12
結局、ナナリーとユーフェミア、そしてカリーヌにはそれぞれ色違いのベアを。自分とロロには一回り小さなものを購入した。
他の者達にもそれぞれハンカチや何かを購入してホテルに戻ったのは、もう日も暮れようとしていたときだった。
「楽しんできたようだね」
しかし、すでにシュナイゼルが戻ってきていたとは予想外だった。
「はい。いろいろと興味深いものばかりでした」
本屋に寄れなかったのだけは心残りだが、と正直に付け加える。
「特に、古書を見たかったのですが」
「あぁ、そうだね。私もちょっと気になっていたよ」
ルルーシュの言葉に彼はうなずく。
「カノン」
そのまま、己の副官へと視線を向けた。
「わかりました。適当な店の店主に持ってこさせますわ」
ルルーシュ達ならばともかく、シュナイゼルが出歩けば目立つだろう。だから、適切な判断だと思う。
「明日までには手配を終わらせておきます」
彼の言葉にシュナイゼルは満足そうにうなずいて見せた。
「と言うところで、ルルーシュ」
彼を紹介してくれないか? と彼は口にする。
「ロロ、です。嚮団からお借りしました」
これから、自分の護衛をしてもらう予定だ。ルルーシュはそう付け加える。
「基本的にはジェレミアがおりますが、子供同士の方が目立たないこともありますし」
「そうかもしれないね」
彼の言葉に、シュナイゼルはうなずいた。
「そうかもしれないね。それに……その少年はどこかナナリーに似ている」
嚮団とはいえ、よく見つけてきたものだ。彼は感心したように続けた。
「そうですね」
それは、あちらの世界で自分の《弟》役をさせるためだったのだろう。今なら、それはわかる。
しかし、それはこちらのロロには関係のないことだ。
もちろん、シュナイゼルにも、である。
「嚮団の人材の豊富さには感歎するしかありません」
だから、無難なセリフを口にした。
「確かに、あそこは我々の手の届く範囲外だからね」
だが、それが彼の何かを刺激したのか。少しだけ眉根を寄せている。
「いったいどれだけの人材をお持ちなのか。気にならないわけではないよ」
もし、それがわかればどれだけ有利に物事を運べるだろうか。彼はそう続けた。
「あそこは、ブリタニアではありませんから」
ルルーシュはそう言い返す。
「ロロのことも父上のお言葉添えがあってのことですし」
マリアンヌが個人的につながりを持っていたから、と付け加える。
「……残念だが、あそこは私の手には大きすぎる、と言うことだね」
あきらめよう、と彼は苦笑を浮かべた。
「だが、君のお願いを聞いてもらえた、と言うことだけは覚えておこう」
それはどういう意味なのだろう。何通りも考えられる。しかし、今はそれを追求しない方がいいだろう。代わりに、後でV.V.と話をしておいた方がいいかもしれない。
ただ、こちらの彼はそれを悪用しようとは考えていないのではないか。それとも、それは推測ではなく自分の希望なのか。
「ロロ君だったね」
そんなことを考えていれば、シュナイゼルは今度は彼へと声をかけている。
「はい、シュナイゼル殿下」
小さな声でロロは返事を返した。
「ルルーシュは大切な弟だ。よろしく頼むよ」
柔らかな微笑みとともに彼はそう言う。
「はい。全力でつとめさせていただきます」
それにロロはこう言い返している。
「いい子だ」
彼の言動に満足をしたのか。シュナイゼルはそう言ってうなずいて見せた。
「彼は本国にも連れて行くのかな?」
視線を戻すと、今度はルルーシュに問いかけてくる。
「そのつもりです。僕の護衛の役目がないときにはナナリーの相手をしてもらいたいですし」
さすがに、最近は彼女につきあうのが大変になってきたから……とルルーシュは苦笑を浮かべて見せた。
「あぁ。あの子はマリアンヌ様に似て活発だからね」
それにシュナイゼルはうなずいてみせる。
「私も君も、陛下に似て運動神経は今ひとつだ」
残念だが、と彼は続けた。
「どうやら、ブリタニアの皇族は男性よりも女性の方が運動神経には恵まれているようだよ」
