ってはおけないのだ。そう続けた。
「まぁ……リヴァル先輩がいるからミレイ会長は絶対無事でしょうけど」
 何か意味ありげな口調で告げられた言葉に、ルルーシュが眉を寄せる。
「ジノ……お前、リヴァルと以前から知り合いだったのか?」
 その表情のまま、彼はジノに問いかけた。
「母方の親戚です。父親とケンカをして家出をしていたと聞いていたのですが……どうやら、違ったようですね」
 一目ぼれをした相手を追いかけていたとは思わなかった。そう続けられた言葉から、リヴァルが彼にルルーシュの本来の身分を告げていないのだとわかった。それとも、彼も知らないのだろうか。
 どちらにしても、彼のルルーシュに対する気持ちが偽りだとは思わない。
 ルルーシュだってそう考えないはずだ。
「……そう言えば、リヴァルが今名乗っている家名は、母方のものだそうだ」
 ひょっとして、それも関係があるのか……とルルーシュは呟く。
「父親と仲が悪いのは事実です。だから、誰も彼の家出の理由が父親の存在だと言うことを疑わなかったんですよね」
 まぁ、その誤解を、あえて解こうとはしないような父親だから、仲が悪いのだろうけど。そうもジノは続けた。
「しかし、リヴァル先輩を拉致するなんて……ある意味無謀ですよね」
 今頃、拉致した犯人達の拠点はどうなっているだろうか。そんなことも彼は続ける。
「リヴァルはそんなに強いのか?」
 とてもそうは思えなかったが、とルルーシュは首をかしげた。
「強さで言えば……一般兵程度ですね」
 ただ、とジノは目を細める。
「破壊工作は凄いですよ」
 材料さえあれば、その場で爆弾の一つや二つ、簡単に作るのではないか。
「信管と火薬は身だしなみとか言っていましたし」
 服のあちらこちらに隠し持っているから取り上げられていないのではないか。その言葉に、ルルーシュの頬が引きつった。
「……大丈夫だよ、ルルーシュ。火薬はそれだけでは爆発しないから」
 リヴァルがそちら方面にエキスパートだというなら、きっとちゃんと方策をとっているはず。そうスザクは告げる。
「俺が心配しているのは、それじゃない!」
 それに彼はこう言い返してきた。
「お祭り好きの会長がいるんだぞ! 普通に逃げ出すだけですむと思うか?」
 ミレイの座右の銘は『目には目を、歯に歯を。やられたことには三倍返し』だ、と言い切る。
「……犯人達だけならばいいが……周囲に被害が出ていたら……」
 そして、抵抗したことで二人がケガでもしたら……とルルーシュは不安そうに顔を歪めた。
「その前に、私たちがたどり着けばいいだけです!」
 何かあれば直ぐに連絡が来るように手配はしてある。そう言ってジノは笑った。
「ヴァルトシュタイン卿とダールトン将軍が確約してくださいましたから、大丈夫でしょう」
 確かに、それならば大丈夫ではないか。
 でも、それだけでは不十分だ。
「でも、何が足りないんだ?」
 そのうちの一つはわかっている。
 だが、それ以外にも何かが足りない。だから、ピースが埋まらないのだ。
「……ともかく、状況を整理するしかないのか」
 そうすれば、答えが見つかるかもしれない。ルルーシュはそう呟いていた。

 アジト内で次々と爆発が起きている。
「……まさか、リヴァルにあんな特技があったなんて」
 周囲の者達に指示を出す合間に、カレンはこう呟く。
「ひょっとして……会長にも何か特技があったりするわけ?」
 あんなヤバイ、と彼女は付け加える。
「……あいつら、捕まえたらただじゃおかねぇぞ」
 この状況にきれたのだろうか。一人がこう言っているのが耳に届く。
「あんた達がしっかりと二人の身体検査をしなかったからでしょう!」
 そうしていれば、彼等があんなヤバイおもちゃを持ち込んでいると最初にわかったはずだ。
「多少のケガをさせるところまでは妥協する。しかし、動けなくなるようなケガはダメよ。それから、見えるような場所にも傷を付けないで」
 彼等は交渉に必要な人材なのだ。傷を付ければ、その結果、交渉が決裂するかもしれない。
「それでは、ゼロの作戦が失敗する!」
 この言葉で彼等が妥協してくれればいい。そうでなければ、自分が彼等をしめなければいけないだろう。
 いくら、ミレイ達に自分の正体を気付かれないようにするためとはいえ、こんな連中を使ったのは失敗だったかもしれない。
「まぁ、もうばれているかもしれないけど」
 それは最初から覚悟の上だ。
 何を捨てても、自分は日本を取り戻さなければいけない。それが兄の願いでもあったのだ。
 でも、彼等が《友人》と呼べる存在であったことも事実。
「必要なら、紅蓮弐式も使う。だから、絶対に傷つけないで!」
 だから、せめてその命だけは守ってやりたい。それだけは譲れない条件だ。それで許してもらえるとは思えないが……とカレンは心の中で呟いていた。





INDEXNEXT




09.08.03 up