「僕って、そんなに信頼されていませんでしたぁ?」
モニターの中にいる人物に向かってロイドは文句を告げる。しかし、相手は微かな笑いを向けてくるだけだ。
「クロヴィス殿下もルルーシュ様もかわいそうに。ぜーんぶ。ばれていたなんてねぇ」
一生懸命隠していらっしゃったのにねぇ……とロイドは付け加える。
『あの子は、昔から隠し事が苦手だったからね』
それに、ようやく彼は苦笑混じりにこう言ってきた。
「だったら、もっと早く教えてくれてもよかったじゃないですかぁ」
ねぇ、シュナイゼル殿下……とさらに問いかけの言葉を口にする。
『だって、かわいそうだろう?』
しかし、シュナイゼルの口から出たのは、ロイドがまったく予想もしていなかったセリフである。
「殿下ぁ?」
まさか、そんなことを言われるとは予想もしていなかった。それがロイドの正直な気持ちである。
もっとも、ある意味彼らしいセリフではあった。
だが、彼が兄弟達に向かって『かわいそう』と言うときのイントネーションと今のそれは違ったのだ。
『ルルーシュとナナリーが、ブリタニア――というよりも、父上とその一派かな――を怖がっているのはわかっているし、何よりも、また使い捨ての駒にされたくないという気持ちは理解できるからね』
ルルーシュは有能な子供だったから……と彼はため息を吐く。
『そして、あの子達を守れなかったクロヴィスの気持ちも理解できる』
自分も少なからずそう感じていたからね……とさらに彼は付け加えた。
『だから、必死に隠そうとしている以上、騙されてやるのもいいかな、と思ったのだよ』
彼等の性格であれば、いずれ、ルルーシュ達の身柄の安全が保証されたときには自分には教えてくれただろうからね……と妙に自信に満ちた口調で言い切る。
「つまりぃ、あの方々の努力も、全部殿下の掌の上だったとぉ?」
それはそれでかわいそうな状況なのではないか。そんな風にも思えてならない。
『クロヴィスがあんなに一生懸命だったからね』
何よりも、自分が気付いていると知った時点で彼はミスをしかねないだろう。そうすれば、あの子達を快く思っていない者達にもばれてしまう可能性もあるではないか。困ったことに、自分は彼等から離れた場所にいるのだから……と平然と言い返してくる。
『もっとも、彼から相談を持ちかけられていたら話は別だけどね』
その時には、じぶんのもてる限りの力を使ってフォローをしただろう……とそう付け加えた。
「今は違うんですかぁ?」
自分やスザクを取り込んでおいて、とロイドは少し皮肉をこめて口にする。
『君達は、君達自身の判断で動いているのだろう?』
自分が命じたわけではない、と言い返されれば納得するしかない。それでも、と思う。
「スザク君のことを、もう少し早く教えてくれてもよかったじゃないですかぁ」
そうすれば、もっと早く彼の立場を固める手伝いをしてやれたかもしれない。そう言い返す。
『それでは、ルルーシュが彼を警戒してしまったかもしれないだろう?』
スザクが一般兵だったからこそ、再会したときにも普通に受け入れることができたのではないか。
「本当に、殿下ったら、意地悪ですねぇ」
性悪と言わないだけましだと思って貰っていいのではないか、とロイドは眼鏡の下の瞳を細める。
「ばれたときに、弟君達に嫌われても知りませんよぉ」
せっかく隠していたのに実はばれていましたなんてぇ……と言えば、彼は余裕綽々の笑みを浮かべた。
『それはあり得ないね』
その表情のまま、きっぱりとそういいきる。
『あの子達は、そんな性悪じゃないよ。君と違ってね』
そう来るか、とロイドは心の中で呟く。
「殿下の部下ですからねぇ。スザク君もそうですけどぉ」
似たもの同士でしょぉ、と言い返せば、
『酷いな』
とわざとらしいため息を吐かれる。
『君も彼も、出逢ったときからそうじゃないか』
別に、自分が悪いわけではない。元々そういう人間が集まってきただけだろう、と彼は告げた。
「僕たちに責任を押しつけるおつもりですかぁ」
『押しつけるも何も、それが真実なのだからしかたがないだろう』
それとも、自覚していないのかね? と言う問いかけにロイドはため息を吐く。
「多少はしていますけどねぇ」
でも、殿下ほどではないと思いますけどぉ……と口にする。
『それこそ、五十歩百歩だろう』
ルルーシュに知られたらそう判断されるよ、と言われて、流石のロイドももう何も言い返せない。
