最近、テロが激しくなってきたように思う。
「そう言えば、藤堂さん、どうしているのかな」
 最近、顔を見ていないけど……とスザクは呟く。
「……少し前に、日本解放戦線の片瀬少将に呼ばれた、と聞いておりますが……その後どうしているのかまではわかりませんわ」
 確かにおかしい、と神楽耶も頷いた。
「調べた方がいいかもしれないね」
 ライに声をかけておいて、とスザクは言う。
「桐原のじいさんなら、解放戦線にも連絡がつくかな」
 さらにこう付け加える。
「おじいさまなら大丈夫だと思いますが……でも、時間がかかるかもしれませんわ」
 彼にしても、監視がつけられてるはずだ。だから迂闊に動けないのではないか。神楽耶はそう言った。
「うん。だから、ライさんに相談しようって言っているんだよ」
 彼であれば、そのあたりの許可を貰ってくれるのではないか。
「……これのせいで、ルルーシュがまだ帰ってこられないのかもしれないし……」
 スザクはぼそっと付け加える。
「お従兄さま?」
 どういう意味だ、と神楽耶が言外に問いかけてきた。
「多分、戻ってこようとしているんだ、ルルーシュは。でも、帰れない」
 きっと、何かが邪魔をしているんだ。そんな確信がある。
「だから、何とかしないといけないんだ」
 しかし、自分はブリタニア軍に組み込まれてしまった。だから、自分で動くことが出来ない……とスザクは呟く。
「それは、仕方がありませんわ」  自分たち日本は負けたのだ、と神楽耶は言う。
「……それもおかしいんだけどな」
 スザクは思わずこう言い返してしまった。
「って言うか、父さんは確かにブリタニア嫌いだったけど……少なくとも、戦争までする気はなかったらしいんだよな」
 日記を読む分には、と続ける。どう考えても、物資的にも勝てるはずがない。確かに、ブリタニア本国からの補給線は長いが、他のエリアを見ればそうではないのだ。その位のことは、あの父にもわかっていたらしい。
 なのに、戦争という選択を取った。
「なんて言うか……誰かにそそのかされたみたいなんだよな」
 それも個人ではない。どこかの組織が関係しているらしい。
「お従兄さま?」
 そう言えば、神楽耶が驚いたように目を丸くしている。
「何だよ」
 文句があるのか、とスザクは聞き返す。
「いえ……ただ、よく気付かれたな、と感心していただけです」
 昔のスザクなら、ゲンブの日記を読むと言うこともしなかっただろう。彼女はそう言った。
「……ヒントを貰ったんだよ……C.C.様に」
 ルルーシュを連れ戻すにはただ待っているだけではダメだ。出来ることをしろと、とスザクは言う。
 一番の原因は、戦争が起きたことだ。
 だから、どうして戦争をしようだなんて思ったのか。それを知りたいと思ったのだ……と続ける。
「それならば、納得です」
 神楽耶の言葉に、スザクは苛立ちを覚えた。
「でも、調べられたのはお従兄さまですから……その点に関しては尊敬いたしますわ」
 ルルーシュのために努力をする姿は……と言うのはほめ言葉なのだろうか。
「当然だろう。僕はあいつのワイヤードなんだから」
 彼がすこしでも早くこちらの世界に戻ってこられるように努力するのは当然のことだ。そして、こちらに戻ってきてから、彼を支えるのも……と続ける。
「わたくしでは出来ないと?」
 自分だって、ルルーシュを支えることは出来る。神楽耶は即座にそう反論をしてきた。
「でも、今のお前には、ルルーシュよりも優先したい存在がいるだろう?」
 それが悪いとは言わない。ルルーシュがいなくなって、自分と同じくらい――いや、ある意味、それ以上に――辛い思いをしていたのは彼だ。そんな彼を神楽耶が放っておけなかった、と言う理由もわかる。
 しかし、それがルルーシュにとっては辛いことかもしれない。
「ルルーシュにとって、自分だけ置いて行かれたみたいで」
