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エリア11 かつて《日本》と呼ばれていた国。そして、その終焉とともに二人の皇族の命が奪われた国……として知られるこの地は、ブリタニア本国に比べれば本当に小さな地域だと言っていい。それでも、人を隠すには十分な広さだ、と言うことなのか。 「本当。どこにいらっしゃるんでしょうねぇ」 僕の大切な皇子様はぁ……とロイドは呟く。 「確認できた死亡者のDNA解析の結果、お二人のものはなかったし……クルルギの関係者も知らない、と」 それどころか、同じ敷地内でくらしていたはずの嫡男の居場所すら把握していないのだから最初からあてにしてはいなかったが。そう心の中で付け加える。 「取りあえず、イレブン専用も含めて医療機関には殿下のお名前で通達を出しておいたし、孤児を収容する施設も同様、と」 その場合、この地の総督であるクロヴィスにばれる可能性はあるが、彼もルルーシュをかわいがっていた一人であるから構わないだろう。それに関してはシュナイゼルに対処を任せてしまえばいいだけのことだ。 しかし、これだけ自分が広げた網にまったく引っかからないと言うことは、相手が細心の注意を払って隠れているからだろう。そして、彼がその気になったのであれば、一般の兵士達にその影すら見いださせないはずだ。 「それほど、皇帝陛下の裏切りは、貴方を傷つけたのですね。だからこそ《ブリタニア》の名を持つ者達の手を拒んでいらっしゃる、と」 それはしかたのない反応なのかもしれない。増して、ルルーシュ達はまだ純粋な潔癖さを持つ年齢だ。しかし、自分までその中に含められるのは気に入らない。 「あぁ、僕たちですねぇ」 現在は自分の直属の上司である彼もそう思っているはずだ。いや、その思いは自分よりも強いかもしれない。 「早く見つけ出さないと、本気であの世に送られるかもぉ」 これは冗談だが、彼の傍に近寄らせてもらえなくなる可能性は十分にある。それでは意味がない。 「本当に、どこにいらっしゃるんでしょうねぇ」 今まで見ていたモニターの画面を閉じた。そして、そのままゆっくりと立ち上がる。 「ロイドさん?」 即座にセシルが不審そうな声をかけてきた。まだ、今日の分の作業は終わっていないだろう、ともその瞳が告げている。 「ちょっとでかけてくるねぇ」 いつもの野暮用だから、とロイドは彼女に言い返す。 「またですか?」 「しかたないでしょぉ。こっちを優先しろってご命令なんだから」 その目的があるからこそ、自分たちはこの地に派遣されているのだ……と苦笑とともに告げた。それに、自分もそれを望んでいるし、とロイドは心の中だけで付け加える。 「公私混同と言われてもしかたがないことだけどねぇ。あの方にしてみれば、こちらの結果が出ないと、安心できないみたいなんだよねぇ」 もちろん、それが彼だけでないというのは事実だ。でなければ、誰が研究以外でこんな地道な作業を続けるものか。とっくに誰かに押しつけて、自分は目の前のこれのことだけに没頭をしている、とも思う。 あの人の存在は、これよりも勝っている。というよりも、これ自体が彼に捧げるために開発されていると言うべきなのかもしれない。それを自分の上司も認めているのだから構わないだろう。 「……しかたがありませんね。でも、こっちも忘れないでくださいよ」 「わかってるよぉ。これは僕の可愛い子供みたいなものだからねぇ」 しかし、これも本当の主がいなければ寂しいだろう。これはあくまでもあの人のための機体なのだ。 「と言うわけで、行ってくるよぉ」 何事もなければ夕方には帰るから。そう言い残すと、ロイドは歩き出した。 租界の中には、きっとあの人とその妹はいない。 それは今までのことからも、そして彼の心情からもわかっている。 「やっぱり、ゲットーかねぇ」 イレブン達の中でどうやって過ごしているのか。 いくら隠そうとしても、彼等が《ブリタニア人》だと言うことは、その容姿から容易に推測できるだろう。流石に子供の命までは奪わないとは思う。