「ルルちゃん……」
ミレイがその視線からルルーシュを守るように彼の体を抱きしめる。
「大丈夫です、会長」
そんな彼女を心配させないように、とルルーシュは言い返す。
いや、ルルーシュを守ろうとしているのは彼女だけではない。
「ルルーシュは渡さない!」
言葉とともにスザクが二人の前に降り立った。
「……どこのヒーローかしら」
あの登場のしかたは、とミレイがため息混じりに囁く。
「スザクは俺のヒーローだから」
ぼそっと、ルルーシュは呟くように口にした。
「ルルちゃん、あんた……」
何か意味ありげな視線を、彼女は向けてくる。
「スザクは、いつでも助けに来てくれますが?」
だから、といえば彼女はため息をつく。
「わかったから……ともかく、邪魔にならないように下がりましょう」
ついでに、リヴァルの所へ戻れば、いざというときにも対処が可能ではないか。彼女はそうも付け加える。
「そうですね」
確かに、ここにいても自分に出来ることはない。逆に、彼等の足手まといになる可能性も否定できないのだ。
「歩けますか?」
そう言いながら、ルルーシュはミレイに手を差し伸べる。
「大丈夫よ」
そんな彼に向かって、ミレイは微笑んで見せた。それが強がりだと言うこともわかっている。だが、それを指摘することはミレイの矜持を傷つけることになるだろう。
そう思って、ルルーシュは彼女の体を支えることだけを考えることにした。
目の前で、ゼロとC.C.が戦っている。C.C.はともかく、ゼロは自分が守らなければいけない存在だ。
「それなのに……」
どうして自分の体は動かないのだろうか。
いや、まったく動かないわけではない。撤退をしようとすれば出来る。出来ないのは攻撃することだ。
「いったい、あいつ、あたしたちに何をしたのよ」
ルルーシュの声を聞いた瞬間から、自分はそうなってしまった。
「しかし、ゼロはそれを喜んでいた」
ということは、最初からルルーシュにそんな《力》があるとゼロは知っていたのだろうか。
「だから、彼を欲しがったの?」
それとも、とカレンは呟く。そのまま、何気なくルルーシュ達の様子を確認するように視線を動かした。
「あいつ!」
そうすれば、ミレイに肩を貸しながら移動をしている彼の姿が目に飛び込んでくる。
しかし、ゼロもC.C.もそんな彼の動きに気付いていないようだ。
「どうしよう……」
このままでは、ルルーシュに逃げられるかもしれない。そんなことになったら、ゼロが落胆するだろう。それに、とカレンは付け加える。
「何のために、あたしは会長達まで巻き込んだのよ」
全ては、ゼロの指揮の下に日本を取り戻すためだったのではないか。
そのためにルルーシュが必要だというのであれば、このまま逃がすわけにはいかない。
「あたしは……」
攻撃をすることは出来ない。しかし、それ以外の行動を取ることは可能だ。
ならば、考え方を変えれば彼等を捕まえることが出来るかもしれない。
「あたしは、黒の騎士団の紅月カレンよ!」
何を捨てても日本を解放しなければいけないのだ。だから、と掌を握りしめる。
「何か、方法があるはずよ」
絶対に、と呟く。
「……ゼロ……」
だから、自分の前に道を示してください。そうも彼女は付け加えた。
後少しでリヴァルと合流できる。そうしたら、自分が使っていた機体の所まで後退した方がいいのかもしれない。
そんなことを考えていたときだ。
「ルルーシュ!」
リヴァルのせっぱ詰まった声が耳に届く。
いったい、何が。そう思ったときにはもう、ミレイに突き飛ばされていた。あまりに突然のことに、受け身を取ることも出来ずにルルーシュはそのまま地面に転がる。その上、ミレイの体が彼の上にのしかかってきた。
とっさに、それに関して文句を言いたくなる。
だが、先ほどまで二人がいた場所に大きなコンクリートの破片が落ちてきたのを見てしまってはそれも出来ない。
「……大丈夫ね? ルルちゃん」
痛みに顔をしかめていれば、ミレイがこう問いかけてくる。それよりも、早く自分の上から降りて欲しいともうのはワガママなのだろうか。
しかし、口に出さなければ伝わらないだろう、と直ぐに判断をする。
「大丈夫、です」
だから、と続けようとしたときだ。
『名前をお呼び』
どこからかそんな囁きが耳に届く。
「……名前?」
誰の名前を呼べというのか。そう聞き返したい。しかし、そんなことをしている時間はなかった。
『ルルーシュ、悪いけど、付き合って貰うわよ!』
そう言いながら、カレンが操る紅いナイトメアフレームが接近してきたのだ。
『先輩に触れるな!』
だが、それを邪魔するようにジノのトリスタンが割り込んでくる。
『邪魔、しないでよ!』
即座にカレンが叫ぶ。しかし、それ以上のことは出来ないようだ。
ならば、ジノも無体なことはしないだろう。
「……スザクとライは?」
後心配なのは、と思いながら視線を向ける。そうすれば、それぞれが互角に刃を交わしているのが見えた。
それがいつまで続くだろうか。
「……名前……」
同時に、先ほどの囁きの意味を考えてしまう。
「名前って……あの二人の?」
ルルーシュの呟きに、ミレイがこう聞き返してくる。
「二人の、名前」
オウム返しのようにそう繰り返せば、ものすごく納得できた。おそらく、それが答えなのだろう。
でも、自分はあの二人の名前なんて知らない……と言おうとしてルルーシュは言葉を飲み込む。
「 」
代わりに、あの時聞いた名前を呟いた。
それが耳に届いたのだろうか。
不意に緑色の髪の魔女の動きが止まる。
「……お前……」
何故、名前を知っているのか。そう言おうとしたのではないか。だが、その言葉を最後まで口にすることは出来ない。スザクがその隙を見逃すはずがないのだ。
「邪魔するな!」
C.C.はそう叫ぶ。そしてまたスザク相手に剣をふるい始めた。その様子が、何かいらだっているように見えるのは錯覚ではないだろう。
だが、それでルルーシュには確信が持てた。
今のが間違いなく彼女の《名前》なのだ、と。
ならば、もう一つの名前があちらの魔女のものだろう。
しかし、まだ完全に《ギアス》を使いこなせているわけではない。失敗したら……と考えると怖い。
だからといって逃げるわけにもいかないのだ。
全てを終わらせるためには、自分がやるしかない。
心の中でそう呟くと、ルルーシュは気を落ち着かせるために一度目を閉じる。次の瞬間、強い意志を宿した瞳が開く。
薄い唇がゆっくりと言葉を綴った。
次の瞬間、魔女がその場に崩れ落ちる。
『ゼロ!』
カレンが悲鳴のようにその名を呼ぶ。しかし、相手が反応を返すことはない。
仮面に隠されているその顔がどのような表情をしているのかも、だ。
だが、きっと、もう一人のように微笑んでいるのではないか。
そう考えた瞬間、ルルーシュの頬を涙が一粒こぼれ落ちた。
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09.08.24 up
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