05
マンションに戻れば、シュナイゼルからの荷物が届いていた。
「兄さん?」
それは、とロロが顔をしかめる。
「《ゼロ》の資料だろうな」
自分がブリタニアの皇子でいる以上、現れるとは思っていなかった相手、だ。
だが、彼は現れた。
それはどうしてなのか。
自分はそれを知らなければいけない。
そのために自分はここにいるのだ。
「とりあえず、お茶を淹れてくれないか、ロロ」
何かを言いたげな彼に向かってルルーシュはそう声をかける。
「三人分だぞ」
さらに別の声が室内に響いた。それが誰のものか、確認しなくてもわかる。
「……C.C.……来るなら事前に連絡を入れろ、と言っただろう?」
言っても無駄だとはわかっていても、ついつい言葉を口にしてしまう。
「気にするな」
そう言って彼女は笑った。
「茶が出てこなくても、私は気にしないからな」
さらにこう付け加えたのは、間違いなく嫌がらせだろう。
「……兄さん……」
どうすればいいのか。ロロが視線だけで問いかけてくる。
「放っておけと言いたいところだが、礼儀知らずと言われるのもしゃくだからな。淹れてやれ」
多少失敗してもかまわないぞ。そう付け加える。
「お前が淹れてくれるのではないのか?」
驚いたようにC.C.が問いかけてきた。
「今、ロロは練習中だからな」
いろいろと、とルルーシュは笑う。
「料理もうまくなってきたし。後は、もう少し友人を作れればいいんだが」
そう言いながら、視線をロロに移す。
「……がんばります」
彼はすぐにこう言い返してくる。
「友だちは大切だな、確かに」
C.C.がしみじみとした口調でそう告げた。
「それよりも、何か用があったのではないのか?」
ひょっとして、本気でただ飯を食いに来たのか? と思わず問いかけてしまう。
「安心しろ。一応、V.V.から情報を預かってきている」
欲しかったら、夕食を食わせろ。彼女は偉そうな口調でそう言う。
「あぁ。ピザは必須だからな」
さらにこう付け加えてくれる。
「どうせなら、ご自分で持ってきてくださればいいものを」
彼ならば、無条件で手料理を振る舞えるのに。そう付け加えてルルーシュはため息をつく。
「何だ? その扱いの差は」
即座にC.C.が反論をしてきた。
「性格の差に決まっているだろう」
自覚していないわけではないよな? とルルーシュは言い返す。
「そうか……お前はショタコンという奴だったのか」
だが、どうすればそう言う結論に行き着けるのか。ルルーシュにはわからない。
「なるほど。だから、ナイスバディな私には目もくれないわけだ」
ツルペタが好きなのか。彼女はそう付け加えた。
「何が言いたい?」
「お前が可愛がっているナナリーもカリーヌもまだまだだと言うことだ」
胸のサイズが、とC.C.は言う。
「……母さんやユフィとかはどう説明をするんだ?」
二人ともそれなりに胸がある。いや、ブリタニア皇族はかなり豊かな方ではないか。そして、ミレイも負けてはいない。
「言われてみればそうだな」
しかし、とC.C.は反論をしてくる。
「あいつらは恋愛対象なのか?」
違うだろう、と彼女は笑う。
「安心しろ。俺の恋愛対象から一番遠いところにいるのはお前だ」
本性までよくわかっているのに、夢など見られるか。ルルーシュはそう続けた。
「だから、お前は顔はいいのにいつまでも童貞なんだよ」
哀れみを込めた声でC.C.はそう言い返してくる。
「それがどうした? 子種をまき散らすだけしかできない連中と同じまねをするつもりはないからな」
言外に、皇族という立場しか誇るものがない異母兄達のことを口にする。
「あぁ。お荷物のあいつらか」
すぐに納得したというようにC.C.はうなずく。
「もっとも、そう見せかけているだけかもしれないぞ」
だが、彼女はすぐにそう言ってきた。
「それならば、それでかまわないさ」
自分が来たことで世界が変わったのならば、そういうこともあるだろう。だが、対処ができるはずだ。
「お前らしいな。と言うことで、食事にしてくれ」
この言葉を耳にした瞬間、ルルーシュの中で殺意が芽生えたとしても、誰も彼を責めないのではないか。殺しても死なないのだから、一度ぐらい殺してしまおうかとすら考えてしまう。
だが、そうしたらそうしたで後々厄介なことになるのは目に見えている。
ルルーシュは必死に理性と自制のしっぽをつなぎ止めていた。
優に五人前を平らげたところで、C.C.は満足そうに食事の手を止めた。
「本当に、お前の料理の才能は称賛に値するな」
そして、食後のお茶にて伸ばしながらこう言ってくる。
「俺はお前のその図々しさに感心するわ」
ルルーシュは疲れたような口調でそうぼやく。
「まぁ、いい。お前がそう言う人間だと言うことはよくわかっているからな」
どこの世界であろうとも、彼女は彼女のままなのだろう。ルルーシュは心の中でそう呟く。スザクの性根が変わらないように、だ。
と言うことは、彼らも変わっていないのだろうか。
この国のどこかにいるであろう者達の顔を思い出しながら、ルルーシュは心の中でため息をつく。
藤堂達については、心配いらない。彼らはスザクと神楽耶が味方でいてくれる以上、敵に回ることはないだろう。
ラクシャータもマリアンヌに心酔しきっているから大丈夫だと言い切れる。
問題なのは他のメンバーだ。
特に厄介なのは中華連邦の者達か。それとも、と続けたところで無理矢理意識を切り替える。
日本がブリタニアに占領されていない以上、彼らがテロリストになる理由はないはずだ。だから、大丈夫に決まっている。自分に言い聞かせるようにそう付け加えた。
「……気になるなら調べさせればよかろう。V.V.なら喜んで調べ上げるぞ」
小さな笑いとともにC.C.がそう言ってくる。
「確かに、嚮主様ならそうされるでしょうね」
ロロまでそう言ってうなずく。
「わかっているが……そうなると、ことが大きくなるからな」
関係も含めて説明させられるのではないか。それはそれでまずい、とルルーシュはため息をつく。
「あれに関わりがあるかもしれないんだ。かまわないだろう」
しかし、C.C.の次のセリフで彼の表情はこわばった。
「それは本当なのか?」
「一応、あれと接触したらしい人間のリストに入っていたぞ」
もっとも、ただ、話を聞きに行っただけかもしれないが、と彼女は言う。
「あいつらにブリタニアとの戦端をきる理由などないからな」
もっとも、別の誰かに踊らされていれば話は別だろうが。C.C.はそう続けた。
「それにしても、何者なんだろうなあれは」
「俺も、それを知りたい」
ルルーシュは即座に言い返す。
《ゼロ》
本名も顔もわからない、稀代のテロリスト。
本来であれば、この世界で聞くはずのない名前だった。なぜなら、それはかつて自分が名乗っていた名前だからだ。
「何者なのか。そして、この日本で何をしようとしているのか……それをまずつかまないといけないな」
それも、できるだけに内密に。そのために自分はこの国に来たのだから。ルルーシュはそう呟くと拳を握りしめていた。