02
眼下に記憶にある騎士服を身に纏った者達が何かを探している様子が確認できる。
「……まさか……」
しかし、ルルーシュはその光景が信じられなかった。
「あれは……確か、五十年近く前の騎士服だぞ」
自分の記憶が間違っていなければ、の話だが。ルルーシュはそう呟く。
だが、自分の記憶が間違っていないという自信もある。と言うことは、ここは五十年近く前と言うことか。それとも、あの後、騎士達の衣装が変更されたのか。
普通考えれば後者の方が確率が高い。しかし、ギアスやCの世界のことを知っている身としては前者の可能性も否定できないのだ。
「それよりも、子供がいるはずだが……」
先ほどの悲鳴が自分の聞き間違いでなければ、と意識を切り替える。
疑問を解消するよりも子供を助ける方が先決だろう。そう考えながら周囲を見回す。そうすれば、騎士達から隠れるように植え込みの影に小さな体をさらに縮ませている少年らしい姿が確認できた。
だが、あのままでは直ぐに見つかってしまう。
「……とりあえず、あいつらの目をそらすか」
しかし、どうやって、と悩む。
スザクほどの身体能力があれば、素手で飛び込んでいっても大丈夫だろう。しかし、自分にはそんなことが出来るはずもない。
ならば、何か使えるものはないだろうか。
そう考えながら、改めて自分の持ち物を確認する。
「……銃か……」
胸元に護身用の小さな銃が収められていた。後は腰に付けていた短剣ぐらいか。
「せめて爆薬でもあれば……」
あるいは、ギアスを使えれば……だろうか。だが、コードが発現した以上、ギアスは使えない。だから、手持ちのもので何とかしなければいけないのだ。
「……まぁ、死なないだろうからな。多少の無茶をしても構わないか」
たとえ死んだとしても、自分は元々死人だから構わないだろう。ただ、スザクと違って連中は苦しまないように殺してはくれないだろうが。それは妥協するしかない。
「その苦しみも、俺に与えられた罰かもしれないしな」
スザクが《
だが、それも自分たちで選択したことだから……と呟いたときに、ルルーシュはあるものを見つけた。
「あれは……使えるか?」
自問するようにそう呟く。
「試してみるしかないか」
それ以外によい方法を見つけられない以上、と直ぐに判断をする。
何よりもたとえ失敗したとしても、目くらましにはなるはずだ。そう考えたことも否定しない。
「こんな行き当たりばったりの作戦は、俺のジャンルじゃないが」
言葉とともに照準を合わせる。
「この場合、仕方がないな」
そして、この呟きと共に引き金を引いた。
だが、それがこれほどまでに大きな被害をもたらすとは思わなかった。
周囲には子供を捜していたらしい騎士達が倒れている。子供も、今の爆風で飛ばされていた。だが、そのおかげで連中の目に触れることなく保護できたのかもしれない。
「……あの大きさであれほどの威力、ということは……液体サクラダイトか?」
あれの中身は、と付け加える。
「既に流通していたとなると……やはり六十年以上前、ということはないな」
それ以前は、まだ、液体にする技術はなかったはずだ。
「となると……六十年未満五十年以前、ということか」
そのころに何かあっただろうか。そう思いながら記憶の中にある自国の歴史を思い出そうとする。
「そう言えば、そのころだな……皇位継承争いがあったのは」
シャルル達がまだ子供の頃だったと記憶している。そのせいで、皇族やそれに連なる貴族が殺し合ったはずだ。
「ということはこの子供は皇族か貴族の子供か」
それも、かなり重要な位置にいる……と呟く。
「しかし、誰だ?」
年齢と性別だけでは該当者が多すぎて、逆に絞り込めない。そう付け加えた瞬間だ。ルルーシュの脳裏にある可能性が浮かぶ。
「……まさか……」
シャルルも、そしてV.V.もこの子供と同じ年代だったのではないか。
だとするなら、この子供は……と思いながら顔を見つめる。そこに、V.V.の面影がないか。それを確認しようとしたのだ。
確かに、あるように思える。
しかし、自分はその時に死んだ他の皇族の顔を知らない。その中に、彼らと似たものがいる可能性だってある。実際、皇族ではないがその地をひいている貴族の中には、自分たちきょうだいよりもシャルルに面差しが似ているものだっていたのだ。
「もっとも、俺は一族の中の黒羊だったがな」
淡い色彩しか持たない者達の中で、自分だけが母の黒髪を受け継いだ。だから、この瞳の色さえごまかせれば、誰も自分を皇族だとは思わないだろう。それがいいのかどうかは、未だにわからないが、少なくとも、と自嘲気味に笑う。
「母さんに似たのが外見だけでよかった、というところか」
もし、中身まで似ていたならばどうなっていたのだろうか。ふっとそんなことも考えてしまう。もちろん、それが意味のないことだと言うこともわかっていた。
