「……いったい、何が……」
 どうして、敵が攻撃をやめたのだろうか。ルルーシュは呆然としたまま、そう叫ぶ。
「おやおや」
 そんな彼の耳に《ゼロ》の声が届いた。
「本当に、何も気付いていないのかな?」
 ということは、今のは無意識の行為なのか? と口にしながら漆黒がルルーシュ達の前に舞い降りる。
『ゼロ!』
 紅いナイトメアフレームから聞き覚えがある声が響いた。 「カレンさん?」
 まさか、と思いつつルルーシュは呟くように口にする。
「みたいね」
 ため息とともにミレイが同意の言葉を告げた。
 おそらく、目の前に自分の定めた主が現れたからだろう。ここに自分たちがいることすら忘れているようだ。そうも彼女は続ける。
「ということは、早めに避難した方がいいと思うんだけど」
 少なくとも、あれからの攻撃はないだろう。だが、とミレイは眉根を寄せる。
「あの人が許してくれそうにないわね」
 そのまま、彼女が視線を向けた先にいるのが誰か。確認しなくてもルルーシュにはわかった。
「そちらのお嬢さんはよくわかっていらっしゃる。流石、ルーベン・アッシュフォードが認めた後継者だ」
 笑いを滲ませた声で《ゼロ》が言葉を綴る。その内容に、驚いたようにミレイは目を見開いた。しかし、相手の正体を知っているルルーシュにしてみれば驚くことではない。
 それよりも、どうやって彼女をこの場から離すか。
 今の自分にとってはそのことの方が重要だ。
「といっても、私にとってあなたはさほど重要ではない。その子を守ってきてくれたことには感謝するがね」
 だが、もう無用だよ……と《ゼロ》は言い放つ。
「それを決めるのは、お前じゃない!」
 反射的にルルーシュはそう叫んだ。
「誰と交友関係を築いていくか、それを決めるのは俺だ!」
 テロリストの命令など聞くつもりはない。さらにそう続ける。
「……おやおや。ひょっとして反抗期か?」
 だから、どうしてそう言うセリフが出てくるのか。
「図星をつかれたが、そんなにいやだったのか?」
 言葉とともに自分たちと《ゼロ》の間に人影が割り込んでくる。自分たちが来ているのと同じ制服を身に纏った人物の髪が黒いことに気がついて、ミレイはまた目を丸くしている。
「ひょっとして、ライ君?」
 しばらく彼の姿を凝視した後、彼女は呟くように問いかけた。それにライは一瞬だけ視線を向けることで答えを返す。
「……髪の色を変えただけで、こんなにも似るのね」
 ぽつりと付け加えられた言葉は、ルルーシュ達が最初に彼の変装を見たときに抱いたものと同じだ。だが、考えてみれば、自分と彼は血が繋がっている。それは本当に遠いものだったとしても、何か共通点があるのかもしれない。
 だからこそ、こんな計画を思いついたわけだが。
「子供は、親の従属物ではない。一番近しい別人だ」
 そうだろう? とライは笑う。それは王者の笑みだ、とルルーシュは心の中で呟いた。
「そして、人が心の中に抱いている願いはそれぞれ違う。己のそれを叶えるために、誰かの願いを潰していいわけではない!」
 もっとも、と彼は続ける。
「貴様らに、その理屈が通用するはずはないがな」
 その事実は、自分が一番よく知っている……と彼は《ゼロ》をにらみつけた。
「当然だ」
 その眼差しにひるむことなく《ゼロ》は言葉を返してくる。
「私たちは《魔女》だからな」
 その言葉が不気味に周囲に響いた。
「……魔女だから、なんだって言うんだ!」
 それを制止するようにルルーシュは叫ぶ。
「お前達だって、最初は人間だったはずだ!」
 ただ、他人と違った力を持って生まれ、人とは違う理の中で生きることを強要されただけではないか! そう続ける。
「……貴様……」
 何が言いたい、と《ゼロ》が仮面の下からにらみつけてきた。
「お前達にだって、大切だった人はいただろうが!」
 そして、その人の願いを叶えたかったのではないか、とさらに言葉を重ねる。
「そんなもの……忘れたに決まっているだろう」
 どこか苦しげに言葉を口にした。
「そうだな……とっくに、そんなものは、忘れた」
 いったい、どこに潜んでいたのか。C.C.までもが姿を現す。
