11
ブリタニアに比べると何十倍も歴史があるからか。古い建物が多い。
「クロヴィス兄さんがご覧になったら、ものすごく喜ばれるね」
同時に、この場から動かなくなるのではないか。ふとそんなことを考えてしまう。
「否定でき、ない」
それは、とジェレミアは言いにくそうな表情でうなずいてみせる。そんな彼にルルーシュは微苦笑を向けた。そうすれば、さらに彼は渋面を作る。
「カメラがあればよかったかもしれない。そうすれば、説明しやすいのに」
失敗したな、と話題を変えるかのように呟いた。
「あそこに、使い捨てカメラが売っています」
フィルム式だけど、とロロが口を開く。
「あぁ。それはいいかもしれない」
ルルーシュに対するよりは話しやすいのだろう。ジェレミアはうなずいてみせる。
「いくつか買ってこよう」
よく気がついたな、とロロの髪をなでながら彼は笑った。そうすれば、ロロはやはり微妙な表情を作っている。
「いい子だから、二人ともここで待っていてくれ。声をかけられても動かないように」
そう言い残すと、ジェレミアが離れていく。
「大丈夫でしょうか」
ロロがそっと問いかけてきた。
「おじさんはあれでも一流の騎士だよ。自分の身を守れるのはもちろん、こちらのことも気にかけているはずだ」
一番不安なのは自分だろう、とルルーシュは苦笑を返す。もっとも、と彼は続ける。
「ロロがいてくれるから、安心しているが」
彼が自分を守ってくれている間にジェレミアが戻ってきて来てくれるはずだ。そう続ける。
「そうですね」
そのために自分はいるのだ、とロロもうなずいて見せた。
「あなたは絶対、僕がお守りします」
彼のこの言葉に、ルルーシュは苦笑を浮かべる。
「ロロ。それでは主のそばにいる騎士の言葉だぞ」
それでは、本当の兄弟ではないとばれてしまうぞ……とささやきで伝えた。
「そう、でした。ごめんなさい」
小さな声で謝罪の言葉を口にしてくる。それに『気にするな』というようにルルーシュは彼の頭を軽く叩いた。
「しかし、ここはまだのんびりとしているな」
小さな笑いとともにそう口にする。
「……子供の一人歩きも多いですからね」
もっとも、そういう子供達が見られるのは大通りだけだ。決して彼らは裏道に入っていかない。それはきっと、人目がある場所は安全だと彼らが知っていると言うことだろう。
「だからといって、油断しないでくださいね」
「わかっているよ」
ロロの言葉にそううなずいてみせる。
「あそこにいる奴に監視されているようだしな」
「気づいていましたか」
やはり、ロロも気づいていたのだろう。小さくうなずいている。
「たぶん、ここにいる間は大丈夫だと思います」
でも、早めに移動した方がいいだろう。ロロはそう報告をしてくる。
「焦るな。あぁ、おじさんが帰ってきたよ」
微笑みながらルルーシュは袋を手にした彼の方へと歩き出した。その行動は、子供が保護者を待ちかねてのものと周囲には見えるだろう。
「待ってください、兄さん」
即座にロロが追いかけてくる。
「おじさん、カメラ、買えました?」
そんな彼の気配を感じながらも、ルルーシュはまっすぐにジェレミアに駆け寄った。そのまま、抱きつく。
「あ、あぁ」
そこで、そうやって口ごもると演技だとばれてしまうだろう。そう思っても口に出すことはない。
「なら、写真撮ってくれる?」
あそこで、と目をつけていた建物を指さした。
「かまわない、ぞ」
どうやら自分がどうすべきかを思い出したのだろう。彼はそう言ってうなずいてみせる。
「ロロも一緒に」
ジェレミアがそう言えば彼は一瞬驚いたように目を見開く。しかし、すぐにうなずいて見せた。
移動中も視線は追いかけてくる。
「……どうする?」
ジェレミアが明るい口調を作りつつ問いかけてきた。
「気にすることはないよ、おじさん。そうだろう、ロロ」
V.V.のことだ。間違いなく、ロロ以外にも周囲に護衛の者を配置しているはず。万が一の時には、彼らが動くのではないか。
「はい。あの方がフォローをしてくだっています」
ルルーシュの言葉にロロはうなずいてみせる。
「顔見知りの姿を見つけました」
こっそりと彼は付け加えた。
「だそうですよ」
だから、何も心配はいらないのではないか。そう言ってルルーシュは微笑む。
「それよりも僕には、お土産選びの方が厄介です」
本当に何を選ぼうか。そう続けた。
「それこそ、何でもかまわないような気がするが。皆さん、ルルーシュ……が選ぶものなら何でも喜ぶと思うぞ」
特にナナリー達は、と彼は苦労しながら言い返してきた。
「とりあえず、あまり大きなものではない方がよいかと思う」
これから他の場所にも行くのだから、と彼は続ける。
「そうですね」
確かに、自分のような子供が購入するのだから大きなものはやめておくべきだろう。そして、あまり高価なものではない方がいい。
「そういえば、ここではぬいぐるみが有名ですが……」
ふっと思い出した、と言うようにロロが口を開く。
「そうか。なら、それを中心に探してみよう」
それと、とルルーシュは彼に視線を向ける。
「お前の分も買おうな」
その言葉が信じられなかったのか。ロロは目を丸くした。
「どうして、僕の……」
「だって、記念は必要だろう? 僕も自分のものをひとつ買う予定だし」
ロロもほしいものは買えばいい。そう言って微笑む。
「……ですが……」
「遠慮はするな。そういうのも、普通の子供として必要なことだ」
違和感をもたれないためにも、とルルーシュはささやく。
「だから、これから覚えていけばいい」
自分のそばにいる以上、誰もとがめないはずだ。そう続ける。
「……はい」
そう答える彼の頭に、ルルーシュはさりげなく手を置く。
「何。すぐになれる」
ジェレミアも彼を安心させるように言葉を口にした。
「と言うことで、まずはおもちゃ売り場かな? あの方々も人形はお好きだろう」
おそろいならなおさら喜ばれるのではないか。彼はそう続ける。
「もちろん、君もだぞ」
この言葉に、ルルーシュは内心苦笑を浮かべるしかない。外見はともかく、精神的には、もう、そのようなものを必要とする年齢ではないのだ。
だが、確かにナナリー達はその方が喜ぶだろう。
「……いっそ、姉上方にも同じものを購入してしまおうか」
ギネヴィアはともかく、コーネリアはきっと喜んでくれるのではないか。
「それは……」
想像したのだろうか。ジェレミアは口ごもっている。
「だめでしょうか」
真顔でそう聞き返す。
「……いや……君がそれでいいというのであれば、かまわないのではないか、な?」
頬を引きつらせながら、彼はそう口にした。
おそらくデーターとしては知っているのだろう。ロロもまた複雑な表情を作っている。
「見てから決めても遅くはないだろうね」
苦笑とともにジェレミアが言う。
「もちろんです」
そんなにいやがることではないのではないか。そう思いつつもうなずいてみせる。
「でも、姉上の部屋にはテディベアが存在しているそうですよ」
さりげなくこう付け加えた瞬間、ジェレミアが思い切り息を呑んだのがわかった。