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この国の派閥についてはシュナイゼルもつかんでいたらしい。だが、詳しい人員に関してまでは調査ができていなかったようだ。
「これはありがたいね」
V.V.が渡してくれた資料を見た瞬間、彼はこう言った。
「さすがは嚮団の情報網、と言うべきか」
あるいは、事前につかんであったのか。どちらにしろ、これがあるとないとでは対策の建て方が替わってくる。
「僕たちがそれを知っているとは、あちらに気づかれない方がいいのですよね?」
前提として、とルルーシュは問いかけた。
もちろん、その方がいろいろと都合がいいと言うことはわかっている。だが、この場合、自分の独断で行動するわけにはいかない。少なくとも、十歳の子供がそんな判断をしては周囲に疑念を抱かせるに決まっている。
シュナイゼルとコーネリアだけは敵に回さない方が後々のためだ。それがルルーシュの判断だった。
「そうだね。その方が効果的かな?」
いろいろな意味で、とシュナイゼルもうなずいてみせる。
「よく気がついたね」
そして、微笑みながらこう言った。
「……その方がぼろを出してもらえると思っただけです」
ブリタニアでのように、とさりげなく付け加える。
「なるほどね。まぁ、それに関しては後でゆっくりと聞こう」
誰が何をしたのかも含めて。彼はそう続ける。
「つまらない話ですし……ちゃんと自分で対処しましたから」
少しだけマリアンヌに協力を求めたが、とルルーシュは付け加えた。
「それは当然の選択だね」
シャルルに協力を求めるよりも確実だ。シュナイゼルはそう言って笑う。
「でも、できれば次からは教えてくれると嬉しいね」
マリアンヌほどではないが、自分でも手伝えるだろう。彼は笑顔のままそう言った。
「お忙しいのではありませんか?」
最近は特に、とルルーシュは聞き返す。
「君のことは特別だよ。それに、君の手助けをしていると言えば、陛下でも文句をおっしゃれないだろうしね」
だから、気にしなくていい。彼はそう続けた。
「そうですわよ、ルルーシュ様。シュナイゼル殿下が手をお離しになれないときには、私たちが動きますもの」
その方が都合がいいことがあるのではないか。カノンもそう言って微笑む。
「ともかく、これに関しては裏付けをとってきますわ。嚮団のデーターを疑うわけではありませんが、自分で調べないと、私が安心できませんの」
確実性を深めたいから、と彼は続けた。
「だから、にらまないでくれるかしら?」
ロロに向かってそう告げる。
「……ロロ。カノンのしていることは皇族の副官としては当然のことだ。決して、嚮団を軽んじているわけではない」
これが皇帝からの情報でも、彼らは同じように自分達で確認するだろう。ルルーシュはそう言って彼をなだめる。
「……はい……」
そう言われても、すぐには納得できないのだろう。ロロは憮然とした表情でうなずいて見せた。
「と言っても、それまで待ってはいられないだろうね」
あちらがすぐに動くかもしれない。いや、その可能性の方が高いだろう。
「そのときには、君たちにがんばってもらうことになるだろう」
ジェレミアとロロに向かってシュナイゼルはそう言った。それは彼の本心なのだ、と判断していいのだろうか。
「そうですわね。私は文官ですから」
苦笑とともにカノンがそう言った。
「こうして、殿下方のために、少しでも情報を集めるのが精一杯ですのよ?」
それだけでも十分だと思うが、とルルーシュは呟く。
「ともかく、明日もスケジュール通りに行動する。僕の護衛はお前とジェレミアにがんばってもらわないといけないからな」
頼んだぞ、と微笑む。
「はい、ルルーシュ様」
この一言で機嫌が浮上するあたり、ロロはまだ単純だと言えるのか。だが、それがかわいいとも言える。
「ジェレミアも、期待している」
「Yes.Your Highness」
彼はそう言って見事な礼を見せた。いつ見てもそれはブリタニアの騎士としては申し分ないものだ。同時に、あちらのジェレミアの影を探してしまう自分に少しだけ嫌悪を覚える。
「明日も忙しい。今日はとりあえず、ゆっくりとするか?」