それでも、鬱憤がたまっていればどうだろうか。 「何とかして、見つけられる場所に出てきてくれればいいんですけどねぇ」 希望は捨てたわけではない。それでも……と言う気持ちもほんの僅かずつだが強まっていることも否定できないのだ。それはブリタニア本国を離れられない彼も同じだとはわかっている。 「せめて、髪の毛一筋でもいいから、手がかりをつかめれば、ねぇ」 そんなことを考えながら、ロイドはふらりとゲットーの中へと足を踏み入れようとした。 「アスプルンド伯爵様……」 そんなロイドに声をかけてくるものがいる。視線を向ければ、以前気まぐれに助けてやったイレブンの子供の祖父、と名乗った老人が頭を下げているのが見えた。 「何か?」 こんな時に煩わしい。だが、状況が状況であれば彼も危険なはず。それなのに声をかけてきたのはどうしたのか。そう思いながら言葉を返す。 「伯爵様が先日、口にしておられた子供達についてなのですが……」 この言葉に、微かに目を見開く。 「何か知っていると言うんですかぁ?」 声の震えを必死に押し殺してこう問いかける。 「伯爵様からお聞きしたのとは少し違うのですが、日本人とブリタニア人の少年、それにハーフとか言う盲目で脚の悪い女の子の三人兄妹が、ゲットーの外れにいると」 少女の方はそういう状況だから滅多に人前に出ては来ないが、ブリタニア人の少年の方は、黒髪に紫の瞳をしていた、と老人は口にする。 「こういう世の中ですからね。ブリタニア語を読み書きできない連中の方が多いです。そんな連中のために布告や何やらを訳してやったり書類を作ったりして、糊口をしのいでいるようです」 その他にも、細々とした手伝いをして駄賃を稼いでいるらしい。そうも付け加えた。 「そうですか」 確かに、彼ならば十分に可能だろう。ブリタニアにいた頃に、全ての法令を理解しているの、ルルーシュは。それに、本当の身分を知られないためにも適当な身の上話を作り上げている可能性は十分にあり得る。確実とは言えないが確認してみる必要はあるだろう。 日本には『情けは人のためならず』という言葉があったそうだが、それはこのようなことをいうのかもしれない。そんなことも考えてしまう。あるいは、あの時の気まぐれすら、このために運命が用意してくれた布石だったのか。 「僕が探している子供達かもしれませんねぇ」 教えてくれてありがとぉ、と口にしながら、ロイドはポケットの中から財布を取り出す。そして、その中から幾ばくかの紙幣を抜き出した。 「お孫さんに甘いものでも買って上げてぇ」 もし、誰かに何かを言われたら自分の名前を出せばいいから、とも付け加える。 「伯爵様!」 そのまま歩き出そうとする彼を老人は引き留めた。 「僕は貴方の言葉を確認しに行きますからぁ」 邪魔しないでくれますぅ? とロイドは相手をにらみつける。 「ご案内させて頂きます」 だが、彼の口から出たのはこんなセリフだ。 そこまではしなくてもいい、と言いかけてロイドはやめる。どう考えても、彼に案内をさせた方が早いだろうとそう判断をしたのだ、それに、訓練を受けていない相手であれば、もし何かあったとしても、自分でもどうにかできる。その程度の技量は身につけている自信があった。 この判断は、間違っていなかったらしい。 「スザク!」 「スザクさん!!」 向かっていた方角から、銃声の方が音が聞こえた。それに老人は足を止める。 「この先だね?」 これ以上は彼に案内させない方がいいだろう。 「なら、君はここでいいよぉ」 お孫さんの所へお帰り、と付け加えると老人をその場に残して走り出した。 「伯爵様!」 そんな彼の背中を老人の声が追いかけてくる。だが、それを気にかけている時間はない。 間違いなく、先ほど聞こえたのはルルーシュとナナリーの声だった。 声が聞こえたと言うことは、まだあの二人は無事なのだろう。 しかし、彼等に悲鳴の方な声を上げさせる『何か』がこの先で繰り広げられているのだ。 せっかく見つけ出したのに、手にする前に壊されてしまっては意味がない。 そう考えて、ロイドはさらに足を速める。 