僕の知らない 昨日・今日・明日 第三部

02


 とりあえず、ピザさえ与えておけばC.C.はおとなしい。
 しかし、だ。
「何枚買ってきたんだ、お前は」
 最初の予定では自分達三人だけだったはず。このメンバーであれだけの量は食べきれなかったのではないか。ルルーシュはそう問いかける。
「C.C.からメールが入ってたからね。急遽増やした」
 それに対するスザクの答えはこれだった。
「ほぉ」
 いつの間に、と付け加える。そのほかに自分にもピザをねだったのか。
「何を言っている。ピザほどうまいものはないぞ。特に、お前の作るものは最高だ」
 C.C.は真顔でそう言う。しかし、だ。
「全くほめられた気がしないな」
 ルルーシュは即座にそう言い返す。
「お前の場合、ピザがうまく作れる相手ならば、誰でも良さそうだからな」
 さらにそう付け加える。
「そんなことはないぞ」
 C.C.はきっぱりと言い切った。
「お前の作る料理はどれも満足できるぞ」
 だから、作れ。彼女はそう続ける。ここなら、使用人どもがあれこれ言うこともないだろう。さらに言葉を重ねてくれた。
「残念だが、お前に手料理を食わせるためにここに来たわけではないからな」
 やるべきことをするために来たのだ。ルルーシュはそう言うと、視線をスザクに移す。
「とりあえず、神楽耶と桐原さんは協力してくれるって。父さんは……当面、邪魔しないと約束してくれたよ」
 どこまで当てになるかはわからないが。彼はそう付け加えた。
「それで十分だ」
 今は、とルルーシュは言い返す。
「重要なのは、ブリタニアと日本の間に戦争を起こさせないこと、だからな」
 サクラダイトが今のまま配分されているなら、少なくともブリタニア側から戦端を開く予定はない。いや、させないといった方が正しいのか。シャルルもV.V.も自分の意見に耳を貸してくれるからこれに関しては問題はないはず。
 だが、日本側はどうだろうか。
「わかってるよ。僕だって、そんなことは望んでないから」
 一般の人々は当然だろう。スザクもそう言ってくる。
「しかし、そう考えていない連中もいる、と」
 目先のことしか見えない連中だな。C.C.のその言葉は正しい。本当に、いつもこうならばいいのに、とルルーシュは本気で考えてしまう。
「ブリタニアなら、父上や兄上方に協力をしていただけば何とでもなるんだがな」
 さすがに、他国ではそう言うわけにはいかないだろう。
「まぁ、それが民主主義の悪いところだよ」
 特に日本のようにあちらこちらの国とつながりがあると、とスザクは言い返して来る。
「それだからこそ、こうして裏工作できるんだがな」
 苦笑とともにルルーシュは言った。
「そういうことだから、お前にも協力してもらうぞ、ロロ」
 自分の隣で所在なさげに体を縮めていた彼にルルーシュは声をかける。
「もちろんです」
 ロロはほっとしたような表情で言葉を返してきた。
「とは言っても、当面は情報集めだからな。おとなしく学生生活をするしかないが」
 軍部に任せるしかない。ルルーシュは苦笑とともにそう言う。
「後は桐原かな?」
 それに付け加えるかのようにスザクがこう言ってきた。
「当てにしていいのか?」
「大丈夫だと思うよ」
 ルルーシュの問いかけにスザクはしっかりとうなずいてみせる。
「とりあえず、ブリタニアと戦争をしたくないのは桐原さんをはじめとする六家も同じだから」
 皇コンチェルンをはじめとしてブリタニアとの取引を停止すればかなりまずい状況になる。だから、とスザクは笑った。
「ここまで日本の産業がブリタニアと結びついているとは思わなかったよ」
 彼はそう付け加える。
「それは、そこの皇子があれこれと手を回したからだな」
 言わなくていいことを、とルルーシュは心の中で呟く。しかし、それをこの魔女に言っても無駄だと言うこともわかっていた。
「日本人の几帳面さと手先の器用さが生み出した部品がナイトメアフレームの性能をアップさせてくれたからな」
 ブリタニア人の作る部品は、小型化という点で劣る。だから仕方がない、とルルーシュは言った。
「なるほど。そういうことにしておいてやろう」