「第一、その相手がいたことも覚えていない」
「嘘だな」
 彼女の言葉を耳にした瞬間、ルルーシュは即座に言い返した。
「なら、どうして世界を欲しがる? それがお前達の本当の望みだったのか?」
 それは手段であって、本当の願いは別にあったのではないか。そう言葉を重ねる彼の脳裏には、あの時の光景がはっきりと浮かんでいる。
「……エリアノールとリシャールが……それを望んでいると思っているのか?」
 これを言っていいかどうか、一瞬悩む。だが、その名を口にしなければ、彼女たちは本心を口にしないのではないか。そう思ったのだ。
「何故、その名を……」
 C.C.が信じられないというようにルルーシュを見つめてくる。
「お前が、最初に俺に見せたんだろうが!」
 二度目はどうしてなのかはわからないが。そう心の中だけで付け加えた。
「……あの時か……」
 どうやら、忘れていなかったらしい。C.C.はこう呟く。
「だが、あの方の名前までは教えてないぞ」
 いや、その時代までは遡っていないはず……と彼女は付け加える。
「ルルちゃん?」
 何の話? とミレイは問いかけてきた。
「後で説明をする。今は、黙っていてくれないか?」
 頼むから、とルルーシュは言い返す。
「わかったわ……って言うか、今は聞いている場合じゃなさそうよね」
 連中も、いつ、攻撃を再開させるか。わからないだろう。そう彼女は続ける。その状況認識の早さは流石だ。そう思うと同時に、どうしてこれが普段の生徒会業務にいかされないのかと言いたくなる。
 しかし、それをここでつっこむわけにもいかない。
「後でちゃんと説明してね」
 こう言ってくる彼女に、頷くのが精一杯だ。
「ということは、自分で見つけたと言うことか?」
 その間にも、魔女達は魔女達で話し合いを続けていたらしい。
「……だが、そのようなことが可能なのか?」
「考えられるのは、己の魂に刻まれていた、ということだろうな」
 生まれ変わりとやらが存在していないわけではない、とお前も知っているだろうが。だから、と口にしながらC.C.は視線をルルーシュへと向けてきた。
「彼の魂が、私たちの知っている誰かのものだったとしてもおかしくはない」
 その瞳が期待に輝いているような気がするのは錯覚だろうか。
「……違う」
 誰かの生まれ変わりとか何かとは関係ない。自分は自分だ。そう言いたいのに、何故か言葉を口にすることが出来ない。
「飲まれるな、ルルーシュ!」
 魔女の言葉に! とライが声をかけてくる。
「君は君だ」
 この言葉に、ルルーシュは頷き返す。それでも、C.C.から視線をそらすことが出来ない。このままではいけない、と囁く声があるのに、だ。
「黙っているのだね、ラインハルト殿?」
 そんな彼に向かって《ゼロ》が言い放つ。それと同時に、腰に佩いていた剣を抜いた。
「ライ君!」
 それに、ミレイが叫ぶ。
「大丈夫です」
 だから、ルルーシュを! と言い返す。
「ライ!」
 そんな彼の前に一振りの剣が落ちてくる。
「すまない、スザク」
 それを受け取ると、彼は鞘をはらった。
「……ルルーシュ!」
 それを確認して、スザクはランスロットから飛び降りようとする。
「スザク」
 その気配を感じた瞬間、ルルーシュはC.C.の呪縛から解き放たれた。いや、最初からそんなものはなかったのかもしれない。だが、彼女から視線をそらすことが出来たのは事実だ。
「……忌々しい男だな、あれは」
 C.C.が吐き捨てるように言葉を口にする。
「カレン!」
 そして、紅いナイトメアフレームへ向かって呼びかけた。
「あいつを排除しろ」
『出来ない……』
 彼女の言葉に、カレンが悔しげな声音で言葉を返す。
『体が、動かない』
 それは、自分が先ほどそうしろと命じたから、だろうか。
「……ギアス、か」
 しかたがないとはいえ、使えない奴だな……とC.C.は呟く。
「だが、それだからこそ手に入れたくなる」
 言葉とともに、彼女は獲物を見つめるような眼差しを向けてきた。




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09.08.21 up