本当にどうすればいいのか。目の前の惨状を見つめながらカレンがそう考えていたときだ。
「カレン!」
騎士団の一人が駆け寄ってくる。
「目標がこちらに向かっているそうだ」
この言葉に反射的に表情を引き締めた。
「ゼロは?」
それならばもう、迷っている暇はない。自分は自分の役目を果たさなければ。そう思いながらこう問いかけた。
「今、こちらに向かっている」
おそらく、あちらと前後して到着するだろう。そう言葉を返される。
「そう」
ゼロ達が先に到着すればいい。だが、そうでなければ時間を稼ぐ必要があるだろう。
「紅蓮弐式をいつでも動かせるように用意しておいて」
それと、と彼女は言葉を重ねる。
「連中は無理に捕まえなくていいわ。ただし、ここから逃がさないで」
彼等が暴れていればそれだけ合流するのに時間がかかるだろう。だから、それまでこの場にとどめておけばいい。そう続ける。
「わかっていると思うけど……」
「あぁ。でも、多少のケガは見逃してくれよ?」
流石にあそこまで暴れられては、無傷で放置しておく方が難しい。そう言い返される。
「命に関わるようなケガでなければ、いいわ」
それに関しては、妥協するしかないだろう。それに、と心の中で呟く。ケガをすれば本国に戻ってくれるのではないか。そうすれば、これ以上戦わなくてすむ。だから、と自分に言い聞かせた。
「わかった」
言葉とともに彼はかけ出していく。本当にわかってくれていればいいのだけど、とその後ろ姿を見送りながら不安になる。
「まぁ、いざとなったら間違えたふりをして紅蓮弐式でフォローをすればいいだけのことね」
一度割り切ってしまえば、話は早い。だから……とカレンもまた駆け出した。
目の前でまた一つ、何かが爆発した。
「……いったい、いくつ持っているんだ?」
流石に手持ちの分は尽きている頃だろう、とスザクが呟く。
「テロリストが持っていた分、じゃないのか?」
それにルルーシュはこう言い返した。
「連中のアジトに捕まるいたのだろう?」
ならば、逃げ出す途中で見つけたとしてもおかしくはない。そして、それを盛大に使ってもリヴァルの懐は痛まないはずだ。
「……それって……」
「それこそ、気にするな」
連中の手持ちを彼等が使えば、それだけテロの被害が減る。違うのか? とさりげなく話題をすり替えた。
「……違わないね」
ナイトメアフレームを使って大規模な攻撃をしかけてくるのは黒の騎士団と日本解放戦線ぐらいなものだ。しかし、それだけに相手の動きを察知しやすい。
そう考えれば、小規模なテログループの方が厄介かもしれない、とスザクは頷き返す。
「でも、だからって……」
「気にするな」
気にしたら負けだ、とルルーシュは口にする。
「あの会長とリヴァルのコンビだぞ?」
しかも、現在、ストッパー役がいない……とため息混じりに付け加えた。
「どこまで暴走しているか……」
そして、無事でいてくれるか。ルルーシュはこう呟く。
「前者はともかく、後者は大丈夫じゃないかな?」
「何故、そう思う?」
きっぱりと断言をされて思わず聞き返した。
「言葉は悪いかもしれないけど……君をおびき出す餌は生きがよくないと、ね」
そして、彼等に何かがあれば、ルルーシュが自棄を起こすかもしれない。そうなった場合、最悪の状況になる可能性もあるだろう。
「もっとも、それは僕が止めるけどね」
決して、一人であの世になんて逝かせない。そう彼は付け加えた。
「スザク」
「ルルーシュがいなければ、僕にとって世界なんて意味がないからね」
その中には、自分の命も含まれている。平然とそう口に出来るのだろうか。それを問いかけようとしたときだ。コクピット内に電子音が鳴り響く。
「ジノからだ」
このタイミングで、と思わずにはいられない。だからといって、無視をするわけにもいかないのだ。
「見つかったのか?」
彼は今、己のナイトメアフレームの性能を最大限生かして、上空から二人を捜していた。人間なんて小さなものをあんな高度から確認できるものなのか、とは思わずにいられない。だが、ジノだけではなくロイド達も『大丈夫だ』と太鼓判を押してくれたから任せたのだ。
その彼から連絡があったとすれば、内容は一つしかないだろう。
「ちょっと待ってて」
スザクも同じ考えだったのか。即座に言葉を返してくる。そして、確認のための作業を始めた。
『見つけた。とりあえず、周囲をテロリストのナイトメアフレームに固められているせいで移動できないようだな』
もっとも、その代わりに遠慮しないで爆発物を爆破しているようだ……と彼は続ける。だから、テロリスト達も迂闊に近づけないのだろう。
「そうか」
ならば、直ぐにでも……とルルーシュは口にしようとする。
『その中に、あの紅い奴がいる』
だが、この言葉に声を失う。
「紅い奴?」
黒の騎士団のエースのナイトメアフレームか、と代わりにスザクが口にした。
「なら、ゼロがいるね」
きっと、と彼は続ける。
『その可能性は高いだろう』
厄介だな、とジノは言葉を返してきた。
『こうなると、ライがうまくやってくれるかどうか、が作戦が成功するかどうかの分かれ目、ということになるね』
もっとも、彼ならば心配はいらないだろうが。そう付け加えたのは自分に対する気遣いなのだろうか。それとも、とルルーシュは悩む。
「そうだね」
だが、ライが失敗するとは微塵も考えてはいない。
自分たちの中で――ナイトメアフレームの操縦に関してはどうかはわからないが――戦場での経験が一番豊富なのは彼だ。
だから、タイミングを逃すことはない。
「後は……ゼロがどう動くか、だな」
間違いなく、ゼロはここにいるはず。しかし、その動きを確認することは出来ない。
目の前の連中にしても、ゼロの指示で動いているとは思えないのだ。
『心配はいりませんよ、先輩』
ジノが不意に声をかけてくる。
『私が上空で待機しています。何かあったら即座にフォローに入りますから』
だから、安心してくれていい。彼はそう言って笑いを漏らした。
「大丈夫。ジノの出番はないから」
即座にスザクが口を挟んでくる。
「ルルーシュには絶対に指一本触れさせない。大切なものも守ってみせる」
だから、高みの見物でもしていれば……と彼は続けた。
『無理はするなよ?』
それにジノはため息混じりに言葉を返してくる。
『お前の実力は疑っていないが……お前の手は二本しかないんだからな?』
全部を一人で守ろうとして全てを失うようなことはするなよ、と彼は言い返してきた。
「……今ぐらい、かっこつけさせてよ」
まったく、とため息とともにスザクは言葉をはき出す。
『それは申し訳なかったね』
まぁ、大船に乗った気持ちで頑張れ……とジノは言う。
「はいはい」
とりあえず、ジノの出番がなくてすむように頑張るよ……とスザクはため息をつく。
「というわけで、行くよ、ルルーシュ!」
だが、直ぐに表情を引き締めるとこういった。
「あぁ。任せる」
信頼しているから、と付け加えれば彼は嬉しそうな表情を作る。
「僕の側を離れないでね」
そう言いながら、彼はランスロットを発進させた。
・
09.08.10 up
|