同時に服の上から胸を押さえた。そして、そこに堅い感触があることを確認する。 「射撃は、苦手なんですよぉ」 小さなため息ともにこう呟く。そして、角を曲がる。 次の瞬間、ロイドは眼鏡の下の瞳を丸くした。 「スザクに触れるな!」 周囲を取り囲んでいるのは、ブリタニアの歩兵達だ。しかし、彼等はまだ幼い一人の少年の言葉に圧倒されて動けないでいるらしい。 「さすがはルルーシュ様」 あの最高のDNAをその身に受け継いだ子供だ、と心の中で付け加える。 しかし、どうしてこのような状況になっているのか。それがわからない。どう考えても、重装備をしている兵士達が子供達を威嚇しなければならない理由など内容に思える。 「……このガキ……」 しかも、目の前の者達はルルーシュの本来の身分を知らないのだ。こんな風に年端もいかない子供に気おされるなど認めたくないのだろう。怒りに滲んだ声がどこからか響いてくる。 「本当に、バカばっかりなんだからぁ」 現場の人間は、と口にする。いくらなんでも子供に手を出すのは許されないだろう、と呟きながら、ロイドは強引に割り込んだ。 その気配に気が付いたのだろう。ルルーシュが顔を上げる。次の瞬間、彼の瞳に浮かんだ安堵の色に、ロイドは己の背筋をぞくりとした感覚が駆け抜けていくのを感じた。しかし、ルルーシュの瞳からはすぐにその色はかき消されてしまう。その代わりに浮かんだのは、明白な警戒の色だ。しかし、それは彼が強引に作ったものかもしれない、とロイドは判断をする。しかし、それを今、彼に問いかけることはできない。 「ダメだよぉ。どんな理由があろうとも、子供に危害を加えちゃぁ」 増して、彼等はシュナイゼル殿下が探していらっしゃる子供達だからねぇ……とロイドは続ける。そうすればルルーシュだけではなくナナリーも体を強ばらせたのがわかった。 「彼等の父親は日本人だったけど、殿下の知己だったんだよ。生きていたら、間違いなくお側に召されただろうね」 本来であればブリタニア侵攻前に家族ごと保護をする予定だったんだけどねぇ、と口から出任せ――その設定は、先ほど老人から聞き出したものだ――のセリフをすらすらと並べ立てる、こう言うときにシュナイゼル相手に鍛えた自分の弁説が自慢に思える。同時にそうすることでルルーシュ達が少しでも安心してくれればいいとも考えたのだ。 「と言うわけでぇ、その子達、引き取らせてくれるかなぁ?」 何をして君達を怒らせたのかはわからないけれど、そうしてくれたら、君達の今回の態度については内密にしておくけどぉ、とも付け加える。 「……アスプルンド伯……」 どうやら、自分の顔を知っているものはいたようだ。取りあえず、自分の方が彼等よりも立場は上だ。それに、シュナイゼルとの繋がりをにおわせている以上、彼等に拒否権があるはずがない。 「怪我人は病院に運びたいから、人手を貸してくれるかなぁ?」 この一言が全てを決定した。 「それと……一応、状況を説明してくれるかなぁ。待っている間だけでいいから」 でないと、子供達の口からあれこれ殿下に言われるかもしれないよぉ、と少し脅しをかけておく。殿下は、彼等が気に入っているからねぇ、とも。 よくよく見れば、ナナリーの顔色も悪い。それだけでも彼等の命を奪うに十分な理由になる。しかし、そんなことをすればクロヴィスに彼等の生存が知られてしまうだろう。それをルルーシュが嫌がっていることは十分推測ができる。 ならば、多少のことには目をつぶって、彼女ともう一人の少年をさっさと病院に運んだ方がいい。細かいことは、不本意だが権力で押し切ってしまえ、とそう考えることにした。 どうやら、ルルーシュも二人を病院に運ぶことには異存はないらしい。黙ってロイドの言動を観察している。それは彼の本意を謀っているようでもあった。 昔のように、無条件に信頼してはもらえないのだな、とロイドは心の中で呟く。それでも、彼がすぐ傍にいてくれるのであれば構わない。時間さえあれば、きっと……とそうも付け加えていた。 「……俺たちをどうするつもりだ?」 自分の大切な皇子様は、離れていた間にずいぶんとがさつになられたらしい。