14
彼と口論をしていたのがまずかったのか。
ルルーシュが与えられた部屋ではなくこちらの部屋にいることがしっかりとばれてしまった。
「どうして?」
ナナリーとよく似た顔が二つ、泣きそうな表情でこう問いかけてくる。その光景は流石に胸が痛むな、とルルーシュは心の中で呟く。
「それについては、何度も言ったはずだが?」
お前達の頭は、ただついているだけか? と思わず口にしてしまう。
「三歩歩けば全てを忘れてしまう鶏か?」
さらにこう付け加えてしまった。
「鶏じゃない!」
「一緒にしないでください」
即座に反論が飛んでくる。
「なら、何故、俺がいった言葉を綺麗さっぱり忘れてくれるんだ?」
それを告げたのは一度や二度ではない。しかも、きちんと理由まで説明したはずだが? と彼は二人をにらみつけた。
「お前達がしなければいけないことと、俺のやらなければいけないこと。それは今は決して交わることはない。だから、自由にさせろ、とも告げただろう?」
何故、理解できないのか。ルルーシュはため息とともに続けた。
「お前が私と同じ
不意にC.C.の声が割り込んでくる。
「その二人は、まぁ、純真にお前に傍にいて欲しいだけだろうが……他のものは私と同じ
だからこそ、その二人の希望を叶えようとしているだけだ……と彼女は付け加えた。
「こいつもか?」
反射的に彼を指さしてしまう。
「そいつは、まぁ、違うがな」
喜べ、と彼女は笑った。
「お前の鈍くささにあきれて見捨てられないだけ、だそうだ」
否定は出来まい? と彼女はさらに言葉を重ねる。
「黙れ、魔女!」
即座にそう言い返したのはどちらだっただろうか。
いや、それ以前に何故、彼が自分の口癖を真似するのだろうか。彼の前ではそう口走っていないはずなのに、と思う。
「そうだ。私は魔女だ。お前はそれをよく知っていたはずだが?」
だが、それを考えるよりも先にC.C.がこう言ってくる。
「ついでに言えば、今の私は、あの双子の保護者でもある。だから、あいつらの希望を優先させて貰おう」
あの二人が同時にワガママを言うのは初めてなのだ。彼女はそう続けた。
「だから、あきらめろ」
そう言われて、素直に自分が頷くと思っているのだろうか、彼女は。
「もちろん、その間、お前があいつらにどんな態度を取ろうが好きにすればいい」
何があっても自分たちは死ぬことはない。死ねるとすれば、方法は一つだ……と彼女は笑う。
「お前……そうやって、あの二人に《ギアス》を与えたわけではないだろうな」
彼女のその表情にいやなものを感じて、ルルーシュは問いかけた。
「安心しろ。シャルルは欲しがっているが、あいつに渡す予定はない」
ヴィクトルは既に持っているから、取り上げるのは不可能だ。彼女はそうも言う。そのことはルルーシュも知っていた。
「……そうか」
どこまで信用していいものか。はっきり言えば悩む。
何と言っても、相手は
「何だ? 信用しないのか?」
ルルーシュの表情から何かを察したのだろう。彼女はこう問いかけてくる。
「魔女を信用しろと?」
即座にこう言い返す。
「私は、お前には何もしていないつもりだったが……お前の知っている《私》は何をしたのやら」
それはそれで興味がないわけではない。しかし、問いつめている時間は取れないだろうな……と彼女はため息をついてみせた。
「どうやら、あの二人は本気で他の連中を追い落とすことに決めたらしい」
それはそれで願ってもない展開だが、と呟くように彼女は続ける。
「理由が、お前の存在だというのはな……」
よかったのか。それとも、とC.C.はわざとらしく天を仰いで見せた。
「だから、俺はあいつらと関わりたくない、と言っていただろう?」
ひょっとしたら、一番怖れていた状況になったのだろうか。それとも、と心の中で呟きながら言い返す。
「さぁな。あるいは、他のことが契機になった可能性はあるだろうが……どのみち、結果は一緒だ」
あの二人は他の者達を蹴落として、シャルルが皇帝になる。
それは定められた未来ではないのか。彼女はそう言った。
「諦めるしかないだろう。重要なのは結果ではないのか?」
彼もまた口を挟んでくる。その言葉に引っかかりを覚えたのは、自分が知っているある人物のことを思い出したからだ。
だが、すぐにそれを否定する。
スザクがここにいるはずがない。
彼はきっと、自分たちがいた世界で自分のなすべき事をしているはず。それが彼への×でもあるからだ。
だから、ただの偶然だろう。実際、誰が口にしてもおかしくはないセリフだし……と自分に言い聞かせる。