内心を悟られないようにルルーシュは微笑む。
「君はもう少し体力をつけた方がいいね」
即座にシュナイゼルがそう突っ込んでくる。
「あら……それでも、ご自分で何でもおできになるだけ、ルルーシュ様の方がご立派ですわ」
それにカノンがこう言った。これはフォローされているのだろうか。
「それは否定できないがね」
しかし、とシュナイゼルは反論しようとする。
「ロロ、それにジェレミア。部屋に帰るぞ」
つきあっていられない、とルルーシュはため息をつく。
「はい!」
ロロの言葉を耳ににすると同時に、そのまま歩き出した。
翌日は予定通り、大学へと足を運んだ。
ここにラクシャータがいることは事前に調べてあった。後は、と続ける。
「上手く引き抜けるといいんだが」
彼女を、と呟く。
そうすれば、今後のことが楽になるような気がする。最悪の事態になったとしても、だ。
だが、と小さなため息をつく。彼女は反ブリタニアらしい。まず、自分に合ってくれるかどうかがわからない。逆に言えば、会えさえすれば口説き落とせる自信はあるのだ。
ともかく、行動しなければ何も始まらない。
そう心の中で呟いたときだ。
「ここに、いったい何があるのですか?」
ロロがそっと問いかけてくる。
「ここの医療関係で興味深い研究をしているものがいるんだ。その話を聞きたくてな」
嚮団とは違ったアプローチで進めている、と小声で付け加えた。
「それが、いずれ必要になる」
ナイトメアフレームをさらに発展させようとするならば、と続ける。
「だが、本人はブリタニア嫌いだそうだ。言動には気をつけろよ」
ジェレミアへと視線を向けるとそう言った。
「……気をつけます」
苦笑とともにジェレミアがこう言い返してくる。それにルルーシュはうなずいて見せた。
「それで……ここからどこに行けばいいんだ?」
勝手に見学をしていいのか? と呟くように口にする。
「もう少しお待ちください。今、案内の者を呼びに行っております」
ジェレミアが即座に言い返してきた。それにルルーシュは苦笑を浮かべる。
「ここがブリタニアではないと思い知らされるのは、こんなときだな」
ブリタニアであれば、自分達が来る予定の時間には、門の前に職員が勢揃いしているはず。決して、こちらから誰かを呼びに行かせるような事態にはならないはずだ、とルルーシュは言う。
「そうですね……全く、事前に予定は伝えてあるのに」
何を考えているのか、とジェレミアは憤りを隠さない。
「あるいは、何かが起きているか、だな」
最悪の想定だが、とルルーシュは言い返す。
「今は長期休暇ではないのに、学生の姿がない」
これが高校までならば理解できる。しかし、ここは大学だ。すべての駒を埋めるような勤勉な学生がどれだけいるだろうか。
「ルルーシュ様がおいでになったから、ではありませんか?」
ルルーシュの安全を確保するためではないか。ジェレミアは言外にそう付け加える。
「なら、何故、ここに出迎えのものがいない?」
行動に一貫性がないだろう、とルルーシュは言う。
「確かに、言われてみればそうかもしれません」
行動に矛盾がある、とジェレミアも認めざるを得ないようだ。
「ルルーシュ様。戻ってきたようです」
そのときだ。ロロがこう声をかけてくる。それを合図に視線を移動させれば、確かにこちらに近づいてくる者達の姿が確認できた。
「……ルルーシュ様の疑念は疑念ではないのかもしれません」
二人の動きを見ていたジェレミアが声を潜めてそう口にする。
「ジェレミア?」
「おそらく、あの男は正規の訓練を受けたことがあります」
軍人としての、と彼は続けた。
「そうか」
だから、護衛もまた、相手を警戒しているのだろう。
「ロロ。お前は何があってもルルーシュ様から離れないように」
ジェレミアがロロに指示を出す。
「はい」
即座にかれはうなずいてみせる。
「ルルーシュ様も、決してお一人で動かれませんように」
ジェレミアはこう言ってきた。
「わかっている」
そこまで馬鹿ではない、とルルーシュは苦笑を返す。
「だが、相手に気づかれるなよ」
ぼろを出してもらうためにも、と続ける。
「Yes.Your Highness」
それに、二人は即座にこう言い返してきた。