彼の言動を目にして、ロイドはそんな感想を抱いてしまう。 ロイドと二人きりになった瞬間、ルルーシュはこう問いかけてきたのだ。その警戒ぶりに、彼が今までどれだけ世界に裏切られてきたのかが想像できた。 「ルルーシュ様」 それでも、彼が真っ直ぐに自分を見つめてくれることが嬉しいと思う。 「どうもしません。ただ、ここにいてくださればいいのです」 シュナイゼルにだけは連絡を取るが、それ以外の者達に生存を知られたくないというのであれば、そうしよう。必要であれば、嘘の戸籍の一つや二つ、用意してみせるから、とも付け加えた。 「ロイド?」 きっと、すぐに連れ戻されると思っていたのか。ルルーシュは信じられないという表情でロイドを見つめてくる。 「枢木スザクのことも心配はいりませんよぉ。僕がちゃんと面倒を見ますから」 退院した後は、ちゃんとここに連れてきますよ、とロイドは笑ってみせた。 「もっとも、ルルーシュ様が彼を『いらない』とおっしゃるなら、話は別ですけどぉ」 「誰が『いらない』なんていうか!」 ロイドの言葉に、ルルーシュは即座にこう怒鳴り返してくる。そんな彼の態度に、少しだけ嫉妬心を覚えてしまったとしてもしかたがないことだよな、とロイドは思う。本当は、自分がそうなりたかったのだから。あの日、無理矢理彼から引き離されなければ、だ。 「スザクがいてくれたから、俺は初めて《友達》とはどのようなものか、知ったんだ!」 ブリタニアにいた頃は、友達なんて作ることはできなかった。そんなことをすれば、その相手にも被害が及ぶ可能性があった。マリアンヌが極力自分たちを守ってはくれていたが、彼女にも限界はある。だから、友達なんて望む事はできないと、そうもわかっていた。 でも、スザクは違った。 彼は真っ直ぐに自分たちにぶつかってきた。そんな存在に初めてあった。 最初は反発ばかりしていたと思う。でも、すぐに別の感情が自分たちの間で育ち始めたのだ。そして、それが心地よいものだと初めてわかった。 だから、手放せなくなった。 いや、それ以上にどうしたら自分たちの傍にいてくれるだろうか、とそう考えて積極的に働きかけもした。 何よりも彼がいてくれたからこそ、自分はナナリーを守ることができたのだ。 ルルーシュは叫ぶようにこういった。 あまりに大声を出し過ぎたせいだろうか。その細い肩が大きく上下している。それよりも、うっすらと上気したそのはだが艶めいていると感じられてならない。そんな自分の気持ちをロイドは即座に押し殺した。 「わかってますよぉ」 そして、その代わりに善良そうな微笑みを口元に刻む。 「だから、ちゃんと治療をさせていますしぃ」 本人が希望するなら、ちゃんとした学習環境も整えてやりますからぁ……とロイドはルルーシュの肩にそっと手を置く。振り払われるかと覚悟していたのだが、ルルーシュは黙ったまま受け入れている。 「ともかく、今日はお疲れになったでしょう? 部屋を整えさせましたから、おやすみください。明日には、ナナリー様達の所にお連れしますからぁ」 ね、と付け加えれば、ルルーシュは小さく頷いてくれた。どうやら、一人になってあれこれ考えたいとそう思っているらしい。 もっとも、自分にしてもそれは同じだ。 彼が部屋で休んでいる間に、シュナイゼルに連絡を取らなければいけないだろう。そして、ルルーシュのために最良の環境を整えなければいけないだろう。 「……俺に、お前を信じろ、と?」 ルルーシュが小さな声でこう問いかけてきた。そして、裏切られろと言うのか、とそうも付け加える。 「ルルーシュ様ぁ」 そんな悲しいことを言わないでくださいよぉ、とロイドはため息をつく。いや、それだけではなく、思わずその場に崩れ落ちてしまった。 まさか、自分がここまで彼に拒まれるとは思ってもいなかったのだ。 「本当にルルーシュ様の嫌がることは何もしません。命をかけてもいいです」 ですから、信じてください……と顔を上げるとルルーシュの瞳をのぞき込む。 「……俺が信じられるのは、ナナリーとスザクだけだ……」 他の人間は、みんな自分のことを裏切っただろう……と彼は小さな声で言い返してくる。 