「宣戦布告ですか?」
信じられない、とクロヴィスが呟く。
「どうやら、冗談でも何でもないようだよ」
それにシュナイゼルはため息混じりにこう言い返してきた。
「実際、日本近海に配置していたこちらの艦隊に攻撃をしかけているようだしね」
もっとも、あそこに配置していた者達は優秀なものばかりだ。だから、さほど被害を出さずに退けられたらしい。彼はそう続ける。
「それはともかく!」
彼等が勝つのは当然だ。そう続けながらクロヴィスはシュナイゼルへと一歩近づいた。
「あの子は無事なのですか!」
ルルーシュは、と告げる表情からは、いつもの華やかさは感じられない。いや、なまじ整った容貌をしているからか。どこか鬼気迫るように思えるのは錯覚ではないだろう。
「無事だよ」
そう考えながらも、オデュッセウスは静かな声音でそう告げる。
「だから、とりあえず落ち着きなさい。シュナイゼルにしても、まだ完全に状況を把握できているわけではないのだからね」
現在、情報を集めている最中なのだ。だから、と彼は続けた。
「申し訳ありません、オデュッセウス兄上」
ですが、と彼は視線を向けてくる。
「ユフィ達が心配をしていまして……いつ、飛び出すか、わからない状況なのです」
あの子達は、許可がなければ太陽宮に来られないから、と続けた。
「あの子達ならば、やりかねないね」
確かに、とシュナイゼルも頷く。しかし、一番確認が難しいのではないか。そう言って彼は顔をしかめた。
「……あの子は無事だよ。きっとね」
そんな二人に向かって、オデュッセウスはきっぱりと言い切る。
「兄上?」
何故、そう言いきれるのか。二人の視線がそう問いかけてくる。
「あちらはブリタニアと違って民主主義を取っている。逆に言えば、政府の意志が絶対ではないと言うことだよ」
そして、ルルーシュを必要としている者達がいる。そして、ライもだ。彼等が必ずルルーシュを守るだろう。
「何よりも、あのこはまだ、十歳だよ? いくら敵国の皇族とはいえ、そんな子供を殺したと知ったら、国民はどう思うだろうね」
そうである以上、あの子を害することは出来ない。
だから、命だけは無事だろう。
「……確かに」
そう考えれば、あの子の命は保証されている、と考えていいでしょうね……とシュナイゼルも頷く。
「それだけではなくてね……もう一つ、厄介な話もあるのだよ」
ギネヴィアから連絡があった、とオデュッセウスはため息をつく。
「ギネヴィア姉上が、何を?」
中華連邦に行っていたのではないか。そうクロヴィスが問いかけてくる。
「そうだよ。そして、そこであの子を『婿に欲しい』と言われたそうだ」
枢木ゲンブは中華連邦との関係が深い。だから、あの子をあちらに渡そうと考えるのではないか。
「そんな……勝手な……」
「あちらが勝てば可能だ、と考えているのだろうね」
もっとも、補給の導線を考えればそれは不可能ではないだろう。
「……ですが、こちらにはナイトメアフレームがあります」
あれを使えば、短期間でこちらが制圧をすることも可能ではないか。クロヴィスはそう続ける。
「確かにね」
だが、とシュナイゼルがため息をつく。
「私たちの異母弟に馬鹿なことを考えている者がいるからね」
あの地を占領すれば、新しいエリアが出来る。そうすればエリアの総督の座を手にすることが出来るのではないか。そう考えているものがいるのだ……とシュナイゼルは続けた。
「そのバカの対処も誤るわけにはいかないだろうしね」
本当に、実力も才能もないのに、同じ父の血をひいていると言うだけで高望みをする者が多くて困る。そのシュナイゼルの言葉には頷かずにはいられない。
「せめて、あの子並に努力をしていれば少しは可愛いと思えるのだろうがね」
ただ、血筋に甘えているだけの存在は可愛いとは思えない……とオデュッセウスは続ける。
「……ともかく、あの子の無事を第一に考えてくれるかな?」
きっと、シャルルも同じ事を言うに決まっているから……と視線をシュナイゼルに向けた。
「わかっております。既に、コーネリアに現地に向かうように伝えてあります」
後は、彼女の元で助言をしてくれる存在だろうが、誰が適任だろうか。彼がそう言ったときだ。
「それに関しては、ヴァルトシュタインに任せた」
周囲にシャルルの声が響き渡る。
