モニターをにらみつけながら、ルルーシュが難しい表情を作っている。
「何かあったの?」
 自分が聞いていいことなのかどうかはわからないが……と思いながらも、スザクはそっと彼に声をかけた。
 部屋に帰ってきたときにはもう、彼はここにいて同じような表情を作っていたのだ。それからもう小一時間は経っているというのに、彼はずっと同じ姿勢のままモニターをにらみつけている。不審に思ったとしてもおかしくはないだろう。
「……精製されたコアルミナスを誰かが隠匿しているらしいんだが……その犯人が見つからない」
 ただ、妙なことを言っているものがいたのだ……とルルーシュは吐き捨てるように口にした。
「ルル?」
 その言葉に、ものすごく嫌なものを感じてしまう。
「……可能性は否定できないだろう」
 全員の思想チェックを行っているわけではない。そして、幸か不幸か、あそこにはイレヴン達も多く働いているのだ。
「まぁ、さすがにランスロット用にと特注された純度の高いコアルミナスは流出していないようだがな」
「あれが流出したらまずいよ、さすがに」
 スザクは思わずこう叫んでいた。
「わかっている。だから、あれに関わっているものは、不本意だが『縛って』ある」
 そういうルルーシュがものすごく傷ついているように感じられるのは気のせいではないだろう。
「……ルル……」
 反射的に、スザクは背後からルルーシュの頭をそっと抱きしめていた。
「大丈夫だ。お前のぬくもりがまだこの手の中にあるうちは、な」
 まだ、自分は自分でいられる。そう口にしたルルーシュの表情が今にも泣き出しそうに見える。
「どこにも行かないよ、僕は」
 だから、安心して……とスザクは言葉を重ねた。
「ルルのためなら、どんなことでもするから……だから、ルルもここにいて」
 自分の前から消えないで欲しい、とスザクも言い返す。
「わかっている。だから……俺を離すな」
 いったい、何がここまでルルーシュを不安にさせているのだろうか。スザクにもそれはわからない。
 わからないことが、スザク自身も不安にさせる。
 それでも、きっとそれがコアルミナス製造者を『縛って』いることだけが原因でないことだけはわかった。だから余計に不安になっているのだ。
「そんなの、当然だよ、ルル」
 しかし、ルルーシュにさらなる不安を与えるわけにはいかない。だから、きっぱりとした口調でこう言い返す。
「大好きだよ、ルル。愛しているからね」
 さらにこう付け加えれば、ルルーシュの耳が少しだけ赤く染まる。
「……そんなこと、言われなくても知っている!」
 そして、怒ったようにこう言い返してきた。
「うん。それも知ってる」
 でも、とスザクは笑みを口元に浮かべる。
「たまに口に出してルルの反応を見ないと、不安になるんだ」
 自分が……と素直に口にすれば、ルルーシュの耳がさらに赤くなった。
「お前は!」
「だって……今だってルルは、僕に何か隠し事をしているでしょう?」
 ルルーシュの反論をスザクはこの一言で封じる。
「……どうして……」
「わかるよ。ルルのことだもん」
 その他のことでは『鈍い』と言われたとしてもルルーシュのことでは言われるつもりはない……と口にしながら、スザクは彼を抱きしめる腕に力をこめた。
「でも、何を考えているのかまでは、わからない」
 だから教えて、とつい口にしてしまってから、スザクは慌てる。しかし、ルルーシュはスザクのその問いかけが不安から出たものだとは気付いていないらしい。その事実に、そっと胸をなで下ろした。
「……ナナリーに、会った」
 しかし、ルルーシュの口から出た言葉に、スザクは思わず息をのむ。
「ルル?」
「いや。ばれていないはずだ」
 声変わりをしているし、何よりも彼女は自分の顔を見ることができないのだから……とルルーシュは言い返してきた。
「ただ……」
 だが、その後ですぐに言葉を飲み込んでしまう。
「どうしたの?」
 だからといって、彼の中にそれを溜めさせるわけにはいかない。そんなことをすれば、きっとルルーシュはさらに不安を増大させてしまうだろう。それをスザクはよく知っている。