ナナリーやコーネリアはもちろん、ユーフェミアやカリーヌもそうではないか。そう言って彼は深いため息をつく。
「せめて、その半分でもあればね」
実際に前線に出ても大丈夫なのだろうが、と彼は続けた。
「それはおやめください。心配で、皆、胃を壊しますわ」
即座にカノンが口を挟んでくる。
「それはどういう意味かね?」
ぜひとも聞かせてもらいたいものだ、とシュナイゼルが聞き返す。
「いやですわ。おわかりのくせに」
ころころとカノンが笑い声をたてる。そのあたりのやりとりは彼らが個人的にも親しい関係だからだろう。
「まぁ、人には向き不向きがありますもの。シュナイゼル殿下は後方で指揮を執っておられるのが一番お似合いですわ」
部下達もその方が自分の役目も集中できる。カノンはそう続ける。
「ルルーシュ殿下もきっと、そうですわね」
シュナイゼルと同じように後方で指揮をするタイプだろう。
「……否定はしない」
だが、こちらでもあれと同等の機体を作ることができれば……と心の中で呟く。それは、間違いなくマリアンヌの教えが身についているからだろう。
指揮官たるものはまず自分が前線に出なければいけない。
自分だけ安全な場所にいれば、目の前で死んでいく兵士達はただの駒になってしまう。それではいけないのではないか。
自分はそれで一度ミスを犯しているし、と心の中で呟く。だが、それをここで口にすることはできない。今の自分にふさわしいセリフは、と考えてルルーシュは口を開く。
「でも、操縦ぐらいは覚えたいな」
ジェレミア、とそのまま視線を移動させる。
「Yes.Your Highness。今少し、大きくなられ増したら、必ず」
今のままではペダルに足が届かないだろうから、と彼は口にした。
「好奇心旺盛だね、ルルーシュ」
シュナイゼルがそう言ってくる。
「身につけられないとしても、経験しておく必要があると思いましたから」
おそらく、これからはナイトメアフレームなしでブリタニアの有利は語れないだろう。
「それに」
「それに?」
「絶対、ナナリーとユフィは操縦できるようになります。そのときに、話にだけでも加われないと、絶対、文句を言われるに決まっています」
それだけは避けたい。ルルーシュは少しだけ力を込めて言葉を綴った。
「……あの子達なら、やるね」
それでシュナイゼルは納得したらしい。
「君ができないと知れば、教えようとするだろう」
遠慮も配慮もせずに、と続ける。
「それにコゥ姉上まで参加されたら、と考えるだけ怖くなります」
彼女のスパルタぶりはマリアンヌのそれに負けない。ルルーシュはそう言いきった。
「あの子ならそうだろう」
クロヴィスがよく泣かされていたからね、とシュナイゼルも深いため息をつく。
「それよりは確かに、ジェレミア卿の方が君のためにはなるのかな?」
いろいろな意味で、と彼は口にした。
「コーネリア殿下は本当にお強いですから」
あの方はあれでいいのだろうが、とカノンもうなずく。
「そろそろ、夕食のお時間ですわ」
そのまま、彼はシュナイゼルの耳に口を寄せるとこうささやいている。
「あぁ、そうだね。食事はきちんととらないとね」
大きくなれないか、と彼はうなずいて見せた。
「せめてユーフェミアよりは大きくならないといけないだろうし」
「何故、そこでユフィなのですか?」
理由がわからずにルルーシュは首をかしげる。
「君たちの年が近いからだよ。おそらく、あの子が公式の場に出るときは、君がエスコートをすることになるだろうからね」
今のままなら、とシュナイゼルは微笑む。
「コーネリアの身長を考えれば、ユーフェミアもそれなりになるだろう。そして、女性はヒールのある靴を履くからね」
さらに身長が高くなる。それはマリアンヌでもわかっていた。
「そうですね」
「君まで厚底の靴を履きたくないだろう?」
確かに、あれは動きにくい。そう考えながらうなずいてみせる。
「だから、ちゃんと食事をとろう」
こう言われて、ルルーシュは素直に首を縦に振って見せた。