それでも、すぐにスザクを連想してしまったのは、自分が彼に会いたいからだ。
未練だな、と心の中で呟く。
「……わかった。なら、好きにさせて貰おう」
あの二人は徹底的に無視する。それで彼らが何を言おうとも自分は気にしない。
そうするしかないのか、とルルーシュは心の中で呟く。
もっとも、そうしたらそうしたで厄介かもしれない。
きっと、何故そんなことをするのか。それを聞きだそうとするに決まっている。だが、その答えはきちんと話してきた。自分の言葉を無視したのが彼らである以上、自分がどんな態度を取ったとしても、それは彼らの責任だろう。
ルルーシュはそう判断をする。
「別に構わないだろう。あいつらだって、その位は覚悟しているはずだ」
C.C.はそう言って笑った。
「食事に関しては、そいつに運ばせる。後は好きなだけ閉じこもっていろ」
さらにこう付け加える。
「それしかないだろうな」
さて、暇つぶしに何をするか。ルルーシュが真っ先に考えたことはそれだった。
うち鍵だけでは、外からでも開けられてしまう。だからルルーシュはドアのノブと近くにあったたなを紐で結び、必要以上に開かないようにした。
「本当は、これを移動してバリケードを作ればいいんだろうが……」
自分の体力では一度動かしてしまったら、二度目は辛いだろう。
もちろん、何も食べなくても死なないだろう事はわかっている。それでも、やはり空腹をがまんするのはいやだし……と思う。
「本当は、二重鍵が在ればいいんだが……入手が難しいだろうな」
そもそも、ここには付くのか? とため息をつきながら、ロープをきつく結び直す。
まるでそれを待っていたかのようにノックの音が響いた。
誰がそれをしているのか。確認しなくてもわかってしまう。
あっさりと無視を決め込むと、ルルーシュは窓際まで移動した。
『L.L.!』
その間にもドアの外から焦ったような声が響いてくる。
『顔を見せてください』
これで、二人とも来ているのだとわかった。
本当に、毎日毎日、暇なことだ……とルルーシュはため息をつく。しかし、ここで声をかければさらに姦しくなることがわかっているから、あえて無視をする。
もちろん、まったく心が痛まないわけではない。
それでも、今ここで自分が折れてしまえば、彼らのためにはならない。それがわかっているから、存在ごと意識から切り離す。
『L.L.!』
流石に、ルルーシュが鍵を開けるつもりがないとわかったのか。自分たちが持っている鍵で度を開けたようだ。最初にそれをしないのは、まだ礼儀を完全に捨て去っていないと言うことだろうか。
だが、ロープのせいで完全には開かない。
「L.L.! 何で!」
流石に、これはショックだったのか。ヴィクトルが絶句している。
それにも当然言葉は返さない。第一、彼の場所からは、今、ルルーシュが見えないはずだ。
「どうして、ですか!」
さらに、シャルルもこう告げる。
「……その理由を、お前達は知っていたんじゃないのか?」
第三の声がその場に割り込んだ。それは彼のものだ。
「あいつに嫌われても構わない。そう考えての行動だったのではないか?」
さらに彼はこう問いかける。
「だけど!」
すぐにヴィクトルが反論の言葉を口にしようとした。
「ヴァインベルグとアッシュフォードの当主が二人に会いたいと言っておいでだそうだ」
だが、それを無視して彼はこういう。その家名に聞き覚えがありすぎるくらい会ったのは言うまでもない。だが、自分が知っている者達ではないはずだ。
そう考えれば、少しだけ寂しくなる。
やはり、ここは自分のいるべき場所ではない。
だからといって、他にどこに行けばいいのか、明確な目的地があるわけではない。
それでも、彼らの近くに留まっていることは、二人のためにはならない。それだけはわかっていた。
「……あの魔女も、そう言って諦めさせればいいものを」
時には諦めなければならないことがある。それを知る事も重要だろう。
「L.L.! また来るからね」
「次は顔を見せてください」
流石に見方をしてくれる有力な貴族を怒らせたくはない。その程度の判断は出来たのだろう。二人はこの言葉とともに駆け去っていく。
「次も、同じ事だがな」
小さなため息とともにルルーシュが呟いた。
「あの二人はいない。開けてくれないか?」
とりあえず頼まれていたものを持ってきた、と彼は言う。その声の響きは、やはりスザクを思わせる。
自分はどこまで彼に依存しているのだろう。
それとも、離れてしまったからか。
こんなことを考えながら、ルルーシュは立ち上がった。