『だからといって、スザクまで巻き添えにするのはやめておきたまえ』
もちろん、自分もだ……と彼は続ける。そんなことをしても、ルルーシュ達は信用しないと思うよ……と言いきると言うことは、自分たちががかぶっている猫に自信があると言うことか。
「……スザク君もねぇ」
あの年齢で、シュナイゼルに――たとえかぶっている猫だけだとはいえ――自分と同レベルと認めさせているのか、と思えば空恐ろしいかもしれない。
「本当に、殿下の教育じゃないんですかぁ?」
だが、どうしてもそう見えないのは、普段の彼の言動のせいだろうか。
『ルルーシュ達のことが知りたくて内密にあったのだがね。彼の方から、取引を持ちかけてきたよ』
自分にとってマイナスにはならないし、何よりもルルーシュにとってプラスになる内容だったからいくつか条件を付けて飲んだだけだ……と言い返される。
『今の言動に騙されないことだね』
「はいはい。殿下がそうおっしゃるならそうしますよぉ」
どうあがいても、この上司には勝てないのだ。今更ながらに、その事実を認識させられてしまう。もっとも、それでなければあの伏魔殿のようなブリタニア宮殿で宰相などという地位にはいられないのだろう。
「と言うわけで、今日の報告はここまででぇす」
自分はこれから出かけますからぁ、とロイドは意味ありげな笑みを浮かべる。
「ルルーシュ様が手作りのプリンをごちそうしてくださるそぉですからぁ」
他にも、特派のみんなにも差し入れをくださるとかぁ……と付け加えた瞬間だ。シュナイゼルの表情に初めて微妙な色が浮かぶ。
『ロイド』
この呼びかけの裏にどのような感情がこめられているのか、わからないわけではない。だてに長い付き合いではないのだ。
「だめですよぉ。ばれちゃうじゃないですかぁ」
あくまでも、特派のメンバーに世話になったからと言うことで届けてくれると行っていた。それなのに、みなに配らずにシュナイゼルに送ったりしたら、彼が全てを知っていると悟られるに決まっている。特派が誰の管轄にあるのは、既にばれているのだから……とロイドは言い返す。
『なら、お前の分を寄越せばいいだろう』
「やぁですよぉ! 僕の分は僕の分です」
せっかくルルーシュが作ってくれたのに、相手がシュナイゼルとはいえ、どうして他人に譲らなければいけないのか。
「殿下でしたら、お望みなら最高のシェフに何でも作らせることが可能でしょうにぃ」
自分はそうではないのだ、とロイドは言外に付け加えた。
『何を言っているんだね、君は』
しかし、それこそ心外だというような口調でシュナイゼルが言い返してくる。
『どのようなシェフであろうとも、ルルーシュの手料理以上のものを差し出してこれるはずがあるまい』
辛うじて、ナナリーが料理を作れるのであればそれくらいではないか。彼は真顔で付け加えた。
「なら、僕じゃなくスザク君に言ってくださいよぉ」
スザクの方がルルーシュの手料理を口にできる機会は多い。それなのに、今回だけではなく特派での分も確保しているのだからぁ、とロイドは訴える。
『……なるほど……』
確かに、考えてみればそうかもしれない。しかし、彼との契約が……と何やら呟いている光景が見えた。
シュナイゼルにこう言わせるとは、スザクの本性はこの前見せて貰った程度ではないと言うことなのか。ならば、彼に対する態度を改めるべきか。それとも、ルルーシュを味方に付けた方がいいかもしれない。そうすれば、彼だけではなく目の前の相手に対しても絶対無敵のカードを手に入れたと同意語だと思うのだ。
『それに関しては、取りあえず後で彼と話し合っておこう』
どうやら、結論が出たらしい。
『その前に、君の分を回して貰おうか』
せめてもの情けでプリンだけは見逃してやるが……とにこやかな口調でシュナイゼルは口にする。
「殿下ぁ!」
確かに、プリンが残されただけでも僥倖かもしれない。でも、できれば……と諦めきれないのは、あれこれ噂を聞かされているからだろうか。
『予算カットとどちらがいいかな?』
しかし、この一言に勝てるはずがない。そんなことになれば、副官に殺されかねないだろう。
「……殿下のいけず……」
この一言を返すだけが精一杯だった。
ケーキ一切れのためにわざわざ専用機を飛ばすシュナイゼルはやはり最強なのかもしれない。
「……僕のケェキィ」
それでも諦めきれないロイドだった。
・
07.09.14up
|