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流血表現、死にネタ注意。大丈夫な方だけお進みください。
彼らが駆けつけたとき、屋敷は完全に焼け落ちていた。
だが、それはさほど問題ではない。
「……兄さんと、L.L.は?」
どこ、とシャルルが叫んでいる。
「おそらく、地下だろうな」
そこに隠し通路があった。逃げるとすればそこを使っただろう。もっとも、とC.C.は続ける。
「無事にたどり着けていれば、だ」
途中で力尽きている可能性もある、と彼女は冷静な口調で続けた。
「そんな!」
こうなるとわかっていれば、自分は彼らを置いて出撃なんてしなかったのに。シャルルは顔を歪めながらそう言った。
「この中に、内通者がいるから、だろう」
彼らだけがこの地に残る。それを敵に伝えた者がいるのではないか。C.C.はそう言った。
「嚮団の連中にそれを探らせていたんだがな」
それに気付かれたか? と彼女は続ける。
「まぁ、どちらにしろ、あの二人は襲撃者の顔を見ているはずだ。そして、必ずどちらかは生き残っている」
どちらが生き残っているか。そこまでは自分にもわからないが、と苦笑を浮かべた。
「あいつが、今、迎えに行っている。戻ってくれば、誰が内通者かわかるはずだ」
たとえ、お荷物付きでも彼は強い。十や二十の兵では、彼を止めることは出来ないだろう。
「どちらにしろ、この落とし前はつけさてもらう」
内通者にはそれなりの報復を与えてやろう、と彼女は嗤う。それはまさしく『凄艶』というにふさわしい笑みだった。
「……僕も、やっていい?」
おずおずとした口調でシャルルがこう問いかけてくる。
「何故、だ?」
C.C.は静かな声音で聞き返す。
「だって……僕にとっても大切な人たちだから」
母の時はどうすればいいのかわからなかった。父の時には相手に手が届かなかった。
しかし、今回は違う。
自分の怒りをぶつけることができるから……と彼は口にした。
「そうだな。その通りだ」
確かに、怒りをぶつける相手は必要だな……と彼女は言い返す。
「だが、殺すなよ?」
わかっているな、と彼女は念を押すように問いかけた。
「殺してしまっては黒幕がわからない。それでは意味がないだろう?」
元からたたないと意味がない。そういえば、彼は小さくうなずいてみせる。
「蹴飛ばすだけで我慢しておく」
手よりも威力があるし、けがをしにくいとL.L.がいっていた。そうシャルルはそう言った。
「確かにそうだな」
足で蹴飛ばす方が本人はけがをしない。確かに正しい、とC.C.は微笑む。
「と言っても、ただ待っていても意味はないからな」
こちらではこちらでやることを探そう。彼女はその表情のまま告げる。
「……わかっています」
小さくうなずくシャルルは、間違いなく成長した。本人のためにはいいのかどうかはわからない。それでも、彼らのために動いている者達にはいいことではないか。
間違いなく、彼は《皇帝》になるだろう。
だが、その先に待っている世界は《
それが彼の望みだったのかどうかもわからない。ただ、これだけはわかっている。
「あいつがぶち切れるな」
なだめるためのえさはすでにない。さて、どうするか。そう心の中でつぶやく。
「負傷者がいないか、すぐに確認して。それと、周囲の警戒を」
その間にも、シャルルは周囲の者達に指示を出している。
「頼もしくなったものだ」
これは間違いなくルルーシュの教育のたまものだろう。
「お前は、そんなことは考えてもいなかったのだろうがな」
ただ、彼らが他人の痛みに無関心な存在にならないようにしていただけだ。それでも、そこから子供達は何かを学び取っていくものだ。
「わかっていて、子供達を預けたのは私、だがな」
それで何かが変わればいい。そう思っていたことは否定しない。
そして、実際に変わったではないか。
その変化がプラスになるのか、それともマイナスへと向かうか。それはこれから、周囲の者達が彼らをどう扱うかにかかってくるのではないか。
「まぁ、あいつがまいた種だ。きれいに咲けるように手を貸してやるのもいいか」
自分は、と付け加える。
問題はあちらの方だろう。
「あいつがどう出るかまでは、わからないか」
とりあえず、一度は戻ってきてくれるだろう。その後はどうするか、自分にもわからない。
しかし、それは本人の自由だ。
自分はただ、それを見守るだけ。今も昔も、それは変わらない。C.C.はため息とともにそうはき出した。
外もひどかったが、ここもそう変わらない。
いや、がれきが散乱しているだけこちらの方がひどいかもしれないな……と思ったときだ。
「血の、臭い?」
ものが焼けた臭いに混じって、ほんのわずかだが血のにおいがする。
ここでそんなにおいがするとすれば、誰か生きているということではないか。そして、それは彼らだろう。そう判断をすると彼はにおいのする方向へと歩き出す。
だが、奥へ行けばいくほど、行く手をふさぐがれきの量は増えていく。
それが、彼の進む速度を次第に遅くしていった。逆に、それが彼をいらだたせる。
だが、それはすぐに驚愕へと変わった。
「嘘、だろう?」
思わず、こう呟く。
「何で、またこんな光景を見なければいけないんだ」
一度で十分なのに、と口にしながら、そっと二人に歩み寄った。
「起きてよ、ルルーシュ」
青白いそのほほにそっと触れながら、こう声をかける。だが、当然のように返事は戻ってこない。あの、宝石よりも美しい瞳も開くことはなかった。
「ルルーシュ、僕だよ」
会いに来たから、起きて……と彼は続ける。その声が次第に涙で濡れ始めていることも当然気づいていた。
「ルルーシュ……なんで」
答えはわかっている。
ルルーシュは昔から女の子や子供に弱いのだ。
だから、自分よりもヴィクトルの命を優先するだろうとわかっていた。
「やっぱり、C.C.と戦うことになっても君を双子から引き離しておくべきだったね」
今更いっても、もう遅い。
それよりも、と彼は続けた。
「君をこんなところにおいておけない」
ついでに、ヴィクトルも安全な場所に連れて行かなければいけないだろう。できれば放置しておきたいが、それではルルーシュの意思に反してしまう。
「大丈夫……ちゃんと、安心して眠れるようにするから」
こう言いながら、もう一度彼の頬に触れる。
そのときだ。
「……なんだ、この感覚は」
今まで感じたことがないそれがどのような意味を持っているのか。自分には判断できない。
「不本意だけど、C.C.に確認だね」
無駄に長生きをしている彼女のことだ。何かを知っているかもしれない。
「ルルーシュ……今、解放してあげるから」
そのためにも、彼をここから連れ出さなければいけない。連れ出すためには、彼の体を貫いている金属の棒を何とかする必要がある。
腰につけていた剣を抜くと、正眼に構えた。
「本当は、日本刀の方がよかったんだけどね」
今は手元にはない。第一、そのようなものを持ち歩いては目立って仕方がないのだ。だから、妥協するしかない。
これでも集中すれば何とかなるだろう。
そう考えると気持ちを落ち着かせる。
深呼吸を一つすると同時に、剣を振るった。
かすかな音とともにルルーシュの体がゆっくりと崩れ落ちる。
これで、何の問題もない。そう考えるとそっと彼の体から金属の棒を引き抜いた。しかし、そこから新たな血が流れることはない。その事実にかすかに眉をひそめる。だが、すぐにその体を背負うと、ベルトで固定した。ついでとばかりにヴィクトルの体を抱え上げる。
後は、ここに用はない。
そう判断をして、歩き出した。