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流血表現、死にネタ注意。大丈夫な方だけお進みください。
しかし、連中がここまで派手な方法を採るとは思わなかった。
己の体を盾にしてヴィクトルを守りながらルルーシュはため息をつく。
「L.L.!」
お願いだから、と彼は泣きそうな表情で呼びかけてくる。
「大丈夫だ。俺はこのくらいでは死なない」
ただ、体に刺さっている破片を取り除かなければ、ケガは治らない。ただそれだけだ。
それに、痛みはなれる。
何よりも、とルルーシュは彼を安心させるように笑みを浮かべつつ心の中で呟いた。
今、自分の体を貫いているこれよりも、スザクに刺されたときの方が痛かった。
いや、痛かったのはそれ以上に心の方だったかもしれない。彼がどのような覚悟で自分を刺したのか。それがわかっていたからだ。そして、その仮面の下でどのような表情を作っていたかも、だ。
それに比べれば、耐えられない痛みではない。
だから、自分は大丈夫だ。それよりも、とルルーシュは眉根を寄せる。
「それよりも、お前の方が心配だ」
彼もケガをしている。おそらく、血管も傷ついているのか、小さいが血が止まる様子がない。
「何かで傷口の上を縛って止血をするしかないな」
自分がしてやれればいいのだが、こうして突っ張っているだけで精一杯だ。
「出来るか?」
彼が自分で出来ないようならば、何とか方法を考えなければいけないが……と心の中で呟く。
「……わからない」
それに、彼はこう言い返してきた。
「何を使えばいいのかも、わからないし……」
わからないのではなく考えられないのではないか。
出血が多すぎて、思考力が落ちているのだろう。だとするならば、早く治療を受けさせなければいけない。それが無理なら、応急手当でも、とルルーシュは焦る。
「ハンカチがあるだろう」
ポケットに、とルルーシュはそれでもいつもの口調で言った。
「ハンカチでいいの?」
そう言いながら、彼はポケットに手を伸ばす。どうやら、ちゃんとアイロンをかけてやったそれの存在は忘れていなかったらしい。
まぁ、あれだけ大騒ぎをしてくれたのだ。そう簡単に存在を忘れられては困る。ルルーシュは心の中でそう呟く。
だが、それもすぐに意識から追い出す。
「それを、傷口より心臓に近い場所に結ぶんだ」
ゆっくりでいいから、と指示を出した。
「うん」
本当にゆっくりと彼はルルーシュの言葉にしたがっている。
しかし、このままでは間に合わないかもしれない。ふっとそんな考えが脳裏に浮かんでくる。
考えてみれば、自分も腹を貫かれている状況だ。いつ、意識を失うかわからない。
いくら自分は死んでもよみがえることが出来るとはいえ、このままでは共倒れになりかねない。
一番いいのは、今すぐ誰かが来てくれることだ。
しかし、それは一番低い確率だと言える。まだ爆発音が続いている以上、誰もここまでたどり着くことは出来ないと言っていい。出来たとしても、これらのガレキをどうするか。
つまり、遅かれ早かれ、自分たちは最悪の状況を迎えると言うことだ。
だが、とルルーシュは心の中で呟く。ここでヴィクトルが死んでは歴史が変わってしまう。
それに、と微かに眉根を寄せた。
今、自分がかばっている彼は、記憶の中の《彼》と同じ姿ではないか。
そして、とルルーシュは続ける。
この世界でコード保持者は自分とC.C.しかいない。
「……つまり、そう言うことなのか?」
彼がコード保持者になるには、自分か彼女のどちらかが与えられる必要がある。そして、この先、この世界での自分が生まれた後も生き続けていたのは彼女の方だ。
この二つの条件から導き出される答えは一つしかない。
間違いなく、自分は失われてしまったコードを補うためにこの時代に呼び寄せられたのだ。
「ヴィクトル」
だが、彼がそれを望まないなら、自分は歴史を変えてもいいと思う。
その結果《ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア》という存在がこの世界から消えたとしても、だ。
自分という存在がなければ、きっと、世界はあそこまで歪まなかったに決まっている。それでもためらいを覚えてしまうのは、間違いなく彼らの存在があるからだ。
やり直すことは出来ないかもしれない。それでも、せめて彼らを見守っていたい。そんな気持ちが己の中に存在している。
だが、優先するべきは自分の気持ちではない。あくまでも彼の気持ちだ。
「……何?」
「何を犠牲にしても、生き延びたいか?」
今の彼には遠回しに言ってもわからないだろう。そう判断をして、こう問いかける。
「僕は、シャルルを守らないと……」
お兄ちゃんだから、と彼は続けた。
「だから……僕は帰らないと」
そう口にしながらも、彼の瞳からは次第に光が失われていく。
「わかった」
言葉とともにルルーシュは何とか片手の自由を確保する。
「なら、何があってもシャルルを守れ。いいな?」
言葉とともにそっとその頬を撫でた。
「そして、恨むなら、俺にしておけ」
自分にとっての諸悪の根元は彼だったかもしれない。それでも、彼は最後までシャルルの《兄》であろうとしていた。その気持ちだけは自分も尊敬する。
「いいな」
そう言いながら、ルルーシュは微笑む。そして、そのまま彼の手を自分の腹部を貫いているガレキに添えさせた。
深く息を吐くと目を閉じる。
そして、ルルーシュはヴィクトルの手でそれを引き抜かせた。