いい加減、手持ちの爆薬がなくなりそうだ。
「会長、すみません」
そろそろまずいかも、とリヴァルは口にする。
「何言ってるの! 諦めるんじゃないわよ!!」
それでもアッシュフォード学園高等部生徒会の一員なのか、というセリフは、この場合正しいのだろうか。
「わかりました」
しかし、アッシュフォード学園の女帝様の言葉に逆らえるはずもない。リヴァルは即座に言葉を返す。
「……まぁ、いざとなったら、あれを一つ、貸して貰いましょうか」
そう言いながら、彼はテロリスト達のナイトメアフレームをにらみつける。
「出来る?」
「会長が『やれ』とおっしゃるなら、死んでもやって見せましょう」
任せておいて欲しい、という意気込みと共にこう言い切った。しかし、彼女にはそれが気に入らなかったらしい。
「ぐえっ!」
思い切り背中を蹴り飛ばされた。
このような状況で、そんなことをしないで欲しい。
「あんたね! 死ぬなんて言ったらダメでしょう!!」
ルルーシュのためにも、石にかじりついてでも生き延びないと……と彼女は怒鳴りつけてきた。
「それは言葉の綾ってもんで……」
リヴァルは恨めしげにミレイを見上げながら言い返す。
「第一、死んだらそれこそルルーシュにたたられそうです」
ルルーシュの性格を考えれば、ものすごくえげつないたたられ方をするのではないか。そんなことまで口走ってしまう。
「でしょうね」
それは十分にあり得る、とミレイも頷いている。
「ルルちゃんってば、本当に几帳面だもの」
おかげで色々と助かっているけど、と彼女は笑う。
「なんて話をしている場合じゃなかったわね」
いつの間にか、テロリスト達が直ぐ傍まで近づいている。
「大丈夫ですって」
この方がよりどりみどりになるから、とリヴァルは笑う。もちろん、それは半分以上強がりだ。それでも、手持ちの弾薬を有効に使うには、少しでも集まってくれる方がいい。
問題は、どこを狙うか……だ。
あの紅い奴はやめておいた方がいいだろう。
他のに比べて、明らかに動きが違う。第一、自分が操縦できるとは思えない。だから、と別の機体へと視線を向けた。
「グラスゴーもどきなら、何とかなるんじゃないかな?」
小さな声でこう呟く。
故障している方が、乗っ取りやすいだろう。そう考えながら、周囲を見回す。
「……あれ、かな?」
一機、動きがおかしい機体がある。あれならば何とかなるのではないか。
「会長!」
とりあえず、安全を確保しつつ、あれの傍に近寄らなければいけない。
「絶対にはなれないでくださいね」
わなの可能性もある。だが、今はそれにかけるしかない。リヴァルはそう判断をしてミレイにこういった。
機体をうまく――といっても、パイロットをコクピットから放り出したのはミレイだったが――奪取できた。
しかし、だ。
そのせいでさらに包囲されてしまったことも否定できない。
「これから逃れるには……戦わないとダメでしょうかね」
動かすだけならば何とかなる。しかし、戦闘となると……とリヴァルは眉根を寄せる。
「そうね……不本意だけど、しかたがないわ」
こうなれば、腹をくくるしかないだろう。ミレイもそう言って頷いて見せた。
「ルルちゃんはともかく、軍の誰かは助けに来てくれるかと思うわ」
きっと、祖父が動いているだろう。だから、と彼女は続ける。
「全ての命運をあなたにかけるから」
そう言われて奮起しないのは男じゃない。
問題は、それでも目の前に積まれた難関は自分の手に余ると言うことだ。
だからといって、何もしないで捕まるのもしゃくだし。そうかんがえると、リヴァルは操縦桿を握りしめた。
もっとも、付け焼き刃で勝てるような相手ではない。
気が付けば、しっかりと追いつめられていた。
「すみません、会長!」
これ以上はどうしようもない。リヴァルはそう謝罪の言葉を口にをする。
「……しかたがないわね……」
そもそも、自分たちが拉致されたのは悪いんだし……とミレイが顔をしかめながら口にした。
その時だ。
いきなり、彼等の機体の前に白い壁が出来る。
いや、それは壁ではない。よくよく見れば、ナイトメアフレームの背中だ。
そして、自分たちはこの機体を知っている。
「スザク!」
しかし、まさか彼が来るとは思わなかった。
『会長! それに、リヴァルも無事だな?』
だが、それ以上に驚いたのは二人に呼びかけてきた声だ。
