17
自分たちが置かれている状況はかなりまずかった。
シャルルはともかく、他の者達はそれに気付いているのだろうか。それとも、気付いていて放置しているのか。
「可能性はあるな」
あちらに内通している者がいるのかもしれない。
だが、とルルーシュは呟く。
「まだ立て直せるな」
こう呟きながらも、どこまで手を出していいものか……と改めて自問する。
このままでは、間違いなくシャルル達は殺されるだろう。それは自分の知っている歴史ではない。だから、それを何とかするぐらいは許されるのではないか。
問題があるとすれば、誰を信用していいのか、自分にはわからないと言うことだ。そして、シャルルにはその判断は出来ていないだろう。今の彼は自分の知っている《
だからといって、ヴィクトルにギアスを使わせるわけにもいかない。
「……あの二人なら知っているか?」
C.C.はもちろん、未だに名前を聞かされていない《彼》もそのあたりのことは理解しているのではないか。
「聞いてみるしかないだろうな」
その後のことはその後で考えればいい。まだ、その位の時間は残されているだろう。
「……史実ではどうなっていた?」
このあたりのことも書かれていたような気はするが、はっきりとは思い出せない。ということはかなりぼかされて書いてあったのではないか。
自分が知っている事実は、シャルルの兄が敵の急襲から彼を守ってなくなったこと。その後からシャルル達の軍勢が攻勢に転じたことぐらいだ。
だとするなら、これからが転機なのか。
「……俺がやろうとしていることは間違っているかもしれないが……それでも、目の前で子どもに死なれるのはいやだからな」
離れることが出来ていたのであれば話は別だったろう。しかし、現実はしっかりと巻き込まれている。
まるで仕組まれていたようだ。
ふっとそんなことも考えてしまう。
「まさか、な」
そんなことがあるはずがない。ルルーシュはすぐにそれを否定しようとする。だが、どうしても引っかかってしまうのは自分がここにいるという事実があるからだろう。
「それに……検証するには資料が足りない。何よりも優先しなければならないことがあるからな」
今は、この劣勢を何とかすることだ。
「……とりあえず、この地形を利用するか」
ここに誘い込めれば、連中の数の有利はなくなるな……と呟きながら、地図を指さす。
「問題はこちらの兵力か」
それに関してはシャルルに聞けばいい。上に立つ以上、その位のことは知っていなければいけないのだ。
そんなことを考えると同時に、ルルーシュは自分がこの状況を楽しんでいるという事実に気付いていた。
状況が不利であればあるだけ、それをひっくり返すのは面白い。
今までだって、そうだった。
もっとも、それだからこそ足をすくわれないようにしなければいけない。このような状況であるからこそ、余計に、と呟くのは黒の騎士団のことを忘れていないからか。それとも、ナナリーのことだろうか。
だが、それも過去のことだ……と自分に言い聞かせる。
「……L.L.」
そんな彼の背中に、そっと声をかけてくる者がいた。
「シャルルか?」
表情を和らげると視線を向ける。
「丁度いい。こっちに来い」
実際に戦うのは彼だ。だから、選択権は彼にある。だが、取るべき選択肢は多い方がいいだろう。
その一つを提示するために、ルルーシュは彼を手招いた。
シャルル達が手勢と共に出かけてすぐのことだった。この屋敷が襲撃をされたのは。
「……L.L.!」
どうしよう、というようにヴィクトルが駆け寄ってくる。
「落ち着け。とりあえず、ここには避難場所があるのだろう?」
もっとも、そこの場所も把握されているのかもしれないが……と心の中で呟く。それでも、他の場所よりは時間が稼げるのではないか。
「うん」
「なら、そこに行け」
自分は、少しでも時間稼ぎをする……と続けようとした。しかし、それよりも早くヴィクトルがルルーシュの服の裾を握りしめてくる。
「L.L.は? 一緒に来てくれるよね?」
不安そうな眼差しのまま、彼はこう問いかけてきた。
「俺は、まず、指示を出さないといけないだろう。C.C.もあいつもいないしな」
今更ながらに彼の名を聞いていないという事実を思い出す。それはどうしてなのか。かつての自分からすれば信じられない行動だ。
しかし、今更言っても遅い。
「大丈夫だ。俺は死なない。それはお前もよく知っているだろう?」
違うのか? と付け加える。
「それでも……一緒にいて欲しい」
離れるのが怖い、と彼は続けた。
「だが、このままではここは全滅しかねない。いくら嚮団の人間とはいえ、無抵抗に殺されるのはな」
彼らだって生きているのだ。使い捨てには出来ない。いざというときの対処法ぐらい指示しておかなければいけないだろう。ルルーシュはそう言い返す。
「上に立つ者は、従ってくれる人間を道具にしていいわけじゃない」
むしろ、彼らの命を守らなければいけない。それが義務だ……と彼は続けた。
「……でも……」
「安心しろ。あの二人が帰ってくるまで、お前のことは俺が守ってやる」
その位のことは出来るだろう。いざとなれば、この身を盾にすればいいだけのことだ……とルルーシュは思う。
「だから、言うことを聞け」
いいこだから、と続ける。
「……L.L.……」
「だから、まずは必要な指示を出させろ」
そうすることで時間を有効に使えるだろう。
「お前が、今、避難することも同じ理由だ」
時間を有効に使えば、あるいは状況をひっくり返せるかもしれない。だから、と続ける。
「……僕が、邪魔なの?」
そんなことを言われたことがないのだろう。ショックを隠せないという口調で彼は言い返してくる。
「今は、な」
しかし、それをごまかしても意味はない。そう考えてルルーシュはきっぱりと言い切る。
「だから、大人しく隠れていろ」
すぐに追いかけるから……と微笑んで見せた。
「絶対、だよ?」
絶対、すぐに来てね?……とヴィクトルは口にする。
「わかっている」
もっとも、それが叶えられるかどうかは自信がないが……と心の中で呟く。実戦は自分のジャンルではないのだ。それでも、そんなことを言えばヴィクトルが素直に避難してくれないこともわかっている。
「だから、早く行け」
時間が確保できれば、それだけ取れる対処が増える。つまり、それだけ現状を打開できる可能性が高くなるのだ。
ここまで言えば、彼もこれ以上だだをこねられないと判断したのだろう。
「……うん」
嫌々といった様子で彼は手を放す。
「いいこだ」
それでも、こう言って微笑めば、彼はどこかほっとしたような表情を作った。
「すぐに来てね」
こういうと彼はきびすを返す。そのまま歩き出すが、彼の足取りはあきれたくなるほどゆっくりだ。
それでも、自分から避難してくれる気になっただけましだろうか。
「……さて……どうやって連中を足止めするか、だな」
この周囲の地形を使えば少しはなんとかできるだろう。しかし、長時間は無理だ。
突破される前に味方が戻ってきてくれればいいが……と考える。
もちろん、その可能性が低いことはわかっていた。