 それは自分でも同じ事かもしれない。だが、自分が彼に抱いている感情は変わらないから、ルルーシュには妥協して貰おう。
 それに、今の自分であれば彼一人ぐらいなら――それほど贅沢しなければ――養っていけるかもしれないし。そんなことまで考えてしまう。
「……そうかもしれませんわね」
 確かに、自分の存在はルルーシュにとって負担になるかもしれない。神楽耶もそう告げる。
「ですが、わたくしだけではないと思いますわ」
 ナナリーですら、きっとルルーシュよりも年上だ。そう彼女は言い返してくる。
「でも、ナナリー殿下の場合、ずっと眠っておいでだから……だから、きっと、中身はルルーシュが覚えているときのままじゃないかな」
 そして、同じ理由で神楽耶よりも年下に見える。だから、ルルーシュにしてみればさほど違和感をいただかずにすむのではないか。もちろん、ナナリー本人にとってもだ。
「不幸中の幸い、と言っちゃいけないんだろうけど」
 ルルーシュにとってはそれが少しは慰めになるのではないか。
「そうですわね」
 小さなため息とともに神楽耶は頷く。
「そのためにも、ルルーシュ様には早く戻っていかなければいけませんわね」
 自分に出来ることは何だろうか、と彼女は付け加える。
「やっぱり、藤堂先生に連絡、じゃないか?」
 軍に入ってしまった自分には無理だろうが、皇の当主である神楽耶ならまだ可能だろう。スザクはそう言った。
「わかりました。努力はしてみます」
 確かに、桐原と藤堂の行方がわからないままでは寝覚めが悪い。そして、最悪の結果になりかねない……と彼女は頷く。
「ですから、あなたも無理はなさらないでください」
 ルルーシュのために、と付け加えたのは彼女なりのイヤミなのだろうか。それとも、何か予感があったのか。それはわからない。
「わかっているよ」
 だから、ただ一言こう言い返した。

 それから直ぐに大規模なテロが連続して起きた。
 それだけではない。
「藤堂さんが行方不明?」
 神楽耶の言葉に、スザクは反射的に聞き返す。
「えぇ。ですから、ひょっとしたらブリタニア軍に捕らわれたのではないか、と四聖剣の方々が心配しています」
 だから、調べられないか。彼女の表情がそう告げている。
「ライさんは戻ってきてないし……わかった。ジェレミア卿に相談をしてみる」
 ロイドと言わないのは、彼では最初からあてにならないことを知っているからだ。
「お願いします」
 神楽耶の言葉に頷くと、スザクは立ち上がる。
「お前はナナリー殿下から離れるなよ」
 言わなくても大丈夫だろうが、と思いつつ言葉を口をした。
「わかっています。誰であろうと、ナナリー様の側には近づけませんわ」
 それが自分の義務であり、そして皇の姫としての矜持だ。神楽耶はそう言いきる。
「わたくしを信じて預けてくださった方々のお心を裏切るわけにはいきません」
 彼女の言葉にスザクは頷く。
「出来るだけ早く帰ってくるから」
 そう言い残すと、足早にその場を後にする。その背後から神楽耶が奥の間へと移動していく気配が伝わってきた。おそらくナナリーの元へと移動したのだろう。
 なら、二人とも大丈夫だ。
 後は自分が自分の役目を少しでも早くこなすだけだ。
 スザクは心の中でそう呟くと駆け出す。
 行儀が悪いと彼を止めるものはこの場にはいない。この屋敷に勤めている者達も何かを感じているのだろう。
 いや、そうでなくては困る。
「いざとなったら、あの方が出てくるんだろうけど……」
 でも、できれば彼女たちの手を煩わせたくない。
 何よりも、これは自分たちの戦いだ。だから、と思う。
「……大丈夫。必ず、俺がお前を連れ戻してやるから」
 だから、後少し待っていてくれ、ルルーシュ……と呟く。
 自分が必ずむかえにいくから。
 それだけが、自分にとって一番大切なことだ。それを失わなければ、自分は戦える。
 スザクは心の中でそう呟くと、さらに足を速めた。








10.10.29 up