いったい、いつの間にここに足を運んできたのか。そう思いながらも、その場にいた者達は彼に対して膝を着いた。
「よい。顔を上げろ」
公式の場ではないからな、と彼は口にする。
「シュナイゼルよ」」
そのまま、彼は真っ先に先日、宰相位についた彼へと声をかけた。
「何でしょうか」
「国内のことはお主に任せる。多少手荒でもかまわん。確実に掌握して見せよ」
皇族のことも含めて、と彼は続けた。
「Yes,Your Majesty」
おまかせください、と彼は言葉を返す。
「クロヴィス。お主はシュナイゼルの手助けをせよ」
その位は役に立って見せろ、と言外に付け加えられる。それに気付いたのだろう。
「努力いたします」
頬をひきつらせながら彼は頷いている。
「オデュッセウス」
最後に己の名が呼ばれた。
「はい、陛下」
「お前は嚮団と連絡を取り、必要と思うことをせよ」
微妙にぼかされた言葉なのは、この場にクロヴィスがいるからだろう。彼にはまだ《ギアス》のことを伝えていないはずなのだ。
そして、シャルルが自分で指示を出さないのは、きっと、黄昏の間で世界のバランスを調整する必要がある、と考えているからだろう。
「おまかせください」
確かに、その状況で嚮団と連絡を取れるのは自分だけではないか。そして、そうすることがルルーシュを守ることにもなる。
オデュッセウスはそう判断して深く頭を下げた。
「……ナナリー?」
視線を向ければ、彼女のまなじりに涙が浮かんでいるのがわかる。
「どうしたのですか、ナナリー!」
そう言いながら、ユーフェミアは彼女の傍に駆け寄った。そのまま、彼女の顔をのぞき込む。
「ナナリー……」
しかし、彼女の瞳は固く閉じられたまま開かれる気配はない。ただ、静かな呼吸をlくりかえしているだけだ。
「何があったというのですか」
そんな彼女なのに、とユーフェミアは思う。
「ひょっとして、ルルーシュのことが心配なのですか?」
彼女の耳には入らないように配慮していたはずなのに、と眉根を寄せながら問いかける。
「大丈夫ですわ。ルルーシュは無事です」
何があろうと、と続けた。
「お姉様が行かれたそうですもの。それにヴァルトシュタイン卿も。絶対に、ルルーシュを連れて帰ってきてくれますわ」
彼の傍には、ライもいるし……と明るい口調を作ってさらに言葉を重ねる。
「だから、安心してください」
それでも心配なら、早く目を覚まして……と囁く。
そうすれば、自分の愛で確かめられるだろう。ナナリーが『ルルーシュを迎えに行きたい』と言えば、兄姉たちは絶対に協力をしてくれるはずだ。
何よりも、あのナナリー大事のルルーシュが帰ってこないはずがない。
だから、と続けた。
「わたくしたちのためにも、目を覚ましてください」
言葉とともにそっと彼女の手を己のそれで包み込む。彼女の手は、こんなに小さかっただろうか、と思う。
「ナナリー……」
それとも、眠ったままだからか。そんなことを考えながら、ユーフェミアは彼女の名を呼んだ。
「……ルルーシュなんて、二度と帰ってこなければいいんだ!」
ナナリーの病室から帰る途中でユーフェミアの耳にこんな言葉が届く。
「いったい、誰なのかしら」
こんなことを言っているのは、と呟く。この声を、自分はどこかで聞いたことがあるような気もするし……と重いながら、相手を確かめようとした。それを、彼女の護衛としてついてきたダールトンの養子の一人がそれをとどめる。
「姫様。私におまかせを」
そして、こういってきた。
どうするべきか……と考える。だが、自分が迂闊に動いて相手に逃げられては困る。それよりは彼に任せるべきだろう。
「わかりました。それと……ナナリーの傍にももっと護衛を回すように手配して頂けますか?」
ユーフェミアはこう問いかける。
「Yes.Your Highness」
即座に彼は言葉を返してきた。それに頷き返すとユーフェミアはまた歩き出す。
「……お兄さま方に報告すべきですわね」
直ぐに、と呟く彼女に、頷く気配が伝わってきた。
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10.07.30 up
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