ジノの携帯が着信を告げる。
「ちょっと席を外します」
言葉とともに、彼はルルーシュ達の側から離れていく。
「……聞かせられない内容なのかな?」
その動きを目で追いながら、ライがこう呟く。
「軍の機密、の可能性はあるだろうな」
ルルーシュはそれにこう言い返す。
「あいつは、あれでもナイト・オブ・スリーだ」
だから、ここのエリアに関わることではない情報が飛び込んできた可能性も否定できない。だとするなら、自分が聞いていいものでもないだろう。
「……ルルーシュならかまわないと思うけどね」
それに言葉を返してきたのはスザクだ。
「スザク?」
どういう意味だ、と言外に聞き返す。
「だって、ルルーシュだから」
それにスザクはこう言い返してくる。それが冗談ではないというのは、その表情からもわかった。
「確かに、ルルーシュなら知られても困らないだろうな」
シャルルも、とライまでもが口にする。
「もっとも、彼は知らないから……」
ルルーシュの秘密を、とスザクは言葉を重ねた。だから、気を遣ってくれたのではないか。そう彼が続けたときだ。
「スザク!」
ジノが難しい表情で彼の名を呼ぶ。
「何?」
「すまないが、ちょっと来てくれ」
スザクの問いかけにジノはこう言い返す。そのまま、また物陰へと移動していく。
「まったく……」
何なんだよ、と呟きながらスザクは立ち上がる。
「直ぐに戻るから」
さらにこう口にした。
「いいから、行ってこい」
まったく、とあきれたくなる。それでも、彼は心配しているのだと言うことはわかっている。
「ライが側にいるんだ。心配はいらないだろうが」
だから安心して行ってこい、とルルーシュはため息をつく。
「うん、ごめんね」
こう言い残すと、スザクはジノがいる方へと駆け出していった。
「本当に、スザクはルルーシュが大切なんだな」
感心しているのかなんなのかわからない口調でライがこう呟く。
「……本当に、あいつは……」
昔はあそこまで酷くなかったのに、ルルーシュはため息をついてみせた。
「まぁ、いい。ライに聞いてみたいことがあったんだ」
スザクがいないなら丁度いい。そう言いながら、視線を彼のへと向ける。
「僕に?」
それに、ライが少しだけ目を見開いて見せた。
「あぁ」
ライでなければ意味がない。いや、もう一人、問いかければ答えを返してくれるであろう人間に心当たりはある。しかし、彼は今ここにはいない。
「そうか」
その言葉だけで、ライはルルーシュが何を聞きたがっているのかわかったのだろうか。
「でも、僕でも答えられないことかもしれないよ?」
それは覚悟しておいてくれ、とライは言い返してくる。
「わかっている。でも、何か手がかりが欲しいんだ」
こんなこと、早く終わらせなければいけないのだ。でなければ、今度は誰を巻き込んでしまうかわからない。もう自分を支えてくれた人たちを危険にさらしたくないのだ。
ルルーシュはそう告げる。
「……とりあえず、何が聞きたいんだ?」
その言葉に、ライは真っ直ぐにルルーシュを見つめてきた。
自分のそれよりも青みが強い彼の瞳は、今はいない三番目の兄を思い出させる。もし、自分がもっと早くに記憶を取り戻していれば、彼は死なずにすんだのだろうか。そんなことを考えながらルルーシュは口を開く。
「ギアスを使うときに必要なものは、何だと思う?」
その力を使うために、何かが必要なのだ。
だが、それが何なのかはわからない。
わからなければ、前に進めないだろう。
「……僕も、意識して使っているわけではないが……」
だが、確か……とライは首をひねる。
「強い感情と確固たる意志、だったかな?」
最初に、そう聞いたような気がする……と彼は付け加えた。
「……強い感情と確固たる意志……」
彼の言葉をルルーシュは繰り返す。
その瞬間、何かが一瞬脳裏をよぎった。しかし、それは捕まえる前に消えてしまう。
「俺は……」
だが、確かにそれの正体を知っているような気がする。しかし、それが何なのかを思い出せない。
「……多分、ルルーシュの中にもう答えはあるんだよ」
ルルーシュの表情から何かを読み取ったのだろう。ライは優しい声音で言葉を綴る。
「必要な時には、きっと思い出せるよ」
本当は、そんなときが来ない方がよかったのだが。彼はそうも付け加える。
「しかし、遅いね」
さっさと戻ってくると思ったんだけど、とライは話題を変えるように口にした。
「……厄介ごと、なのか?」
不安そうにルルーシュは二人がいるはずの方向へ視線を向けながら呟く。
「それとも、対策を話し合っている最中なのか?」
どちらなのだろうか。
「あるいは、事実確認に手こずっているか、だな」
「可能性はあるな」
もし、暴れているのがリヴァル達であれば、だ。絶対に直ぐには信じられないだろう。
「とりあえず、戻ってくるのを待つしかないかな」
ライがため息でこう呟く。
「わかっていると思うけど、勝手に出歩かないように」
そんなことをしそうだ、と判断したなら即座に縛り上げるから……とライはにこやかな口調で告げる。
「……わかっている」
宣言した以上、彼は実際にやるだろう。そして、自分の身体能力を考えれば、ライから逃れるのは難しいのではないか。そんな姿をスザクに見られたくない。そう考えて、ルルーシュはため息混じりにこういった。
結局、二人が戻ってきたのは三十分以上経ってからのことだった。
それだけならばあきれるだけですんだだろう。問題なのは、いつの間にか彼等がパイロットスーツを身に纏っていたことだ。
「……二人とも、悪いけど出かける準備をしてくれる?」
厳しい表情を店ながら、スザクがこう言ってくる。
「それは構わないけど……ナイトメアフレームで移動するのか?」
ならば、自分たちは別行動をした方がいいのではないか。そう告げたのはコクピットの狭さを知っているから、だろうか。
「いや……特派のトレーラーが来ているから」
それで行けるところまで行ってからコクピットに移動してもらうから、とスザクが言い返してくる。
「ライ先輩は操縦できると聞いたので、グラスゴーを用意してあるから」
本当はサザーランドぐらい用意したかったのだが、とジノが告げた。
「別にいいよ。とりあえず僕は戦闘には参加しないから」
ルルーシュと一緒に乗って護衛をしていればいいのだろう、とライは聞き返す。
「……いや、ルルーシュは僕と一緒、かな? ライのコクピットにはあの人が乗るから」
トレーラーに行けばわかるよ、とスザクは微妙に頬を引きつらせながら告げた。
「……まぁ、だいたい誰が待っているのかわかったけど、な」
苦笑と共にライは呟く。
「……確かに、いて貰った方がいいのか」
自分が考えているような状況なのであれば。ルルーシュは口にする。
「スザク」
そのまま、彼に呼びかけた。
「何?」
「今、租界はどうなっているんだ?」
何事もないのであれば、トレーラーなどという目立つ移動手段を執らないのではないか。そう思って問いかける。
「……大丈夫。租界の内部まではまだ進軍されてないから」
だからこそ、早々に片づけなければいけないのだが、とスザクは教えてくれた。
「総督閣下達は出撃されているわけか」
ならば、とルルーシュは眉根を寄せる。
「多分ゼロとあの魔女が出てくるな」
自分を捕まえるために、と付け加えた。
「そんなことはさせない。そのために、僕はここにいるんだから」
即座にスザクがこう言い返してくる。
「そして、ルルーシュの大切なものもみんな無事に取り返してみせるから」
だから、安心して。そう言って笑いかけてくる彼に、ルルーシュは頷き返すことしかできなかった。
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09.08.07 up
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