そういわれてもしかたがないのだろうか。でも、自分がそれを認めるわけにはいかない。 「お願いします」 必死の表情でなおも食い下がった。それが功を奏したのだろうか――それとも、面倒になっただけかもしれない――彼は小さなため息をつく。 「わかった……今は、信用しておく」 そして、その唇からこんなセリフがこぼれ降りた。渋々とも思えるそれでも、ロイドにとっては嬉しいものだ。 「ありがとうございます!」 言葉とともに、ルルーシュの小さな体を力一杯抱きしめた。 「放せ!」 苦しかったのだろうか。ロイその腕から逃れようとするようにルルーシュは暴れ出す。しかし、どうしたって子供の力で大人に勝てるわけがない。その上、ルルーシュはここしばらくろくに栄養を摂取できていなかったのだろう。体力も続かないようだ。気が付けば、ロイドの腕にもたれるようにして荒い息をついている。 「お部屋にご案内しますねぇ」 それをいいことに、ロイドは彼の体を抱き上げる。 「ロイド!」 ルルーシュが即座に抗議の声を上げた。しかし、それに耳を貸す予定はない。 「明日の朝食はスクランブルエッグとサラダでいいですかぁ?」 おやつはプリンですよねぇ、当然……と笑いながら、ロイドは歩き出した。 今日の執務を終え、ようやく自分に与えられた離宮に戻る。そして、最後にメールを確認しようとしたときだ。いきなり、直通回線に誰かが連絡を入れてきた。 「……こんな時間に、誰だ?」 その事実に、シュナイゼルは秀麗な額にしわを刻む。 「また、どなたかが失敗をしてくださったのか?」 言葉とともに脳裏に浮かんだのは、唯一の兄の姿だ。自分に張り合おうとしているのか、余計な手出しをしては周囲の仕事を増やしてくれるのだ。いい加減、自分が無能なのだと理解してくれればいいものを。血筋だけは優れているのだから、そちらに専念してくれてもいい。むしろその方が周囲が喜ぶのではないか。そう考えながらも、綺麗に整えられた指先を伸ばす。 「私だ」 棘を滲ませた声で応答する。モニターをオンにしないのは、自室まで仕事の話を持ち込みたくないからだ。特に、あの兄がらみであればなおさらだろう。だからといって、自分の立場ではそれを無視できない。ならば、せめて……と考えていたことも否定はしない。 『殿下ぁ〜〜』 しかし、スピーカーから流れてきたのは政庁での部下ではなく悪友の声だった。しかも、確認しなくてもわかるくらい気色に滲んでいる。 「ロイドか?」 モニターをオフにしていたことに関して、イヤミの一つぐらい言われそうだな。そう思いながらシュナイゼルは画像をオンにした。 『もぉ、殿下ったらぁ。そんなに、僕の顔、見たくなかったんですかぁ?』 そうなら、ショックです。毎日毎日、殿下のために頑張っているのに……と本気で考えていないであろうセリフを彼は口にした。 「本宮からの連絡だと思ったのだよ」 既にくつろいだ姿になっていたから、それを見せるわけには行かないと判断したのだ。でなければ、誰が何を言ってくるかわからなかったからね……とシュナイゼルは苦笑を浮かべる。 「相手がお前だと最初からわかっていたなら、遠慮などはしなかったのだがね」 ロイドが相手であれば、自分は真っ裸であろうとも気にしないだろう。それがわかっているからこそのセリフだ。 『まぁ、そぉいうことにしておきますよぉ』 相変わらず、足の引っ張り合いですかぁ……とそう付け加える彼に、シュナイゼルはさらに苦笑を深めた。 「それで? わざわざ、直接連絡を入れてきた理由を聞いても構わないかな?」 何かよいことがあったようだが……と問いかける。 『そぉでしたぁ! 殿下と舌戦をするよりも重要ですよぉ』 これ以上ないくらいの吉報ですよぉ、とロイドは続けた。 それでなかったら、このまま舌戦を繰り広げるつもりだったのか。いや、彼とであればイヤミ合戦取った方が正しいかもしれない。それはそれで気分転換にはちょうど良かったのかもしれないが……とも付け加える。 しかし、今はそれよりも彼の言う『吉報』という言葉の方が引っかかった。 