 本当に、人の気持ちを逆なでしてくれるセリフを口にするのが得意だな。どこでも、とルルーシュはため息とともに心の中ではき出す。
「そのおかげで、日本は助かっているならいいんじゃない」
 スザクはそう言って笑う。
「って、もう、ピザが一枚しか残ってないじゃないか!」
 スザクが驚いたようにそう言った。
「今更だろうが」
 ルルーシュはため息とともに言葉を返す。
「そいつの目の前にピザを置いておいたら、際限なく喰うぞ」
 十枚ぐらいは平然とな、と付け加えた。
「それなのに、体型が変わらない? 知り合いの女性陣が聞いたらうらやましがりそう」
 本当に、とスザクは目を丸くする。
「それはある意味、人外の存在だからな。まねをできる人間なんて、他にいないぞ」
 化け物も裸足で逃げ出す、とルルーシュは苦笑を浮かべる。
「ほぉ? そういうことを言うのか、お前は」
 C.C.がにらみつけてきた。もっとも、そのくらいで今更、焦るようなルルーシュではない。
「何か間違っているか?」
 逆に、真顔で聞き返した。
「私が『人外』だというなら、お前の母親や伯父はどうなる?」
 それにC.C.はこう言い返して来る。
「母さんはまだ人間の範疇だと思うぞ」
 運動神経だけならばスザクも同レベルではないか。何よりも、とルルーシュは付け加える。
「母さんだって、殺せば死ぬだろう?」
 スザクも、だ。そう口にした瞬間、胸の奥がかすかに痛む。それは、かつて自分が彼女を消してしまったと言うことを忘れていないからだろう。
「V.V.に関しては……誰かさんと違って譲歩することを知っているからな」
 だから、C.C.とは違う。自分でも詭弁だとわかっている。しかし、そう言わずにいられない。
「お前はV.V.が大好きだからな」
 その半分でも自分のことを気遣え、とC.C.は口にする。
「気遣っているだろう?」
 追い出さないし、できるだけ、希望のものを用意するようにしているではないか。それ以上どうしろというのか。
「そういうことにしておいてやるよ、坊や」
 C.C.は言葉とともに最後の一切れを口の中に放り込む。
「あ~~っ!」
 スザクがその事実に思い切り声を上げる。
「安心しろ、スザク」
 小さな笑いとともにルルーシュは言葉を綴り出す。
「和食でいいなら、弁当を用意してある」
 どうせ、ピザは独り占めされると思っていた。だから、自分達の分ぐらいは用意しておいた、と続ける。
「もっとも、練習用に作ったのだから、味は保証しないぞ」
 さらにこう付け加えた。
「ルルーシュが料理で失敗するはずないじゃん! それでいいよ、それで」
 とたんにスザクが嬉しそうな表情を作った。
「お前、私に内緒でそんなものを……」
 C.C.はC.C.でかみつくように言葉を投げつけてくる。
「お前はピザがいいんだろう?」
 それ以上食べるつもりか、と言外に問いかけた。
「喰わせないなら、マリアンヌに言いつけるぞ!」
 それに対するC.C.の答えがこれだ。しかし、それが脅しになると思っているのだろうか。
「母さんには『練習して上達したら、ごちそうします』と言ってある。父上とセットでな」
 ナナリーに関しては無条件で、とルルーシュは笑う。
「だから、問題はない」
 C.C.が何を言おうと、二人はこちらの味方だ。
「……そう言う手段に出るか、こそくな……」
 こそくとはこういうときに使い言葉だっただろうか。ルルーシュは思わず首をひねってしまう。
「ともかく、私にも喰わせろ!」
 喰わせないなら実力行使に出るぞ、とC.C.はさらに言葉を重ねる。
「本当に底なしの胃袋だな」
 スザクが感心したようにそう告げる。ただ一人、ロロだけが居心地が悪そうな表情で沈黙を保っていた。

「見えているか?」
 C.C.は小さな声で呟く。
「あいつは笑っているぞ」
 そして、と彼女は続けた。
「お前のことも忘れていない」
 無意識に重ねている。
 それがお前の望みだったのだろうか。そう問いかけても答えは返ってこない。だが、それでもかまわない。C.C.はそう考えていた。




12.10.12 up