ただ、こんなことを考えられるようになったのは、あるいは、彼女たちのことを冷静に考えられるようになってきたのかもしれない。
「ともかく、火でもおこすか」
次第に暗くなってきた周囲を見回しながら、こう呟く。
「……とりあえず、火打ち石を探す時間はないだろうから……キリモミ式か」
乾いた枝が、見つかればいいのだが……と付け加えながら立ち上がる。
「こうなるとわかっていれば、ライターなりマッチなりを持ってきたのだが……」
流石のジェレミアも、そこまでは考えつかなったらしい。もっとも、誰であろうとこの状況を考えつくはずがないような気がする。
「あるいは、先ほどの場所から火を薪に移して持ってくるか、だな」
しかし、それは危険だろう。どこに連中がいるかわからないのだ。
そう考えれば、本当は火を使うこともやめておいた方がいいのかもしれない。だが、ここはかなり緯度が高いのだろう。かなり気温が下がってきている。自分はいいが、ケガをしているこの子供にはマイナスにしかならないだろう。
「それにしても、本当にここはどこなんだ?」
それもわからない以上、迂闊には動けない。
「まったく……とんでもないところにおとされたものだ」
いくらこうして動いているとはいえ、これはないだろう。そう呟きながら、その場を離れた。
だから、気が付かなかった。
あの子供は、実は目を覚ましていたことに、だ。
乾いた小枝や何かを見つけて戻ったときには、もう、あの子供の姿は元の場所にはなかった。
「……まぁ、想定の範囲内だな」
あのように命を狙われていたのだ。目覚めたときに近くにいたのが見知らぬ相手なら、警戒して当然だろう。自分だって、日本に送られたときはそうだったのだ。
ナナリーを守らなければいけなかったから、という理由だけではない。父に捨てられ、信頼していたきょうだいたちにも裏切られたからだ。そして、その後も何度も裏切られてきたし……と心の中で呟く。
「しかし、ここがどこなのかだけでも教えて欲しかったな」
礼の言葉はいらなかったが、と付け加える。
「だが、いなくなったものは仕方がない。それよりも、火だな」
流石に辛くなってきた。そう呟きながらもとりあえず岩陰へと移動する。そこには、人が二人か三人、座れるだけの空間があった。誰かが以前にここで野宿をしたのか。たき火の後も残っている。
だから、大丈夫だろう。
そう思いながら本で読んだとおりに薪を積み上げていく。
「こういう事は、スザクが得意だったな」
子供の頃から、と呟くと自然と頬がゆるんだ。
全てから解放されたからか。彼とのことは何を思いだしても、懐かしいという気持ちしか浮かんでこない。あの憎しみあった日々も含めて、だ。
同時に、彼に対する慕わしさもさらにましていく。
あるいは、こちらの世界にとばされたのはいいことだったかもしれない。
そう考えながら、上着の裾を少しだけ朔。それをねじってひも状にして、枝に結ぶ。弓のような形が出来たのを確認して、別の枝をそれに組み合わせた。
「これで、俺でも何とか火をおこせるはず」
言葉とともにそれを使って枝を回転させていく。やがて、下に置いてあった木くずから細い煙が上がってくる。
あと一息で火がつくだろう。
その事実に気を抜いたのがいけなかったのか。
「貴様! そこで何をしている!!」
いきなり、こんな声が投げつけられた。
その事実に、ルルーシュは内心で舌打ちをする。
「……連れとはぐれましたので、とりあえず、迎えに来るのを待っています」
それでも、それを表に出すことはなくこう言い返した。
「こう言うときは、迎えに来るまで動くな、といわれていますので」
寒いから、火をつけようとしていただけだ……とさらに言葉を重ねる。
「……何を言っているんだ、貴様は」
自分が想像していたのとは違う言葉が返されたからか。相手は簡単に怒りを頂点まで沸騰させる。
「何をといわれましても、真実だけですが?」
こう言うときに表情を変えずに嘘を言える自分に苦笑を浮かべたくなった。だが、そんなことをしても相手を刺激するだけだろう。もっとももう遅いような気がする。
「親戚を訪ねてきたのですが、途中で乗り物も破壊されてしまいましたからね」
何か? と聞き返す。
「その言いぐさを信じられるか!」
やはりそうか、といいたくなるような言葉を相手は言う。
「ヴィクトルをどこに隠した!」
さらにこう付け加えられて、意味がわからない。
「誰ですか、それは」
真顔で言い返せば、相手はさらに激昂していく。
「もういい!」
こうすれば話が早い! といいながら、相手は腰に下げていたホルターから銃を抜く。
本当にどこまでステレオタイプなのか。
心の中でそう呟くと同時に、衝撃がルルーシュの体を襲った。