03

 ここも記憶の中のそれと何も変わっていない。
 と言うことは、まだあれが使えるだろうか。そんなことを考えていれば、突き飛ばされるように牢へと入れられた。幸いだったのは輔と同じ場所だったと言うことだろう。
「ゆっくり反省しろ!」
 そう言うと兵士はわざとらしい音を立てて出入り口を閉めた。
「食事が出ると思うな」
 そう言い残して兵士はそのままこの場を後にする。その方が僕としてはありがたい。
「……さて、どこにあるかな?」
 ため息とともに僕は壁をたたき出す。
「何をしているんだ?」
「定番だと地下牢に抜け道があるからさ」
 ここにもあるのではないか。そう思っただけ……と付け加える。
「あぁ、確かに」
 その可能性はあるな、と輔もうなずく。そして同じように壁をたたき始めた。
 やがて、微妙に音の違う場所にたどり着く。
「ここかな?」
 二、三度たたいて音を確認しながらつぶやいた。
「みたいだな」
 即座に彼も同意をしてくれる。
「でも、どうやって開けるんだ?」
 開けるための鍵穴はないぞ、と彼は続けた。
「と言うことは何かギミックがあるんじゃないかと」
 実は知っているけど、と口に出すことはできない。だからといって彼に正解を探させるのは酷だろう。少々わざとらしいけどやるしかないか。
 そう考えると、僕はその部分の周囲を触っていく。
 やがて指先がある箇所をおした。そうすれば、少しだけ引っ込む。
「ここかな?」
 そう口にしながら今度は力を込めてぎゅっと押し込む。
 次の瞬間、そこは鈍い音を上げながら隙間を空けた。
「……あいた?」
「あぁ。ちょっと待って」
 そう言うと輔は中の通路をのぞき込む。
「大丈夫そうだな」
 そう言うと彼は僕を手招く。そしてするりと中に滑り込んだ。僕もその後に続く。
 ついでにさりげなく壁のスイッチを触って隠し扉を閉めた。
「うわっ!」
 それに驚いたように声を上げる。
「しまったな」
「うん。どこに触れたからかな?」
「かもしれないな」
 詳しい話は後で、と彼は言う。
「ちょっといたずらをしたかったんだが……見えないと難しいか?」
 さらに輔は言葉を続ける。そのまま視線を僕に向けてきた。
「何をするの?」
 ひょっとしてばれたかな? と僕はそんな彼の様子を見ながら心の中でつぶやいた。だとするとあれを話さなければいけなくなる。それで嫌われるのはいやだな。
「まぁ、大丈夫だろう。どうせ、目くらまし程度だし」
 そう言うと小さな声でなにやらつぶやく。
 いったい何をしたのか。問いかけた方がいいのか。だが、後でと言うのならそのときでもいいだろう。しかし、彼が話したくないというのであればそれはそれで十分。僕にだって話せないことはあるんだし。
 そんなことを考えながら進んでいく。
 やがて、一つのドアにたどり着いた。
 この先にあるのは何だったかな。
 ともかく、あいつらの手の届かないところにいければ御の字と言うことで。
「開けるぞ」
 輔の言葉に僕はうなずく。
 ドアを開ければ、そこには青い空が見えた。

 最初に地下牢の中をのぞき込んだとき、そこには間違いなく二人がいた。
 しかし。次にのぞいたときにはそこには誰もいなかった。
 その報告を聞いて一瞬、彼は虚を突かれたような表情を作る。
「……どういうことだ?」
 その表情のまま彼はこう口にした。
「わかりませぬ」
 兵士のその答えが気に入らなかったのか。彼は手にしていた杯を投げつける。
「わからぬではないだろうが!」
 どこかに入り口があるはずだ。彼はそう続けた。
「ともかく、追え! 今すぐにだ!!」
 徒歩である以上、城の近くにいるはずだ……と彼は叫ぶ。
「……はっ」
 今すぐに、と兵士は立ち上がる。そして、そのまま命じられたとおりの行動をとるために行動を開始した。
「……いったいどこから逃げ出した?」
 それよりも、と彼はつぶやく。
「あやつらは何を知っている?」
 自分の思惑に気づいているのか。それならばなぜ……と続ける。
「ようやく見つけたものを」
 今回のことを利用してなんとしても手に入れようと思ったのに。彼はさらにそう続ける。だが、逃げ出されてはそれも不可能だ。
 あれら以上に駒にするのにちょうどいい存在はいない。
 そう。
 どれだけ異世界を探してもだ。
 だからこそ、こちらとしても犠牲を払ってまで呼び寄せたのに。
「なんとしても連れ戻さねば」
 そして、どのような手段を執ろうと命令に従わせなければいけない。
 自分にとって必要なのは贄と身代わりなのだ。
 だから……とそうつぶやく彼に誰も声をかけることはできなかった。

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