「……まさか……」 自分たちにとってそういえる報告は一つしかない。 『大正解! やぁっと見つけましたよぉ」 お二人とも、取りあえず無事です……とロイドは口にする。 「取りあえず?」 それはどういう事なのか。言外にそう問いかけた。 『栄養を十分に確保できなかったらしいんですよぉ。他にもちょっとあれこれありましてぇ――まぁ、そのおかげで見つけられたんですけどねぇ――ちょっとしたケガがあります。ナナリー様は他にもちょっと気になる事があったので、番犬君と入院して頂きましたぁ』 「番犬?」 誰だ、それは……とシュナイゼルはロイドに確認を求める。 『枢木の息子です。今までお二人を守って来たようで。ルルーシュ様も信頼していらっしゃいましたから、取りあえず手元に置いておこうかなぁと』 あのような状況に追い込まれてはしかたがないのかもしれないが、ブリタニアに対してものすごい不信感を抱いているようだ。それは、自分たちに関しても同様で……何とか範疇から除外してもらわないといけないだろう、とロイドは主張をする。 「そうかもしれないが……あの子の傍にナンバーズを?」 ナナリーであれば構わない。 あの子もまたブリタニアの血をひいている。その上、ルルーシュと同じ母親から生まれた存在だ。あの子をつなぎ止めるためには十分な存在だろう。 しかし、ナンバーズは……とそう考えてしまうのは、自分が皇族だからだろうか。 『有能そうですしぃ、血統もまあまあ。教育次第じゃないかなぁ、と思うんですけどぉ』 何よりも、ルルーシュの傍に番犬は必要でしょう? とロイドは笑う。 「ロイド?」 『僕も殿下も、確実にルルーシュの傍にいられるわけじゃないでしょぉ? 忌々しいですけど、前例がありますしぃ。だから、僕らの代わりに確実にあの方の傍にいられる存在が必要じゃないですかぁ』 人間ならしゃくに障るかもしれないが、犬ならば妥協できるかもしれないしぃ、と話題にされている本人はもちろん、ルルーシュが耳にしても怒りそうなセリフを彼は口にする。しかし、シュナイゼルはそれで取りあえず納得をした。 「なるほど。ついでに、寂しいときの遊び相手……と言うことか」 犬であれば、確かに傍にいてあの子にじゃれついていてもそれほど嫉妬心はわかない。 「もちろん、しつけはお前が責任を持ってきちんとするんだな?」 身の丈以上のことを望まないように……と言外に付け加える。 『わかってますよぉ。ルルーシュ様のためにがんばりますってぇ』 あぁ、ランスロットのパーツにしてもいいかなぁ……と彼は呟く。 「ナンバーズをナイトメアのデヴァイサーに?」 以前から突拍子もないことを言う奴だとは思っていたが、今の話以上のものはなかったように思える。 『あれは、ルルーシュ様のための機体ですからねぇ。あの方の番犬を乗せてもいいかなぁ、と。もっとも、殿下が構わないとおっしゃってくださったらの話ですけどぉ』 しかし、こう言われてみれば納得するしかない。 下手な人間を近づけてあの子を傷つけさせるくらいであれば、ナンバーズであろうともあの子を守ろうとする存在の方がマシか、とそう思うのだ。 「それも、君のしつけ次第だよ」 何よりも、ルルーシュがそれで自分にまた信頼の眼差しと無邪気な微笑みを向けてくれるのであれば、些細な問題かもしれない。そうも考える。 「ともかく……スケジュールを調整してできるだけ早くそちらに行こう。それまで、あの子を逃がさないようにね」 それだけ自分たちに対する不審が強いのであれば、ふらりと姿を隠してしまうかもしれない。それだけが不安だ。 『ナナリーさまと枢木スザクが入院している間は大丈夫だと思いますよぉ』 心配なのは、シュナイゼルの方だ……と彼は言い返してくる。 「否定できないね」 自分がこの地を離れればどうなるか、簡単に想像が付く。それでも、だ。自分の目でルルーシュの無事な姿を確認しなければ納得できない。 こうなれば、意地でもスケジュールを調整してルルーシュの元へ行ってやろうじゃないか。心の中でそう誓うシュナイゼルだった。 08.10.22up |