「……ルルーシュ!」
どうして彼がここに。そう思わずにはいられない。
『助けに来た!』
この言葉とともにランスロットのハッチが開く。そして、黒髪の少年が姿を現した。
「ルルちゃん! 何、馬鹿なことをやっているのよ!」
ミレイがそう叫ぶ。しかし、リヴァルは目の前の後ろ姿に何故か違和感を感じていた。
ランスロットのハッチに立っている少年の姿をゼロもまた確認していた。
「やはり出てきたね」
仮面の下で満足そうな笑みを浮かべる。
「これでもう、餌は必要ない」
自分たちの取って必要なのはただ一人、ルルーシュだけだ。他の存在は――カレンも含めて――どうでもいい。捨てるには多少惜しい存在もあるが、いずれ邪魔になる。
「ならば、いっぺんに捨ててしまえばいい」
その責任は、全てスザクに押しつけてしまえばいいだろう。
だとするなら、彼が来てくれたことは自分にとって幸いだということになるな……とゼロは笑う。
「何を言っているんだか」
くつくつとC.C.が笑い声を立てた。
「あの子を呼び出せば、いやでもあれが付いてくるとわかっていただろうが」
違うのか? と彼女はそのまま問いかけてくる。
「否定して欲しいのか?」
「いや。まぁ、彼女だけは少し惜しいけど、ね」
だが、替えが効かないわけではない。そうゼロは口にする。
「いっそのこと、仲間にするか?」
あの子の力が手に入れば、あれを従えることも出来るぞ……とC.C.は笑う。
「傷ついたときに、私が声をかければいいだけだろう?」
そうすれば、自分たちの望みは確実に叶う。
「確かに」
あれが邪魔をしなければ、全ては自分たちの思うとおりに進むのだ。
「では、行くか」
言葉とともにゼロはハッチへと体を滑り込ませる。そして、シートへと腰を下ろした。
自分が下手に動けばみなの迷惑になる。
自分の身体能力について一番よく知っているのは自分なのだ。だから、とルルーシュは唇をかみしめ耐えている。
しかし、本当にこのままでいいのか。
自分にも出来ることがあるのではないか。
「あの時のように、また、大切な誰かを目の前で失うようなことだけは絶対にいやだ」
だから、と心の中で何度も繰り返す。
それでも、とさらに付け加えた時だ。
「会長!」
敵の攻撃を避け損なったせいだろう。リヴァル達が乗り込んでいた機体が大きくバランスを崩した。その結果、壊れていたハッチから彼女の体が落ちてしまう。
それを狙って、周囲から攻撃が加えられる。
普段の彼女であればなんとか避けられるはずだ。しかし、落ちたときにケガをしたのか。動くことが出来ないらしい。
そして、他の者達もそんな彼女をフォローしている余裕はないようだ。
そこまで考えた瞬間、ルルーシュの体は勝手に動いていた。
「大丈夫ですか!」
こう言いながら、彼女へと駆け寄っていく。
「えっ? ルルちゃん?」
そんな彼の姿を見て、ミレイは目を丸くしている。
「なら、あちらのルルちゃんは、誰なの?」
叫ぶように彼女は問いかけてきた。
「それは後で!」
今は、この場を離れるのが最優先だ、と口にしながらルルーシュは彼女の体を抱え上げる。もちろん、彼女の協力があってのことだ。
その間も、攻撃は続いている。
怪我人だろうと、それだけで見逃してもらえる理由にはならない。
なんとか、彼女だけでも安全な場所に移動させないと。そう思っているルルーシュ達の前に敵のグラスゴーもどき――無頼が姿を現す。そして、そのまま照準を合わせてきた。
このままでは……とルルーシュは相手をにらみつける。でも、何としてもミレイを守らないと。
そのためにはどうすればいいのだろう。
まるで、そんな彼らを守るかのように、敵の紅い機体が割り込んでくる。
それすらも気が付かないほど、ルルーシュはその事実を考え込んできた。
彼等が攻撃をやめればいい。
そして、出した結論がこれだ。
「攻撃をやめろ!」
叫んでも意味はない。それはわかっていても、ルルーシュはこう叫ぶ。
その瞬間、何かが己の体の中から飛びだしていった。
次の瞬間、敵の動きが止まった。
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09.08.17 up
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