巡り巡りて巡るとき
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どうして自分は彼を救えないのだろうか。
何度目になるのかわからない繰り返しの中でスザクはそう自問する。
そもそも、どうして自分がこのループの中に迷い込んでしまったのか。それすらもわからない。
あぁ、そうだ。
最期のあの瞬間、ルルーシュが自分のそばにいてくれないと胃事実が、とても悲しく思えたのだ。
その時、誰かが声をかけてきた。
それは覚えている。
だが、それが誰だったのか。そして、それがどのような内容だったのか。全く思い出せない。
その事実が気がかりだと言えば気がかりだ。
そして、ここで目覚める直前に、ルルーシュの瞳に浮かんでいた印を見たような気がしたことだけは覚えているが。
「ここから抜け出したいなら、ルルーシュの運命を変えればいいだけだ、というのは覚えているけど」
それが可能なのかどうかわからない。いや、今までの経験からすれば不安だとしか言いようがないのだ。
あのときの自分の年齢では戦争を止めることはできない。
それでも、関係を悪化させる父がいなくなれば少しは状況が変わるのではないか。そう考えて、二人が来てすぐに父を政界から追い落とした。
その結果、二人は殺されてしまう。
つれて逃げてもだめだった。
ユフィの手を取らなかったこともある。
神根島でルルーシュを連れ去ったこともあった。
ブリタニア軍に入らないという選択もした。
あの日、ロイドから逃げ回ってもみた。
ルルーシュに再会したその日に二人をアッシュフォード学園から連れ出してもみた。
C.C.が彼の元に行かないようにもしてみた。
あるいは、最初から関わらないという選択をとったこともある。
他にも思いつく限りの選択肢を選んでみた。
しかし、どの選択肢を選んでもルルーシュは──最悪の場合は二人とも──命を落としてしまう。
最後までたどり着けたと思っても、あの日──ゼロレクイエムが決行された日になれば必ずルルーシュは死ぬのだ。
逆恨みをした日本人だったこともある。
己の主を殺されたブリタニアの騎士だったこともあった。
あるいは、何の関係もない事故や病気だったこともある。
きっと、何か条件が足りないのだろう。
しかし、それがなんなのかがわからない。それさえわかれば、自分はこのループから抜け出せる。つまり、ルルーシュを助けられると言うことだ。
その後で平和に暮らせるのか。それともやはり殺伐とした世界に身を置くのか。どちらなのかはわからないが。
そう思いながらスザクは手の中の小さな手帳に視線を落とす。
何度も開いたせいで表紙に記されていたアッシュフォード学園の校章は消えてしまった。それでも、中に書かれた内容までは消えていない。
「この手帳だけでも手元に残っているのはありがたいかな」
この手帳には今までスザクが選んできた選択肢とその条件がすべて書き記されている。
そう言っても、自分で書いた記憶はない。そもそも、人前でこれを確認することはできないのだが。
だが、これがあるおかげで同じ失敗を繰り返さずにすんでいる。そして、かなり選択肢を絞り込めるようになっているのだ。
何よりも、と小さなため息をつく。
今までのことを振り返る時間があることも事実だ。
「これは善意なのか……それとも悪意なのか」
スザクがこうつぶやいたときだ。
「……ようやく、と言うべきなのか?」
何かに引っ張られるような感覚がスザクを襲う。
「あぁ。またか」
それを感じた瞬間、スザクは小さなため息をついた。
そのままあきらめたような表情で目を閉じる。
次の瞬間、己の身体に与えられているすべての感覚が失われた。
何もない虚無の世界。
そう言いたくなる時間から、不意にどこかに落下していくようなそれへと変わる。
「今度はうまくいくといいんだけどな」
スザクのこのつぶやきは、虚空の中に吸い込まれていった。
そしてまた、世界は繰り返される。
過去のそれとは違った螺旋を描いて……
15.11.07 up