「ナナリーをブリタニアの騎士に預けたところで、俺はほっとしたんだ……あの子が俺のことに気付かなかった、という事実に……」
 それは、自分がスザクと離れなくていいと言うことだから……とルルーシュは唇をゆがめた。
「俺は……」
 このままでは、もう浮上しようのない場所までルルーシュは落ちこんでしまうだろう。そんな彼の姿を自分は見たくない。スザクはそう考えて言葉を口にする。
「……僕は、嬉しいけどね」
「スザク?」
「だって、それはルルが、大切にしているナナリーちゃんよりも、僕を選んでくれたってことでしょう?」
 こういう時のルルーシュには直球勝負の方がいい。そもそも、自分はそれほどうまく言葉を飾れないから、とスザクは思いながら自分の気持ちを素直に言葉にした。
「ルルが僕と同じくらい、僕のことを好きでいてくれるってわかるから」
 不謹慎かもしれないけど、と付け加えればルルーシュは困ったような表情を作る。
「……バカ……」
 そして、こう囁いてきた。
「うん。バカでいいよ」
 だから、と囁き返しながら、そっと体の位置をずらす。そして、彼の唇に自分のそれを近づけていった。
 そんなスザクの動きをルルーシュはとがめない。逆にそっと目を閉じてくれる。
 微かな笑みを浮かべると、スザクは唇を重ねた。

 いったい、彼は何を考えているのだろう。
 仮面のせいでその表情を確認することはできない。
 だから、こうしていると本当に彼は生きているのかどうかわからなくなる。
「やはり、欲しいな」
 不意に彼が口を開いた。
「ゼロ?」
 いったい、彼は何が欲しいというのだろうか。誰もがそう思う。
「高純度のコアルミナス。それを直接手に入れることができなのであれば……それを持っているものをこちらに組み入れるしかあるまい」
 だから、その人物が欲しいな……と彼は続けた。
「ですが、ゼロ……その人物が誰なのか、わかっていらっしゃるのですか?」
 いくら欲しいと言われても、相手がわからなければ行動のしようがないのではないか。
 いや、彼がその人物を捜せというのであればそうすることはやぶさかではない。しかし、いったいどれだけの時間がかかるものか、とも思う。
「顔まではわからないが、居場所はわかっている」
 そんな彼等の耳に、ゼロがあっさりとこういった声が届いた。
「ゼロ?」
「……ただ、君には少し危険を冒してもらわなければいけないかもしれないな、カレン」
 不意に名前を呼ばれて、カレンは微かに目を見開く。
「私、ですか?」
 どうして自分が、とそう思ったのだ。
「そう。君でなければいけない」
 あっさりとゼロは頷く。
「なぜなら、その人物は今、アッシュフォード学園に通っているそうだからね」
 さらに付け加えられた言葉に、カレンは絶句をした。
「……誰……」
 そんな特別扱いをされている人物が、果たしていただろうか。そう思う。それとも、それを隠して通っているのか、とも心の中で呟いた。
「ランペルージ」
 さらりとゼロは言葉を口にする。
「ランペルージ、ですか?」
 確認をするように扇が聞き返した。
「カレン、知っているか?」
 玉城は玉城でカレンにこう問いかけてくる。
「ランペルージって……まさか、ルルーシュ?」
 その時にはもう、カレンの脳裏にはある面影が浮かんでいた。
 学園内でも、その美貌と頭脳で有名な高等部の副会長のそれだ。
 だが、本当に彼が……という思いの方がカレンには強い。確かに彼は優秀な頭脳の持ち主だが、ほとんど学園内から出ることはないのだ。
「そう。その人物だよ」
 今まで人前に出てこなかったから、知っているものは少ないだろうがね……とゼロは笑う。
「ゆっくりと話をしたい。是非とも、私の前に連れてきてくれたまえ」
 それは希望ではなく命令だ。それはカレンにもわかっている。
「……貴方がそう望まれるのでしたら」
 だから、カレンはこう口にするしかなかった。








07.02.08 up